人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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46話 両親来る

 5月8日(木) 昼休み

 

 ~教室~

 

 順平と友近が昼食を買いに行って今は一人。

 ドッペルゲンガーで音楽を聴きながら待っていると

 

「♪」

「あれ、どったの影虎? なーんか機嫌良さそうじゃん」

「ん? おかえり順平、友近。分かるか?」

 

 二人が戻ってきたのに気づき、音楽を止める。

 

「そりゃ鼻歌なんか歌ってたら分かるって。つかなんの曲?」

「“天体観測”って曲」

「天体観測? ……聞かないな」

「あぁ、俺もどこで聞いたかわからないからな。でも耳に残ることってあるだろ?」

「あー、あるある。コンビニとかスーパーのCMとかな」

「妙に残って頭の中で流れ続けるんだよな。授業中とか。んで? 機嫌いいのは」

 

 二人が買ってきた昼食のビニール包みを開けながら聞いてくる。

 

「んー……最近調子がいいからかな。バイトが決まって二日働いたけどよさそうな職場だし、勉強も困ったりしてないし」

 

 おまけに今朝目覚ましに使った携帯を見ると、先日相談した小野館長から遮光器土偶のレプリカが手に入ったというメールが入っていて、放課後に受け取れるよう用意をしてくれている。一時はどうなる事かと思ったが、今は影時間も日常生活も万事順調といえる。

 

「くぁーっ! もうすぐ試験だってのに、楽勝かよっ!」

「俺たちは猛勉強してるってのにっ、その余裕の顔が憎いっ!」

「そんなこと言われてもな……勉強会でもするか?」

「勉強会~? ……いいかもな……どうする? 順平」

「まー、一人でやるよりはかどるんじゃね? わかんないとこあったら余裕の影虎に聞けるし」

「だよな! よし! 宮本も誘って勉強会やろーぜ! 影虎は先生役で!」

 

 なにげなく口から出しただけなのに、本当にやることになっていく。

 ……別にいいか、復習がてらアナライズの恩恵を二人にも分けよう。

 

「? ……もう着いたのか」

「んぐっ、……どうした?」

「今日仕事の都合で両親がこっちに来るって話になってたんだけど、もう着いたらしい。巌戸台にホテル取ったってメールが届いた」

「へー、両親ってことは親父さんだけじゃなくてお袋さんも?」

「一緒に来てるよ」

「影虎のかーちゃんってどんな人?」

「母さんは……」

 

 母さんの姿を思い浮かべて、まず出てくるのは長い髪と白い肌。

 目元に泣き黒子があり、スタイルはスレンダーなタイプ。

 性格は穏やかで女性らしく、息子の贔屓目を抜いても、母さんは美人だと断言できる。

 強面の父さんと並ぶとまさに美女と野獣。

 

 そう説明すると順平が驚きの声を上げる。

 

「マジで!? のわりに影虎は……」

強面()の親父と美()の母さんから生まれたら普通(+-0)になったんだよ。それに俺は爺さん似だし」

「残念だったな。ところでその美人母さん、ちらっとでも会えないか?」

 

 ……こっちの友達紹介しといたほうが母さん安心するかもな……

 

「父さんが仕事先に行く間、母さんは暇になるから会わせることはできるけど……友近、うちの父さんは手が早いから気をつけろよ。その場合、俺は止めないからな。父さんを」

「いくらなんでも人妻は口説かねぇよ!? お前俺のことどう思っちゃってんの!? たださ、俺はそんなに綺麗な大人の女性なら? ちょーっと見てみたいっつーか?」

「ともちー、その言い回しが先生のこと話してるときと完全に同じなんですけどー?」

「不安だ……」

 

 

 ……

 

 …………

 

 …………………

 

 放課後

 

 ~モノレール内~

 

「ふっふふ~」

「……マジでつれて来てよかったのかよ? こいつ……」

 

 昼休みの話について両親に確認をとったところ、両親ともにぜひ連れて来いという意見だったので友達をつれて来たが……モノレールの窓を鏡代わりに髪を整える友近に、順平が不安を口にする。俺も同意見だ。だから山岸さんにも声をかけた。

 

「葉隠君、大丈夫?」

「なんか、自分の母親にあんな反応しているクラスメイトを見てるとなんか複雑」

「あはは……」

「……俺がいない間は見張りを頼むぞ、順平、山岸さん。特に山岸さんは巻き込んで悪いけど、こんなときに声をかけられる女子が山岸さんしかいなくて」

「写真部は定期の集まり以外はいつでも抜けられるから、気にしないで」

 

 この二人がいれば、まぁ多少安心はできる。

 

 天田にも声をかけようと思ったが、残念ながら門限があるのであまり遅くまでは連れまわせない。会わせるとしても明日だな。

 

 ……母親を亡くした天田に母さんを紹介するにはためらいもあるけど、一緒にやっていく以上話題を避けるのもどうかと思うし、いい機会としよう。

 

「次はー、巌戸台ー、巌戸台ー」

「っし! 行こうぜ!」

 

 やたらと元気な友近を先頭に、モノレールを降りた。

 

 

 

 

 ~巌戸台駅前~

 

「さーて、美人のお母様はと、駅前で待ち合わせなんだよな? 影虎」

「そうだよ。というか落ち着けって……あ、いた」

 

 友近の方を見ると、その先にあった電話ボックスの陰に見覚えのある二人を見つけた。

 その片方、高身長でスーツを着込んだ男が俺に気づいたようで、大きく手を振る。

 このあたりでは外国人の男が珍しいのか、人目が集まる。

 

「ヘイ! タイガー!」

「へっ? あの人こっちに手を振ってるけど……」

「外人さん?」

「影虎ってハーフだったのか?」

「違う。あれは父さんの同僚のジョナサンだよ。隣に居るのが母さん」

 

 派手に手を振るジョナサンの横で、控えめに手を振る母さんにみんなの目が向く。

 

「うわっ、マジ美人……ちょっと緊張してきた!」

「確かに美人だわ。和風美人の大学生、ってかんじで……つか若くね?」

「立ち方綺麗ー、モデルさんみたいな人だね」

「とにかく行くぞ」

 

 三人を引き連れて二人に近づくと、俺はまずジョナサンからのハグで迎えられた。

 

「It's great time to see you!  Are these your friend? Hello!」

「は、ハロー! マイネイムイズジュンペー……えーっと……」

「な、ナイスチューミーチュー?」

 

 出会いがしらに流暢(りゅうちょう)な英語で話しかけられて慌てる順平たちだが

 

「ジョナサンは日本語ペラペラだから、日本語でいいぞ」

「え、そうなの?」

「オー、タイガー……ネタバレ早すぎますよー」

「相変わらず、初対面の相手に日本語のわからない外国人のフリしてんだな……」

「軽いジョークでーす。外国人なだけで身構える人いるしー? わかった時に少しは緊張も解れるデショ?」

 

 その前に一気に緊張すると思うが。

 

 オーバーリアクションでカタコトの日本語をしゃべる、絵に書いたようなアメリカ人を演じるジョナサンにあきれていると、母さんがスッと前へ出た。

 

「皆さん初めまして、いつもうちの虎ちゃんがお世話になってます」

「母さん、人前で虎ちゃんは……」

「は、はい! 俺、友近健二って言います! 葉隠君の友達やらせてもらってます!」

「なに、影虎家では虎ちゃんって呼ばれてんの? あっ、俺伊織順平っす! 影虎の部屋の向かいに住んでます!」

「山岸風花です。葉隠君とは部活仲間で、えっと……お世話どころかご迷惑をおかけしてます」

「虎ちゃんの母の、葉隠雪美です。こっちが」

「ジョナサン・ジョーンズでーす。よろしく、お願いしまーす。それにしても、タイガーが友達といっしょに居るのは珍しいね」

「本当ねぇ」

「ちょっと待ったジョナサン、母さん。それじゃ俺が友達いないみたいじゃないか……」

「タイガーに友達いないとは言ってないよ?」

「でも虎ちゃんのお友達と会う事ってほとんど無いじゃない。学校の話は聞くけど虎ちゃんは家にお友達呼んだり、お友達の家に行ったりはめったにしないし、いつも体を鍛えるか部屋にこもるかの両極端で……」

「いや、まぁ、その傾向はあるけれども。というか父さんは?」

 

 このまま話していると埒が明かない。

 話を変えると、ジョナサンは苦笑い。母さんは苦笑いしつつも嬉しそう。

 

「さっきリューとトイレットに行ったんだけど、そのあいだに雪美さんにちょーっと声をかけたバッドボーイズがいてねー」

「約束があるからって断ってもなかなか聞いてもらえなくって。そこに龍斗さんが来て」

「もういい、わかった。連れてったか連れてかれたな?」

「正解」

「おいおい……ともちーに会わせる前からこれかよ……ともちー大丈夫か?」

「ま、まぁ大丈夫だって」

「それよりバットボーイ“ズ”ってことは相手は複数なんですよね!? 大丈夫なんですか!?」

「「「大丈夫」」」

 

 俺たち三人がそう言うと、慌てていた山岸さんが目を丸くする。

 

「ちょっと困らされただけだから、ちょっとお話するだけよ」

「暴力沙汰にはならないよ」

「なったとしても問題ないと思うけど。っと、ほら、噂をしたら戻ってきた」

 

 近づいてくる父さんの姿を見つけてそう言うと、三人がそっちを向いて固まる。

 

 角刈りでサングラスをかけたスーツ姿の強面男が、明らかに不機嫌そうにポケットに手を入れえて歩いてきていた。進路上にいた通行人がそそくさと道を空けている。

 

「影虎? お前の親父さんの仕事って……」

「バイク会社勤務だよ。言っとくがまっとうな会社だぞ? ヤクザにしか見えないけど」

「おう影虎! 元気でやってるみてぇだな?」

 

 不機嫌そうに歩いていた父さんが俺に気づいて声を張り上げ、足を速めて母さんの隣に立つ。

 

「ぼちぼちね。部活やったりバイトしたり、なかなか充実してるよ」

「そいつらがお前のダチか?」

 

 父さんがサングラスを取って目を向けると、三人は緊張が解けないまま挨拶をした。

 父さんはそれに挨拶を返しつつ、三人をじっと見ている。

 特に山岸さんが気になるのか、鋭い目を向けているが、向けられた本人は目が泳いでいる。

 

「父さん、そのくらいに」

「龍斗さん、女の子をそんな風に見るなんて不躾よ」

「リューの目は怖いんだから、じっくり見るはだめでーす」

「ああ、悪いな、嬢ちゃん」

「いえ……」

「それにしても影虎」

「え? っ!」

 

 腹に軽めのパンチが入る。

 

「まさか女連れで来るとは思わなかったぞ。やるじゃねぇかよ。オイ」

「同級生か!」

 

 しばらく会わなくても変わっていないこの軽いノリ。

 言うときは言うが、父さんは基本こんな感じだ。

 

「山岸さんとはただの友達だっ」

「ぐふっ!?」

「あっ、大丈夫?」

 

 やり返したら加減を間違えた。

 自分で思ったより力が入っていたようで、親父が大きく体を折る。

 気づいて声をかけるが、親父は俺が伸ばした手を掴み

 

「加減しやがれ!」

「うっ!」

 

 今度は強めで反撃が来た。

 腹に拳が突き刺さり、鈍い痛みを感じる。

 ドッペルゲンガーに目覚めたことで打撃耐性があるため、それほどダメージはない。

 といってもタルタロス2Fのシャドウの物理攻撃よりは痛いんだが……

 

「しばらく会わないうちにまた強くなってるみたいだな。やっぱまだ鍛えてるのか」

「続けてるよ」

「そうか……加減はちゃんと見極めろよ。ダチに怪我でもさせたら後悔すんのはお前だぞ」

 

 反論の余地が無い。

 素直に謝ってふと友達三人をみると、突然の拳の応酬に驚き、ジョナサンと母さんにいつもの事だと説明されている。

 

 実家ではよくあった事だけど、初対面の三人にとっては衝撃的な顔合わせになったようだ。




影虎は両親と合流した!
順平・友近・山岸が影虎の両親と出会った!

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