人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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47話 案内

 ~巌戸台博物館前・バス停~

 

 母さんを山岸さんたちに任せた俺は、父さんとジョナサンを連れて巌戸台博物館で遮光器土偶を受け取りにきた。

 

 余裕を持って出てきていたので寄り道の時間は十分にあり、小野館長が用意をしていてくれたので受け取りもスムーズにできた。

 

 そのあとバスに乗り込んで適当な席に座ったが、後ろの席から妙な視線を感じる。

 

「父さん、ジョナサン、なにその目」

「何ってお前」

「タイガー、その桐箱の中身、女の子へのプレゼントとしてどうなの?」

「……一般的な女性へのプレゼントと考えたら無いと思う。でも俺が事前に調べた限りではこれがいいんだ」

「ほー? 大金持ちの感覚はわからねぇもんだな」

 

 探して手に入れた俺が言うのもなんだが、確かになぜ遮光器土偶を喜ぶのかがわからない。

 俺が貰ったらたぶん邪魔な置物以上にはならないと思う。

 ……なんか不安になってきた。

 ほかにも大勢の人が先輩にプレゼントをあげてるけど、土偶を贈るなんて俺だけだろう。

 

「そうだ、二人とも」

「どうした?」

「何?」

「悪いけどバスを降りたらこの箱、どっちかが持っていてくれない?」

「いいけどwhy(なぜ)?」

「これから会う桐条グループのお嬢様は学校の人気者。その誕生日ってことで同じようにプレゼントを渡したがる生徒が大勢いるんだ」

 

 今日の昼休みなんか生徒会室に生徒が我先にと詰め掛けたらしい。そのおかげで購買に行く生徒が減ってカツサンドが買えたと順平と友近は喜んでいた。しかしそこまでしてもまだ渡せなかった生徒が寮の近くで待ち構える相談をしているのを耳にしてしまった。

 

 そんなところに俺がプレゼントを持って寮の中まで入るところを見られたらどうなる?

 相談をしていた生徒の話によれば、彼らは寮の中までは入れない。

 掲示板の話題になって、妬みの的になること必至だ。それは避けたい。

 

 前に覗いた掲示板の書き込みのいくつかはマジで危なそうな雰囲気を感じたからな……

 気味が悪いし、話題になってこちらのメリットになることは何もない。

 だから父さんたちにプレゼントを持ってもらい、俺は二人をここに案内しただけを装いたい。

 プレゼントを渡したら俺は先に寮を出るつもりだし。

 

「人気者には会うのも面倒だな」

 

 父さんが苦笑いしているが、理解してくれたようだ。

 ジョナサンも両手の平を上に向け、肩の高さまで上げて首を振っている。

 

 まぁ、プレゼントを渡すだけなら父さんたちから渡してもらえば済むことだけど、今日はやりたいことがあるので同行しなければならない。

 

 つーか、それが無ければ二人だけで行ってもらえばよかったんだけどな。

 いい大人なんだから案内が無いと行けないなんてことはないだろうし。

 

「ところでよ、影虎」

「何? 父さん」

「お前、最近わけありの小坊を面倒みてると聞いたが」

「え、どこで聞いたのさ?」

「龍也からだ」

「ああ、叔父さんから……部の後輩だけど、それがどうかした?」

「どうかするってことはねぇが、どうなんだ? そいつ親を亡くして、若いのに大変だろ色々と」

「表面上は元気にやってる。部活の練習は熱心だし、無理をしないか不安になるくらいだ。親戚の援助を受けてるらしいけど、そっちはどうだか……」

 

 夏休みに行き場がないくらいだし、親しくはなさそうだ。

 

「今回のことをきっかけに、家族のことも少し聞いてみるつもり」

「そうか……まぁ、無理すんなよ」

「それ叔父さんにも言われたよ。っと、そうだその事で相談があったんだ。夏休みにアメリカに行くって話、あれに天田、その子を連れて行ってもいい?」

「ん? 俺と雪美はいいけどよ」

 

 父さんの視線がジョナサンへ向く。

 その意図を察したジョナサンは

 

「No problem! ダディがすごく大きな家を買ったらしいから、その子だけじゃなく今日会った子全員連れてきてもいいよ」

「だそうだ。もう本人には話したのか?」

「まだ。先に父さんの方に聞かないと本人にも保護者にも説明に困ると思ったから」

「なら話が決まったら早めに連絡入れろ。それからバイトしてるって言ったけどよ」

 

 バスに揺られて、こちらの生活についての話が続く。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ~巌戸台分寮付近~

 

 最寄りのバス停から寮の近くまで歩いてきたが、予想通り巌戸台分寮へ続く道には所々に月光館学園の生徒がいた。堂々と道端に立って待つ生徒もいれば、横道などに隠れて待つ生徒もいる。なぜか電柱に登ったり他人の家の塀の中に身を隠したりしている生徒もいるけど、俺の目は誤魔化せない。

 

 ……正しくは足に着けたアンクレット、もといドッペルゲンガー(隠蔽中)による周辺把握の恩恵だ。

 

 ズボンを履いてる男子は花束を持ってる生徒が多い。プレゼントの他にも花束を持ってきてる生徒もいるから、全部集めたらお店の開店とかに送られる花輪みたいになりそうだ。

 

 女子は袋。中身は形からしてお菓子や服。手作りか? ……? なにこれ、像? 土偶、じゃないか。モデルは桐条先輩。髪型とかピンヒールとか、特徴があるからわかったけど、わざわざ作ったの? それからこっちは……気にするんじゃなかった。これ下着だ。しかも細くて面積も少ないきわどいやつ。

 

 少々罪悪感に苛まれるが、同時に高校生であんなの履く人いるのか? と思う。

 すると以前土器の修復をしたときと同じように、ドッペルゲンガーが反応して同じデザインの下着がある場所を探し出し、まさかの贈ろうとしている本人が着けていることが判明。

 

 ……今度は罪悪感よりも薄ら寒いものを感じる。

 便利すぎるのも困りものだ。ただ制御しきれていないだけかもしれないが、知りたくもないことを知ってしまった。

 スカートで女子生徒だと判断していたが、内部の情報にあってはならない物が……いや、広い世界にはいろんな趣味の人がいる。それだけさ。

 

「ここです」

 

 周囲に隠れる生徒たちのプレゼントを知りながら歩みを進めていたら目的地に着いた。

 周辺把握が周囲に隠れる生徒たちの動きを伝えてくるが、それが無くてもわかるほど強い視線。それどころかあいつはなんだ? と小声で話す生徒の声も聞こえてくる。もはや隠れられていない。父さんたちも気づいている。

 

「サンキューベリマッチ! 案内ありがとうございマース!」

「取り次ぎも頼んでいいか?」

 

 ジョナサンが案内の部分を強調し、父さんが長居は無用と扉に手をかけ、俺たちは寮の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 ~巌戸台分寮・ロビー~

 

 とても学生寮とは思えないシックな内装のロビーで桐条先輩が待っていた。先輩はどうやらソファーでカタログを読んでいたようだ。机にはうちの会社のカタログとティーカップ。

 立ち上がって近くに来た先輩に父とジョナサンを紹介すると、挨拶が交わされる。

 桐条先輩はさすが場慣れしていて父さんの強面にもひるむ事なく堂々と、父さんとジョナサンは俺からしてみれば珍しくちゃんとした社会人をしていたが、俺はそれよりもこっそりドッペルゲンガーを使っていた。

 

 三人の動向に注意を払いつつ、周辺把握。

 岩戸台分寮の内部構造を把握。

 一階から四階、屋上含めて把握範囲内。

 建物内のすべての部屋、通路、窓の位置を記録。

 加えて取り付けられている鍵の構造を記録。

 情報の閲覧は後回し、とにかく記録に努める。

 

 今日ここで俺がやりたかったこと、それは巌戸台分寮の情報を手に入れること。

 この情報が記録できればいつか役に立つかもしれないが、そのためにわざわざ岩戸台分寮の周囲をうろつくような真似は避けたい。

 そんな俺にとって今回の案内は渡りに船だった。

 建物内に入る理由ができて、しかも発端は桐条先輩からの要請だから疑われずにすむ。

 先輩の様子にも疑われている様子はないし、警報なども鳴っていない。

 

「こちらへどうぞ」

 

 一通りの挨拶を終えた先輩が、俺たちをロビーのテーブルに案内して着席を促す。

 俺は後をついていき、父さんと並んで着席する。すると先輩はまず俺に言葉をかけた。

 

「葉隠君。今日は、いや、今日()だな。世話になった。ところで外に……なんと言えばいいか」

「先輩のファンなら見ましたよ」

「やはり今年も居るのか……」

「人気者は大変ですね。毎年こうなんですか?」

「私が中等部に入った頃からはそうだな。以前は寮の中まで強引に押し入る生徒もいた。その際流石に度が過ぎると厳しく注意をしたのでだいぶ収まったが、今度は君も見た通り、街中や寮の前で待ち構えるようになってしまった」

 

 だからか……ロビーには大きな窓がいくつもあるのに、どこもしっかりとカーテンが閉められているのは。

 

「誰かが好ましく思ってくれているのは嬉しくもあるが、稀に生徒同士で(いさか)いを起こすこともあるので困るときもある。君はそういった生徒に絡まれなかったか?」

「道案内を装って来たので、何も」

「そうか。それはよかった。事前に伝えておけばよかったのだが、私自身今日が誕生日であることを失念していてな」

 

 学生が自分の誕生日忘れるって、どんだけ忙しいんだこの人。でもちょうどいい。

 

「桐条先輩。遅ればせながら、誕生日おめでとうございます。つきましては……」

 

 父さんに目を向けると、ひとつ頷いて預けていた箱を渡してくれた。

 

「これは誕生日のプレゼント、でいいのか?」

「部活のことではお世話になりましたから、そのお礼も兼ねて。受け取っていただけますか?」

 

 そう言って差し出すと、先輩は困ったように笑いながら箱を受け取る。

 

「助けられているのは私ばかりだが」

「息子が、この日のために手配したものです。どうぞ受け取ってやってください」

「では、ありがたく。……開けてみても?」

 

 先輩の趣味にあえばいいんですがと言葉を添えれば、先輩は丁寧に桐箱に掛けられた紐を解き、蓋が取られるとその目を大きく開いて一言。

 

「! ブリリアント!!」

 

 その言葉に父さんとジョナサンの目が、桐条先輩とは違う意味で大きく開かれる。

 

 この二人、絶対に困らせるだけだと思ってたな? さりげなく息子が、って自分たちは関係ないといわれた気もするし……まぁ、俺も桐条先輩のブリリアントが出てほっとしてるけど。

 

「……驚いたな。どうしてこれを選ぼうと思った? 率直に言わせて貰えば、これは一般的な女性への贈り物として適当とは言えないだろう。他の生徒からの贈り物にもこのような物は無かった。だから生徒間で情報のやり取りをして選んだとも思えない。まるで私の好みを理解していたかのような、絶妙な選択だ」

 

 まさにその通りだけど、素直に言うわけにもいかない。

 

「なんとなく、ですね。桐条先輩が好きそうだと思いまして。あとはまぁ……占いで」

「占い? ……ふふっ、そうか、占いか。そういえば君は以前にも占いをしていたな。本当なら君は占い師になるべきだと思うぞ」

 

 どうやら、桐条先輩にとても喜んでもらえたようだ。

 

 ……プレゼントは渡したし、情報もあらかた記録できたか。

 

「ありがとう。……久々に、心に響く贈り物だ」

「気に入ってもらえてよかったです。……それじゃ俺はこのへんで」

「ん? なんだ、君は帰るのか?」

「俺の役目はここまでの案内。バイクの話は父とジョナサンの仕事ですし、何よりあんまり長居すると外の人たちが、ね……」

「そうか、君は道案内を装っていたんだったな。あまり長引くと外の者にとやかく言われるかもしれないな」

「はい、そういうわけで失礼します」

「すまないな。面倒をかけて」

 

 俺は先輩にそう言い、父さんとジョナサンにも終わったら連絡するように一声かけて寮を出た。




影虎は遮光器土偶を期限ギリギリで手に入れた!
影虎は遮光器土偶をプレゼントした!
桐条美鶴は喜んでいる!
影虎は巌戸台分寮の情報を盗みだした!


お正月に書いたストックが切れた!
次回までちょっと日があきます。

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