人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

5 / 338
3話 第一種接近遭遇

 2008年 4月5日 朝

 

 「困った……」

 

 日課のランニングの後、シャワーを浴びて帰った部屋のベッドに横たわって昨夜の事を思い出す。

 

 昨夜、俺は影時間に出歩いた。目的はペルソナの能力確認と戦闘訓練なのに、肝心のシャドウが見つからなくちゃ意味が無い。

 

 一昨日の夜は実際に戦ったし、影人間というシャドウの被害者も居る以上、街中にシャドウが出現する事は間違いない。だけど、昨日は影も形も見えなかった。

 

 「思い返してみれば、シャドウを見る事ってあんまり無かったもんな……」

 

 忘れもしない2000年の9月。

 俺は桐条グループの実験失敗による事故が起こった当時からもう影時間を体験していた。

 きっと俺がこの世界に来た時点で適性を持っていたんだと思う。

 

 あの当時の俺はまだ小学生で、いつ家の中にシャドウが押し入ってくるかと毎晩ビクビクしていた。影時間になって、終わるまで眠れずに家の中を徘徊して窓の外をうかがう。そんな事を続けていたけれど、シャドウは月に何度か見れば多い方だった。

 

 元々街中に出るシャドウはイレギュラーと呼ばれ、たまにしか出ないという話だったから地元では仕方ないと思っていたが……ここにはシャドウに襲われた結果の影人間が大量に現れ、シャドウの巣であるタルタロスが近い。それなのにシャドウが居ないとは思えない。

 

 可能性としては

 

 1.俺の捜索能力不足により、発見できていないだけ。

 2.現時点では少なく、原作が近づくにつれて増えていく。

 

 この2つが考えられる。

 

 1つめならまだいいが、2つめの場合だと原作開始に“備える”という目的が達成できるかどうか……

 

 今は戦闘以前にペルソナの能力を確認している段階だからまだいいけど、それが終わってから時間を無駄にするのは避けたい。せめて1日1匹でも見つかれば一年で365回戦闘経験を積め……いや、それでも少ないな。毎日見つかる保証は無く、体調にも気をつけて場合によっては休みも必要になるんだから。

 

 「タルタロスに行けばシャドウは居るだろうけど、な……」

 

 悩む間にも時間は過ぎてゆく。

 

 

 

 ~夜~

 

 悩みながら部屋の荷解きや明後日からの入学の準備を整えているうちに、夜になってしまった。現在、11時59分50秒。

 

 ……あと5秒、4、3、2、1……

 

 時計の秒針が全て真上を指した瞬間。部屋中の電気が消えて部屋のいたるところに血のようなシミが現れ、窓からは青緑色の光が差し込む。

 

 今日も“影時間”が来た。

 

 「毎日毎日、ご苦労さん。さて行くか“ドッペルゲンガー”」

 

 ペルソナを出す、と意識すればあのロングコートと手袋、片眼鏡をいつの間にか着けている。もうこれだけで怪しげな風貌だが、ここからドッペルゲンガーの能力を使ってもうひと工夫。片眼鏡の形状を変化させ、顔全体を覆う仮面へ変える。

 

 「これでよし」

 

 昨日、ドッペルゲンガーが特定の形を持たないなら片眼鏡から別のものに変えられるんじゃないかと思いつき、実際にやってみた。まだあまり複雑な変化は難しく時間がかかるけど、このシャドウのような単純な仮面ならすぐ変えられる。

 

 この仮面があれば万一影時間中に誰かと顔を合わせたとしても俺の顔はバレないし、なにより顔を保護できると安心感がある。おまけにどういう理屈かサイズがぴったりなのに息苦しくなくて、激しく動いてもズレず、汗をかいても蒸れない。

 

 あの片眼鏡は俺のアナライズ(メモ帳)に集められた情報が出力されるモニターの役割を果たしていたけれど、そこは仮面の目が役割を引き継いでいたので問題も無い。仮面と同じ要領で両の拳に小さな突起を付け、保護色と隠蔽を使ったら準備完了だ。

 

 「……ふっ!」

 

 音が立たないように部屋の窓を開けて外に誰もいない事を確認し、窓枠と落下防止の柵に足を掛けて外に飛び出す。

 

 ちなみに俺の部屋は男子寮2階の角部屋。落下の衝撃を膝のバネと前転で殺し、怪我なく着地したそばから走る。目の前には男子寮を囲む柵と、等間隔に植えられた植木の一本。

 

 植木の幹を足場に踏み切って宙に体を躍らせ、柵のてっぺんまで届かせた手で体を支え、体操の鞍馬のように柵を乗り越える。

 

 「っし!」

 

 これで寮から抜け出せたので、影時間の街へ急ぐ。

 

 まぁ、この寮の管理は結構ずさんみたいで、別にこんな事しなくても普通に歩いて出られるんだけどな。順平だって来年夜中に出歩いて見つかるんだし。

 

 さっきの一連の行動はあまり寮内をこの姿でうろつきたくないって理由もあるけど、九割俺の趣味だ。

 

 

 

 パルクールというスポーツを知っているだろうか?

 

 パルクールはフランスで発祥した運動方法で、人間の基本的な動作で精神と肉体を鍛える事を目的とする。細かいことはネットで調べればすぐ出てくるし、動画サイトで検索すればプロのパフォーマンスが山ほど出てくる。

 

 とにかくプロならすごい身体能力を持っていて、高所に登ったり、跳んだり。普通は行けない場所で行動できると考えればいい。

 

 俺が昔、体を鍛える方法として色々と探して目をつけた物の一つがパルクールで、理由は単に体が鍛えられるだけでなく移動、主に逃げる時に役立ちそうだから。

 

 そんな理由で始めたパルクールだったが、練習のために色々な場所を駆け回り、登り、飛び降りるため、練習を行うには場所を選んで練習の許可を取らなければならない。それをせずに街中でやろうものならまず人の迷惑、そして勝手に人の敷地に入ることで不法侵入などの罪に問われる事になってしまう。

 

 そして交渉して許可を取ろうにも、個人だとかなり難しい。変な所から入られる事そのものに嫌悪感で断る人もいれば、パルクールの練習には危険が伴うので、自分の管理している土地や場所で事故を起こされたくないと断る人も居る。

 

 つまり、パルクールの練習場所は限られている。実家に住んでいた時は近所の人の家の壁やら山で駆け回れたけれど、ここに練習を許可してくれる知り合いは居ない。

 

 しかし、影時間なら?

 

 夜中で人通りは少なく、人が居ても“象徴化”して意識が無い。物を壊したりしなければまず誰の迷惑にもならず、罪にも問われない。そんな環境が何処までも続いているとなれば、やるしかないだろう。

 

 「数少ない影時間の利点だなぁ……これ、悪用すれば泥棒もできるんじゃないか?」

 

 やらないけどな。

 

 シャドウ探しの要でもある周辺把握に集中し、建物と建物を隔てる壁の上を走る。この能力は道や足場の選択にも使えるため、スイスイ進んでいく。

 

 

 

 それから10分ほど道なき道を進み、たどり着いた建物の隙間から出ようとした時

 

 「!」

 

 周辺把握能力が近くに動く存在を捉えた。すぐに後退して適当な障害物を探し、ゴミ箱の影に隠れる。

 

 ズルリズルリと嫌な音が聞こえて息をひそめると、さっき俺が出ようとした道をシャドウが這い、こちらに気づかず去っていく。一昨日のよりだいぶ小さいけど、今日のシャドウも“臆病のマーヤ”だ。

 

 どう戦おうか? まずは奇襲に決まってるけど……

 

 「ふぅ……」

 

 走って軽く荒れた息を整えながら考え、そうだ。あのスキルを使ってみるか。

 

 念のために防御力を上げるラクカジャを使い、保護色と隠蔽の効果を確認し、路地から出て早歩きくらいの速度でシャドウを追った。

 

 ……心臓の音がうるさい……シャドウまであと、4m……いける。

 

 「吸血」

 「ギェッ!?」

 

 俺が静かにそう唱えた瞬間、シャドウが苦しみ体から赤い光の線を立ち上らせ、空中で渦巻いた線は俺の体を包み込んで流れ込み、体の疲れがやわらぐ。吸血は低威力ながら相手に攻撃をしつつ自分の体力を回復できる魔法だ。

 

 「ギィ!!」

 

 流石に攻撃すると気づかれるか!

 

 「ネコダマシ!」

 「キィッ!?」

 

 迫り来るシャドウの拳を左に避けて手を叩くと、シャドウがひるんで動きを止めた。その隙に刺付きの拳で連打を加えると、シャドウはたまらず俺に背を向けて離れようとする。

 

 「逃がすか、吸血!」

 

 シャドウの背中を引っ掴んでもう一度吸血を使う。するとシャドウの体からさっきよりも多く赤い線が伸びて、今度はシャドウを掴む俺の手から吸収され、そのままシャドウは消えてしまった。

 

 「倒し、た?」

 

 あれ? なんか、前より弱いというか、あっけない。とりあえず周りにも何もいない。

 

 「ふぅ……」

 

 ……同じ種類でも敵の強さにバラつきがある。そうだよな、攻撃だってターン制じゃなくて隙があれば連続攻撃ができたし、ゲームでスキルを使うとHPかSPが減るが、俺は今のところ体を動かす事も含めて少しずつ疲れが溜まるだけ。吸血の威力一つとっても、最初ととどめで威力が違った。とどめの方が威力はあったし、よく回復できた気がする。

 

 この世界は俺がやっていたゲームや原作がベースの世界だけれど、全てが同じという訳ではない、か。

 

 …………いまさらだけど、吸血に害は無いよな? シャドウの血か何か分からない物で回復って考えてみたら体に悪そうじゃないか? ……今のところは問題なさそうだから、様子見でいいか。どうせもう使ったんだ。

 

 体調に悪影響が出なければ他のスキルよりも使って疲れない感じだし、魔力を吸い取る“吸魔”を使うとどうなるかは試さないと分からないけど、便利そうではある。

 

 シャドウが居て、余裕があったら吸血で回復した方がいいかな……!?

 

 「保護色っ、隠蔽っ」

 

 知覚できる範囲に何かが入ってきた。反応は2つ。路地からまっすぐ俺の方に向かってきている。

 

 シャドウに気づかれたか?

 

 対象がここに来る前に元居た建物の隙間に飛び込み、様子をうかがっていると人の声が聞こえてくる。

 

 「こっちだな! 美鶴!」

 「待て、明彦!」

 

 ミツル、アキヒコ? まさか……

 

 そっと覗いて見れば、路地から飛び出て来た男が一瞬だけ見えた。

 

 「何処だ? シャドウなんか居ないぞ!」

 

 スキルのおかげか、それとも直ぐに首を引っ込めたからか、俺は見つからずに相手を確認できた。

 

 “真田明彦”だ。

 

 月光館学園ボクシング部部長にして、重度のバトルジャンキー。シャドウを見れば真っ先に戦いたがる、俺的に一番会いたくない要注意人物。

 

 どうしてこんな所に!?

 

 冷や汗をかきながら、いつでも逃げられるようにして耳をそばだてると、つい最近聞いた声が近づいてくる。

 

 「待てと言っただろう、明彦。シャドウの反応はついさっき消えた。私のペンテシレアで調べても反応はない」

 

 ペンテシレア、たしか桐条美鶴のペルソナで探査能力があったはず。でも俺に気づいてないのか?

 

 「なんだと!?」

 「なんだも何もない。私がペルソナで見つけた2匹のシャドウはもう居ない。片方に力の揺れを感じた直後にもう片方の反応が消え、残った方は急激に弱っていくように消えた。おそらく、シャドウ同士が戦って相討ちにでもなったんだろう」

 「くそっ! せっかく複数のシャドウが居たというのに、一足遅かったか!」

 「まったく……シャドウが居ないなら私達がここに居る理由もない。帰るぞ、明彦」

 「待て、もう少しこの辺を探しても」

 

 真田明彦は食い下がるが桐条先輩は聞き入れず、2人はここから離れていった。

 

 

 

 「……危なかった……」

 

 二人がドッペルゲンガーを使って把握できる限界距離の外へ出たことが確認出来た途端、どっと疲れが出てくる。

 

 さっきの桐条先輩の口ぶりからするとドッペルゲンガーはペルソナの探査からも隠れられるみたいだけど、そうでなかったら確実に見つかった。

 

 「もう少し気を付ける必要があるか……」

 

 それに気になる事が一つ。桐条先輩はここに“二匹”のシャドウの反応があったと口にした。

 一匹はさっき俺が倒したシャドウだとして、もう一匹は? 状況的に考えると俺以外に該当する物は無いけど、俺は人間だしドッペルゲンガーは間違いなくぺルソナ。

 

 どうして桐条先輩は俺をシャドウだと思ったのか。まさかペンテシレアじゃシャドウとペルソナの区別がつかない訳じゃないよな?

 

 「分からない事だらけだな……こんな時にサポートキャラとかアドバイザーが居てくれたら……ベルベットルームは無いのかよ」

 

 シャドウとも戦えたので今日の訓練はここで切り上げ、俺は無いものねだりをしながら寮へ帰る。




次回タイトル

「ペルソナ」と「シャドウ」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。