人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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50話 真夜中の泥仕合

「らぁっ!」

 

 眼前に拳が迫る。避けるとその後ろから、さらに避ければまたさらに後ろから。左右の拳が続けざまに飛んでくる。父さんの拳は大振りのテレフォンパンチ。

 

「……!」

「オラオラオラオラ! どうした!!」

 

 にもかかわらずやたらと回転が速い! しかも威力があるんだろう、空気を切る音が耳につく。

 

 ……だが、見える(・・・)

 

「チッ!?」

 

 一瞬の隙を突いて放った蹴りが父さんの顔を襲う。

 避けられはしたが、今日までの実戦経験が活きていた。

 父さんの手数は多いし速いが、集中していれば避けられる。

 

 回避を確実に、その中で隙を見て、蹴る!

 

「っ! ちょこまかと動きやがって」

 

 もう一度顔を狙ったつま先蹴り、今度は避けずに腕で防がれた。イラついたような口ぶりで変わらない威力と速さの攻撃を続けてくる。

 

「……」

 

 しかし、それを何度か繰り返すと父さんは急に手が止まる。

 すぐさま俺は空いていた脇腹に狙いを定めて蹴ると、蹴りは防がれず綺麗に叩き込まれた。

 

 だが

 

「なっ!?」

「オラァ!」

 

 脇腹を蹴った右足を左腕で抱え込まれた。

 それを理解したと同時に父さんの右手が俺の胸倉を掴む。

 

「っ~!?」

 

 次の瞬間、引き寄せられた頭に鈍い痛みが響く。

 頭突き……!

 

 俺も父さんの胸倉を掴み突っ張ることで次の頭突きを防ぎ、今度は空いている右手で思い切りあごを殴りつけてやる。

 

 すると父さんは表情を歪めてながら片足を蹴り上げた。

 俺は右手を金的狙いの足に叩きつけて押さえ、そのまま足をとる。

 

「っ……邪魔だなこの足っ!」

「そう思うなら、放せばいいだろ!」

「金的狙ってるとわかってて放すかっ! そっちこそ放せば!?」

 

 お互いに片足を取られ、相手を制すために手も出せない状態はやがて転ぶまで続き、立ち上がる際にようやく距離が開く。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「シャァッ!」

 

 交互に痛みを与えて、もう何度目か分からない攻撃。

 肉を叩く音と、俺たちの呼吸だけが月明かりに照らされた広場に響き続ける。

 音は外で鳴っているのか頭に響いているのかが曖昧になってきた。

 

 初めより遅く殴りかかってくる拳を回避し、外に踏み出した左足を軸に蹴り。

 

「おうっ!? ラァ!」

「うっ! くっ……」

 

 腹を蹴ったが、その足を捕まれてこっちも腹を蹴り返された。

 腹の底から不快感が迫りあがる。

 強い……というか番人シャドウでもここまで苦戦しなかったぞ。

 

 俺の攻撃は当たるが、父さんは一向に倒れない。

 逆に攻撃をあえて受け、俺の手足を攻撃直後に掴み取って確実に攻撃を当ててくる。

 普通の攻撃は避けられるけれど、掴まれては動きが制限されてしまう。

 強制的に我慢比べをさせられている状態だ。

 

 しかも父さんの攻撃は一発一発が重い。

 意識も足もまだしっかりしているが、打撃耐性があっても痛いし何度も食らえば苦しい。

 

「ごほっ……ふぅ……なかなかやるじゃねぇか」

「父さんこそ……」

「昔は族の頭張ってたんだ。この位、できて当たり前よ」

 

 泥臭くお互いを痛めつけ父さんも足元がふらつくが、すぐに立ち直り余裕そうな言葉を吐く。

 効いていないはずはないが……まだ足りないのか。

 でもここまでやって、いまさら引くつもりはない。

 呼吸を整え、足を踏みしめる。

 次の一撃をより強く、より速く放つために。

 

「へっ、そろそろ焦れてきたか?」

 

 父さんの言葉は無視。

 考えるべきは戦うことと次の一撃だけでいい。

 

「だんまりか、ならこっちから行くぜ!」

「!」

 

 先に動いた?

 

 最初と同じかそれ以上に激しく襲い掛かってくる二つの拳を避ける。

 当たらないからやめたんじゃなかったのか?

 ……父さんの思考回路は時々理解不能。それよりも集中。

 避け続けていると背後に路地の壁が近づいている。その横には金属製の大きなゴミ入れ。

 追い込まれないよう思い切り、横っ飛びの側転で強引にその場を抜ける。

 

 ? 小さく舌打ちが聞こえた気が……っ!

 

 休む間を与えない追撃の手が伸びてくるが、その勢いが若干衰えている!

 回避に徹する俺と攻撃に徹する父さん。

 これまでに蓄積したダメージや疲労とあわせて、ようやく明らかな疲れが見えてきたか?

 

 ならばチャンスも近いはず。

 はやる気持ちを抑え、疲れた体に気合を入れる。

 

 ……

 

 そして、時は来た。

 

「ハァッ、ッ!」

 

 息を荒げていても手を緩めようとしなかった父さんの手が、意思に反して止まる。

 

 気づけば俺は懐に飛び込んでいた。

 一瞬後れて放たれる右の拳を、顔を傾けて避け、引き絞った貫手を鳩尾へ突き出す。

 指先は狙い通り鳩尾を捉えた。

 シャドウ相手に使う槍貫手のように伸ばすことができない分、踏み込む足の力を胴体へ、そして腕から指先へと伝達し、体ごとぶつかる様に押し込む。

 深々と手が肉に食い込んだ感触を確かに感じ……

 

 ()()()()()()

 

 

 

 

 

「!?! あ、っつう……」

 

 何が、起きた?

 

 気づけば俺が倒れている。

 唯一分かるのは視界がぶれた直後、頭に強い衝撃を受けた事。一瞬景色が回って目の前が暗くなった気がした。投げ技……? 父さんはどうなった?

 

「……! ……!!」

 

 すぐに見つかった。

 隣で腹を抱えてうずくまり、悶絶しながら胃の内容物を吐いている姿は、景色が揺らいでいても分かる。

 

 貫手の手ごたえは確かにあった。

 そもそも貫手というものは伸ばした指の先で打つ打撃。

 指先の鍛錬を行わずに使えば怪我の元にしかならないが、普通の拳よりも相手に接する面積が小さいだけに威力も大きい。

 そのため通常の試合での使用は禁止され、最近では初心者に教える型から貫手で行う部分を意図的に拳に変更して教える道場もあるくらい危険な技だ。

 それを急所である鳩尾に叩き込まれればあの状態も当然だろう。

 というかあれが効いてなかったら呆れるか困る。

 

「ぅっ」

 

 浮遊感のある足に力を込めて目の前のゴミ箱を支えに立ち上がると、ほぼ同時に父さんも鳩尾をさすり猫背になりながら立ち上がり、目が合う。

 

「まだ、立つかよ」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ」

 

 自分も立ち上がっておいて何を言うか。

 

 苦戦も一周回って笑いがこみ上げてきた。体の痛みもいつの間にか消えている。声を漏らすと父さんが凶悪な笑顔で笑う。

 

 ……こうなったらとことんやってやる。根競べの再開……

 

「ちょっと!」

 

 ……が、突然割り込んできた女の声に遮られる。

 

 取り込み中に誰かと思えば

 

「森山か……?」

 

 声の主が、ここへ通じる路地で息をきらせていた。




影虎は魔法を使わず父親と殴りあった!
脳内麻薬が出ている!
路地裏から森山が飛び出してきた!

投稿した話が五十話に届いたので、これを機に今まで登場したオリジナルキャラクターについて軽くをまとめたものを掲載することにしました。
どんなキャラか分からなくなった時にでもご利用ください。
原作キャラはまた別に用意する予定です。

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