人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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普段より遅れてすみません。
今回は若干暗めになってしまいました。
苦手な方はご注意ください。


54話 千客万来の勉強会 その三

 ダレたみんなと休憩にすることが決まった。

 

「じゃー……買出しだーれだっ!」

 

 するといきなり島田さんが、カバンから小さな箱を取り出す。四角くて上に手がなんとか入るくらいの穴が開いた、くじ引きに使うような箱。

 

「え、それ使うのか? お茶くらいなら部室にもあるけど……というか用意してたのか? わざわざ?」

「こー言う時はお菓子とかも用意してワイワイやるもんっしょ?」

 

 さも当たり前のように島田さんは言い放つ。

 

 分からなくもないけど、と考えている間にも彼女は用意を整えてしまった。

 

「はい、天田君以外みんな引いて引いてー。中に二枚だけ、印の付いた紙を引いた人が買出し担当ねー」

「おっしゃあ!」

「はい次、早く早く!」

 

 ノリのいい順平が躊躇なく手を突っ込み一枚取ると、島田さんがちょこまかと小さな体を駆け巡らせて皆にくじを引かせていく。

 

 だがこの時、俺はこのくじ引きが始まってからおかしさに気づく。

 

 明らかにくじの配置が偏っている。二つ折りで入っている紙の数は天田を除いた人数分だが、そのうち二枚だけが箱の隅。そして残りは二枚と対角にある角に追いやられていた。そして順平たちは必ず二枚を避けている。外からは一見島田さんが急かしているように見えるが、全員がくじの位置を知っているかのように多いほうへ真っ先に手を伸ばす。これがおかしい。

 

 中身が一枚二枚と減っていき、残りが二枚になったところで俺の番になった。とりあえず引いてみるが、手に入ったのは例の二枚の片方。開けてみると、中には当たりと書かれていた。

 

 これが当たりだとするともう一人、最後に引く人は……!?

 

「え、私が当たり?」

 

 岳羽さんだった……

 

 

 

 

 

 

「行ってらっしゃい、先輩」

「おう……」

「お願いねー!」

 

 気を利かせた天田から荷物入れとして、ランニング中に使っているウエストポーチを渡されるがままに受け取る。楽しそうな笑顔の島田さんに見送られて買出しに行くが……隣にはもちろん岳羽さん。無言が正直気まずい。

 

 しばらく林の中を歩くと、岳羽さんは意を決したように話しかけてきた。

 

「ねぇ、ちょっといい?」

「ん……何?」

「さっき出がけに聞いたんだけどさ……あのクジ、私たち二人になるように仕向けたんだって。前に私が君と距離感がある、って言っちゃったから」

 

 やっぱりか……引く順番は箱を顔の前に突き出された順。ランダムに見えて、箱を持っていた島田さんの一存で決められた。それで最後に残った俺と岳羽さんが当たった時点でそうじゃないかと思った。気づくのが遅かったけど。

 

「勝手になにやってんだーって感じだけど……時間かかってもうるさく言われないだろうし、せっかくだからちょっと話さない?」

「……分かった。でもまずは買い物だけ先に済ませよう」

「そうだね、そのほうがゆっくり話せそうだし」

 

 十中八九、話しづらい話になる。俺は確信に近い予感を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~月光館学園 高等部校舎裏~

 

 買い物の後、話をするため岳羽さんを校舎裏の高台へつれて来た。目視できる範囲に人の姿は無く、周辺把握により尾行や隠れた人が居ないことは確認してある。

 

 手すりのそばで良い景色を見ると、これがデートなら……と現実逃避をしそうになるほど今この場所は重苦しい雰囲気が漂っていた。

 

「ここなら話すにはちょうどいいと思う」

「だね。……じゃあ早速だけどさ、葉隠君って私のこと避けてるよね? 入学したばっかりの時に一度話して、あの時は女の子に慣れてないとか言ってたけど……やっぱり違うと思うんだ。

 私、昨日君のお母さんと話す機会があってさ。ちょっと話聞いて気になったんだけど……葉隠君って前から私のこと知ってた? もしかしてそれが私を避けてる理由?」

 

 自分でも考えがまとまっていないようなたどたどしい問いかけだが、その目は真剣だ。

 もはや誤魔化せそうにない。

 

「……そうだ」

「! 否定、しないんだ……」

 

 岳羽さんの声が弱弱しく、どことなく悲しそうになる。

 

 ……ゲームでの言動からして強気に問い詰められるかと思っていたのに、予想が外れた。どうしたんだ?

 

「じゃあ、君はお父さんを恨んでるの?」

 

 ……………………? 恨む? えっ?

 

「待った、その質問は俺が岳羽詠一郎氏を恨んでいるか? って聞いてるのか?」

「っ! それしかないでしょ!? 君、さっき私の事を知ってたって言ったじゃない! それで私を避けるって、お父さんがあの事故を起こしたからじゃないの!? それで誰か家族とか友達が亡くなったり……違う!?」

 

 ! 分かった! 岳羽さんは根本的に勘違いをしている!

 

「それは違う! 俺は岳羽さんの事も岳羽詠一郎氏の事も知っていた。けど俺が岳羽さんを避けていたのは恨んでいたからじゃない。そもそも俺はあの事件で家族や友達を失ったりしていない、だから恨む理由はない。むしろ俺は岳羽詠一郎氏を被害者だと思っている」

「え……」

 

 断言したのが効いたらしく、頭に血が上りかけた岳羽さんが落ち着いた。

 ……とは言えないようだ。

 

「え? ちょっと待って、それってどういう事? 葉隠君、お父さんを恨んでないの?」

「そう言った。理由が無い」

「理由が無いって、でもそうだよね……全然関係の無い土地だって……? え、でも予知夢とかありえないし」

 

 彼女の中の前提条件が崩れたためか、呟きとして漏れ聞こえる言葉から困惑がありありと伝わってくる。

 

「それにお父さんの事を被害者って、っ! 葉隠君、どういう事!?」

「……とりあえず、一旦ちゃんと落ち着こうか……」

 

 さっき買った荷物の中からお茶を二人分取り出して一つ手渡す。岳羽さんはそれを素直に受け取り一瞬ためらうが、喉が渇いていたようで勢いよく飲み始めた。

 

「落ち着いた?」

「一応……勝手に興奮してごめん」

「岳羽さんにとってはそれだけ重要なことだろうし、気にしてない。それで何から話そうか?」

「だったら、まず何で私やお父さんの事を知ってるの? 念のため言っとくけど、お父さんの名前まで出たんだから、今更知らないとか言っても聞かないからね」

「そう釘を刺さなくても話せることは話すことにするよ……まず岳羽さんと岳羽詠一郎氏についての情報源は主にネット掲示板から。俺はあの当時からネットサーフィンが趣味で、事件当時は何かと取り立てられていたから世間一般に流れた事件のことは大抵把握してるつもりだ」

「なら、お父さんが被害者ってどういう事? ……世間じゃお父さんは事件を起こした加害者だけど?」

 

 確かにそういう報道が行われたし、世間の見方もそうだった。しかし俺はそう思わない。

 

「事件を起こしたのは岳羽詠一郎という個人じゃない、岳羽詠一郎氏が所属していた“桐条エルゴノミクス研究所”だ。当時のお父さんの地位は主任研究員。事件の元となる研究と実験に携わっていたという意味では加害者だけど、それは一人でやっていた訳じゃない。

 部下や上司になるほかの研究員に研究員を統率する立場の人間が大勢居たはずだろ? 彼一人だけが責め立てられるのはおかしい。責められるのであれば本来もっと上の立場の人間を含めて責められるはずだ」

「でも……」

 

 声にはならなかったが、岳羽さんが何を言いたいのかはよく分かった。

 

「実際はほとんど岳羽詠一郎氏の独断で実験が行われたことになっている。……そのせいで岳羽さんが不快な思いをしていたのも、情報として知っている」

 

 でもあの時の事故は大勢の人の命を奪い、多くの建物を破壊した。その中の一つに辰巳ポートアイランドの名所であるムーンライトブリッジも含まれているが、それはこの人工島への交通や流通の面でも大きな役割を担っていて、建造には億単位の金がかかっている。

 どう見ても研究員の独断だったで済まされるような事故じゃない。もっともどんな被害でも企業の不祥事でそんな発言をすれば大バッシングだろうし、実際に桐条グループへの批判もあった。

 

 ところが被害に対する現実的な問題は桐条グループの膨大な資産を使った賠償と復興への協力で、被害者の遺族が抱く感情は実験の首謀者として発表された岳羽詠一郎氏へ向けることで事態は急速に収束へと向かう。

 

 テレビや雑誌で連日のように首謀者として報道され、岳羽詠一郎氏が諸悪の根源だというのが一般的な認識になった。本人を含めた実験関係者はすべて事故で死亡したことになっていたため、異を唱える者はいない。死人に口無しとはまさにこの事だ。

 

「俺には岳羽さんのお父さんがスケープゴートとして散々利用されたようにしか思えない。少なくとも亡くなった後は完全な被害者だ。生前は実験で何があったとしても、それは彼一人の罪じゃない。そう俺は考えている」

 

 原作を知っている分の贔屓目があるかもしれないけれど、この気持ちに嘘偽りはない。

 

 断言すると、岳羽さんはしばらく考えた後に胸を撫で下ろした。

 

「そっか……うん、ありがとう。それからごめん。昔からお父さんの事を悪く言う人ばかりだったから、こう、決め付けてたっていうか、なんていうか……」

「仕方ないさ、環境がそうだったんだ」

「それで済ますと微妙に私が納得いかないんだけど……? ねぇ葉隠君、もう一つ聞いていい?」

「何?」

「元々の質問。私のお父さんの事が理由じゃないなら、なんで私のこと避けてたわけ?」

「……それはなぁ……」

 

 一瞬これで終わりだと思い、気を抜いたせいで言葉が出なかった。するとそれを見た岳羽さんが一言。

 

「…………あのさ、それってまさか予知夢とかいう話になる? 昨日君のお母さんとそんな話になったんだけど」

「Exactly」

「……なんで英語?」

 

 他にもすっごい何か言いたそう。というか、岳羽さんは信じてないな!? 当然と言えば当然だろうけど……よくこれで来年特別課外活動部に参加するよな……

 

「なんか失礼なこと考えてない? 江戸川先生じゃあるまいし、予知夢とかいきなり言われても信じられないっつーの!」

「信じてもらわなくていいけど……対応に困った。ネットとかでだいぶ前から岳羽さんのことを知っていたし、見ず知らずの人が自分の情報を知ってるなんて気持ち悪いだろ?」

「それは確かにね」

「それを気にしていたらついつい、って感じだ」

 

 そう答えると、岳羽さんはもう気にしなくていいと言う。

 聞けば以前にもネット経由で自分と父の事を他人に知られることはあったらしい。

 

「まわりに言いふらしたり、それで私に何か要求していたら軽蔑したけどね」

 

 本気なのか冗談なのか、岳羽さんは呆れたように話す。

 

 原作知識を含めるとこれまで転々としてきた住所や通っていた学校、本人と家族の写真や家庭内の問題まで、間違いなくストーカーレベルで知っているんだけど……わざわざ言う必要もないな。これで納得してもらおう。

 

 本当は、事件が起こる前から事件が起こると知ってたこともあるけど……

 

「? 葉隠君?」

 

 そもそもあの事故があったから岳羽詠一郎氏は亡くなり、岳羽さんの家族は苦境を味わった。それがなければ彼女たちはまだ幸せに暮らしていたかもしれない。

 

 もしもの話を考えても仕方が無いとはよく聞くけれど、ついつい考えてしまう。

 

 もしも事故がなかったらどうか?

 実験が行われて事故が起こらない、つまり岳羽詠一郎氏が実験を止めなかった場合。

 これは実験が成功して今以上に酷い状況になっただろう、成功イコール世界の破滅だったはず。

 だからこそ彼は命がけで実験を止めた。

 

 だったら、実験そのものが行われなかったら?

 原因が無いのだから、事故も破滅もなかったはずだ。

 俺はそれを知っていたが、止める術を持たなかった。

 

 ……本当にそうだろうか?

 当時小学生の俺でも、何かできることはあったんじゃないか?

 ネット掲示板で実験の情報を拡散し危険性を訴えることは不可能ではなかった。

 研究所や岳羽氏に手紙を送り、忠告することも不可能ではなかった。

 ただ、どちらも何も知らない相手には子供の戯言にしか聞こえず、対応されるか分からない。

 事情を知る相手には極秘の研究が外部に漏れていることに危機感を与え、総力を挙げて情報源()を探されるだろう。

 見つかれば非合法な手段を使ってでも身柄を拘束されかねない。

 桐条はそれができる組織で、当時の計画を率いていたのは桐条鴻悦(狂人)だ。

 あまりにも不確実かつリスクが高すぎる。

 

 ……そう考えて、当時の俺は結局何もしなかった。

 

「葉隠……君」

 

 その結果が原作通りの事故だ。

 もしあの時に行動していれば何か変わったのだろうか?

 リスクが高い、命の保障もできない、それでも行動していたら誰かが実験を止めてくれたんじゃないか?

 

 当時は毎日のように悩み、それでも結論の出なかった考えが、頭に浮かんだまま消えてくれない。

 

 臆病なんだ。

 危険と知って、他人のために危険に飛び込み、僅かな可能性に賭けて勝利をつかむ。

 テレビや映画ではよく見かけるまさにヒーローのような行動。

 憧れることはあっても、俺は実行できず保身に走った。

 あの時がむしゃらに、後先考えずに動けていれば、亡くなった人も助けられたんじゃないか?

 

 一度考え始めてしまうと、無意味と分かっている同じ問いかけが何度も頭の中を駆け巡る。

 

 “死”

 

 ペルソナに目覚めた時、タルタロスで刈り取る者に遭遇した時。

 今年になって二回死に掛けた恐怖まで(よみがえ)る。

 その時、強い力で肩を掴まれた。

 

「ちょっと葉隠君!?」

「岳羽さん?」

「やっと気づいた、大丈夫? それから汗……」

 

 言われて気づくと、俺は汗だくで高台の手すりによりかかっていた。何気なく額に当てた手には玉のような脂汗が付着する。気分も優れない。

 

「大丈夫」

「んな訳ないでしょそんな真っ青な顔色で! 本当にヤバそうだよ、ちょっと……どこか連れてくにも……そうだ、いま順平たち呼ぶから!」

「その必要はありませんよ」

「!?」

 

 岳羽さんが編みぐるみのストラップが付いた携帯電話を取り出すが、突然誰も居ないはずの高台で声がかかる。

 

「体調不良は私に任せていただきます。ヒッヒッヒ……」

 

 思考にとらわれ周辺把握が機能していないことに今更ながら気づいてみれば、大きめのカバンを肩からかけた江戸川先生が立っていた。




影虎は罠に嵌まった!
岳羽ゆかりと買出しをした!
強制的に話をして和解をした!
しかし自分の心の闇を垣間見てしまった!
江戸川が現れた!



江戸川先生がなぜ登場したのかはまた次回。
本当はこの回でそこまで行きたかったんですが、予定より長くなってしまいました。
あと岳羽ゆかりの書き方が難しくていつもより遅れたので投稿。
気を抜くとなぜか遠慮が無くて気の強い、ものすごく嫌な奴になってしまいます。
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