「これはドクササコ(毒キノコ)のような珍しい症例ですねぇ……しかしあれに即効性はありませんし、熱感や痛み、手足の腫れもない……ヒヒッ」
騒ぎを聞きつけた先生の指示の下、俺は順平たちの手により保健室兼実験室へとかつぎ込まれた。
ベッドの上に横たわる俺。
ベッドの横にはパルクール同好会の顧問とメンバー。
その後ろで遠巻きに見守る男子たちと、部屋に入らず扉の外から様子をうかがう女子たち。
そのすべての目が俺に集まっている。
「皆さんは外へ。そんなに見られていては彼もゆっくり休めませんよ」
「影虎、本当に大丈夫なんすか?」
「ええ、彼の治療は私が責任を持って行いますからねぇ」
「超不安……」
「影虎、いいのか?」
宮本に聞かれたので頷いて承諾の意思を伝える。
俺が感じる症状は四肢が痺れて力が入らずに動けないだけ。不思議なことに他には何もおかしな所はなく、意識もはっきりしている。嫌だと言って病院に連れて行かれてもそれはそれで困る。
「そっか、じゃー……どうするよ?」
「勉強会再開、って気分でもないな……今日はここまでにしねー?」
友近が女子にも声をかけると女子も勉強する気が削がれていたようで、それぞれの口から賛成意見が出た。
「んじゃ影虎、また寮でな!」
「ちゃんと帰ってこいよ! ……マジで!」
「また明日ねー!」
口々に別れを告げるみんなに返事を返すと、暗い表情の天田と山岸さんだけが残る。
「さぁ、君たちも」
「……江戸川先生、僕もプリンは食べたのにどうして先輩だけ?」
「プリンに使った薬液単体にこのような副作用はありません。彼には私が一つ薬を飲ませていましたから、飲み合わせが悪かったんですね。
それにしてもこんなに特異な症状が出るとは……以前同じ成分の薬を生徒に飲ませた時は、嘔吐と食欲不振だけだったのですがね……ヒヒッ」
「平気だよ、少し休めばじきに治るさ」
不安そうな二人にそう声をかけると、二人は表情を変えずに顔を俺に向ける。
「……あまり信用できません」
「葉隠君って、自分の事だといつも大丈夫、平気、って言ってる気がするもんね」
「ヒッヒッヒ……君は人のために何かしても、自分の事で人に頼るところをあまり見ません。カルマですねぇ。おっと、カルマとはサンスクリット語で“行為”を意味する言葉ですよ? 人が何かをした結果として何かが起こる。つまりは因果関係。
普段他人を頼らない人が、何かあったときに無理をしているように見られる……これもカルマです」
「……」
今日まで色々とできる事をやってきたつもりだが、確かに二人に頼ることは少なかった。校舎裏で話も聞いた。かといって薬の問題じゃ二人には手が出せないだろう。……なんて言えるわけもない。
言葉が出ずにいると、山岸さんの表情がわかりやすく天田への賛同から気まずげな困惑へ移り変わっていく。絶対に、言っちゃったけどここからどうしよう? とか考えている。
人を叱ったり責めたり、彼女はそんな行為に慣れてなさそうだしな……
「あの……私はお料理の味見とかで迷惑かけたし、天田君は葉隠君にお世話になってるって気持ちがあって……話したくない事や話せない事があるかもしれない、そういうのは無理に聞いたりしないし、私は頼りないかもしれない、けど……私たちもできるだけ葉隠君の力になりたいの。だから、えっと……」
「辛ければ辛いって言ってくださいよ。自力で動けもしないのに平気とか言われても説得力ないです」
生意気な口調で、しかし暗い表情で山岸さんの言葉を引き継いだ天田。
二人の心配がダイレクトに伝わってくる……
「……………………体については本当に心配要らない。手足以外に異常はないし、治す心当たりもあるから。……でもごめん」
少し考えて俺はあることを決めた。すると自然に言葉が出てくる。
「今日の岳羽さんの事も聞いた。正直、二人がそんなに考えてくれているとは知らなかった。……心配をかけてすまない。今日のことだけでなく、二人にはいつも助けられていると思ってる」
山岸さんは普段俺に変わって生徒会に提出する活動報告書の作成やデータ管理をしてくれる。天田は授業が高等部より先に終わるため、先に部室に来て自発的に部室の掃除や練習の準備を整えてくれていることが多い。
しかし考えてみると、部活動の事以外はあまり話していなかった。
部活では頼りにしているとも伝えたことがない。
「だから、というのもおかしいけれど……一つお願いしてもいいか? 二人にも、江戸川先生にも」
その後、俺の頼みを先生はいつもの笑いとともに。山岸さんと天田は疑問に思いながらも協力してくれた。
……
…………
………………
「で、うちに来たと?」
~アクセサリーショップ Be Blue V~
「突然の事で申し訳ないです」
「それは別にいいのだけれど……こんな風に訪れる人は初めてよ。なんだか面白いことになってるわね」
現在、俺はソファーの横に置かれた台車に積まれたダンボール箱の中からオーナーと会話をしている。捨て猫のような姿で情けないが、手足が動かないのでは仕方ない。
“どうにかして俺をBe Blue Vまで運んでほしい”
俺の頼みで山岸さんが学校の資料室から調達してきた台車に乗り、天田が部室で探し出したダンボールに身を隠して、江戸川先生に運び込んでもらったおかげでここまで人目を避けて無事にたどり着けた。
「事情は江戸川さんから電話で聞いたわ。薬で手足が動かないそうだけど……私で力になれるのかしら?
私のヒーリングは相手の肉体的、精神的にエネルギーを充実させることで疲労を取り除き自然治癒能力を後押しするものだから……薬が原因の問題なら江戸川さんの方が適任だと思うわよ?」
「ヒヒヒ、何か考えがあるのですね? 影虎君。山岸さんと天田君を連れてこなかったところで大体予想はつきますが……」
天田の門限も近かったので、二人には学校を脱出するまでの手助けをしてもらった。
今日ここで話す内容も聞かれたくない。
しかしこの二人には話そう。再度決意を固めて口にする。
「問題の解決に、魔術を使おうと思います」
元々誰かに秘密を打ち明けてしまいたいという気持ちはそれなりにあった。
しかし下手に話しても気分が一時的に楽になるだけで終わってしまう。
下手をすれば後々自分の首を絞めることにもなりかねない。
だから話さない、話せない。
そうしたこれまでの考えが今日の件で少しだけ改まった。
親父も好きにしろと言っていたしな……こういう気分を腹が決まったというのだろうか?
「あらまぁ、貴方からそう言い出すなんて……私たちは信用してもらえたのかしら?」
「信用してなかったわけではないのですが……」
「安心なさい、魔術に秘密はつきものです。魔術を修めんとする者に秘密主義者は珍しくもありませんからねぇ」
江戸川先生はニヤニヤと、オーナーは優しげな笑顔で俺を見ていた。
「それで? 私は何をすればいいのかしら」
「解毒の魔術を使いますから、その後にヒーリングをお願いします。一回でエネルギーを使い切ってしまうので」
「そういうことなら力になれるわね……でも解毒のルーン魔術なんてあの本にあったかしら……?」
「影虎君、その魔術はルーン魔術ですか? それとも誰かから学んだ他の?」
「いえ……実は先日から突然使えるようになったんです。自分でも詳しいことは分かりませんが、とりあえず一つ見ていただけますか?」
確認を取って一呼吸。そして俺は……ドッペルゲンガーを召喚した。
普段の服や眼鏡形態ではなく、黒い霧の塊が忽然と現れる。
だがそれに対する反応が返ってこない。
動きにくい体を捩って二人を見ると、どちらもドッペルゲンガーをみて驚愕しているようだ。
ひとまずドッペルゲンガーはペルソナに目覚めた日のように、俺の姿で隣に立たせておく。
「これが突然使えるようになった魔術の一つで、俺はドッペルゲンガーと呼んでいます」
「……ドッペルゲンガーといえば、君が部活動初日に聞いてきましたねぇ。そのときにはもう既に?」
「使えるようになったのは四月の三日か四日です。俺が男子寮に入ってすぐでした」
「いろいろと聞きたいことはあるけれど……まずは治療を済ませましょうか」
俺はソファーへ運ばれる。
江戸川先生が抱えようとした時に、ドッペルゲンガーに手伝わせようとするとその通りに動いた。なんだかんだで初めて普通にペルソナ使いのように使った気がするが、それは置いておく。
「始めます」
オーナーに一声かけてポズムディと念じると、やはり急速に体から力が抜けていく。
しかし脱力感に反比例して手足の感覚が戻ってくる。
そしてだんだんと意識が薄れ……消える直前でオーナーから力が流れ込んできた。
「……もういいかしら?」
「大丈夫だと思います」
俺はいつものように気絶せず、ちゃんと意識を保っていた。
手足も実際に動かしてみたが、違和感もない。
ここにきた目的の一つは達成できたとみていいだろう。
さて、問題はここからだ……
二人は無言で何かを考えている。しかし幸い表情に否定的な色はない。オーナーは純粋に観察するような目で、江戸川先生は強い興味の目でドッペルゲンガーを見ている。
この二人が考えをまとめたら、俺も話をしなければならない。
しかし話したことで聞けるようになること、頼めることもある。
思索にふける二人を見ながら、俺はもう一歩踏み込むために話す内容を確認することにした。
影虎だけが倒れた原因は“薬の飲み合わせ”だった!
影虎は多くの人たちからの思いやりを知った!
影虎は考え方を少しだけ変え、協力を要請した!
影虎はドッペルゲンガーの存在を明かした!
いま考えると、影虎だけ倒れた原因が普通すぎて逆に分かりづらかった気がする。
今回文字数少なめ。
書いてるうちに影虎は周囲に恵まれてるな……特に家族。
影虎のことを考えてくれる家族が居なかったらどうなってたんだろ……
という感じで考え始めたら気がそれて、途中で別の話を書いていました。
人身御供はどう生きる? のIFではなく、主人公も世界も能力も完全に別物。
共通点は送り込んだ神と危険な世界に送られる点だけになっています。
殴り書きですがせっかく書いたので投稿してみました。
私の投稿小説リストから閲覧できますので、もしお時間があればそちらもどうぞ。