「Justiceってなに?」
「剣とか持ってるし暴力的って事じゃないのぉ?」
「はぁ? ウチめっちゃ女らしいし」
「ないない、で、どうなのよオニーサン?」
「このカードは正義、意味は公正、平等、そして誠実さ……そして描かれた剣と天秤は決断、判決を表しています。
この事から貴女は感情に左右されず、平等に目の前の出来事を判断して決断することのできる人、ではないでしょうか。
人間関係は塔のカード……決断力が災いして問題を抱え込みがちかもしれません」
「うそ~、こいつメッチャキレるし、誠実さとか似合わねー」
「当たってない? 男見るときこいつマジそんなだし」
「あ、そっか、それはそうだわ、当たってんじゃん」
「ちょっと何それ~! も~……ま、いいや。ありがとね~」
「もうよろしいですか? まだ時間はありますが」
「あー、ウチらこれから合コンだからさ、そろそろ行くわ」
「畏まりました、またのお越しをお待ちしています」
「気が向いたらねー」
ギャル系のお客様を見送ると、奥から棚倉さんが出てきた。
「二人とも、そろそろ店じまいだ。それから葉隠はオーナーが呼んでる、行ってこい」
「わかりました。失礼します」
なんだろう?
「オーナー」
「お疲れ様。今日はどうだったかしら?」
「想像以上に疲れた気がします。実際に占ったお客様は十人にも達していないんですが……」
「それでいいわ。じきに結果がついてくるでしょう」
そう信じたい。実際にやってみると結果を読み取って店の仕事もこなすことで精一杯で、訓練をしているような実感はなかった。
「ところでこれからなんだけど……お店の片付けは他の子たちに任せて、貴方には私と在庫整理と搬入を手伝って欲しいの」
「任せてください、体力には自信がありますから。その在庫はどこに?」
「地下にある倉庫よ。業者の人が搬入してくれているから、後は持ってくるだけなんだけど……本当に置いてあるだけなの。だから週に一度は掃除も兼ねているわ。早速いいかしら?」
「はい! オーナーがよければすぐにでも行けます!」
「じゃあ行きましょうか……フフフ……」
このとき俺は、もう少し慎重になるべきだったと後に痛感した。
「ここよ」
案内された倉庫に入り、最初に感じたのは寒気だった。
まるで氷を背中に突っ込まれたような寒さが体を貫く。
地下だから冷えるのかという考えは早々に消え去った。
倉庫は真ん中を境に分類されている。
左にはダンボールが整然と積み重なり、右は蚤の市のように雑多な品物が乱雑に並ぶ……ダンボールの記載によると在庫や備品は左。となると右は……
「これまさか全部オーナーの……」
「ええ、私の趣味で買い集めた品なの。例えばこの桐
こっちは
オーナーは嬉々として品物の説明を始めてしまった。
ここからは後姿しか見えないが、薄暗い倉庫の中で輝いている……!
「っ!?」
何かが右から倒れこんでくる。
反射的に回避する際に人影が見え、倒れた物を警戒してにらみつけると……抱き枕だった。
カバーに美少女のアニメキャラが描かれた萌えグッズ的な……
「こんな物まであるんですか」
「あら、それは……」
「!?」
何だろう、この不快感……近づいてくるオーナーに恐怖を感じる。
刈り取る者と比べたらささいな恐怖だが、ここに居たくない。ついつい視線を背けてしまうと、外に通じる扉が目についた。するとそちらからも恐怖を感じる。
……外にも出たくない! 原因、は分からなくもないが、どうすれば!?
「葉隠君、ちょっとそのまま……
オーナーが強い言葉を発した途端に、それまでの恐怖が嘘の様に収まった。
「いまのは」
「その枕は自分の趣味をバカにされて人が怖くなった男の子の物でね……引きこもりになってそのまま病気で亡くなったんだけど、霊がその枕に憑いてるのよ。同じ年頃の貴方にちょっかいかけていたわ」
……目の前にある全部が同じような品物……
そう考えると気が重くなった……
「貴方、花梨ちゃんの祟りは防げるのに、こういうのは防げないのね。意外だわ」
「ペルソナの能力では即死系の魔法を無効化するはずなんですが」
「直接危害を加える呪いを打ち消すのかしら? 精神を惑わす術は効いてしまうとか……とにかく気をしっかりと持つことを忘れないで。こういう霊に対抗するには、まず心から負けるか! 出て行け! と抵抗の意思を強く持つこと。付け入る隙を与えないことよ。大半の霊はそれだけで逃げていくから」
意思を強く持って掃除を行う。
言葉にするととても珍しいルールがここにはあるようだ……
しかし、これも仕事。俺はシャドウとも戦っている。刈り取る者ほどでもない!
……乗り切ってみせる!!
俺はこれも訓練の一環と考え、自分を奮い立たせて掃除に着手した。
……
…………
………………
影時間
~タルタロス・13F~
「ギヒィイイ!!」
断末魔を上げるシャドウから力を吸い尽くす。
今日はやけにシャドウの数が多く、ようやく一息つけた。
八日が満月だったからハプニングフロアかな? おかげでだいぶ回復できた。
オーナーとの倉庫掃除で削られた精神力が充実していく……
というか、タルタロス探索より精神が疲弊する倉庫ってなんだあの魔窟。
肉体的な害は無かったけど、恐怖、混乱、動揺、体が急に重くなる等、あの倉庫はバステとデバフの嵐。毒物をポズムディで解毒できるのだから、体の重さは補助魔法のデクンダ、恐怖、混乱、動揺は状態異常回復魔法のパトラで消せるだろう。しかし俺はどちらも習得していないため、耐えるしかなかった。使えたとしても使いすぎで絶対倒れるだろうけど。
「それにしても、だいぶ安定してきたなぁ」
この辺のシャドウは種類によって弱点があり、そこを突けば大きな隙ができる。
その隙に連続攻撃して復活する前に弱点の攻撃を叩き込むハメ技が可能だ。
だからアナライズで弱点を把握して時間をかければ、攻撃力が低くともまず窮地には陥らない。
安全は望むところだけれど、刈り取る者とか弱点が無いシャドウもいる。
あまり慣れすぎるとそういうのに当たった時苦労しそうだ。
と思っていたら
「フラグ立てたかなぁ……」
~タルタロス・14F~
一つ階段を上ると、通路の様子が変わる
高い天井を支える柱に、見通しのいい大部屋。
5Fのヴィーナスイーグル、10Fのダンシングハンドと同じ門番シャドウの間だ。
五、十と来たから次は十五だと思っていたけど、ここのシャドウは覚えている。
名前はバスタードライブ。戦車のアルカナを持つだけあって体力がこれまでのシャドウより飛びぬけて多い。
しかも物理攻撃が一切効かず、弱点も無いため魔法攻撃で削るしかない。
ゲームでも前二つの番人シャドウよりはるかに長い時間がかかったのを覚えている。
「だからって戦わないわけにもいかないよな」
俺の目的は塔を上ることじゃない。力をつける事だ。
挑戦を決めた俺は転移装置を起動させ、隠蔽と保護色の隠密行動コンボを使用。
姿を隠して一本道の通路を進むと、バスタードライブの姿を捉えた。
車輪に人の足を三本ずつ着けた奇抜な下半身で、腕代わりに騎士が持つ馬上槍のような突起を生やし、俺の何倍もある巨体で廊下に立ちふさがるその姿は、まさに敵を阻むためにそこに居るようだ。これまで見たどのシャドウよりも風格がある。
それでも、最初の一撃は俺が貰う。
「アギ!」
炎がバスタードライブの顔面で爆ぜる。
「ゴロロロ……」
しかし奴は体の駆動音を響かせながら、俺を認識して悠然と車輪を回し始めた。
来た!
から回る車輪が地面を掴み、急加速した巨体が迫り来る。
ブフとジオを試すも、嫌がる様子もない。
そして奴はあと少しという所で左の車輪を止めた。
勢いはそのまま地面をすべり、ドリフトをかましながら、奴の突起が頭に迫る。
後退して突起を避けた。
空振った奴の腰は回り、背中が空く。
「チッ!」
そう考えた矢先に、もう一度振るわれた突起が頭上を通る。
どうやら奴の胴体は360度回転するみたいだ。
空振りの勢いを持って逆の突起が襲ってきた。
「ガル!」
バスタードライブは突風にも揺らがない。
車輪で迫り、腰の回転で突起を左右になぎ払う。
頭、足、胴、こいつ、腰で角度の調整もできるらしいな……
「ラクカジャ! ……ジオ!」
物理攻撃が効かない相手に接近する意味は無い。
威力の高そうな攻撃を回避力の上昇と周辺把握で確実に回避し、魔法攻撃を打ち込む。
「ゴロロ……!」
一際大きな駆動音を鳴らした奴の動きが変わる。
「ッ!」
突起を振るうことなく急加速したバスタードライブが宙を舞う……違う。車輪についた“足”で跳んだのか!
上から降る巨体を寸前で回避。
しかし着地で生まれた轟音と共にバスタードライブは体を折り曲げ、突起を振り上げる。床を削りながら迫るそれは避けられたものの、床の破片が体を殴り、舞い上がった土煙に包まれてしまう。
「ガル!」
攻撃と同時に煙を晴らす。
すると奴は俺に足を伸ばした。踏みつけるつもりのようだ。
後退して範囲から逃れるが、続けざまに放たれた光を避けきれずに左腕を打たれた。
「やっぱり段違いか……」
かすかに焦げ臭い、静電気のような痺れ……ジオだ。威力は低いが、確実に俺の方が消耗している。
そして攻撃を避けるたびに、どんどん上ってきた広間付近へ押し戻されていく。
「……ポイズマ! マリンカリン! ……ダメか」
緑とピンクの光が奴の体を包み込む。奴に異常は、見られない。
魔法はすべて当たっているが、明らかに攻撃力が足りなかった。
なら毒や魅了といったバッドステータス系はどうか? と試したが、効いていないらしい。
倒すにはもっと攻撃力か、回避し続けて倒しきるまで少しずつ攻撃も行う持久力のどちらかが必要だな。
そう感じた俺はできるだけ奴から距離をとり……
「ゴ……!」
二度目の跳躍攻撃の直後を狙い、巻き上がる土煙の中で隠密コンボを発動。
煙に紛れてその場を離れることにした。
勝てない相手なら撤退あるのみ。
逃げる余裕すらなければまだしも、回避は十分に通用する相手だ。
少々悔しいが、無理に限界まで戦って試す必要はない。
いずれは倒す。
胴を回転させて土煙の中で姿を消した俺を探しているバスタードライブを睨みながら、俺はそう誓って転移装置に飛び込んだ。
影虎はアルバイトと占いをした!
占いによる効果は実感できなかった!
影虎は倉庫の掃除をした!
影虎の精神力が削られた!
影虎はバスタードライブと戦い、撤退した!
バスタードライブを単独で倒すには、もっと力をつける必要があるようだ……
バスタードライブは物理・光・闇無効(打撃は反射)で、弱点なし。
マハジオ(全体雷魔法)、タルカジャ(攻撃力上昇魔法)、
アサルトダイブという攻撃スキルも持っています。
バスタードライブは体力が多く防御力も高い。
影虎は最大のダメージソースである物理攻撃が封じられ、魔法は威力不足。
それを補えるような、強力な魔法を使える仲間もいない。
影虎にとってかなり相性の悪い敵だと思います。
ちなみに私がペルソナ3をプレイして始めて死んだのもバスタードライブ戦です。