5月12日(月)
影時間
最近、気功(知識習得)、占い、ルーン魔術と色々な
食事で摂取したカロリーの消費もかねて、地力を上げるためまず転移装置で10Fへ。
14Fまで敵を倒しながら上り、バスタードライブには挑まず転移装置で移動。
ヴィーナスイーグルやダンシングハンドとの戦闘訓練を挟む。
それが終わると転移装置で10Fへ戻ってまた上る。
その最中は、以前天田にやったようにフォームチェックも行う。
ドッペルゲンガーを利用して、自分の動きを確認しながら。
吸血と吸魔による回復は控えめに。
一秒でも長く動き続けられるよう、ほぼ素の持久力で。
影時間が終わるまで、安全と限界の境目までを伸ばすため、疲労と回復を繰り返す。
こうして普段より少しだけ負荷のかかるマラソンを行った。
おまけに宝箱から現金三百円、倒したヴィーナスイーグルが落とした仮面を二枚手に入れた。
翌日
5月13日(火)
~昼休み~
「聞いたか? 体育の青山と古文の江古田、入院したらしいぜ」
男四人で昼食を食べていると、友近からそんな話が出た。
「マジ? なんで?」
「二人で牡蠣食ってあたったとかなんとか」
「こんな時期に?」
英語ではRの付かない月(5,6,7,8月)に食べてはいけないとも言うし、ただでさえ暖かくなってきて腐りやすいのに。
「真牡蠣なら冬だけど、岩牡蠣は今頃が旬だぞ。岩牡蠣は毒素も少ないっていうし、真牡蠣と産卵時期がずれてるから年中どっちかの牡蠣は食える」
宮本から訂正が入った。
「詳しいな」
「美味いしパワーになるからな!」
「やっぱ宮本はそれかよ」
すぐに話が運動に関連する宮本に呆れた様子の順平だったが、ふと思いついたように呟く。
「今日の午後って体育と古文だよな? 授業どうすんだ?」
その答えは三十分後に明らかになるのだった。
……
…………
………………
五時間目 体育
「自習って言われてもなぁ……」
江戸川先生の魔術の授業かと思っていたが、同時に二人の先生が休んだことで手が回らなくなったらしい。
「グラウンドにほっぽり出されて何やれってんだよ」
「暑っちー……まだ五月なのに……」
「部屋入りてぇ、つか入れないのか?」
「体育だから、
「どうせ自習なら何でもいいだろ。勉強させろよ試験前なんだから」
「これなら暑くないだけ江戸川の方が良かったかもな」
グラウンドに集まる生徒は口々に不満を訴えながら日陰を争っている。
確かに今日は日差しが強いな……
「お前なにやってんだよ!」
不満とは違って笑うような声が一つ。
俺を含めた生徒の目がそちらに集まる。
「なに脱いでんだよ!」
「だって暑いじゃん」
日陰に入れなかったB組の生徒が上半身裸になっていた。
それを皮切りに、ためらいつつも上半身裸になる生徒が増えていく。
「津田、ガリガリだな」
「そういう富田は太りすぎだって!」
やがてする事がなくなったからか、彼らは知り合いの男子同士で体を評価しあい始めた。
気温より目の前の光景の方がよっぽど暑苦しい……
「影虎!」
「宮本?」
「ちょっとこっち来てくれ!」
「お前が頼りなんだ!」
「え?」
「いいから来てくれよ!」
上半身裸の体育会系クラスメイトに呼ばれて連れて行かれた先には、これまた上半身裸の見てわかる体育会系男子たち。皆そろって体格がいい。
「こいつがA組の秘密兵器だ!」
秘密兵器って何? 宮本に説明を求める。
「脱いで話してたら誰が一番体格がいいかって話になってさ、その流れでいつの間にかA組とB組の対抗戦になってきたんだ」
「それで、B組の代表が彼か」
他より頭一つ抜けている身長と体格で、前から授業ではよく目についていた男子生徒が仁王立ちして俺を見ているのですぐ分かった。
「このままじゃB組に負けちまう!」
「頼む! 脱いでくれ!」
「お前ならきっと勝てる!」
A組男子から勝手に期待をかけられている……
「誰を連れてきたって大田原以上に体格がいい奴はいないぜA組!」
「柔道部で一二を争う巨体舐めんな!」
「てかあいつ、そんなデカくないじゃん」
「でも腕とか見ると、結構ちゃんと鍛えてるんじゃないか?」
「だとしても大田原には勝てねぇよ。それに……筋肉より勉強机のほうが似合ってない?」
B組男子から煽られている……が、煽りよりその後ろで話される内容の方がちょっとムカつく。
そこまで言うなら脱いでやろうじゃないか!
体操着の裾に手をかけて、一気に脱ぐ!
『うわっ……』
……脱いだら一斉にひかれた……B組だけじゃなくA組まで……
「なんで!? 連れてきたのそっちだろ!? 着替えの時とか何度も見てるよな!?」
「すまん! 日光の下で見るとなんか違う感じが」
「特に腹と背中が、何に使うんだよその筋肉」
「ちょっと鍛えすぎっつーか、ボディビルダー目指してんの? って感じ? 」
「すげぇとは思うけどさぁ……よく考えたら暑苦しいっていうか」
「というか俺たちなにやってんだ……?」
このタイミングで冷めるのかよ!?
「それよりさ、前からそんなだったっけ?」
「あ、それ俺も思った。なんか前より腹筋とか
A組の生徒がほとんどそう言ってくる。
「そんなにか?」
「間違いねぇって」
言われてみれば、全体的にちょっと引き締まった気もする。
おそらくタルタロス効果だろう。それ以外の急激な成長要因は思いつかない。
周りの反応に若干のショックを受けたが、トレーニングの効果を知れたのは収穫だ。
「で、勝敗は?」
その後、いい体格の審査基準が曖昧だったため
「みんな引かせるくらいだし、葉隠でいいよな?」
「大田原だろ、体の大きい方がスポーツでは有利だ」
「有利かどうかは関係ないだろ。身長より筋肉で比べた方が平等じゃないか?」
A組とB組で判定が割れ、授業終了まで決着がつかず引き分け。
その場の勢いで始めたことだもんな……最後のほうはもうグダグダだった。
……
…………
………………
六時間目
「はい皆さん席についてください。聞いているとは思いますが、江古田先生が入院されたためこの時間は私が授業を行います」
「センセー、江古田先生の容態ってどうなんですかー?」
「お酒を飲んでいて発見が少々遅れた、とは聞いています。まぁ命に別状はないそうなので、数日の入院で済むでしょう。どのみち中間試験は先生の容態にかかわらず、予定通り行われますよ。ヒヒヒ……」
わかりきった事だが、皆うやむやにならないかと淡い期待を持っていたんだろう。クラスの空気がちょっと落ち込む。
「それでは授業を始めます……と言いたいところですが、今日はあまりに急すぎて何の用意もしていません。なので本日は道具がいらず、知っておくと役に立つ“気功”について教えましょう。興味が無いという方はテスト前ですし、好きな科目を自習していてもかまいません。ただし静かに、教室の外には出ないように」
「!」
気功!? まさか教室で!?
「気功?」
「あれだろ? ハァ~! ってやつ」
「マジでそんなのやるのかよ」
クラス中から呆れたような声が上がる。
「では始めましょう。まず“気功”とは中国の道教に基づく“気”の運用法、または“功”と言う文字の意味合いにある、気を運用するための訓練。そして“気”とは流動的で目には見えないエネルギーの事。
皆さんも一度は耳にしていると思われる気功治療は、肉体のエネルギーを操って肉体に作用させることで病気を治そうとしているわけです。これを他者に行うには相応の訓練が必要ですが、その過程にある訓練でも自分の体にいい影響を与える事はできるのです。
ヒヒヒ……勉強疲れや体調不良、試験前の皆さんには最適でしょう」
それは免疫力を高めたり、自然治癒力を増強したり。あるいは心身のストレスの緩和等々。
「生きている人の体内には、意識せずとも“経絡”を通じて全身に気が巡っています。そして体に悪い部分があれば気の巡りが悪くなる……この流れを意図的に整えることで悪い症状を緩和することができるのです。ちなみに気をよく巡らせるためにはマッサージなども有効ですよ」
「マッサージ? それで巡るのは血なんじゃ……」
「いい所に気がつきましたね、田口さん。マッサージを行うと血もよく巡ります。なぜかと言うと、先ほど使った“経絡”を流れるのは“気”だけではありません。“気血”という言葉もあり、経絡とは血や水分を含めた必要な物が体の中を流れる経路を指す言葉なんですね」
クラスメイトの呟きを拾い、自分のペースで突き進む江戸川先生。
「人の体にある経絡でまず知っていただきたいのは、正中線を通り体の前面を流れる“
気の流れ方には任脈を下り督脈を上る巡り方と、逆に督脈を下り任脈を上る巡り方があり、個人によってどちらかは違います。気を意図的にめぐらせる場合は自分の体の流れを知り、流れに従うことが重要になります。正しい方向で行わなければ逆効果ですからね……」
最初こそ驚いたけど、学びたかったことが学べる!
「いきなり気を正しく巡らせるのは無理ですから、まずは体内の気を感じてみましょうか? ……もし過去に気功などエネルギーを用いた治療を受けた経験のある方がいたら、そのときの感覚を思い出しながらやってみるといいかもしれませんよ? ヒッヒッヒ……」
オーナーの治療や吸血でエネルギーを吸い上げる時の感覚を探してみると、なんとなく分かる気がする……
授業に
……
…………
………………
授業後
「影虎君、ちょっと」
教室から出て行く江戸川先生を呼び止めようとしたら、先にあちらから呼ばれた。
「今日も君たちは勉強会ですよね? だったらその前に少し部活の事で
不自然に強調された
「俺からも部のことで話があったんです」
「そうですか、では勉強会の前に来てください」
どこへ、とは聞かずとも分かる。
……
…………
………………
~部室・地下~
「お待たせしました」
「ヒッヒッヒ、ホームルームお疲れ様です。早速ですが、一昨日の血液と昨日の尿検査。結果が出ました。そのことで少しお話が」
「何か異常が?」
先生の雰囲気がいつもと微妙に違う気がする。
それに地下室には一昨日は無かった体重計や身長計が置かれていた。
「血液検査で、しかも極めて珍しい結果がね。ちょっと今の身長と体重を測らせて下さい。話は測りながらでもできますから」
言われるがまま、体重と身長を測る。
「血液検査で明らかになった異常は二種類……一つは君の体内にある免疫グロブリン、病気などに対する抗体の事です。その一種である“免疫グロブリンD”……これは人の体が持つ抗体の一種で、通常は一%程度しか存在しません。しかし君の血液からはそれ以上に検出された……抗体を作るB細胞が活性化しているようです。
風邪気味だったりアレルギーがあったりは? ない? 健康に越したことはありませんね……それが一つめです。身長170.7cm、体重64.5kgと。次はこれを持って下さい。腕をまっすぐにして」
今度は体脂肪計か。
「やはり……体脂肪率、10.1%」
体脂肪率がどうかしたのだろうか?
「……もう一つの異常は、血液中に含まれる“ミオスタチン”という物質が非常に少ないことです。これは筋肉の成長を抑制する効果を持つたんぱく質で、運動不足だと増え、逆に運動強度の高いトレーニングをしていると下がる傾向があるのですが……君の場合は少ないどころではなく、ほぼゼロでした」
「……筋肉が付きやすくなりそうですね」
もしかして、体育で皆が言ってたのも……
それを話すと先生は手元に取り出したメモ用紙に何かを書き始めた。
「確かに筋肉はつきやすくなりますが、良い事ばかりではないのです」
続く説明によると“ミオスタチン関連筋肉肥大”という病気があるらしい。
これは遺伝変異により元々ミオスタチンが体内に生成されない体質。
またはミオスタチンを筋細胞が受容しない症状の事。
これにより患者は筋肉が異常成長し、常人の1.5倍から2倍の筋肉を持つといわれている。
先生は血液検査で出た血中ミオスタチン濃度から俺の体調を推測したと話した。
まだ断言はできないが、先生の知識にある中で検査結果と俺の話に一番当てはまるのがこの病気だと。
「筋肉の成長を抑制する物質が体内に無いため、患者の筋肉は成長し続けます。だから摂取したカロリーや栄養が意図せず筋肉の肥大に費やされてしまう。そのため患者は体脂肪が増えず太りませんが、代わりに必要な体脂肪もつかなくなります。
一応聞きますが、これまでに病院でミオスタチン関連筋肉肥大と診断された事はありませんね?」
「病名すら初耳です」
「でしょうねぇ……これは世界に約百人という非常に珍しい症例ですし、そもそも患者は乳幼児のころから筋肉の成長が顕著ですから、生まれつきならすでに発覚しているはず。後天的に症状が出た例を私は知りません。類似した違う病気の可能性も捨て切れませんが……タイミングを考慮すると、適性の有無を判断する要因の一つであると考えていいと思います。
クラスメイトの話もこの症状がでているからでしょう。これを見てください。測った数値から君の筋力量などをざっと算出してみました」
メモ用紙が目の前に突き出される。
まずたった今測ったばかりの数値。
身長:170.7cm
体重:64.5kg
体脂肪率:10.1%
その下に身長と体重から割り出された様々な数値が書き込まれている。
適正体重:64.1kg
BMI:22.14 = 普通体重
体脂肪量(体重×体脂肪率):6.45kg
除脂肪体重(体重-体脂肪量):58.05kg
筋肉量(除脂肪体重÷2):29.025kg
筋肉率(筋肉量÷体重):45%
「二十代男性の平均筋肉率が44%。平均筋肉量はBMIが24.9以下なら22.0kg。25.0以上なら24.0kgが標準です。比べてみると現時点の影虎君の筋肉量は成人男性の平均値を上回っている。これで脂肪が少なければ筋肉が浮き出て見えるのも当然です」
しかし体脂肪率が落ちるのも問題なのだそうだ。
「メディアではメタボリックが毎日のように取り上げられて、体脂肪率は低いほうがいいと思いがちでしょう? しかし体脂肪は体の保温やエネルギーを貯めておくなど、良い働きもあるのです。
ですから体脂肪が
君の体脂肪率は10.1%、数値上はもうボーダーラインギリギリ。さらに先ほど伝えた君の血中ミオスタチン濃度で何もせずにいれば今後も減っていく事が予想されます」
ではどうすればいいのか? やはり太る?
「そうですね。さしあたっては食事量を増やしてください。朝昼晩におやつ、タルタロスに行くなら夜食を取るのもいいでしょう。実際にミオスタチン関連筋肉肥大の患者は、一日に何度も山盛りの食事を食べるといいます。そうしなければエネルギーが不足するので、驚くほどの量が食べられるそうですよ」
どんどん心当たりが増えていく……
俺はここ最近の食事量について話した。
それと昨日の食事でおかしいと感じた事も。
「ヒッヒッヒ……聞く手間が省けましたね。食事は多少高カロリーな物を中心に食べて、不足するエネルギーを補給することです。それから不足しがちな栄養を補えるように、特製のサプリメントを上に用意しておきました。後で渡しますから食事とそれでしばらく様子を見ましょう」
「分かりました、訓練内容で気をつけることは」
「怪我くらいですね。これまでと同じように続けて結構です。ミオスタチン濃度が変わらなくても、体脂肪率が維持できるのであれば大丈夫でしょう。元々症状が軽ければ不自由ない生活を送れるという話ですし、気にしすぎも体に毒ですよ……ヒヒッ。ただし何度も言いますが健康管理には気をつけて、少しでも体調に疑問を感じたら私に連絡をしてください。
ああ、それからトレーニング前には炭水化物や糖を摂取すると効果的ですよ。運動をすると体がエネルギーを得るために糖、脂肪、筋肉(蛋白)の順に分解してしまうのです。脂肪の方が先に分解されるはずですが、君は体脂肪が少ない状態なのですからね……ヒッヒッヒ」
俺の体がそんな事になっていたとは思わなかった。
改めて江戸川先生の存在にありがたみを感じつつ、いくらか打ち合わせをして話を終えた俺は先生と上へ戻り、緑色の粉が詰まった袋を受け取った。
影虎はタルタロスマラソンを決行した!
三百円と女帝の仮面を二枚手に入れた!
クラスメイトから見て、影虎の筋肉が急成長している!
影虎は気功の授業を受けた!
江戸川に呼び出された!
影虎は自分の体の変化と対策を知った!
江戸川特製栄養剤を手に入れた!
江戸川特性栄養剤
主原料:ミドリムシ粉末(抹茶風味)、プロテイン
その他:アミノ酸、カルシウム、鉄分、ビタミンC、ビタミンB12 等々
用法:水または牛乳に、記載された量を溶かして飲む
ミオスタチン関連筋肉肥大は実在する症状です。
影虎にはそれと近くて疑わしい症状が出ている模様。
一般市民が突然戦闘に参加して順応できる原作キャラの成長力を考えると
ペルソナ使いは肉体的に強化されやすいんじゃないかと私は考えています。
雑魚ならまだしも、センスだけで大型シャドウに対抗とかできる気がしません。
私なら仮にセンスがあっても、速攻スタミナ切れする自身があります。
あと肉彦とまで呼ばれる真田の食生活が気になります。
牛丼+プロテインばかりの食生活でボクサーなんですよね、彼。
備考
影虎の体脂肪率十パーセントという数値がどれくらいか想像しにくい方へ。
有名人ではテレビドラマ・『特命係長只野仁』で只野仁役を演じておられる
高橋克典さんが体脂肪率十パーセントだそうです。