人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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68話 アドバイス

 5月19日(月) 試験初日

 

 ~教室~

 

「時間だ! 教科書、ノートはさっさとしまえ! いまさら悪あがきをしたって遅いぞ!」

 

 いよいよこの時がやってきた。中間試験の始まりだ。

 ドッペルゲンガーのメガネはないが、慌てることは何も無い。

 体調は絶好調、事前準備は万全。そして自信が胸にある。

 

「よし、用紙は行き渡ったな? 開始まで後一分………………三十秒………………五、四、三、二、一、始め!!」

 

 体育の青山先生監督の下、テストに取り組んだ。

 

 かなり手ごたえを感じる!!

 

 ……

 

 5月20日(火) 二日目

 

 “英語”

 

 問題:誘いを断るときに使う英語の慣用句は? 以下の選択肢から選びなさい。

 回答:Can I take a rain check? 

 

 ……

 

 5月21日(水) 三日目

 

 “音楽”

 

 問題:“荒城の月”で有名な瀧 廉太郎氏が最後に作曲した曲は? 

 回答:(うらみ)

 

 ……

 

 5月22日(木) 四日目

 

 “現代文”

 

 問題:“すべからく”とはどういう意味か?

 回答:当然

 

 ……

 

 5月23日(金) 五日目

 

 “化学”

 

 問題:メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、アセチレン。

     以上六つの物質の化学式に共通する元素を二つ答えなさい。

 回答:炭素、水素

 

 ……

 

 5月24日(土)

 

 “数学”

 

 どれも簡単すぎる。走り出したペンは止まらない!

 

 ……

 

「終了~。後ろから答案を集めて、ほらそこペンを置く!」

 

 中間試験が終わった。

 試験勉強には長い時間をかけた気がするのに、終わってしまうのは一瞬だったな……

 

「影虎、なんか食って帰ろうぜ!」

 

 開放感に満ちた順平の誘いに乗り、下校途中に買い食いをすることにした。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~アクセサリーショップ Be Blue V~

 

「お疲れ様です!」

「お疲れ様、葉隠君。試験は終わったのよね? どうだった?」

「オーナーが試験期間中はシフトを入れないでくれたおかげで、余裕を持てました。ばっちりです」

 

 和田と新井からも大丈夫そうだとメールが来たし、心配事はなにもない。

 

「自信があるようでなによりだわ。学生さんなんだから勉強もしっかりしないとね。でも大丈夫? 江戸川さんからずっとお友達と勉強会をしていたと聞いているけど……それも夜遅くまでお友達のために問題を作っていたとか。今日まで休んでくれてもよかったのよ?」

「そこまで聞いてたんですか? 大丈夫ですよ。ここの仕事は自分のためになりますし、実を言うと……例の能力でだいぶ楽してますから」

「あら? ……あれってそんな風にも使えるの? 話を聞いて戦うばかりだと思っていたのだけれど」

「戦うための能力が応用できた感じですね。敵の弱点を記録したり分析する能力なんですが、同じ要領で勉強内容の理解に役立てられました」

 

 でもだいぶ成長してるのに、工夫して編み出した技を除いては、いまだに戦闘用のスキルが初期状態から一つも変わらないんだよな……

 

 小声で短く説明をすると、オーナーは数回頷く。

 

「それじゃこれ、今日の服だから」

 

 声を元の大きさに戻し、渡された仕事着に着替えて戻る。

 

 すると丁度、同じシフトの三田村さんがやってきた。

 

「お疲れ様です! ふぅ、間に合った……」

「お疲れ様。随分と大荷物ねぇ」

「お疲れ様です、三田村さん。どうしたんですか? そんなに重そうな荷物を抱えて」

「あはは……実は近々教育実習があるんですよ」

「そういえば三田村さんは保育士さんを目指しているんでしたっけ?」

「そうなの。その準備で読み聞かせ用の本を探しに図書館へ行ったんだけど、良いのが見つからなくて。迷ってるうちに時間がきちゃって」

 

 そして目線は手持ちのカバンに移る。

 

「もしかして候補の本を全部借りてきたんですか?」

「全部じゃないけど……そんな感じで、一度に借りれる限界まで」

 

 恥ずかしそうな三田村さんがカバンの口を開けて、こちらに中を見せてくれる。控えめに覗き込んでみると、“ももたろう”や“さるかに合戦”等々、童話が詰め込まれていた。中には辞書のような童話集まである。これじゃ女性には重いだろう。

 

「いたって普通の童話じゃない、なにがダメなの?」

「オーナーが言うように普通の童話だからですよ。有名な童話はほとんど子供たちも知ってますから、読み聞かせで退屈させちゃって大変だそうです。先輩の話では。あと内容が難し過ぎるのとか、昔は良くても今は差別的とされて教育現場では不適切になるお話もあるから色々と気をつけないといけないんです」

「そう。読み聞かせも大変なのねぇ……」

「でも、子供たちのためですから。それじゃ私も用意してきますね」

 

 三田村さんは笑顔で言い切り、歩いていく。

 

「それじゃ俺も」

「ちょっと待って、葉隠君。今日はそろそろ暑くなってきたと思うから、腕をこう、袖口のボタンを全部はずして…………………………こう。腕まくりをする時はこうするといいわ。だらしなく見えないから。それじゃ今日もよろしくね」

 

 オーナーから見栄えの良い腕まくりの仕方を教わった。

 きっちりとしていて、仕事の邪魔にもならなそうだ。

 仕事道具を抱えて店に出る。

 

「お疲れ様です、交代します」

「葉隠か、香奈は?」

「三田村さんももう来られますよ」

「そっか、じゃ香奈が来たらアタシ上がるよ。そういやさ」

 

 棚倉さんと会話をしながら占いセットをカウンターに並べていくと、二人組の女性客が来る。

 

「でさー、あっ、占い師の子だ」

 

 俺か。……あの人初日に占った人の一人だったな。

 アナライズにより前回の記憶が蘇った。

 

「いらっしゃいませ。先日はどうも」

「占い師? 君占いやってるの?」

「はい。と言ってもまだ見習いですが」

 

 手で看板を示すと、初見のお客様は興味を持ったようで

 

「へぇ……安いね」

「見習いなもので」

「ふーん……ちょっと占ってくれる?」

 

 彼女は今日初のお客様になってくれた。

 

「ありがとうございます。それでは何を占いましょうか?」

「引っ越しを考えてるんだけど、なかなか良いとこ見つからなくって迷ってるんだ」

「わかりました。では“ケルト十字”というスプレッドで占わせていただきます。これは一つの問題を深く分析するのに適した並べ方ですから、これで解決の手がかりを探っていきましょう」

 

 カードを切り、お客様にカードを三つに分けて好きな順番で一つに戻してもらう。

 できた山の上から一枚ずつ取り中心へ二枚、その上下左右に一枚ずつカードを配置。

 最後にこの時点でできている十字の右側に、俺の手元からお客様の方へ四枚縦に並べる。

 これでスプレッドの完成。

 

「このスプレッドは一枚目から順に

 現在の状況や悩み。

 現在直面している障害。

 目標や理想。

 障害の原因。

 近い過去。

 近い未来。

 無意識に抑圧している事。

 周囲の状況。

 願望やそれに伴う気分。

 結果。 

 と、これら十の物事を示します」

 

 前置きをしてカードをめくる。

 

「一枚目は“運命の逆位置”。正位置であればチャンスや幸運と言った意味がありますが、逆位置なので不運……あなたの悩み事と今の状況は、あなたが原因で起こった事ではないようです」

「……」

 

 黙って耳を傾ける女性。

 

「続いて二枚目は“恋愛の逆位置”……恋愛は文字通りの意味もありますが、それには人と人の繋がりが不可欠。ここから現在の障害は人間関係。ご近所とのトラブルでしょうか?」

「……そんなもんだね。トラブルまではいかないけど」

「では三枚目。目標や理想を示すのは“隠者”のカード。これは二枚目の恋愛と合わせて、煩わしい人間関係や喧騒から離れて静かに暮らしたい。あるいは自分だけの場所がほしい、と言った意味ではないかと考えます。

 続いて障害の原因は、“魔術師の正位置”……人間関係の問題ですので、人が原因と考えられますが……魔術師で人をあらわす時は知識人であったり、知識や技術を高め、探求するような性質の人と言われます。そういった物事に力を注ぐ、向上心のある若々しいエネルギーの持ち主でしょうか?」

「さぁ……隣に引っ越してきた人なんだけど、直接会った事はないんだよね」

 

 直接会わないで被害を受けている?

 ……となると問題はゴミや騒音、その他間接的に与える物かもしれない。

 

「では近い過去、これは“月”。曖昧な状況を示すカードで、先ほどおっしゃられたように迷いが生じている事でしょう。

 その次は、“審判”。決断や転機の意味があるカードですが……このカードは正位置の場合、改善という意味もありますから、近い将来はよい方向に向かうと思われます」

「本当?」

「カードを読み取った限りは。ですがまだ続きがあります。次のカードは……“戦車の逆位置”?」

 

 これは何を表しているんだろう? 

 戦車は攻撃や勝利などが思い浮かぶけど問題は転居だ、どう繋がる?

 戦車…………乗り物……移動? 逆位置で、停滞?

 

「……ひょっとして、本当は引越しをしたくないと思っていませんか?」

「んー……たぶんある。今の家、結構長く住んでるから愛着あるし、住みやすいから」

 

 それなら転居よりも問題の解決を図ったほうがいいんじゃないか? 

 

 続く八枚目を見ると“刑死者”が出た。ここは周囲の状況を示す位置だから……

 

「どうやら問題に対して、現在あなたはこの絵柄のように孤立無縁の状態にあるようですが……誰かに相談したりは?」

「してないね。そこに住んで長いし、私が引っ越してもいいかな? って思っちゃって」

「なるほど」

 

 今の場所に住み続けたいのか、新しいところに住みたいのか。

 やっぱりご近所トラブルよりも、転居に対する迷い。

 気持ちが定まっていない事が悩みの本質のようだ。

 

 その推察を肯定するように、願望とそれに伴う気持ちを示す九枚目のカードは愚者。

 自由や可能性、そして無鉄砲さなども表すカードだった。

 

「どうやらトラブルで精神的に追い詰められて、といった深刻な状況ではなさそうですが、どうでしょう」

「うん、そこまでじゃないね」

「でしたら、まずトラブルの解決を図ってみるのはいかがでしょうか?」

「ん~……何度も隣の家に行ったんだけどさ、いつも留守か居留守を使われてるから」

「……お住まいは賃貸ですか?」

「そうだけど?」

 

 だったら管理人か管理会社に相談するのはどうだろう?

 七枚目では“引っ越したくない”という気持ちを抑圧していると出ている。

 だったら引っ越さなくても良い方法を探してみるのが良いと思う。

 問題解決に成功すれば、隠者が示す理想を叶えることも可能だ。

 

 それに相手と直接顔を合わせたことが無いという話でしたが、一枚目の運命のカード。

 運命はカードを簡単にひっくり返せるように、良い事の後に悪い事とコロコロ変わる。

 だから審判と同じで改善という解釈もあり、まだ“改善の余地がある”と言える。

 

「まだ引越し先も見つかっていない状態の様ですし、引っ越すにしてもできる事をやってからの方が納得もできると思います」

 

 そう提案すると、お客様はわずかに表情を緩めた。

 

「確かに、ちょっと急ぎすぎてたかも。納得できるように、やってみるよ」

「お力になれましたか?」

「帰ってやること決まったし、十分だよ」

「それならよかった。……あ、すみません。まだ最後のカードが……」

 

 纏めたような雰囲気になってしまったが、まだ一枚だけカードが残っている。

 めくって見ると、それは“節制の正位置”。

 

「これは良いカードですよ」

「そうなの?」

「節制は適度に慎むこと。正位置では物事のバランスが取れている状態です。人付き合いでは物事を上手に判断したり、寛容であれたり。自分と他人の関係でバランスが取れるという意味で、“通じ合う心”を表すとも言われます。

 審判のカードが示した近い将来は“和解してよい方向に進む”と言うことかもしれません」

 

 そして俺は、本日最初の占いを締めくくった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 閉店後

 

「……………………」

「おーい、葉隠君ー?」

「だめだ、もう死んでる」

「勝手に……殺さないでください……棚倉さん」

 

 倉庫掃除で疲れただけだから……座って休めばすぐ元に戻る。

 そう言葉を搾り出すと、棚倉さんと三田村さんは俺に労いの言葉をかけて帰っていく。

 残ったのはオーナーと俺、香田さんは店の方にいるらしい。

 

「今日はずいぶんお疲れね、何に引っかかったの?」

「体が重くなるやつです……」

「どれかしら? ……もしかして全部?」

「わかりません……ほとんど金縛り状態で」

 

 タルカジャとスクカジャを使って何とか掃除だけはすませたけど、今日はやばかった……

 

「今日、どうでしたか?」

「占いの評判? いい感じよ。今日いただいた十八人分の感想を読んだ限りは、不満を持った人はいないみたいだし……リーディングにかける時間が減って、快適に占ってもらえたって意見もあるわ」

 

 ああ、それたぶん初日に来た人だ。

 彼女なら一度占ってるから今回と比べられる。

 前回を覚えていれば一目瞭然なはず。

 

 それだけ俺が上達した、と言いたいが…

 一番の要因は新しく身に着けた“アドバイス”の効果だろう。

 

 習得から数日経って判明したアドバイスの効果は、その名の通りアドバイスを与える能力。たとえば戦う時はシャドウの急所がなんとなく分かるというか、気づかなかった事(・・・・・・・・)気づけるように(・・・・・・・)なっていた。

 

 知りたくない事、受け入れがたい事も容赦なく気づかせるみたいでたまに傷つくけど、ためにはなる。

 

「葉隠君、その能力……もしかして高次の意識に繋がっているんじゃないの?」

「自分で自覚できない領域の……?」

「ええ、以前話したでしょう? 人の意識には顕在意識、潜在意識、超意識の三つがあるって」

 

 潜在意識、超意識……

 それは自覚できていないだけで、多くの情報を持っている。

 反射的な回避など、無意識下で高速処理が行われている。

 言われてみれば、まさにアナライズだ……

 そこから記憶を引き出していたのか。

 

「となるとアドバイスは」

「貴方が明確に理解できていない知識を高次の意識と繋がる事で、ヒントを与えているんじゃないかしら? その能力も使っている時、瞑想するように内面を見つめていそうよ。……本当に、ペルソナって常識の枠に当てはまらないのね……」

 

 そんな事を言ってるオーナーも、十分一般常識の枠にははまってないと言いたくなったが、我慢する。

 

「でもあれね。高次の意識と繋がれる能力を持っているなら、貴方の肩書きから見習いが外れる日もそう遠くないかもしれないわね」

「……いまさらですけど、能力を占いに使ってもいいんでしょうか?」

 

 アドバイスはパッシブ(常時発動)スキル。

 便利に使ってるけど、止めようと思うと肝心の止め方が分からない……

 

「あら、魔術を修めようとする者が高次の意識を求めて扱うのは必然よ。前にも言ったでしょ」

 

 オーナーはあっさりとそう言い放つ。

 訓練の妨げにはならないようで一安心だ。

 

 こうして俺は話をしながら体を休め、ある程度回復するのを待って寮へと帰った。




中間試験が終わった!
影虎はアルバイトをした!
魅力が1上がった?
バイト代を手に入れた!
疲労になった!

依頼No.5 勉強を教えよう 『達成』
依頼人:“わかつ”の女将(和田の母)
達成条件:和田(わだ)勝平(かっぺい)新井(あらい)健太郎(けんたろう)の二名に勉強を教える。
達成報酬:“わかつ”と“小豆あらい”でタダ飯食べほうだい。 + 『スキル(アドバイス)習得』
達成期限:中間試験日まで



~影虎が引き受けている依頼一覧~

依頼No.6 会長に会ってくれ 依頼人:桐条美鶴
達成条件:中間試験後に月光館学園の生徒会長と話す。
達成報酬:新たな依頼人
達成期限:中間試験後、可能な限り早く。
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