人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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70話 新商品

 ~部室~

 

「「お疲れ様です! 兄貴」」

「きてたのか」

 

 部室では和田と新井がパルクール同好会の面々と話をしていた。

 

「葉隠君。この二人、正式に入部したいって言ってるんだけど、どうする?」

「天田君の時と同様に、君が決めてください」

 

 江戸川先生はまた丸投げする気のようだ。

 

「そうだな……」

 

 ついさっき悪い噂の一つを知ったが、和田と新井は悪い奴らではない。

 

「一応聞くけど、サッカー部に戻るつもりは?」

「ないっす!」

「ありません!」

「そうか……山岸さんと天田は? この二人についてなにか」

「私は良いと思う。最初はびっくりしたけど、二人とも普通の人だったし」

「僕も良いと思います。というか、この二人放り出したらどうなるのかが心配です」

「あざっす姉御!」

「あ、姉御?」

「……反論できないのがつれぇ……」

「そうか。分かった、入部を許可します」

「「マジっすか! あざ」」

「ただし! その格好を元に戻してくることが条件だ」

 

 俺は生徒会長から聞いた話を皆にも話した。

 

「おやおや、そんな話になっていましたか? 山岸さん」

「学校の掲示板には上がってない噂だと思います……上がってたら、気づくはずです」

「でも、不思議じゃありませんね」

「面目ないっす」

「つか、それでも入れてもらえるんすか」

「なんだかんだで一度は面倒みたんだし、今さら放り出すのもどうかとは……ちょっとは思うからな……」

「ヒヒヒ、この際、不良生徒を更生させたとでも言ってみたらどうですか?」

「あっ、それ良いっすね! 兄貴! 誰かに聞かれたらそう言ってください!」

「俺らも服装とか元に戻しますから!」

 

 なら会長に頼めばそういう方向の噂を流してもらえるかな? 明日聞いてみよう。

 

 その後、和田と新井は服装を改めるために帰宅。

 俺と天田と山岸さんは、久しぶりにまとまった時間を部活動に費やした。

 もちろん、天田への指導はドッペルゲンガーのサポートつき。

 天田のランニングフォームが良くなってきている。

 少なくとも初日より体力は付いているようだ。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 部活動終了後

 

 ~部室地下~

 

 江戸川先生と秘密の地下室で密談することになった。

 なにやら先生から報告があるらしい。

 

「ふむ……体脂肪が前回より0.1減って、現在10%ジャストです。減ってはいますが、悪くない結果かと。筋力量も体重も、前回とほぼ変わらない数値です。とりあえず問題はありません。今後も継続して様子を見ていきましょう。

 ……本題に入ります。例の制御剤、調べましたよ」

 

 先生の表情に険しさが増す。

 

「どうでしたか?」

「まずあの薬は大半が既存薬品、薬物に使われている成分で構成され、一部未知の成分が含まれていました。その既存の成分から分析できた事ですが、あの薬は聞いていた通り酷い薬ですねぇ……細かい成分の話をすると長くなるので省きますが、あの薬はおそらく麻酔のような用途を目的としています。

 興奮状態なら鎮静剤、うつ状態なら抗うつ剤……実際にはそう簡単な事ではありませんが、イメージとしてはそんな具合に精神を刺激する薬物を用いることで心を麻痺させる。興奮や恐怖といった感情の揺らぎを薬で抑える事で、心を強制的に中立に立たせ理性で行動できるようにする。あれはそういう薬でしょう」

「制御剤はペルソナではなく、自力で抑えきれない“感情”を抑制していると?」

「判明した成分はそういうものでした……葉隠君、君はあの薬を飲んでいませんね?」

「勿論です」

「それが正解です。あんな薬を飲んではいけません。あの薬の副作用は麻薬と同等かそれ以上だと考えてください。脳や神経に異常をきたし、使い続ければ確実に内臓機能や生理機能にも悪影響を及ぼします。

 あの薬からは……効果のために使用者の体にかかる負担を度外視している印象を受けました。重症患者の治療には一般的に使われている成分もありましたが、常識では考えられない量が含まれていたりね……私とは別の方向で常軌を逸していますよ、あの薬を作った人は」

「……数人あの薬を使っている人間を知っています。解毒剤のような物は作れませんか?」

「難しいですね……薬の製作者、あるいはそれに近い制御剤の知識を持つ人物の助けでもあれば別ですが」

 

 ストレガに幾月、荒垣先輩。

 知識を持ってそうな人物には心当たりがあるが、どれも危険すぎる。

 

「焦りは禁物です。今日のところはここまでにしましょう。制御剤の危険性を確認できただけでも収穫です。今回の事で君の話の信憑性は増しましたよ? ヒッヒッヒ……あんな薬を虚言のために用意するなんて、労力の無駄以外のなにものでもない。だいたい普通の高校生に用意できる代物じゃありませんからね。

 それと、言い忘れていましたが中間試験お疲れ様です。そしておめでとうございます。学年一位だったようですねぇ? 奨学金はもう貰いましたか? 高校生には大金で驚いたでしょう」

「貰いましたけど、まだ中身は数えてないんですが……多いんですか?」

「おや、そうでしたか。学年一位の奨学金は十五万円ですよ」

「十五万!? 桁一つ間違えてませんか!?」

「それが間違いじゃないんですよ……驚きでしょう? 私立で桐条グループの支援がありますから、お金があるんです。学校としては有望な生徒にはさらに、そうでない生徒にもやる気を出して欲しいんでしょうねぇ」

 

 予想以上の高額だ。それなら今後の試験も狙っていくしかない。

 

「おや? 自信があるようですね」

 

 どうやらアナライズについて聞いていないようなので、説明をすると。

 

「ヒヒヒヒ! それはそれは、実に便利ですねぇ。年間で六十万円も夢ではない……テスト中の使用は控えたと言いましたが、使えばよかったのでは?」

「……オーナーにも聞きましたけど、推奨して良いんですか? 一応先生なのに」

「その場しのぎのカンニングと違って、ちゃんと頭に入るのでしょう? 過程はどうあれ、ちゃんと身になるなら教師としても言うことはありませんねぇ。ヒヒッ」

「理解が得られて良かったです、本当に」

 

 他の先生じゃこうは行かないな。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス12階~

 

「ギャアア!!?」

 

 シャドウの悲鳴が轟く。

 今日はいつもよりシャドウの数が多い気がする。

 

 次は臆病のマーヤが一匹、残酷のマーヤが二匹……

 

「シャアッ!」

 

 先制攻撃にマリンカリン。

 魅了された残酷のマーヤが引き起こす混乱に乗じて、臆病のマーヤを一匹しとめる。

 

「「ギィッ!」」

 

 立ち直りが思いのほか早かったな……

 残り二匹の爪を確実に避けて片方を蹴ると、そいつは苦しんで動きを止めた。

 もう一匹が背後から狙ってくるが、その動きは筒抜け。

 

「シッ!」

 

 迫り来る相手の動きに合わせ、槍貫手の要領で伸ばし(・・・)た肘打ちを腹に突き立て、もう片方の手で肩越しに槍貫手。変形能力を利用した二連撃で背後のマーヤが消える。残るはダウンしている一匹のみ。

 

「フゥッ!!」

 

 伸ばしたままの肘部分を刃に変えて踏み込み、前方への肘打ち。

 シャドウの体を刃が襲い、動けずにいたシャドウは消え去った。

 

「……悪くない」

 

 アナライズとアドバイスのコンボが凄まじい。

 踏み込みの甘さ。

 重心移動のタイミング。

 自分の能力で十全に使いきれていない点。

 そんなこれまで気づけなかった事が、戦闘経験を積むたび明らかになる。

 

 踏み込みや重心移動は癖もあって、一朝一夕での改善は難しい。

 しかし変形能力の応用など、すぐに実行できる事もある。

 

 それは格闘に限らず、魔法も奥が深い。

 

 ペルソナは以前オーナーに暴露した時聞いた通り、エネルギーの塊だ。

 小周天を使って二種類のエネルギーを感じ、初めて実感できた。

 おそらくこれが肉体と精神のエネルギー。

 そう理解した上で魔法を使ってみると、ペルソナの魔法に使われるのは片方だけ。

 それはゲームで言う“SP”であり“精神エネルギー”だと考えている。

 “HP”または“肉体エネルギー”は、今のところ攻撃を受けると失われる。

 変形の時にもアドバイスが無かったら気づかない位、ほんの少しだけ消費していた。

 物理攻撃スキルがいつか手に入ったら、使う時には消費するんだろうな……

 

 ほかにもまだまだ発見や改善点は多い。

 

 理解力が上がったのは良いけど、正直なところ急激に気づきすぎて対処が間に合わないんだよなぁ……後でアナライズで問題の箇所と優先順位を整理しないと。

 

「おっ! 死甲蟲!」

 

 でも、とりあえず今は行動しかないよな?

 と言うわけで……久々に宝石落とせ!

 

 俺は再びシャドウの群れに飛び込んだ。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~エントランス~

 

「っ!? ……君たちか」

「随分な言い草やな」

 

 転送装置でエントランスに戻った瞬間、周辺把握が反応したから驚いた……

 ストレガの三人が2Fへの入り口前に立っていた。

 

「どうしてそこに? 君たちも上るのか?」

「ちゃうわ。ワイらは避難しただけや」

「仕事をしていたら貴方の戦った二人組が近づいてきましてね……接触を避けるためここに入ったのです。どうやら彼らのお目当ては貴方のようですよ? 特に男は“(おきな)”はどこだと躍起になっていますね。女も今日は影時間でも動かせるバイクを持ち出してきているようですし」

「……待ち構えているのか?」

「違う。けどこのあたりをウロウロしてるのよ……」

「ここは安全なのか?」

「あの二人は塔の中には入ってきませんよ。女の方が塔に入るのは危険だと、頑なに主張しています。そして男は女に逆らえない様子。……入ろうとした場合は、奥に進むしかないでしょうね。チドリ」

「大丈夫。近づけば、わかる」

 

 ペルソナを出しているようには見えないが、それでもある程度は分かるのか……

 

「ところで、こんな所で会ったのも何かの縁。少し話しませんか? 貴方に見せたい物があるのです」

 

 話すのは構わないが……なんだろう? タカヤがジンから何かを受け取った。

 形からすると数枚のカードらしい……!

 

「まさか……」

「もうお分かりのようですが、一応言っておきましょう。これは“スキルカード”です。前回貴方とお会いした時、興味を持っていたようなので用意しました」

「……興味はあるが、ただではないだろう」

「勿論、欲しいと言うのであれば対価はいただきます。貴方がいらないと言うならそれまでの話ですよ」

「そのスキルカードでどんなスキルが覚えられるか、値段はいくらか、それが分からないうちは何とも言えんな」

「まぁそうでしょうね」

 

 タカヤは当たり前のように情報を開示し始めた。

 それによれば、彼らが持つカードは四枚。

 スキルはそれぞれ

 

 アギ  十万円

 ディア 十万円

 ローグロウ 二十万円

 治癒促進・小 五十万円

 

「……相場は知らんが、高くないかね?」

「貴重な道具、それも使い捨てですからね」

「文句があるなら買わんでええで」

 

 足元を見られているな……

 しかしこれは苦しい。今日貰った奨学金で上二つは買える。

 けどアギとディアは既に使える魔法だ。

 買うとしたらローグロウか治癒促進。

 治癒促進はぜひとも欲しいが……高すぎる。しかも効果は小。

 ローグロウなら貯金と奨学金を合わせて手が届かないこともない。

 

「治癒促進は名前で大体分かるが……そのローグロウとはどんな効果がある?」

「戦闘によるペルソナの強化が早くなるスキルです」

「グロウは成長(Grow)か。前にローが付いているが、もっと効果の高いものもあるんじゃないか? ローに対してハイグロウとか」

「あるで、“ハイグロウ”。ハイとローの間に“ミドルグロウ”っちゅうのもな。言っとくが、効果が低いからって値切りは聞かんで。スキルカードは銃器なんかより仕入れが難しいんやからな」

「ただの確認さ」

 

 チッ、釘を刺された。

 

「タカヤ、今なら……」

「おや、意外と早かったですね。話の途中ですが……仕方ありません、チャンスがあるうちに帰るとしましょう」

 

 もう帰るのか?

 

「お名前は田中さんでしたね? スキルカードの件を今すぐに決めろとは言いません。この場に持ち合わせもないでしょうし、しばらく考えてからで結構。消費税はいりませんので、代金を用意できたら復讐サイトに場所と日程を送ってください。我々の誰かが向かいます」

「……巌戸台にある“まんがの星”っちゅう漫画喫茶知っとるか? 知らんなら探し。本人確認が杜撰な便利な店や。顔隠しとったらまず足はつかん」

 

 ストレガは言いたい事を言い残してエントランスを出て行く……

 

 …………………………悩みが増えた……………………




和田と新井が入部する事になった!
制御剤の情報が入った!
タルタロスで戦闘訓練をした!
改善点が多すぎる!
ストレガと遭遇した!
スキルカードを購入できるようになった!

収入が増えてくると、新しく手を出しづらい高額商品が出てくる。
ゲームの買い物ってだいたいこんな感じですよね。






七十話に達したので、現時点の影虎の情報をまとめます。

主人公設定
名前:葉隠(はがくれ)影虎(かげとら)
性別:男
格闘技経験:空手、カポエイラ、剣道、サバット、棒術。
特技:パルクール。
備考:タロット占いとルーン魔術を勉強中。
   現在ウル、フェオ、カノを刻んだ石を所有。

行動方針:いのちをだいじに。一番大きな目的は生き残る事。
     江戸川先生やオーナーに事情を話し、協力を得られるようになった。
     影時間の特別課外活動部メンバーとは接触を避ける。
     日中はばれない程度に交流を持ち続ける。
     ストレガとも敵対はせず、距離を取って付き合いを続けている。

ペルソナ:ドッペルゲンガー
アルカナ:隠者
耐性:物理と火氷風雷に耐性、光と闇は無効。

スキル一覧
固有能力:
変形     ペルソナの形状を自在に変化させられる。
       防具や武器として戦闘への利用が可能。
       刃や棘を付けることで打撃攻撃を貫通・斬撃属性に変えられる。
       後述の周辺把握と共に使えば鍵開けもできる。

周辺把握   自分を中心に一定距離の地形と形状を知覚できる。
       動きの有無で対象が生物か非生物かを判断できる。
       敵の動きを察知できるため戦闘にも応用できる。
       ドッペルゲンガーの召喚中は常時発動している。
       ただし他の事に集中していると情報を受け取れなくなる場合がある。
       周りの声が聞こえるくらいの余裕を持つことが重要。

アナライズ  視覚や聴覚、周辺把握など、影虎自身が得た情報を瞬時記録する。
(メモ帳)  記録した情報を元に計算や翻訳などの処理が高速でできる。
       また視界に情報を映し出すこともできる。便利な能力。

       用途の例。
       シャドウの情報閲覧。
       文章の閲覧。
       会話の文字起こし(会話ログ閲覧)
       自分が見た画像、映像の閲覧。
       画像の連続による動画化。
       周辺把握で得た形状確認。
       形状の変化から動きの確認。
       学習補助。
       脳内オーディオプレイヤー。
       音楽再生+歌詞の文字起こしで脳内にカラオケ再現。

       
保護色    体を覆ったドッペルゲンガーを変色させて背景に溶け込む。
       歩行程度の速度なら移動可能。
       速度により、周りの景色とズレが生じてくる。

隠蔽     音や気配などを消し、ペルソナの探知からも見つけられなくする。
       単体で使うと姿は見えるが、保護色と同時に使う事でカバーできる。
       音源になる物をドッペルゲンガーで覆うことで防音もできる。

擬態     変形と保護色の合わせ技で、姿を対象に似せる事ができる。
       ただし体のサイズは変えられない。

暗視     その名の通り。暗くてもよく見える。パッシブスキル。

望遠     これまた名前通り。注視することで普通は見えない遠くまで見える。
       アクティブスキル。

小周天    ゲームにはないオリジナルスキル。
       体内にエネルギーを巡らせることで、精神エネルギー(SP)を回復。
       集中しないと使えないため、戦闘中は使用できない。
       回復量は熟練度による。現時点では微々たる量。
       気功・小の下位互換スキル。

物理攻撃スキル(オリジナル):
爪攻撃  変形で作った爪で攻撃する。敵に食い込み吸血と吸魔の効率が上がる。 
槍貫手  ドッペルゲンガーの変形を応用して槍のように刃をつけて伸ばした貫手。
     射程距離は五メートル。
アンカー 敵に食い込ませたまま爪を変形させ、糸のように伸ばす技。
     伸ばした部分で敵の動きを絡め取れるが、細ければ細いだけ強度も落ちる。

エルボーブレード 前腕部に沿って肘先を伸ばし刃をつけただけ。武器として使える。

攻撃魔法スキル:
アギ(単体攻撃・火)、ジオ(単体攻撃・雷)、ガル(単体攻撃・風)、ブフ(単体攻撃・氷)

回復魔法スキル:
ディア(単体小回復)、ポズムディ(単体解毒)

補助魔法スキル:
対象が単体のバフ(~カジャ)全種。
対象が単体のデバフ(~ンダ)全種。

バッドステータス付与スキル:
対象が単体のバステ全種。
淀んだ吐息(バステ付着率二倍)
吸血(体力吸収)
吸魔(魔力吸収)

特殊魔法スキル:
トラフーリ ゲームでは敵から必ず逃げられる逃走用スキル
      本作では瞬間移動による離脱スキル。一日一回の使用制限つき。

その他:
食いしばり 心が折れていなければ一度だけダメージを受けてもギリギリ行動可能な体力を残す。
      もはや根性論に思えるスキル。

アドバイス ゲームではクリティカル率を二倍にするスキル。
      本作ではシャドウの急所を大まかに知らせるだけでなく、
      影虎が明確に理解していない事柄に対するヒントを与えるなど、
      その名の通りアドバイスが行われるパッシブスキル。

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