~巌戸台分寮~
影虎がタルタロスで奔走している頃。
品の良い照明器具に照らされたラウンジに、浮かない顔の桐条美鶴、真田明彦、幾月修司が集まっていた。それぞれ手には桐条が家の力で無理を通して用意させた“天田乾の保護者”についての調査資料を持ち、後悔や怒りなど負の感情による重苦しい雰囲気を放っている。
「……二人とも、今日のところは部屋に戻って休みなさい」
「理事長……」
「幾月さん!」
「君たちの気持ちはよく分かる。だけどこうしていても何も始まらないだろう?」
「……」
「……そうですね。……美鶴」
「ああ……」
気落ちしているように聞こえる幾月の言葉で、桐条と真田は渋々と部屋へ戻る。
二人に追従し、それぞれ自室へ入る様子を見届けた幾月はさらに階段を上った。
そして四階の作戦室へ入ると、彼は途端に表情を落胆から冷酷な無表情へと変貌させる。
「邪魔が入ってしまったね……」
机に天田の保護者だけでなく、いくつかの束になった資料を投げ出し、その内の一つだけを手に取る幾月。その資料にはある生徒の名前が
(葉隠影虎。家庭環境はいたって普通。親族が会社を経営。父親がかつて暴走族の頭として名を馳せた事以外の特筆事項なし……成績が良くて身体能力が高いのは立派だ。しかし本当にただの一般家庭の少年じゃないか)
この資料は以前影虎が桐条美鶴のバイク購入に力を貸したことで、桐条本家が桐条美鶴の安全確保のために素性の調査を行い作成された物であり、今回の件とは関係がない。幾月も桐条グループの関係者として、特別課外活動部の顧問として、彼女を守る大人の一人としての立場もあり、流れてきた情報を受け取ったに過ぎなかった。
資料の内容から読み取れる限り普通の少年を相手に政治的意図を疑う桐条本家の過保護ぶりに、そして
(幼い頃から体を鍛えることに並々ならぬ関心があったと見られ、小学、中学時代は交友範囲も狭く、人付き合いには消極的。諍いを起こす事もあった。しかし精神的な成長が早く、クラスメイトの世話を焼くような行動が度々見られる。……有体に言えば
ここで幾月は資料から目を離し、もう一つの資料を手繰り寄せる。
(天田乾。彼はまだ未覚醒だが、影時間の出来事をおぼえている。事件後の検査によれば適性はあの時点で荒垣君より若干上。ペルソナに自然覚醒する可能性が高く、暴走の可能性は低いラインだった……彼は特別課外活動部の貴重な戦力になりえる。できれば覚醒までこのままでいて欲しかった)
これまで天田を取り巻いていた環境は、自分にとって好都合だと幾月は考えていた。
孤立無援の環境で天田が憎悪を持ち続けていれば、勧誘もコントロールも容易だと。
時が来れば自分のために、貪欲に力を求めて存分に力を振るうだろうと。
だからこそ、幾月は天田の実情を知りつつ他の者には隠していた。
ただ改善を試みることもなく、燻る火種を放置していた。
そしてその予想は正しく、天田は力を求め、周囲の人間には心を閉ざしていた。
その状況が、影虎が天田を受け入れた事で変わり始めている。
(桐条君も事実を知った以上は目を光らせる。総帥の耳にも入りかねん。……下手な工作はすまい)
幾月が方針転換を決定したその時、投げ出した資料の一つに目が留まる。それはこの件に関して何の関係もない。ただ彼の表の顔である理事会で使われた資料の一つ。
「……念のため、葉隠君には少し
一言呟いた幾月は影虎と理事会の資料を前に、まるで玩具を見つけた子供のような笑顔をしていた。
桐条美鶴と真田明彦は天田の保護者について知ってしまった!
ひどく落ち込んでいる!
おや……? 幾月の様子が……
注意!
天田の親戚については、私の個人的なイメージです。
経済的な支援をしている以外の情報が見つからず、
暖かく天田を受け入れてるイメージが無かったためこうなりました。
もし良い人だったらごめんなさい。