人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

78 / 338
77話 イベント

 6月1日(日)

 

 午前

 

 しとしとと雨が振る窓の外を見ていると、なんとなく落ち着く。

 

「もう梅雨ですね」

「梅雨入りは一昨日だったんだって。嫌だねー……」

「湿気が多いですからね」

「違う違う。じめじめするのもそうだけどさー、運動部からの訴えで仕事が増えるんだよ……雨で練習場所が使えない! って」

「体育館とかは?」

「普段から剣道部が使ってるし、全運動部となるとさすがに限度があるからねー……君のとこも他人事じゃないんじゃない?」

「うちは“同好会”ですけど、正式な“部”を差し置いて場所を貸してもらえたりは?」

「まず無いね、部が優先」

「なら何か考えないとですね」

「練習メニューを変えるとか……たまに自腹で練習場所を借りる部がいるよ。近くに辰巳スポーツ文化会館、って場所貸してくれるとこあるから。あ、寒くない? なんなら暖房入れるけど」

「平気です、ありがとうございます」

「おっけー。じゃあ一気に書き上げちゃうね!」

 

 今日も会長の絵のモデルを務める。

 

「そういえば会長」

「なにー?」

「会長から教えていただいたサイト、登録しましたよ」

「あ、ほんと? 何かやってみた?」

「翻訳の仕事の採用試験を受けて、昨日合格をもらえました」

「おー! おめでとう! 英語得意なの?」

「それなりに」

「へー」

 

 雑談と沈黙が交互に流れ……

 

「大丈夫?」

「はい」

 

 だんだん話題がなくなり、沈黙の割合が増えてきた。

 超絶便利なアドバイスも、女子を楽しませる小粋なトークには対応していないらしい。

 

「……葉隠君、君って何が好き? それか興味ある?」

 

 とうとうストレートに聞かれた……

 

「最近はバイクの免許を取りたいな、と」

「バイクかー、バイクはそんなに面白い話知らないや……不法投棄バイクの話とかしても面白くないよね?」

 

 不法投棄?

 

「それって所有者がいないって事ですよね?」

「そりゃ不法投棄なんだからそうでしょ。たぶん。公園の中にひっそりと置かれてるらしいよ」

「公園……それってもしかして巌戸台の?」

 

 俺が一度乗り回したやつか?

 

「そうそう! 知ってるの? んじゃ本当に何もないや」

「あれって誰か撤去しないんですか?」

「そう思うでしょ? それがどうしてか、されないんだって。傷だらけでずっとそこに置かれたまま。でもそれが最近さ、綺麗になったらしいの」

「綺麗に?」

「ボロボロなのは変わらないけど、カバーに積み重なった葉っぱや汚れが払い落とされてたり、バイクの周りに足跡やタイヤ痕がたくさんあったから、動いたのは間違いないみたい。とうとう持ち主が現れたか! と思いきや、公園の防犯カメラには誰も映ってなかったんだって……夜な夜な現れる持ち主の幽霊って噂だよ……」

「へぇー……」

 

 それ俺だ!!

 

 あのバイクなら多少手入れしたし、影時間なら普通のカメラには映らない。

 知らず知らずに変な怪談を生んでいたなんて……

 

「ま、どっかで話が誇張されてるんだろうけど。でも公園に置かれっぱなしのバイクは実在するし、どこまでが本当なんだろうね?」

 

 俺は彼女の質問に、当たり障りの無い言葉を返した。

 

 しかしあのバイク不法投棄だったのか……

 持ち主がいないならまた運転練習に使わせて貰ってもいいかな……?

 ジェムが手に入ったら、しばらく影時間にバイクの練習をしよう。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 6月2日(月)

 

 朝

 

「それでは、私の話はこれで終わります」

 

 長い長い校長の話が終わった……

 

「教頭先生、お願いします」

「えー私からは連絡事項を伝えます。まず一つめは次の日曜、6月7日に急遽“体力測定大会”を開催することが決定しました」

 

 体力測定大会? なんか変な大会だな。

 

 そう感じたのは俺だけじゃなかったようで、生徒全体がざわめく。

 

「静かにせんか! 高校生にもなって、静かに話も聞けんのかね君たちは」

 

 待ち構えていたかのように、江古田からの嫌味が飛ぶ。

 注意はわかるが、一言多いんだよな……

 

「えー事の発端は以前、学校に○○テレビから電話が入った事であります」

 

 静まるのを待って、教頭から説明が行われた。

 

 現在○○テレビでは(2008)年8月に行われる夏季オリンピックによる世間のスポーツブームに乗り、“プロフェッショナルコーチング”という素人の高校生にプロのコーチや選手が指導をしたら、短期間でどれだけ上達するのかを検証する番組を企画している。また、同時に指導を受ける素人や撮影に協力する学校を日本各地から募集しているそうで、月光館学園にも話が来た。

 

 しかし素人と言っても基礎体力すらないような人では困るんだろう。教頭は言葉を選んでいるが、おたくに身体能力の高い生徒いませんか? とか、紹介してもらえませんか? と番組スタッフに聞かれたんだろう。それで何を考えたのか、学校側は大会を開くことに決めた、と……

 

「えーこの大会は参加自由ですが、参加者には漏れなく今年度、授業時間を使って行う予定となっている体力測定を免除します。他にも……えー」

「葉隠、お前どうする?」

「どうするって言われてもな……急すぎて」

「そうか? 俺参加してみようかと思ってんだけど。もしかすると矢沢選手に会えるかも」

 

 後ろのクラスメイトは乗り気なようだ。たしかテニス部だっけ? ただ、番組に出られるとしても種目は選べないらしいけど……

 

 でも選ばれれば学校に選手やコーチが指導に来てくれるという話で、誰かの出演が決まれば生徒全員が有名選手を間近で見られる可能性がある。時間が空けば多少の交流もしてくれるという話で、生徒たちの期待は徐々に高まっていく。

 

 そして朝礼が終わっても、その熱が冷める事はなかった。

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 放課後

 

 ~部室~

 

「イテテテ!!」

「新井君もう少しゆっくり、伸ばす方向も注意してください。山岸さんはもう少し手の間を広めに、足の広い範囲に手を動かせるように持つとやりやすいですよ」

「はいっ!」

 

 昨日に引き続いて雨のため、今日の部活は室内で筋トレの後、江戸川先生からのマッサージ講座になった。和田と新井、天田と山岸さん、そして俺と先生がペアになって練習を行っているが、流石治療の専門家。俺が普段やっていたものよりも丁寧なスポーツマッサージだった。

 

 おまけに山岸さんがマネージャーとして、特にやる気になっている。

 

「ヒヒヒ……体のケアにマッサージは有効ですが、やり方を間違えると悪影響を及ぼしてしまいます。丁寧に、丁寧に。それと覚えておいて欲しいのが、マッサージをしてはいけない場合もある事です。練習後に疲労回復のマッサージは推奨しますが、怪我や病気のときなどは安易にやらず、私に報告してくださいね」

「失礼する」

「おやぁ?」

「桐条先輩!」

「「お疲れ様です!」」

「お疲れ様です、どうしたんですか?」

「生徒会の仕事でな、今朝の朝礼で聞いただろう、体力測定大会の事で話があるんだ」

「大会の事……」

 

 それで雨の中わざわざ林の中まで。

 

「僕、お茶入れてきますね」

「頼んだ」

「はいっ!」

 

 仕事を任された天田は、少し笑ってキッチンへ向かう。

 

「先輩はこちらへどうぞ」

 

 

 

 ~自室~

 

「それで、お話とは?」

「そんなに肩肘を張る内容じゃないさ、ただ大会に参加しないか? という勧誘だな。先生方から身体能力の高そうな生徒にできるだけ声をかける様に言われているんだ。……なんだ、気が進まないのか?」

「気が進まないというか……今週日曜はバイクの教習受けようかと考えてたんで。それに、どうして急にそんな話になったのかが気になって」

 

 開催するにしても急すぎる気がする。それにテレビ出演に興味もないし。

 

「実は今回の話はだいぶ前からあったんだ。元々は明彦を学園の代表として推薦する予定だった。明彦からも話は聞いていた」

「真田先輩ですか、二年の……有名ですもんね」

「本人はボクシングでも格闘技でもない種目には興味がないとその場で断ったそうだがな」

「……なるほど、それで真田先輩の代わり(・・・)が必要だと」

「学校の知名度向上とイメージアップを図り、来年以降の生徒数増加の一助としたいのだろう。そのために良い結果を残せる生徒を推薦したい。良い結果を残せるなら誰でもいい(・・・・・)。明彦にこだわる必要がない、と言うのが経営陣の本音だろうな。

 だが、君たちにもメリットはある」

 

 先輩の声色が変わった。

 ちょっと気に食わなかったのが表情に出たか?

 

「朝礼で言ってましたね、プロ指導を受けたり選手に会えるとか」

「それもあるが、辰巳スポーツ文化会館を知っているか?」

「スポーツ用のスペースをレンタルできる施設ですよね」

「そうだ。今回は月光館学園の生徒が出演者になった場合を想定して、そこの体育館をひとつ確保することになっている。そして成績上位者が所属する部は、そこを練習場所として使用する許可が出る。これは確定事項だ」

 

 ……驚くよりも、呆れる。

 

「どんだけ金かかるんですか……」

「今回の企画にそれだけ投資する価値を見出したのだろう。しかしこれから雨が多くなる季節、天候に関係なく練習できる場所があればいいと思わないか?」

 

 それは確かにそうだ、特にうちは学校の施設に優先権がない。

 

「もっとも、そのためには上位に入るのが最低条件だ。そういう特典もあると頭の片隅に置いて、その気になったら参加してくれ」

 

 桐条先輩はそう言って、お茶を飲み終えるとすぐに帰っていった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 放課後

 

 皆を帰した後で、大会について江戸川先生と相談する。

 

「先生、どう思います? 何かの大会で実績を作ろうとは話してましたけど」

「そうですねぇ……確かに急な話ですが、悪い話でもないですねぇ。上位を狙って練習場所を確保できれば良し。良い成績を残せれば部室維持の一助にもなるでしょう。

ペルソナ関係で何かないかとは私も考えてみましたが、これといって気になる点もありませんし、そもそも何か企んでいるにしてはやり方が中途半端じゃありませんか?」

「たしかに大会にかこつけて実験か何かをする気なら、不参加と言う逃げ道は残さないはず……桐条先輩も本当に声をかけただけみたいでしたし……それに梅雨の間の練習場所は正直、魅力的です。他の部は」

「運動部は部員全員参加をさせる所がほとんどのようです。文化部は分かりませんが」

「一応運動部としては、参加しないと逆に目立ちそうですね」

「印象も良くはないでしょう」

「…………決めました。出ましょう!」

 

 メリットとデメリットの両方を上げ俺は参加を決めた。

 

「分かりました。パルクール同好会として出場登録をしておきます。それから大会と同じく、イメージアップのために人助けをする、という話を覚えていますか? そちらの情報がいくらか集まってきました。後でまとめた紙を渡しますから、気が向いたら助けてあげてください。

 あとは最後にもう一つ。天田君を勧誘した事務所と連絡を取りまして、今週の金曜に見学の予定が入りました。見学までなら代理でもいいとのことで、見学は三人と言っておきました。だから君も行けますが、どうします?」

「行きます」

「即決ですねぇ……ではそのつもりで、金曜の部活は休みにしましょう。後のことはやっておきますから、君は美術室へ」

「よろしくお願いします」




使えるバイクが不法投棄されている事を知った!
体力測定大会の開催が発表された!
江戸川はスポーツマッサージを教えた!
影虎は大会に参加するようだ……


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。