6月3日(火)
朝
~教室~
「おはよー」
登校すると、なにやら男子が一箇所に集まっていた。
「おっ、葉隠」
「おはよう、何の話?」
「アニメの道具とか能力が一つ手に入るとしたら何が欲しい? って話」
「昨日駅前で映画館のチラシ貰ったんだよ、ほらこれ」
「夏休みになつかしのアニメ映画特集するんだってさ」
「俺は四次元
「おいおい、それだけじゃもったいなくね? 猫型
「ばっか、欲をかくとろくな事ないんだって」
四次元ポシェットとは、俺から見て有名な某青狸のパチ物みたいなアニメに出てくる道具である。
「葉隠は何がいい?」
「俺? 俺は………………………………“十二の試練”」
「何それ? 知ってるか?」
「僕も聞いたこと無いよ……それ道具? 能力?」
これが欲しいと心から思った能力を言ってみたけど、やっぱり皆は知らなかった。
あの有名作品がマイナー扱いとは寂しい。
簡単に説明すると、十二の試練はFate/stay nightという作品に登場するバーサーカー(ヘラクレス)の
「耐性を得る? つまり一度受けた攻撃は効かなくなるの?」
「おまけにその能力を使うのは、作中ではラスボスみたいなかなり強いキャラ」
「なにその無理ゲー」
「ラスボスが回復とか反則だろ……」
「つか影虎はその能力で何したいわけよ?」
「え? 普通に寿命まで死にたくないだけだけど」
「当たり前みたいに言ってるけど、目的に対して過剰じゃね?」
「それもそうか……」
死の危険がある所にほぼ毎日行ってるから。
とは言えなかった。
もうペルソナを手に入れてるけど、“十二の試練”は手に入るなら切実に欲しい。
蘇生アイテムは見つからないし、あったとしても共闘して使ってくれる仲間が居ない。
だからマジで。あわよくば一つ分の命で主人公の身代わりを果たして生き延びたい。
なんなら十一持って行かれてもいい。一が残るなら。
本気でそう考えるが、それで力が目覚めるわけは……なかった。
「ははっ、変な奴だな」
「僕も知らないアニメを知ってるなんて……」
しかしクラスメイト男子たちとの仲が深まった気がする。
……
…………
………………
放課後
「今日までありがとう、おかげで満足できる作品が描けたよ」
「こちらこそ、噂の件ではお世話になりました」
今日がモデルの最終日。
会長は作品を用意でき、俺に対する悪い噂も広がっていない。
最後と言うことでちょっと長めにモデルをしたけど、納得の結果で終われて良かった。
「遅くまで付き合ってもらって悪かったね」
「いいですよ、今日は何も用事ありませんから」
朝はランニングと気功。昼は部活として空手などの基礎トレーニング。夜は宿題や翻訳にルーン魔術。そして影時間に実践(格闘技+魔法)。影時間が終わったら、最後に小周天をして寝る。
最近増えてきた訓練内容を整理したら、夜はだいぶ時間が取れるようになった。
翻訳と宿題がアナライズのおかげでほとんど時間を必要としないというのもあるけど、このくらいは気にするほどでもない。
「そう言ってくれると助かるよ。また何かあったら君に頼もうかな?」
「その時手が空いていたら、是非。また噂も聞かせてもらいたいですからね」
「そのくらいならお安い御用さ。それじゃ気をつけて帰ってね」
会長と和やかに別れ、帰宅することにした。
……
…………
………………
影時間
~タルタロス 2F~
「っ」
今日は入った途端、いつもと違う雰囲気を感じる。
そういえば今日は新月だ。
「……ハプニングフロアか」
しばらく歩いてもシャドウが見つからず、そのまま階段に着いてしまう。
~タルタロス 3F~
ここももぬけの殻か……
攻撃用ルーン魔術の実験をしたいが、シャドウがいないと威力や効果が確かめられない。
そのままシャドウを探して一階、もう一階と階段を上り続け、8Fでようやくシャドウに出会えた。
でも
「「「「「「「ギィイイ!!!!」」」」」」」
「極端すぎないか!?」
シャドウ、シャドウ、シャドウ。
右を向いても左を向いてもシャドウばかり。
7階までのシャドウを全部ここに集めたと言われたら納得しそうな数がそこらじゅうで蠢いている。
「マリンカリン!」
「ヒキャッ!?」
囁くティアラの攻撃をかわしながら、マリンカリンを連発。
シャドウ同士の仲間割れに乗じてその場を離れる。
「せめて後ろから狙われない場所……って!」
シャドウが大群になって追いかけてきた。
魔法がそこらに着弾する音や、流れ弾で傷つくシャドウの悲鳴も断続的に響いてくる。
「これでも……食らえ!」
取り出したるは“カノ”を刻んだ石。
先日俺の手を言葉通りの意味で焼いたあの石に、先日の何倍も魔力を込めて後ろに放り投げる。
「「「「ピギィイイ!?!?!」」」」
「……思ったより上手くいった」
アギのように爆発はしないが、火を噴き出す石に驚いたマーヤが勢いのまま転がり、後続のシャドウたちと追突事故を起こした上、石を下敷きにしたシャドウは火炙りになって消えていく。
「だったら」
新しく用意しておいた石にも、魔力を込める。
まずは、“ソーン”
形がトゲのようで、意味もトゲや茨、あるいは障害。
または雷神である“トール”を表すとされているルーン。
「「ギッ!?」」
投げると後方から光と破裂音が聞こえる。
威力は低いけど、雷が出たようだ。
続いて “ラグ”
水をあらわすルーン。
直感や感性、そして流れ移ろうものを象徴するルーン。
……今度は水音が聞こえた。けど攻撃としては意味が無かったみたいだ。
なら……“ハガル”
雹や嵐といった天災、それに関連する問題を表すルーン。
「「「「「ギァア!!?!?!」」」」」
「っ!?」
!? シャドウが一気に吹っ飛んだ!?
今のでだいぶ……最後におまけだ!!
最後の“イス”
氷や停止を表すルーン。
「ギシャッ!?」
「っち!」
床が凍って追突事故が再発。
滑ったシャドウが転がってきたが、振り向くと数は減って生き残りもボロボロだ。
……これなら十分やれる!
……
…………
………………
なんとか乗り切れた……
「ルーン魔術の用意が無かったら、流石に逃げるしかなかった……俺もまだまだか」
まぁ……“カノ”は
でもジェムってあんな手榴弾みたいな道具なんだろうか?
どっちかと言うと手榴弾とか、投擲武器なんだけど……
あと水を出した“ラグ”はどうしよう?
水の攻撃魔法なんて無かったし、この事もオーナーに相談するか。
だったら気を取り直して
今日はダンシングハンド、いるかな……?
……
…………
………………
6月4日(水)
夜
バイトの後。残ってオーナーに事情を説明し、相談する。
「……と言うわけでして。その後これを手に入れました」
「かつてルーンを使っていたとされるアイルランドの戦士は、各々の武器や防具にルーンを刻んでいたというわ。だからルーン魔術を戦いに使うのは別におかしな事ではないけど……このイエロートルマリンが貴方の作りたい“ジェム”なの? 確かに力を感じるけど、前のオニキスよりだいぶ……」
「実は手に入れたまでは良かったんですけど、観察していたらうっかり暴発させてしまって……」
「あら、じゃあこれは使用済みの石なのね。それでも残っているなら……フフフ」
「最初は俺が特に集中しなくても気づけるくらいエネルギーを持っていました。周りに雷が落ちると同時に消えましたが……まず間違いなく雷の魔法を使える“マハジオジェム”です」
「使用済みは残念だけど、色は綺麗だし粒の大きさも……値をつけるなら石だけで二万円は越えるわね。だから三万円で買い取らせてもらえないかしら?」
「是非、借金から差し引いてください」
そう言うとオーナーは嬉しそうに使用済みのジェムを片付けて戻ってくる。
「魔術の話だけど……ルーンで火や電気を出せたのよね? だったら貴方が考えているように、ルーン魔術でジェムと同等の効果を引き起こす事は可能だと思うわ」
「本当ですか!」
「ええ。でも私はルーン魔術を他人への攻撃に使った事がないから……一度見せてもらえないかしら」
そう言われたので説明用に持ってきた石から安全そうな“ラグ”を選び、机の上でパワーを込める。
「ん……?」
「まぁ……」
石から染み出した水滴がテーブルを濡らす。
しかし水量が少ない。水は出たけど雑巾を絞った程度だ。
タルタロスではもっとバケツをひっくり返したような音だったのに。
「タルタロスより出力が低いです……込めた力は同じくらいなのに」
逃げる途中で力が入っていたのかと思い、魔力を増やしてみるがあまり変わらない。
ペルソナの召喚と同じように、影時間には力を遣いやすくする効果があるんだろうか?
「十分よ。出せるかどうかが重要なの」
そう言ったきり押し黙るオーナー。
何か考えているようなので、黙って次の言葉を待つ。
「……次のステップに進む良い機会かしらね……ちょっと来て」
言われるがまま店の作業場へ移動。
オーナーは速やかにルーンを彫る用意を整えた。
「見ていてちょうだい」
慣れた手つきで“ウル”のルーンを彫るオーナー。
以前手本として見せてもらった時も思ったが、迷いが無くて速い。
ただ、一点だけ前とは違った。
「二文字目……?」
“ウル”に続いてさっきも使った“ラグ”が掘り込まれる。
「ルーン文字の
確かに最初に貰った本には、今まで使っていた願いに相応しい一文字を使う方法以外にも、ルーンを英語に対応させて願いを記述する方法や、複数のルーンを組み合わせて新しいルーンを作る“バインドルーン”があると書かれていた。
例えば目の前のこれは小文字のnやmに近いデザインで、“ウル”と“ラグ”が一つになったバインドルーンになる。
「バインドルーンは複数のルーンとその意味を組み合わせ、望みに適した力を得る方法……試しにウルとラグを組み合わせてみたわ。意味を読み取れるかしら?」
「
「フフッ、正解よ。力を全体に、均一に込める事を意識しながら使ってみたらどうなるかしら? この上でやってみて」
石とビニールをかけたゴミ箱を渡され、言われた通りに魔力を込めた。
………………!!
「なっ!?」
蛇口を捻ったように水が染み出してきた!?
「ちょっ、これどうやって止めれば」
「しばらくすれば勝手に止まるわよ。石は中に入れておいて。それよりも、ルーン魔術はこんな風に組み合わせで効果を変えられるのを分かってもらえたかしら?」
俺はただただ頷いた。
使った魔力はさっきより多いが、二回分よりは少なく感じる。
効果はこうして違いをハッキリと見せられては疑いようがない。
「バインドルーンを使えば貴方の言うジェムと同じ効果もきっと得られるでしょう。ただしそのためには目的に合ったルーンを作る必要があるけれど……私はこんな使い方をする必要が無かったから考えた事もないし、魔術修行の一環として葉隠君自身が作りなさい。
でもあまり難しく考える必要はないわ。五種類のルーン文字で火、氷、水、風、電気が出せるのは自分で確認したんでしょう? それと同じ。それに……体調はどうかしら? ペルソナの魔法を使った後のように気分は悪くなってなさそうだけど」
「っ! 言われてみれば、いつものように動けなくはなってません……」
俺の答えに、オーナーは満足そうな笑顔を見せる。
「ちゃんとエネルギーを、体調を崩すほど使ってしまわないように制御できている証拠ね。それでいていま見た通り、効果を得ることもできているわ」
半分水で満たされたゴミ箱を揺らしながらオーナーは続ける。
「まだアクセサリーのような持続力が必要な物を作るのは難しそうだけど……それでも以前より確実に上達しているわ。ルーンの意味を考えて組み合わせるのは良い勉強になるでしょう。そうしてさらに理解を深めていきなさい。もちろん、質問があれば聞いていいし、相談にも乗るわよ」
「ありがとうございます。早速考えてみます」
オーナーのアドバイスと励ましを受け、さらに希望が見えてきた!
影虎はクラスメイト男子と交流した!
影虎はルーン魔術の実験をした!
火、氷、水、風、雷を使えるルーンを見つけた!
影虎はオーナーから“バインドルーン”を使う許可を得た!
影虎の借金が四十七万円になった!(宝石を売ってマイナス三万円)
ちなみにルーン魔術を使うアニメや漫画のキャラといえば、
Fate/stay nightに登場するランサーことクー・フーリン。
Fate/Grand Orderではキャスターとして、PVで一瞬だけルーンを使う動画があります。
影虎のように何かに刻まず、空中にルーン出してますけどね(英霊だから?)。
ゼロの使い魔に登場する魔法使いが使うのもルーン魔術かもしれません。
こちらは杖を持って呪文を口で唱えてますが、呪文がルーンの読みそのものです。