人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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80話 大会前日

 ~鍋島ラーメン・はがくれ~

 

「おまちどう! さあ食いな。こいつもおまけだ」

「いただきます」

「これはこれは、美味しそうですねぇ。いただきます」

 

 見学の後、天田は外出届を提出しておいたとの事で、先生の奢りでラーメンを食べにきた。

 俺たちの前にラーメンと餃子のセットが並ぶ。

 

「叔父さんまたおまけして」

「いいんだよ、この程度なら屁でもねぇ。それにこの前は大勢で来てもらったからな。あの金持ちのお嬢ちゃんには、ちっとばかり驚かされたが。料理長だなんて初めて呼ばれたぜ」

 

 勉強会の後に皆で来た時か。

 初ラーメン屋でゲーム通りの言動をしてくれたからな。

 あれは見ていて面白かった。

 

「今日は部活の後輩と顧問、お前はなんだかんだで客連れてくるから助かるぜ。で? 今日は何かあったのか? そっちのは浮かない顔してるしよ」

「なんと説明すればいいやら……天田の将来に関する事で少し」

 

 スカウトの話を言っていいものか、ちょっと悩んで詳細はぼかす。

 しかし天田は誰が見てもわかるくらいに落ち込んでいるため、何かあったことは隠し切れなかった。

 

 残念ながら今日の見学は天田を奮い立たせるような内容ではなく、俺と江戸川先生も見学後に反対意見を出したからだ。

 

 江戸川先生の反対理由は練習生へのケア不足。故障寸前のオーバーワーク気味な練習生が何人も目に付いたとの話で、設備は整っていても目が届いていないのではないか? という事を遠まわしに聞いていた。

 

 俺はあのプロデューサーが信用できないので反対。

 

 あの人最初は俺に興味はなさげだったのに、見学が進むに連れて俺にもアイドルにならないかと話を持ちかけてきた。と同時に彼は売れる人間なら誰でもいいんだと感じた。だからだろう、意外と踊れるところを見せた頃から視線を強く感じるようになったのは。

 

 そう思い返してさらに納得。デビューまで毎月支払うレッスン料も有名事務所の専属とかで、山岸さんの調べてくれた相場より高かった。

 

 ただ指導をしている先生方からは特に悪い印象は無かったし、ボーカルレッスン場にいた生徒にはあのギスギスした雰囲気がなく、こちらが見学に来たと知ると気合を入れたり、体験するならこっちにおいでと手招きをしてくれる人もいた。

 

 事務所の全てが悪い印象ではなかったし、向こうは仕事なんだから利益を求めるのは別にいい。でも、今回は天田を後押しする気が無くなった。

 

「……坊主が何で悩んでんのか知らんがな。その年で将来にそこまで悩む必要はねぇぞ」

 

 叔父さんが天田を諭すように語り掛ける。

 

「もちろん将来を真剣に考える(・・・)のはいい事だ。けどな、将来を決める(・・・)には間違いなく早すぎるぜ」

「ヒッヒッヒ……私もそう思いますね。仕事をするなら、嫌でもやらなければならないことはあります。最初は嫌々でも、やってるうちにやりがいを得ることもあります。……ですが、天田君は妥協(・・)をしてまで仕事を求めなければならない時期ではありません。もっとお金は関係なく、自分からやりたい事をやるべきでしょう。何もやりたい事がないのなら、探せばいいのです」

「二人も言ってるけど、焦る必要はないさ。それに“自立する”ってのは“良い会社に就職する”とか“有名になって大金を稼ぐ”って事じゃないだろ? フリーターで、安い給料で、生活が苦しかったとしても、一生懸命働いて自分の稼ぎで生きていければ、それは立派に“自立している”と言えるんじゃないか?」

「それは……」

 

 頭では理解できても、腑には落ちないらしい。

 

「……ヒヒヒ。とりあえず今は考えるのをやめて、ラーメンを味わいませんか?」

「! そうでした」

 

 先生に言われて食事が進んでいないことに気づいたようで、天田は手を動かす。

 

 そして食べ終わると時間も時間なので、それ以上寄り道はせず寮へと帰る。

 

 

 

 ~自室~

 

 今日はあまり力になってやれなかった……

 って、俺まで落ち込んでも意味がない。

 気晴らしと練習をかねて、今日の影時間はあの不法投棄バイクで走るか!

 それまでは……あ、翻訳どうなっただろう? 

 ……オーケー出てる。よし! 四千五百円ゲット! 

 

 影時間まで、仕事に打ち込むことで気分を変えた。

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 6月6日(土)

 

 放課後

 

 ~Be Blue V~

 

「え、雑誌の取材が来てるんですか?」

 

 出勤したら、棚倉さんからそんな話をされた。

 

「アクセサリーとか、取り扱うショップの特集で取材させてくれないかって。昨日出版社の方から連絡があったからオーケーしたんだとさ。オーナーが奥で話すだけだから、アタシらは気にしなくて良いって」

「葉隠君の今日の服は受け取ってるよ」

「ありがとうございます、それじゃ早速着替えてきますね」

 

 三田村さんから紙袋を受け取り、着替えて仕事に取りかかる。

 

 そして一時間ほど経ったころ、奥からオーナーが記者らしき二人組を連れて出てきた。

 

「皆、ちょっと店内の写真を撮るそうよ」

「すみません、お邪魔します」

 

 二人組みのうち、カメラを持った女性が会釈をして店内をうろつき始めた。

 

「オーナー、アタシたちはどうすれば?」

「そうねぇ……」

「もしよろしければ皆さま、そのままでお願いします。店員さんが働いている写真も欲しいので」

「だそうよ。写真がだめなら奥に行っていてもいいわ」

 

 俺は端っこに写るくらいならべつにいいけど……

 

 

「香田さんはどうなんだろう……?」

「パキッ!」

「っ!」

 

 今の、香田さんの返事だよな?

 一回、Yes、写る気なのか。……心霊写真?

 

「あの……」

「?」

 

 何だろう? 取材に来たもう一人の、やけに背の高い男性が話しかけてきた。

 

「こちらで占いをしている葉隠さんですよね?」

「はい、そうですが……」

 

 俺が答えると、男性はやっぱり、と笑って懐に手を入れる。

 

「私、こういう者です」

「ご丁寧にありがとうございます」

 

 差し出されたシンプルな名刺には“週刊ファニー” 編集部……聞いた事ないな……

 記者 (とどろき)(たける)と書かれている。 

 字面は怖いけど、本人は背が高いだけで穏やかそうな人だ。

 

「先日はお世話になりました」

「えっ? ……どこかでお会いしましたか?」

「すみません。説明不足でした。私が直接お会いした訳ではなく……以前引越しについて相談された女性をおぼえていませんか?」

 

 引越しの相談ならたぶんあの女性だ。ちょうど二週間前の。

 

「あの方のお知り合いですか?」

「……引越しを考えさせた張本人です」

「えっ!? じゃあ彼女のお隣の?」

「はい……私は今は雑誌記者ですが、漫画家を目指しています。仕事から帰ると音楽を聴きながら漫画を描くのが日課で。ヘッドフォンで配慮していたつもりだったんですが、音漏れが届いていたそうで」

 

 すごく申し訳なさそうに頭を掻きながら話す彼だが……

 

「その話を知っているという事は……」

「管理会社の方から連絡をいただいて、すぐに謝りに行きました! 事情も話してお許しをいただきました。その時にここで占いをしてもらったからだと聞いて。本当にありがとうございました! そのお礼を言いたかったんです」

「問題が解決したのなら、なによりです」

 

 俺の占いがお客様の力になったのは嬉しい。

 けど、なんでこの人がこんなに感謝して……と思ったが、原因はその後すぐに判明した。

 

「恋愛運は占えますか? 最近ちょっと気になる女性ができまして……」

 

 その女性が誰かはこの場にいた全員が気づいただろう。

 それにもう、ちょっと気になる段階は過ぎているようだ。

 

 占った後、プレゼントはぜひBe Blue Vでと念を押しておいた。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 閉店後

 

 気合を入れて倉庫へ向かう。しかし今日はオーナーだけでなく、棚倉さんも一緒だ。

 

「棚倉さんと一緒にやるのは初めてですね」

「葉隠が来る前はアタシが倉庫掃除の担当だったけどな」

「そうなんですか?」

「だって香奈は体質的に入るとヤバイし、花梨は入れるけど掃除できないだろ? 手伝えるのがアタシしかいなかったんだよ。アタシも倉庫はあまり行きたくない……だから葉隠がきてから楽になったよ。マジで。お前よく毎週入れるな」

「葉隠君は仕事熱心で助かるわ。ウフフ……おかげで掃除の手間を考えずに買えちゃうもの」

「……なんか嫌な予感……」

「オーナー、ヤバイ呪いの品物仕入れたんじゃないですよね? 前みたいに」

「大丈夫よ、今日運び出すのは普通の品物(ハズレ)だったから」

「ならいいですけど……葉隠、お前、本当に危ないと思ったら逃げろよ。倉庫の中の物に関しては仕事放棄とか言わないからさ」

「はは……」

 

 あまり笑えない話をしながら倉庫に入り、指示を受けながら作業する。

 

「今日は本が多いですね、それに竹馬? 何でこんな物が……」

「それで子供が何人も怪我したそうよ。何も憑いてないから、大方その子供たちが変な遊び方をしたんでしょう。本も同じ人が持ち込んだ物で、古い棚から崩れ落ちてきたんですって。次、これね」

「電子ピアノ? こんな物まで」

「勝手に鳴るって聴いてたんだけど、実際見てみたらただ自動演奏機能がついてるだけだったのよ」

「つーかオーナー、これ絶対あの店の不良在庫押し付けられてますって! 誰か別の、曰く付きか見分けられる人を代理人にしましょうよ。オーナーならそういう人、大勢知ってるでしょ」

「知ってるけど……私の知り合いはほとんど私と同じ趣味だからダメよ。それから弥生ちゃん、憑かれかけてるわよ」

「っ! 臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 裂! 在! 前!」

 

 指摘を受けた棚倉さんは九字を切ることで平静を取り戻す。

 俺一人でも混沌としていたけど、二人だとこれまで以上に混沌としてるなぁ……

 なんだかムカついてきたのに、妙に気分がいいし……!!!

 

「……ヤバッ!?」

 

 即座に気合を入れ、自分の足に力を込める。

 しっかりと立って体を安定させて一呼吸。

 違和感を無視し、体内の気の流れに集中し、自分自身の正しい状態を確認。

 外から何をされようと関係ない。ただ自分自身を見失わないよう心がける。

 

 だんだん気分が落ち着いてきた……これで一安心。っ!

 

 この感覚……パトラ、チャームディ、プルトディ。

 状態異常回復系の魔法を一気に習得したみたいだ。

 タルタロスじゃなくてここで身につくのか……まぁ薄々そんな気もしていたけど。

 状態異常に罹る機会はタルタロスよりよっぽど多いし。

 

「葉隠大丈夫か!?」

「! はい! なんとか」

 

 いけない、今は仕事中だ。ペルソナの事は後にしないと。

 

「ゴメン! アタシが追っ払ったのがそっち行った」

「……早く仕事を終わらせましょう!」

 

 それが一番安全だ。

 

「そうだ二人とも、この中に欲しい物はないかしら? あったらどんどん持って帰って良いからね」

「ならあの竹馬を貰っていいですか?」

 

 天田の訓練用に良いかもしれない。

 金属でコーティングされてる分、少なくともデッキブラシよりは頑丈だろうし。

 

「……葉隠、お前思ったより余裕あるな」

「毎週ここの掃除をやってたら慣れてきました」

 

 ここでの仕事は意識を強く持つ必要がある。けれど、ずっと張り詰めているとだんだん抵抗できなくなって、最後までもたない。異常を感じた時にだけ気合を入れる方がむしろ安全な事が分かってきた。

 

「ウフフフ、正解よ。手を出されないうちは気にしないのが良いわ。下手に身構えるのは、ケンカ腰で相手を挑発しているようなものだもの」

「頼りにしてるぜ、ほら次頼む」

「はい!」

 

 荷物運びが終わるまで、世間話と目に見えない相手との戦いが続いた……




状態異常の回復魔法が揃った!
次回、大会開催!

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