6月7日(日)
朝
~月光館学園 講堂~
「……本日は梅雨時でありながら、晴れやかな空に夏場の如し日差しが見込まれます。えー皆さんには、この強い日差しに負けず、是非、己の力のすべてを出し切ってもらいたい。
また、今日の大会は体力測定の結果を競うものではありますが、えー皆さんにはこの機会に他学年の生徒との交流も深めてもらいたいと、教員一同……」
校長先生の開会の挨拶が行われ、体力測定大会が始まった。
「これで開会式を終わります。参加者の皆さんは速やかに班員と合流し、測定を開始してください。合流場所が分からない生徒はここに残って聞いてください」
壇上に登った教頭先生の言葉で、体操着の生徒たちがゾロゾロと退場していく。
俺も流れに乗って講堂を後にした。
今日の大会は生徒の体力測定をして終わりでは寂しいと誰からか意見があったそうで、各学年二人ずつを一つに集めた班ごとに計測をする。
俺の待ち合わせ場所は体育館の七十二番…………あそこか。
体育館には大勢の生徒がつめかけていた。大半のスペースは測定用に確保されているが、それを取り囲むように壁際やその上にある
自分の行くべき場所を確認して向かうと、先に男子が二人きている。
あれ? あの後ろ姿、どこかで見たような気が……
「すみません、七十二番ってここですか?」
「お? そうだぜっ!?」
「あっ!?」
振り返ったその二人は、以前俺を強引に入部させようとしていた陸上部の部長と、それを止めようとしていた副部長だった。
「うちの班の一年、一人は君なのか」
「ごぶさたしてます。今日はよろしくお願いします」
「おう……」
なんとなく気まずい沈黙が降りる。
「……あの時は悪かった」
沈黙に耐え切れなくなった部長が謝罪の言葉を口にするが、俺はもう気にしていない。
「もう過ぎた事ですよ」
まず天田や山岸さん、それに桐条先輩に怪しまれず近づけるようになった。
部室という自由に使える場所が手に入り、江戸川先生をはじめとする味方も得られた。
きっかけは良くなかったとしても、あの時の事がなかったらと考えると……
「今となっては感謝します。色々あったけど、思った以上に楽しくやれているので」
本心からそう言うと伝わったらしく、二人は表情を緩めてくれた。
「なら、仕切り直しだ。俺は三年の
「同じく三年の
「こちらこそよろしくお願いします。葉隠影虎です」
まだ多少ぎこちないけど、二人とのわだかまりは解消できそうだ。
「しかし残りの三人はまだかよ洋介」
「そう言われても誰だか知らないからね……待つしかないでしょ」
「そもそもどうやって分けられたんですかね?」
「部活の名簿から各学年で二人ずつ名前を書き写した紙を作って、集めたら後はくじ引きでだってさ。端数が出たら別の部の端数と合わせて適当に、って顧問の竹ノ内先生が言ってた」
「つか俺らがやらされたんだよ、陸上部の分は部長副部長のお前らに任すって」
「あー……竹ノ塚先生は時々ずぼら、とかどこかで聞いた気が」
「否定できないね」
宍戸先輩は苦笑いだ。
「でもそういうことならもう一人の一年は分かったかもしれません」
「本当か?」
「山岸っていううちのマネージャーなんですけど、うちは俺と彼女しか高等部の生徒がいないんで。あ、女子は別ですか?」
「いや、特にそういう話は聞いてないけど」
「ただの計測だからな、男女分ける必要もねーだろ。ほら、向こうの班も男女混合だし」
ならたぶん山岸さんだな。
「……あ、いた!」
人の多い入り口付近に目を向けてみると、人ごみに流されないよう耐えながら何かを探している山岸さんを見つけた。ギャラリーから大きく身を乗り出して手を振り、七十二番の番号をアピールすると気づいたみたいだ。こちらを見て小さく手を振り、人ごみに突入。
「おつかれー」
「お待たせ葉隠君……あっ、遅くなってしまってすみません!」
「いいっていいって、気にしなくて。ね、茂」
「おう、まだ来てねー奴が二人も居るしな」
初対面の先輩に気づいた山岸さんは頭を下げるが、二人は気にしていないと軽く受け流す。
「おいおい葉隠、お前のとこあんなマネージャーいたのかよ」
「たまたま縁があって……というか、陸上部にもマネージャーはいるでしょ」
「西脇? そういやお前と同じクラスだったな。あいつは……マネージャーっつーより宮本の母親みたいな感じだからなぁ。女子、って感じがいまいち……」
……本人に聞かれたら絶対に怒られるけど、納得してしまった。
「なんだ、肩を組んで意外と仲良くやっているじゃないか」
「? ……げっ!?」
後ろから唐突にかけられた声。姿は先に振り向いて変な声を上げる黒岩先輩の影に隠れているが、聞きなれた声だ。
「桐条先輩。先輩も体育館集合ですか? っ!?」
言いながら移動すると普段はまず見る事のない、ブルマの桐条先輩がいた。
大人びた美人だけに若干のコスプレ感を漂わせているが、体のラインがしっかりと浮き出ていて男なら、いや男女問わず、ブルマ好きでなくても眼福だろう。
「どうやら俺たちが最後みたいだな」
……後ろに
「桐条先輩! それに、真田先輩ですよね? お二人もこの班なんですか?」
「ああ、遅れてすまない。そして今日はよろしく頼む、山岸」
同じように俺や二人の先輩にも挨拶を済ませる桐条先輩。そして
「お前が葉隠か。俺は二年の真田、ボクシング部に所属している」
「存じ上げています。公式戦では無敗だとか」
「ハハッ、それはこの前で終わったがな」
言葉と表情は笑っているが、目は笑っていない。
「もっと気軽に話してくれ。あまりかしこまられると息が詰まる。それに、葉隠には一度会ってみたかったんだ。なかなか強いと聞いていているぞ。どうだ? 一試合」
「そこまでだ、明彦」
会ってみたかった、と言われた事に疑問を挟む間もなく、桐条先輩が理由を口にした真田を止めた。
「すまない葉隠。驚かせただろう」
「まぁ、多少は」
「怪我で公式戦を欠場した件がだいぶ堪えたようでな……元々ボクシングに熱心な男なんだが、最近は少々度が過ぎていて困る」
「先輩の方でなんとか」
「申し訳ないが、私もその都度諌めるしかないのが現状だ」
これも荒垣先輩の抜けた弊害か……鬱陶しい。
「六人揃ったんだし、計測行こうぜ」
「そうだね。話は歩きながらで」
三年の二人の呼びかけで俺たちは下へと向かった。
決められた順路の入り口で記録用紙を受け取り、順番待ちの列に加わる。
「しかし驚いた」
「俺もビックリしてますよ、先輩たちと同じ班になるなんて」
本当に、どんな確率だ?
二年だけでも生徒数は百人を軽く超えている。
その全員が参加してないとしても、偶然同じ班になる確率は相当低いはず。
おまけに片方だけでなく、この二人が揃って。
普段はこちらからも先輩に歩み寄っているけど今回は……偶然にしてはできすぎている。
「それもあるが、君は参加しないかと思っていた。先日は気分を害したように見えたからな」
「……そんなに顔に出てました?」
「ふふっ、あんなに感情を出したのは初めてじゃないか?」
「あれはなんと言いますか……」
「取り繕う必要はないさ、あの言い方では妥協の末に君や他の生徒を選ぶと思われても仕方がなかった」
どっちかと言うと代役そのものよりも、“
「それに黒岩先輩と肩を組んでいた事もだ。以前の事でわだかまりがないかと気にしていたんだが……杞憂だったようだな」
「ちゃんと和解したんだよ」
「そのようですね、黒岩先輩。もう何も言う必要はなさそうだ」
「おう……」
「茂、腰が引けてるよ。僕もだけどさ……」
「まさか……二人は美鶴の“処刑”を!?」
「一歩手前まで行っただけだよ、一歩手前、なんだけどね……」
「もうあんなのは御免だぜ……」
「皆さん、次、私たちの番ですよ」
先頭に立つ山岸さんが知らせてくれた。
第一の種目は“握力”。
握力計が一つの机に三つ置かれている。
「はーい、二人一組でちゃっちゃと測る。一回きりだから全力でやんなさい。もう一回、は無いからね!」
「だとよ、どう分ける?」
「他学年との交流と銘打っているんだし、バラバラに組んだらどうかな?」
「宍戸先輩の意見に賛成だ」
「俺は誰でもいいが……」
「俺も宍戸先輩に一票です」
「葉隠君と同じで」
「私、宍戸先輩、葉隠、山岸。過半数の賛成が出たが……」
「んじゃ俺はせっかくだし葉隠、組むか?」
「よろしくお願いします、黒岩先輩」
「それでは私たちは女同士で組まないか?」
「わ、私でいいんですか?」
「なら俺は」
「僕だね」
担当の鳥海先生から事務的な注意を受けて、俺と黒岩先輩。山岸さんと桐条先輩。宍戸先輩と
「葉隠、先行ってくれ」
「じゃお先に失礼します」
手に取った握力計の持ち手を確認して、手を下げた状態から思い切り握りこむ。
「~~~! ふぅ……」
「んー68㎏だ、結構あるな」
「ありがとうございま」
「真田君、80㎏!?」
何っ!?
「まぁ、こんなものか」
余裕な面がなんかイラつく……次だ次。
……
…………
………………
第二種目“上体起こし”
「
「っ!」
一! 二! 三! 四! 五! 六! 七!
「なっ!? 負けるかっ!」
最初から飛ばして回数を稼ぐ!!!
「……スリー、ツー、ワン。フィニッシュ!!」
「葉隠、四十九回!」
「真田君も四十九回だよ!」
同じか……
「やるじゃないか、葉隠」
次!
……
…………
………………
第三種目“長座体前屈”
「………………」
「………………」
静かに息を吐きながら、股関節から曲げるイメージで測定用器具をゆっくりと押し出す。
「真田君、79cm」
「葉隠……85cm」
「なんだと!? ……次は負けん!」
隣の脳筋が何か言ってるなぁ。
……
…………
………………
第四種目“反復横とび”
「二十秒間で二回計測するからね、記入係はちゃんと回数を数えてね。ところで個人の反復横とびの回数を距離と速度から計算する式なんだけど」
「宮原先生ー、脱線しないで開始の合図をお願いしまーす!」
「……しかたないね。用意、スタート」
「! チッ!」
初動が遅れた!
宮原先生の気のない合図で計測した一回目は……
「葉隠、70回!」
「真田君、71回!」
次は遅れない……
交代して黒岩先輩たちの回数を測り、再度交代。
集中して二回目に挑む。
そして
「五秒前―、四、三、二、一。終了!」
「葉隠、73回!」
「真田君、72回!」
「っし!!」
「くっ! だがまだイーブンだ!」
これで体育館での測定は終了。
あとは校庭で行われる種目になるが……
「美鶴、次の種目は何だ?」
「昼休みだ」
「休みか! なら次こそ……休み?」
言われてみれば……そうか。
「午前と午後に四種目ずつ、体育館と校庭の交代で測定すると開会式で説明があっただろう。……まったく、お前たちは何を張り合っているんだ」
「あはは、葉隠君がそんなになるのって、珍しいね」
「……俺もか?」
「どっからどう見てもそうだろうよ」
「口数も明らかに減ってるしね」
……
一度どこかで落ち着きたい。
「皆、昼食はどうする?」
「俺と洋介は弁当を買って済ませるって話になってるんだ」
「あっ、私もです。校門前にお弁当屋さんが来るって聞いたから」
「そこに牛丼はあるか?」
「えっ? 牛丼はわかりません……」
「なければないでいい。美鶴はいつも通り家から用意されているんだろう?」
「いや、今日は用意を頼んでいない。私も校門前で弁当を買うつもりだ」
「……桐条さんもお弁当を買ったりするんだ」
「意外だな……」
「そういえば最近急に興味を持ち始めたな。この前も俺に牛丼の持ち帰りを頼んできたり」
「興味は前々からあったさ。ラーメンは食べてみると美味しかった。……牛丼という料理は残念ながら口に合わなかったが……私はただ興味を実行に移しただけだ」
私的な事で注目を集めたのが恥ずかしいのか、桐条先輩は顔を赤らめている。
ここでひとつ提案する。
「それなら混みそうですし、俺が全員分買ってきますよ」
「それは君に悪くないか?」
「誰かがまとめて人数分の買い物に行くなんてよくある事ですって。人ごみで一人ずつ買ってたら再集合するまでに時間もかかりますし、俺はこういうの得意ですから任せてください。その分先輩たちには座る場所とか飲み物の確保とか、お願いします」
「んじゃ飯は葉隠に任すか。飲み物は俺たちが買うとして……場所はどうするよ?」
「なるべく人の少ない所がいいな。人目が鬱陶しくてたまらん」
「だったらいい場所がありますよ! 葉隠君、練習に使ってるあそこ、いいよね? 景色もいいし」
「あそこか。いいんじゃないかな」
先輩たちは別にどこでもいいようで、俺たちが勧めるならそこでいいと話がまとまった。
「それでは一足お先に、行ってきます!」
注文を受けた俺は、速やかにその場を後にした。
人の隙間を縫って、最短距離で一刻も早く離れていく。
そして校門前にたどり着いた所で、ようやく一息つくことができた。
……やっぱりあの脳筋は好きになれない。
襲われたからとかじゃなく、もっと根本的に。
もちろんあの件は多少ムカつくが、まぎらわしい格好をしていた自覚はある。
俺が本当に気に食わないのは脳筋の行動だ。
強くなろうとして、自分を鍛えて、相手を求めては挑みかかる。
そのために、命の危険がある場所に飛び込もうとする。
これ、やってる事はまるっきり俺と同じなんだよな……
なのに、あいつは死なない。
原作に沿って進めば、あいつの生存は確定している。
俺はこのままなら死亡が確定しているのに。
俺は死にたくないから危険を冒す。
あいつは好きで自分を危険に晒す。
違いといえばこれくらいだろう。
大きな違いだ。
なんであいつは、同じようなことをしているのに違う?
……本人にしてみれば意味の分からない、理不尽な言いがかり。
ただの嫉みだとは理解している。本人に言っても意味がないって事も。
だから言いはしない。嫉むのも、考えるのも無駄。かかわらなければいい。
……そうやって気持ちに整理をつけていたつもりだったんだけどなぁ……
顔を合わせただけであっさり自覚した。
自分に似ている。だからこそ、余計に
昨日の敵(黒岩)が今日の友になった!
影虎は真田と遭遇した!
影虎は真田に張り合いになった!
ペルソナ5をやっていて、後半が仕上がらなかった!
ごめんなさい。