人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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87話 決断

 昼休み

 

 ~生徒会室~

 

「来てくれてありがとう。江戸川先生もありがとうございます」

「お礼を言うのはこちらの方です。迷惑をかけて申し訳ない。それから、ありがとうございます」

 

 山岸さんを連れて約束通りに来てみれば、気を使ってくれたらしく先輩二人と江戸川先生しかいなかった。

 

「これも生徒会の仕事の内だ。それに学校の事情もある。昼食を食べながらでいいから、話をしたい。内容は言わずとも分かっているだろうが、君たちと青木の件にかかわっている」

「私たち、どうなるんでしょう……?」

「ん~、別に廃部とかいう話はまったくないんだけどさ。ちょっとタイミングが悪かったんだよね。桐条君、説明を頼む」

「不必要に重々しく言わないでください、会長」

 

 それから先輩から説明された内容をまとめると……

 

 そもそもの原因は先日行われた体力測定大会で注目を集めたこと。

 大会は脳筋(真田)が推薦を断ったから代わりを選ぶためのもの。

 俺と脳筋(真田)は、八種目総合で互角の成績。

 脳筋(真田)はやっぱり辞退するつもりで、必然的に互角の俺が現在のテレビ出演最有力候補になっている。

 

「初めて聞きました」

「だろうね」

「まだ内々の話だが、来週の月曜にはテレビ局の人間が打ち合わせのために来校することになっている。そこで君を含めた候補者には説明を受けてもらうことになるだろう。出演するのは一人だが、万が一代表に怪我などかあった場合のためにな。

 そのあとで学校の推薦とテレビ局の意向をすり合わせ、誰が出るかの最終決定が行われる。もっとも、学校の推薦がそのまま通るとは思うが……そこで今の君が問題になる」

 

 これまでの細々したイメージアップ活動と青木の件がきっかけになり、俺を応援してくれる生徒は増えた。しかし一緒に悪感情を持つ生徒も増えてしまった。朝の嘘報告もその結果とみて間違いない。

 

「個人的に葉隠君のやった事は間違ってないと思うよ。でも学校代表としては問題を起こさず、いい評判ばかりのほうが都合が良い」

「候補から外されるだけなら別に構いませんが、その場合練習場所はやっぱり?」

「おそらく諦めてもらうことになる。あれはテレビ出演する生徒が万全の備えをするために用意される。君が候補であればともかく、出演の可能性がない者に権利は与えられないだろう」

 

 日曜日の我慢も水の泡になりかねない状況、か……

 

「まぁこれはあくまで可能性のお話。具体的に君をどうこうしようという話はまだありません。そうなる前に手を打とう、ということですねぇ」

「江戸川先生の仰るとおり。今朝の件を含め、問題解決の道を探るために君たちを呼んだんだ」

「具体案はないけど、できるだけ葉隠君がみんなに認められるような方向で考えたいね。あとできるだけ早く」

「……少なくとも嘘で貶めるような嫌がらせはなくなって欲しいです」

「山岸さんに同意です。江古田先生も嘘の情報提供者については断固として口を割りませんでしたし……」

 

 やっぱりボクシング部の一部だろうか?

 確認したら、江古田先生が顧問だった。

 

「その可能性が高いと思いますが、証拠はありませんね。……江古田先生には釘を刺したので大丈夫とは思いますが」

「今朝の江戸川先生はすごかったね? 美鶴」

「フフッ、私も意外でした。まさか先生があんな事を言うなんて」

「おやおや、酷いですねぇ。私は教師として生徒の事はちゃんと考えているつもりですよ」

「そうですよ! たしかに先生はちょっと変わってますけど……」

「フォローが中途半端ですねぇ」

「ああっ、ごめんなさい」

「ヒヒッ、冗談です。ところで青木君が今日来ていないのは本当ですか?」

「はい。怪我でお休みだそうです」

「その事なら私も確認をとった。仮病ではないらしいが、傷は人の手によるものの可能性が高いそうだ。本人は夜遊びに出ようとして、暗い階段で足を踏み外したと言っている」

 

 嘘くさい。

 

「そのあたりの詳細は青木の証言を待とう。たとえ何かを隠す口実だったとしても、体調が快復すれば夜遊びの追求が行われる」

「だね。ちょっと話がずれちゃったから戻すけど、何かイメージアップの案はない?」

 

 室内に沈黙が流れる。

 イメージアップ戦略はこれまでも考えて、一発ドカンとはいかないから地道にという話になっていた。ここでまた大逆転の策なんてそう簡単には……

 

「親父の言う通りになったな……」

「君の父上がなにか?」

 

 俺の愚痴を桐条先輩が拾った。

 

「昨日酔っ払って電話してきまして、青木との事を話したんです。そしたら自分の暴走族時代の話を始めて、弱くても姑息な手を使うやつの方が厄介だって言ってました」

「なるほど、確かにその通りになっているな」

「解決のためには、ボクシング部に乗り込んで、そういう奴らの(ボス)を潰せば楽だとか言ってましたよ」

 

 そんな方法じゃ評判を落とすだろう。

 

「……それ、良いアイデアかも」

 

 まさかの賛同者がいた。

 

「殴りこみがですか? 会長」

「暴力はダメなんじゃないでしょうか? 青木君の時はどうにかなったけど、何度もはイメージが悪いと思います」

「暴力ならね。でもさ、逆に言えば()()()()()()()()どうかな?」

 

 どういう事だ?

 

「まず不満を抱いているのはどんな人だと思う? 山岸さん」

「えっと……真田先輩のファン、それにボクシング部、とくに青木君と付き合いのあるグループの人、だと思います。掲示板でもその話題が中心で」

「その通りだね。ボクシング部の一部は別として、反対派の生徒は葉隠君と真田君を比べてるみたい。そして葉隠君を下に見ている。真田君の強さと知名度は折り紙つきだからね。でも、葉隠君もけっこう強いでしょ? だったらさ、そこはこっちもアピールしてみない?」

「ですが、殴りこみは印象が悪くないですか?」

「そこは私たち生徒会から“直接対決”を提案する。テレビ出演者の枠は一人。有力候補が二人。しかも生徒間で論争があるのはもう周知の事実。互角だった体力測定大会の延長戦って事でどうだろう?」

 

 生徒会からの提案を飲んで試合をするという形であれば……確かに暴力ではないか。

 でもそんなに上手くいくのだろうか?

 

「ただしこれはあくまで実力を見せ付ける機会を作れるだけ。やってみてどうなるかは葉隠君の頑張りしだい。結果までは保障できない。でも真田君の性格なら、乗ってくると思うんだ。学校側も余計な争いは避けたいだろうし…だから君が望むなら、実現させる自信がある。どうかな? 決定権は君に(・・)あるよ」

 

 またこの人はこういう言い方を……

 

 試合を持ちかければ、真田は必ず乗ると俺も思う。

 そして実行の決定権は()に与える。

 それはつまり、やらないと決定するのも俺という事だ。

 けれどやらないと決めると、脳筋から逃げるようにも思える。

 

 かかわりたくないとは今も思っている。

 試合もしたいとは思わない。

 けど、ぶん殴りたい気持ちはないでもない。

 何より、断ってもほかに提示できる案はない。

 

海土泊(あまどまり)会長。分かってて言ってるでしょう」

「正攻法で話し合いとかじゃ泥沼化しそうだし、分が悪くない? 個人的にも興味あるし。っていうか葉隠君、やっぱり真田君をかなり意識してるよね。この際さ、本人に遠慮なく叩きつけてみたら? こう、ぶつかり合って相手を認め合う的な」

「どこの少年漫画ですか」

「やる気、ないかな?」

「……仲良くなれるとは思えませんが」

「問題解決だけならそこまでしなくてもいいよ。真田君に認めさせて言質をとれば、ファンの態度は軟化するよ。力を借りるんじゃなくて、利用する気でさ」

「……」

「はぁ……これは決定のようだな」

「あはは、今朝はけっこう冷静だったのに」

「葉隠も案外血の気が多いのかもしれんな。これでは明彦が二人になったようだ。山岸、君の力を貸してくれ。私一人ではいざという時にも止められそうにない」

「ヒッヒッヒ、私もできるだけの事はしますよ」

 

 近いうちに試合を行うことが決定し、そこからは具体的な内容を詰めた。

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 夜

 

 ~自室~

 

 帰宅後、そのままベッドへ倒れこむ。

 

「あー……今日は疲れた……」

 

 朝、昼、晩と忙しかったけど、何より今朝の寝不足がたたったな……

 バイト帰りに神社で“治癒促進・小”のスキルカードの複製に成功。

 即行で一枚使ってスキルを習得できたが、回復している気がしない。

 

 のろのろ服を着替えたものの、何もする気が起きずにまたベッドへ。

 

 ……弦は交換しないとな……。

 

 ベッド下からバイオリン、カバンから買ってきた交換用の弦を用意して張り替える。

 バイオリンの基本は相談の後、運よく桐条先輩から習うことができた。

 といっても弦の張替えと基本姿勢、それから音の出し方だけだ。

 

「……よし」

 

 張替えの次はチューニング。

 バイオリンの四本の弦はそれぞれE線、A線、D線、G線と呼ばれる。

 これを一本ずつ、出る音がミ、ラ、レ、ソになるように調整する作業だ。

 ドッペルゲンガーに包まれた状態で、記憶した先輩のお手本を頼りに行う。

 

 不安要素は俺の腕。先輩の動きを真似して音は出せるが……お手本と比べて硬い。

 先輩が言うには上出来らしいけど。

 

 ちなみに音のサンプルが足りないのか、音に関係する便利なスキルは身につかなかった。

 どうでもいい時に手に入るくせに、スキルがほしい時には手に入らない謎。

 

 ……このくらいか?

 

 アドバイスも使い、それっぽい音がでるようになったバイオリンで練習を行う。

 バイトでオーナーに相談したところ、やっぱり少しでも弾いてあげるのが一番安全らしい。

 自分で気づいた事を成長したわねと褒められた後、実に良い笑顔で応援された。

 ただ、それだけだった。

 お(ふだ)とかそういった物は必要ないらしい……

 

「トキコさんと呼ばせてもらいます。これから時々弾くので、連絡の邪魔はしないでくださいね。本当に困るので」

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 

「……」

 

 しばらくただ音を綺麗に出す練習を続け、ダウン。

 もう今日はベッドに沈もう。

 

 バイオリン(トキコさん)を片付けてベッドに入る。

 

 ……横になっても考えるくらいならできるよな……

 

 

 

 ルーン魔術研究記録2

 

 考察日:6月10日の夜

 

 体調不良のため、ルーン魔術の考察のみを記録する。

 

 1.攻撃魔術

 前回は“ラド(車輪)”を使用して魔術を打ち出すことに成功。

 次回は各属性のルーンと組み合わせ、実際に使えることを確認する。

 また、前回の実験に使用したラグ()は威力不足。

 ウルを加えて威力を上げられるかを確かめたい。 

 

 

 2.防御魔術

 前回は自分に氷結の状態異常を与える結果となった。

 攻撃魔術と同様に、ラドを組み合わせて検証。

 

 

 3.デバフ(敵の弱体化系魔術)

 ネックレスに使用した身体能力向上系の魔術と同じく、ウル、エオー、エオローを使用。

 これに欠乏を意味するニイドのルーンを組み合わせてみる。

 さらにこれだけでは前回の防御魔術と同じく、自分自身に悪影響を及ぼす可能性あり。

 ラド(車輪)を組み合わせたパターンも用意し、慎重に検証すべき。

 

 

 4.魔法攻撃、魔法防御能力向上

 対バスタードライブ用。

 身体能力向上と同じ要領でアンスール()ぺオース(秘密)あたりを使用。

 神秘 = 魔法と考えてみた。

 

 それから………………




影虎は相談した!
真田と試合をすることになった!


スクールカーストの特徴
学校内の立場は上位の生徒の発言などで変動する。
上位の生徒に気に入られれば、上がる。
嫌われれば、下がる。
話し合いなんかでは変わらないのが実情。

真田に実力を認めさせる = カースト上昇の早道

試合の勝敗とカーストの変動はサイコロで決定します。

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