人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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95話 瞬く間に

 影時間

 

 タルタロスが禁止のため、当分影時間はバイクの運転練習に使うことにする。

 実技試験も予約しないとな……

 

 

 

 

 

 6月17日(水)

 今日はバイトの日。

 就業後に先日作った“ルーンストーンネックレス”をオーナーに見せてみた結果……

 “道具としてはともかく、アクセサリーとしては酷い”とのお言葉をいただいた。

 まったくもって反論の余地がない。

 

「どうせならこれを使いなさい」

 

 紹介されたのは石のないペンダントヘッドなど、アクセサリーの台座とチェーンやワイヤー。

 こういう物で作れる手作りアクセサリーがあるらしい。

 

「これを使うだけでも見た目はだいぶ改善できるわ。石を水晶にでもすれば普段からつけていてもいいんじゃないかしら?」

 

 材料費がかかってしまうが……良い魔術ができたら作ってみるのも良さそうだ。

 とりあえず台座とチェーンは購入しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 夜

 

 運転免許の実技試験が、金曜日に予約できた。

 時間はないけど、おそらく大丈夫。

 とりあえずやれるだけやってみよう。

 

 気楽に構えて、The 剣道を読む。

 

 剣道の基礎、構え、技がイラストつきでわかりやすく解説されている……

 人に教えられそうなくらい理解した!!

 

 しかし麺道をふまえると、読んで理解したからといって即使えるわけではない……

 身に着けるためには使わないと。……解禁されたら久しぶりにやってみようか?

 そうだ、このさい武器を用意しよう! 

 

 

 

 

 6月18日(木)

 

 夜

 

「よろしくお願いします、っと」

 

 装備品といえば“だいだら.”。

 一晩考え、結局アート(武器)をおまかせで注文してみた。

 前回の防具は納得のできだったから楽しみだ。

 

 今日は……これにするか。というかなんだこの表紙……

 

 The 食道を読んだ!

 首付近の解剖図が表紙で何の本かと思えば、意外と中身はちゃんとしている。

 食道を通るものとして食事。解剖図の表紙が医学的なイメージなのか? 

 内容は特に栄養学や病院食について、イラストつきでわかりやすく解説されていた。

 

 誰かに教えられそうなほど理解したが……病院食の知識は遣う機会が来ないことを祈る。

 

 

 

 

 

 

 6月19日(金)

 試験に合格した。かなり、あっさりと。

 おかげで逆に試験官に怪しまれた……これまでどこで運転してたんだ? と。

 ……実家がバイク作っててよかった。

 

 さて、今日はThe 柔道を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月20日(土)

 

 影時間

 

「おや。わざわざこんな所に足を運んで読書ですか?」

 

 気分を変えてバイクの公園で“The 合気道”を読んでいたら、タカヤが現れた。

 

「見ての通りさ。そっちは仕事帰りかね? それともこれからか? あと十三分十八秒しかないが」

「仕事は終わりました。しかし妙に細かい数字を出しますね?」

「先日新しいスキルを習得したのさ。“体内時計”、時計がなくても時間が正確に分かる能力だ」

「……鍵開けといい、変わった能力ばかり習得する人ですね」

「やはり珍しいかね?」

「少なくとも私はそんな能力を持つペルソナ使いをあなたしか知りません。個人の性格や願望からペルソナの能力や傾向を探る研究もあったと聞きますが、どういう人ならそうなるんでしょうね?」

「それは私が聞きたいよ……そうだ、時間といえばもう一つ聞きたいことがあったんだ」

 

 タルタロスの内と外で時間の流れ方が違う件について問えば、タカヤはそんなことかと言った。

 

「基本的なことなのか?」

「時間の操作を可能にする“何か”。それを“時を操る神器”と名づけ、作り出すことがかつての桐条グループの目的だったそうです」

 

 タカヤは語る。

 

 研究過程でシャドウを見つけたのか、シャドウを見つけて研究が始まったのかは知らない。

 しかし桐条グループはシャドウとその力が時間の異常と深い関係を持つと突き止めた。

 研究のためにシャドウを集めた結果、あの大事故を起こし、それ以来影時間が毎日現れる。

 

「シャドウが人間の脅威となり、対抗できるペルソナが発見され、そして我々のような人工ペルソナ使いも作られた……ある意味で、すべての出来事の原因とも言えますね」

「そういうことか……」

「ええ、特に滅びの塔はシャドウの巣窟だからでしょう。塔の内側と外側は別世界。どれだけ塔の中で過ごしたからといって、外で同じだけの時間が流れているとは限らないのです」

「……なら、どうして毎日出てこられる?」

「ふふふ。どうしてかは分かりませんが、滅びの塔に立ち入った人間の“認知”によって決まるようです」

 

 ……まさか。

 

「何時間中にいても、一時間くらいだと思っていれば、外でも一時間。そういうことか?」

「結果的にそうなるようです」

 

 なるほど。それが本当なら納得できる。

 帰るまでの余裕があると思っていれば、影時間に余裕があるうちに出られた。

 ギリギリだと思っていた時は、本当に帰り着くのがギリギリだった。

 時間の感覚も正しいと思いこんでいた……

 

 

「研究者にとっては偶然の産物だったようですが……彼らが求めた“時を操る神器”は滅びの塔という形で完成しているのかも知れませんね」

 

 今日は新事実が発覚した……これを上手く利用すればもしかして……?

 

 

 

 

 

 

 

 6月21日(日)

 

 テレビをつけながら“The 神道”を読んでいると

 

 

「貴方の♪ テレビに♪ 時価ネットたなか~♪ み♪ ん♪ な♪ の♪ 欲の友♪」

 

 “時価ネットたなか”の放送時間になった。

 

「はーい! 今日はいつでもどこでも、乾いた貴方を潤してくれる“みずみずしい水”のご紹介!」

 

 

 ……特に欲しいものではない。

 次は“The 弓道”でも読もう。

 

 ……神道と弓について、誰かに教えられそうなくらい理解した!

 しかし神道は秘儀まで書かれていたが、いいのだろうか?

 弓も弓で使う機会があるかどうか……だいだら.になら売ってるかな?

 

 ……そうだ、翻訳しよう。支払いがいくらになってもいいように。

 

 深夜まで翻訳の仕事に精を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月22日(月)

 

 放課後

 

 ~部室~

 

 傷の抜糸が行われた。

 

「問題ないようですね……影虎君、今日からは軽い運動はしていいですよ」

「本当ですか?」

「ええ、空手の型だとか、ジョギングだとか」

「わかりました。……あと、例の場所は?」

「……私は中を知りませんからねぇ……まぁ、今日までちゃんと我慢していたようですし、状態も良い。君が軽い運動と言える範囲なら認めましょう。ただし強敵に挑んだり、自分を追い込むようなトレーニングは禁止します。そうですね……土曜日からは以前と同じでかまいません」

 

 部活とタルタロスが一部解禁された!!

 土曜日から完全解禁……なら、解禁日に実験しよう。

 

 

「さて影虎君、今日の部活。内容は決まっていますか?」

「いえ、特には……天田たちはどこか行っちゃいましたし」

「だったらヨガはいかがです? 体内の気の流れを意識するといい勉強になりますよ」

 

 江戸川先生はそう言いながらすでに準備を始めている。

 お香の煙が立ち込めてきた……何のお香だろうか?

 帰ったらThe 香道を読もう。

 

 ゆったりと動きながら、気を感じて呼吸とともに体中にめぐらせる。

 やってみると小周天に近い……いい訓練になりそうだ。これは日課に取り入れたい。

 

「息を吐くときはゆっくり、しっかりと……ところで影虎君、天田君の事なんですが。彼、明後日が誕生日ですけど、何かやりますか?」

「えっ!?」

 

 そうだったのか!?

 

 

「その反応を見るに、知らなかったようですねぇ。まぁ私も今朝まで気づきませんでしたが」

「何で……天田は自分から言ったりしないか……」

 

 知った以上は何かしてやりたい。

 しかし24日は水曜日、バイトの日だ。

 ……門限もあるし、そんなに長い時間はいらない。

 オーナーに相談しよう。

 

「ちょっと電話、いいですか?」

「ええ。もちろんです」

 

 オーナーに連絡すると。

 

『そういうことなら、一時間くらいならいいわよ』

「ありがとうございます!」

 

 一時間、シフトをずらしてもらえることになった!

 

「ヒヒヒ。それではこの際、サプライズでお祝いしますかね。私から皆には連絡しておきますよ」

 

 だったら俺は帰りに天田へのプレゼントを……

 たしか天田は“カレイドスコープ”か“フロスト人形”だったはずだ。

 

「それから影虎君、生徒会室に行くっていっていましたが、そろそろじゃありません?」

「え? ああ、確かに……」

 

 桐条先輩に手伝うって言っちゃったしな……

 

「すみません、あとはお願いします」

「任されました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~生徒会室~

 

「失礼します」

「葉隠君! 来てくれると思ってたよ!!」

「よく来てくれた、この席使ってくれ」

「特攻隊長キター! これで勝つる! 体力的に! 僕は書記の久保田です。よろしく」

「私、会計の久住。よろしくねー。あれ? 君ってメガネかけるんだ?」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 手伝いにきたら、会長や桐条先輩以外にも知らない先輩方がいた。

 しかし、皆さん好意的に受け入れてくれているようだ。

 

「早速ですが、俺は何をすれば?」

「まずは俺と一緒に来てくれ。とりあえず雑用から片付けてしまいたい」

 

 紙の束を抱えた副会長に呼ばれる。

 

 生徒会の仕事、その一 “生徒会報”の張り替え。

 校舎内にあるすべての掲示板に張るお仕事だ。

 特に考えることはない。

 

 二手に分かれてさっさと済ませる。

 

「戻りました」

「ありがとー、次は職員室でコピーとってきて。コピー元と必要部数は紙に書いて席に置いてあるから」

 

 生徒会の仕事、その二 “コピー”。

 これも難しい仕事ではないが……プリントの数が多い。

 色々な仕事を同時進行しているらしい。

 特にテレビ撮影に関係している内容が多い。

 生徒への通達が主な仕事のようだ……

 

「コピー終わりました! こちら種類ごとに分けてあります」

「あ、葉隠君。ついでにそれ各クラスの人数分に分けて、クリップで留めといてくれる? クリップはこれ使って、人数は……久保っち、そっちに名簿ない?」

「あるけど今使ってます」

「あー、そっか……」

 

 人数だけなら、記憶してしまえばいい。

 

「すみません、二十秒ほどお借りできませんか? 覚えますから」

「え? それくらいなら良いけど……覚える?」

 

 名簿を借りて、内容を全部記録。

 

「ありがとうございました」

「もういいの?」

「はい」

 

 全学年、全クラス、問題ない。

 

 席で作業に入る。

 コピーの山を片手で掴み、もう片手で一気にパラパラッと。

 アナライズで監視することで枚数は正確に計測。

 一組の人数と一致したらクリップで留める。

 分かりやすいようクラスと生徒数を書き込んだ付箋も一緒に挟んで一組分の完成!

 かかった時間は約五秒。

 

 同じように全クラス分をまとめれば……

 

「葉隠、もうできたのか?」

 

 ちょうど終わったところで桐条先輩の声がかかる。

 

「まだ一種類のプリントですが、終わりました」

「確認させてもらってもいいか?」

「お願いします」

 

 作った束を全部渡して、次のプリントに取り掛かる。

 

 ふっふっふ……単純作業が実に楽だ!

 こんな仕事、さっさと完璧に終わらせてやる!

 

 なお桐条先輩のチェックでは当然のごとく合格をいただき、全部のプリントを分けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス 2F~

 

 ずいぶんと長くきていなかった気がする……

 

 まずは軽く、準備運動がてらシャドウを狩ろう。

 

「「「「ギヒィイイ!!?」」」」

 

 薄暗い塔にシャドウの悲鳴が響き渡る。

 

「シィッ!」

 

 逃げられないと悟った一匹の“囁くティアラ”が、髪のような触手を振りかざす。

 

 ……やる事は試合と同じだ。

 

 触手の長さと方向を把握し、軌道とタイミングを判断。

 満を持して斜めに踏み込めば、髪は体を掠めもしない。

 打ち据えることに失敗した触手を引き戻す間を与えずに、鉤爪で仮面を引き裂いた。

 

 シャドウは消滅。

 だがさらに次々と決死のシャドウが現れては腕を振るう。

 それをあの時と同じ要領で見切り、回避からの攻撃。

 体と共に、吸血で体力を抉り取っていく。

 

 

 ……そのまま帰る時間がきてしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月23日(火)

 

 放課後

 

 ~生徒会室~

 

「今日の仕事は?」

「募金の集計をお願い!」

 

 月光館学園では購買の横に募金箱が置かれているらしい。

 俺は初めて知ったけど、買い物帰りの生徒がおつりを入れるから結構集まるそうだ。

 生徒会はその募金を一月ごとにこうして集計している、と……

 

「お金がかかわる仕事だから、久住と一緒にやってね」

「よろしくー。じゃさっそくだけど、その棚の下から募金袋出してー」

 

 気の抜ける声で支持を出す久住先輩。

 言われた通りに棚を見てみると、小銭の詰まった袋が沢山あった。

 この時点で周辺把握とアナライズにより各小銭の枚数と合計額が明らかになったんだが……

 

 そんな理由が通用するはずがない。

 黙って、高速で小銭を数え続けるふりをした……

 

「そうだ葉隠。撮影の件だが、やはり君に白羽の矢が立った。来週の月曜日、放課後から撮影開始だそうだ。当日はまず学校でスタッフの方と顔合わせをして、体育館への移動中に説明があるそうだ」

「承知しました。用意は何を?」

「特別なものは何も無いといわれている。普段の部活で使うものだけ用意して行けばいい」

「……それだけですか? 俺がやる種目とか」

「それだけだ。先方が言うには番組の趣旨に沿うため、種目もコーチも当日発表だと。体調だけ整えておいてくれ」

 

 それで大丈夫なのだろうか……考えても意味が無いな。

 帰ったら放送禁止用語集にもう一度目を通しておこう。

 だけどいまは仕事を優先。

 

 

 生徒会の仕事に精を出した!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜

 

 ~男子寮~

 

「というわけで、頼む!」

「まぁいいけどさ、プレゼントがゲーセンの景品ってどうなん?」

「……実はもう一つ用意したい物があるんだ。バイト先のオーナーとも相談して作ることにしたんだけど、喜ばれるか分からないからもう一つ、確実に喜ばれるものを確保したいんだよ」

「あー、そういうこと? んじゃ明日取りに行くわ。この順平様に任しとけ!!」

 

 “フロスト人形”はクレーンゲームの景品になっていたので、クレーンゲームの上手かった順平に頼んだ。

 

「さて……作業に入る前に」

 

 

 

 

 ~自室~

 

 だいだら.から荷物が届いている。何が入っているのだろうか? 

 

 期待して箱を開けてみると……

 

「!?」

 

 中身は黒塗りの鞘に入った、一振りの“刀”。

 重々しく、無骨で、これこそまさに武器という風格がある。

 一瞬本物かと思ったが、持ってみると鞘から抜くことができない。

 

 同封された手紙によると、実は刃のついていない“模造刀”のようだ。

 ただし刃以外は本物の日本刀とまったく同じ工程で作られているとかなんとか。

 

 ……なんだか先制攻撃ができそうな気がする!

 

 (つば)の部分に鍵の役割を持つ仕掛けが組み込まれているため今は抜けないが、鍵のかけ方、あけ方は丁寧に説明書きがある。普段は鍵をかけて棚の上にでも飾っておけばいいだろう。

 

 それにしても、あちらの店長は前回の甲殻がよほど気に入ったようだ。

 今後とも当店をよろしくお願いいたします。

 また、アートな素材がございましたら、声をおかけください。

 

 という言葉で締めくくられている。

 素材が手に入ったら持ち込ませてもらおう。

 

「さーて、あとは」

 

 天田へのプレゼントを用意した!

 

 

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス 2F~

 

「ふっ!」

「ギッ!? ギィッ……ギ……」

「ふぅ……」

 

 模造刀を試してみた。

 

 とりあえずこの辺では十分に戦えているけど……正直素手のほうが戦いやすい。

 改善すべき点も山積みなのが分かる。

 刀を使うならこのあたりの階でもっと練習をすべきだ。

 刃がついてないから威力もいまいちだし……

 

「待てよ? 模造刀を芯にして、霧状のドッペルゲンガーで薄く包んで……刃はつけられるっぽいな」

 

 “保護色”で色合いもそれっぽくして、いい感じだ。

 いったん解除して、もう一度。手元から先端に向けてズルズルッと……おっ! 

 

 ドッペルゲンガーが包み込む速度に合わせて、刀身が黒くなっていく。

 

 武装色の覇気っぽい!!

 

 ワンピースの真似でテンションが上がった俺は、その状態で刀を振るう。

 刃がついた分だけ威力は上がった。

 さらにシャドウの攻撃を避けていたら、“斬撃見切り”と“貫通見切り”を習得。

 しかし残念ながら武装色の覇気は身につく気配すらなかった……


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