人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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97話 研究成果

 6月27日(土)

 

 放課後

 

 ~月光間学園・裏門~

 

 影時間に行うことを江戸川先生に伝え、部活は休止。

 ほかのメンバーには来週からの撮影のためとして、体調を整えることにしたが……

 

「さっきまで晴れてたのに……」

 

 梅雨真っ只中。

 あっという間に天気が崩れ、外は土砂降りの状態だ。

 高台でのんびりしようと思っていたのに、これじゃ外に出られない。

 

「葉隠君?」

「どしたの? こんなところでタッパー持って」

 

 あれ? 高城さんと島田さんだ。しかも制服じゃなくて弓道着?

 

「散歩かな……これは弁当の冷やし中華。そっちこそなんで?」

 

 ここはあまり人のいない区画なのに。

 

「私たちは部活の休憩中」

「ジュース買いに行くとこ。じゃんけん負けちゃってさー。あ、パシリとかそういうんじゃないからね」

「わざわざ訂正しなくても。というか弓道部ってここらへんにあったの?」

「そだよ? 知らなかった? ここらへん女子弓道部エリアって呼んでる子も結構いるけど」

「……ぜんぜん知らなかった、男子がうろついてるとまずかったりする?」

「まさか。女子高に忍び込んだわけじゃあるまいし」

「いやいや美千代ちゃん、実はまずいかもよ?」

 

 高城さんは問題ないと言うが、島田さんは異を唱えた。

 

「ん~……! 葉隠君、暇ならちょっと手伝ってくれない?」

 

 何を? と聞けばジュースを運ぶ手伝いだそうだ。

 

「俺が行っても大丈夫?」

「ちょっと入るくらいかまわないって。それとも一人で変なとこ歩いて“きゃー、こんな所に男子がー”とかやりたい?」

「それは絶対にごめんだけど、本当に大丈夫?」

「弓道場は大丈夫だよ」

「なんで私じゃなくて美千代ちゃんに聞くのさ?」

「……なんか企んでる気がするから」

 

 とはいえ本当に危ない事をする人とは思っていないので、ついていってみる。

 

 

 

 

 

 

 ~弓道場・正面入り口~

 

「立派な建物なんだな」

 

 位置的には運動部の部室棟から、さらにグラウンドを挟んだ先。

 校舎からだいぶ離れたところに弓道場は存在した。

 

「「ただいまー」」

「お邪魔します……」

「おかえりーって、なんで葉隠君までいるの?」

 

 そっと中へ入ると、いきなり弓道着の岳羽さんが出てきた。

 かと思えば、その後ろからさらに女子生徒がぞろぞろと……

 

「あっ! 葉隠君!」

「真田先輩と試合した子?」

「マジ!? なんかイメージちがーう」

「大人しめな感じだね」

「ねぇねぇ、どうしたの?」

「何か用なの?」

「いえ、島田さんに連れてこられまして……」

 

 張本人に話を振ると、彼女は右手を額に当て、軽い敬礼のポーズをとる。

 

「草食動物が無防備に歩いていたので! 捕獲してきたであります!」

「捕獲!?」

「でかした!」

「葉隠君、せっかくだし見学していきなよ」

「ジュースもあるよ」

「島田さんには功績を称えて……どうする?」

「えー? こういうときは二階級特進じゃない?」

「それ戦死の時!」

「てか階級とかないじゃん」

「まぁまぁとにかく入って入って」

 

 かしましい女子に囲まれて、弓道場に押し込まれる俺。

 弓道場における“射場”に座布団とジュースを出されて歓迎されているらしいが……

 

 右を見ると女子。

 左を見ても女子。

 正面にもやっぱり女子。

 

「……ねぇ、これどういう状況?」

「見てのとおりでしょ。葉隠君は真田先輩に勝って株が急上昇中なんだから、皆一目見てみたかったんだって」

「そうそう」

「学年が違うと接点ないしね」

「綺羅々ちゃんありがと! これあげる、特選イチゴクリームパン」

「ラッキー!」

 

 他人ならうらやましくも思える状況かもしれないが、いきなり放り込まれるとどうしていいかわからない。

 

「おやおや~? 緊張してるのかな?」

「……女子に囲まれることが無いもので」

「えー、つまんない」

「でも遊びまくってるよりは」

 

 一つの質問に答えるたびに女子の集まりがざわめいて、審議が行われているようだ。

 あまり居心地はよくない。早めに退散しよう……?

 

 女子の壁を越えた先に、こちらを哀れみの目で見ている男子が数人目に留まる。

 

「弓道部は男子もいるんですか?」

「男女で分かれてるんだけど、弓道場は共用。男子は六人しかいないからね」

「練習もいつも合同だよ」

 

 聞けば顧問も同じ先生なんだとか。

 ……さては彼らもこの状況に陥ったことがあるな。

 助けに入るつもりはないのか、練習を再開するようだ。

 

「へー……部活の顧問を掛け持ちなんて、先生も大変そうですね」

「そんなことないですよ」

 

 なにげなく呟いた一言に、隣にいた生徒が……生徒が……あれ?

 

 正面を向いてしっかりと見る。

 背丈は俺より少し低いくらい。

 髪を後ろでまとめたかわいらしい感じの人だが、どこかで見たような……

 記憶を探……っ!?

 

「……先生?」

 

 おそるおそる聞くと、彼女はニコリと笑い。周囲からは笑いが巻き起こる。

 

「やっと気づいた!」

「思ったより早かったね」

「ねー」

「あらためまして、弓道部顧問の篠原(しのはら)(しのぶ)です。一年は担当してないのに、よく分かりましたね~」

「朝礼のときに、教員席で見かけたのを思いだしまして」

 

 教師だと分かってから見ても、生徒と間違えそうな容姿だ……

 

「部活中のシノちゃんじゃ仕方ないって」

「だよねー」

「スーツならまだ先生って分かるけど、弓道着だともう見分けが、お腹痛い……」

「コラ~、そっちは笑いすぎです。外周十週追加しますよ~」

「ごめんなさーい!」

「もう……外周十週! は嘘ですけど、皆そろそろ練習始めますよ」

 

 賑やかな返事と共に、練習が始まる。

 知ってる顔も知らない顔もまじめに練習に取り組みはじめ、取り囲む女子はいなくなった。

 これはこれで俺はどうすればいいのだろうか?

 

「葉隠君はゆっくりしていていいですよ。それとも体験してみます?」

 

 ……もしよければ、体験してみたい。先生にそう伝えると

 

「それなら、八千代さーん」

「はい!」

 

 呼ばれてきたのは、安定感のある女子生徒。

 

「こちら三年の八千代さんです」

「いつも妹の美千代がお世話になってます」

「高城さんのお姉さんの……中間テスト前には過去問を貸していただいて助かりました。ありがとうございます」

「葉隠君が体験してみたいそうなので、教えてあげてくださいね」

「分かりました」

 

 それだけ言うと、先生はほかの生徒の指導へ。

 俺は八千代先輩からどこからか取り出した練習用のゴム弓を借り、弓道における“射法八節”の説明と実演。そして指導を受けた。

 

 “The 弓道”の知識に経験が加わったことで、知識が深まったのを感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス・エントランス~

 

 体調と装備を万全に整え、これまでで最大の実験を行う。

 それは“タルタロスの性質を利用した訓練時間の延長”。

 俺はこれを知らずに行っていた。

 

 しかし“体内時計”の習得後。

 正確な影時間と経過時間を知って以来は、この現象を体験していない。

 それは俺が影時間が終わる時間を知っているから。

 次の日の影時間に迷い込む可能性を恐れてのことだ。

 学生という身分において、無断欠席は好ましくない。

 ましてや理由を説明ができないのならなおさらだ。

 

 だからこそ、今日。

 明日が日曜である土曜の影時間ならば、明日に迷い込んでも問題はない。

 

 俺はあえて今日の影時間を越えるまでタルタロスで過ごす。

 そして自分の意思で今日の影時間中に外へ出られるかを試したい。

 

 なお、この実験のためにはまずタルタロスでしばらく過ごさなければならない。

 だからもう一つ、時間を利用して“バスタードライブの討伐”を行うと決めた。

 

 以前は力不足で撤退したが、今日までで俺も成長を実感している。

 さらにバスタードライブのみを対象にした対策も用意してきた。

 

 大丈夫。勝てる。

 

 気合を入れ直し、俺は転移装置に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~タルタロス・14F~

 

 広く、薄暗い廊下を前にして“望遠”で対象を観察。

 敵は前回と同じ一体。こちらに背を向けている。気づかれていない。

 

 隠密コンボを発動して、こっそりと接近。

 がら空きの背中に、開戦の炎を叩き込む!

 

「ゴロロ……」

 

 重い駆動音を響かせて、バスタードライブはこちらを向いた。

 鋭い突起が風を生み、車輪の動きが地面を揺らす。

 そして巨体についた仮面が俺を見下ろした瞬間、突起が足下をなぎ払う。

 

「ゴォ!」

「問答無用かっ」

 

 当然ながら、俺は敵と認識されたようだ。

 角度を変えて縦横無尽に、鋭い突起が振り回される。

 

 だが、当たらなければ意味がない。

 

リーチ(突起の全長)は把握してるっての!」

 

 あとは人間なら踏み込みにあたる車輪の位置。

 そして攻撃の基点となっている腰の角度に注意すれば軌道が分かる。

 おまけに突起で攻撃する時は、必ず腰を回転させなければならないらしい。

 回転が右回転か左回転か、それも攻撃を予測する助けになる。

 

 もはや単調にすら感じてしまう直接攻撃の連続。

 注意すべきは外した攻撃で削られて飛んでくる壁や床の破片。

 

「っと」

 

 退路の少ない壁際や、荒れた地面に足下を取られないことの方が重要だ。

 

「ゴォオオオ!!!!」

「! 本気になったか」

 

 バスタードライブの体からあふれんばかりの力を感じ、壁に刻まれる傷が深くなった。

 タルカジャだな。ならこっちも使わせてもらおう。

 

「“防御力五倍(エオロー・オセル)”“機動力五倍(エオー・オセル)”」

 

 左の手首に流したエネルギーが全身を駆け巡る。

 物理無効と反射があるため、攻撃力の強化は不要。

 代わりに

 

「“魔法防御力五倍(アンスール・エオロー・オセル)”! “魔法攻撃力五倍(アンスール・ウル・オセル)”! 食らえ!」

 

 体の内側で強まる力。

 

「ゴッ!?」

 

 次に放ったアギは一際大きな爆炎を生んだ。

 爆炎、バスタードライブの反応、共に最初との威力の差は歴然。

 

「っし!」

「ゴ……ッ!」

 

 突進、からの上!

 

「はっ!」

 

 アサルトダイブ、そういう攻撃があることは前回も見た。

 強化した機動力で、余裕を持って退避。

 飛んだシャドウの下をくぐりぬける。

 

 

 

 着地と同時の地響き。

 その中心には背を向けた敵。

 絶好のチャンスだ。

 

「ゴ」

「“アクア(・・・)”!」

 

 唱えた途端、かざした右手から水の塊が噴きだす。

 

 新しく習得した“()の攻撃魔法”

 ウル(力強い)ラグ()ラド(移動)での攻撃魔法実験に成功。

 そのままペルソナのスキルとしても習得した。

 これは2に存在したスキルなのが気になるが……

 

 3ではこの属性そのものが登場しなかった。だからか“耐性”も登場していない。

 

 ドッペルゲンガーにも水耐性はない。

 よって万能属性のように、どのシャドウにも効く可能性があると俺は考える。

 

「ゴフッ、ゴッ! ゴオオォ!!」

 

 少なくとも、バスタードライブには普通に効いているようだ。

 それとも急に水を浴びせられて怒っているのか? 

 真正面から突進してくる。

 

 ……格好の的だ。

 

「“感電(ソーン・ラド・イス)”」

「ゴカッ!?!」

 

 光が弾けた。

 左腕から放たれた雷がバスタードライブの胴体に着弾。

 大きなダメージは……なさそうだけど足が止まって、勢いのまま転ぶ。

 

「やっぱり使えるな」

 

 “感電”は雷の攻撃に停止を意味するイスのルーンを組み込んである。

 攻撃そのものよりも“感電”の状態異常を与えることを目的としたルーン魔術だ。

 しかもこの魔術、“アクア”で水をぶっかけてから使うとかなり高い確率で感電させられる。

 単体で使っても普通のジオよりは確率が高いと思うが……おっと。

 

「グギギ……」

 

 立ち上がってきたな。

 まだまだ足りないようだ。

 

「アクア!」

「ゴロルァアアア!!」

「っ!」

 

 咆哮と雷があたり一面に降り注いだ。

 手当たりしだいに放たれる雷は規則性がなく、なによりも速かった。

 

 これは……避けられない!

 

 次々と地面を打つ閃光が、俺の体を打ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……でも効かないんだな、これが」

「ゴッ!?」

 

 体を確認してみるが、特に傷ついたところはない。

 

 ジオ系の魔法を使うのも前回で確認している。

 だから雷から身を守るアクセサリーを、マハジオジェムを素材にして作ってきた。

 残念ながら無効化するほどの効果はないが、威力を軽減することはできる。

 

 ペルソナの耐性に加えて魔法防御のルーンで強化している今の状態では効かない。

 実験中に自分のジオを食らって確認したのだ。

 俺と同じかそれ以下の威力なら、もはや蚊の一刺しほどの痛みも感じない自信がある。

 

 物理攻撃は真田との経験とスキルを活かして回避。

 魔法攻撃はアクセサリーと強化で無効化。

 

 相手の攻撃を封殺しつつ、こちらは一方的に魔法で攻め立てる。

 これが今日の作戦。“ハメ技”。

 

「……というかこれ、番人シャドウの致命的な弱点だよな……」

 

 雑魚は弱いけど、多種類のシャドウが同時に出てくることも珍しくない。

 対して番人シャドウは複数出てきたとしても、種類は同じ。

 ゲームのように逃げられない仕様もないし、一度手の内が分かればこの通り対策ができる。

 

 この作戦は魔力の消費が多いけど……

 

「アクア! “氷結(イス・ラド・イス)”」

「ゴアアア!!!」

 

 水を浴びた上からの氷。

 感電と同じく、バスタードライブは瞬く間に車輪を凍りつかせて動きを止める。

 その間に“吸魔”で魔力の補給。ついでに“吸血”で体力も。

 この二つは万能属性だから耐性では防げない。

 動けなければ避けることも逃げることも不可能。

 

「さて……魔法の威力も上がっているし、今日は時間もたっぷりある。少しずつでも確実に削り倒させてもらうぞ」

「ゴ、ロロロロ……」

 

 言葉を理解しているのかは分からないが……

 俺にはバスタードライブが恐怖を抱いたように見えた。




影虎はアクアを習得していた!
アクアは過去作に登場する魔法です。


対バスタードライブ装備。

“ルーンストーンブレスレット”
効果:六つのルーン魔術が使用可能。

エオロー・オセル       防御力五倍強化三分
エオー・オセル        機動力五倍強化三分
アンスール・ウル・オセル   魔法攻撃力五倍強化三分
アンスール・エオロー・オセル 魔法防御力五倍強化三分
イス・ラド・イス       氷結
ソーン・ラド・イス      感電

“イエロートルマリンネックレス”
効果:雷の威力軽減


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