闇夜行   作:b blanche

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朝事と出仕

女の美貌を自身の手で、欲の赴くままに弄ろい蹂躙する。

未だ、醒めない眠気の中

己が目の前で、美女が羞恥に身悶え欲に染まり自身に行為の続きを期待する視線が向く

綾寧は、自分が拒否をしても津波の様に絶え間なく押し寄せる快楽に美しい貌を蕩かし崩す。

 

 

(愛していても慕っていても相手を自分の近くで‟認識”出来ないと俺は……

恥ずかしい話、寂しくて淋しくて苦しみで気が狂いそうになる)

 

だから、こうして‟時々”大切な存在…綾寧との関係を確認していた。

女には、自分の欲望を一方的にぶつけているのは理解している

だが、止める事が出来ない。

 

 

八幡は、自分の“何か”が正常な感覚から既に外れてしまっている事を認識している。

 

何時、‟壊れて”しまったかはわからない。

しかし、もう“どうでも”良い。

俺が…俺が、居られる。

綾寧さえ、この女だけ居れば他にもう……

 

胸中にある想いの一欠でも表に出せば、自身も幾許か報われるか

不器用な男は、残念な事に未だ上手く伝える事が出来ない。

男の事を良く見て理解しようと努めている綾寧には、隠せていないのだが……

 

 

眼前の光景に対し底意地の悪くもどこか嫌悪感を抱かせない笑みを浮かべ言葉を告く。

 

「おいおい。朝っぱら、んて顔してんだよ?

盛りのついた雌猫みたいになってんぞ」

 

 

己が所業の結果、女の痴態があると言うのに人事の如く嘯く。

声に眠りの跡は残るが、明瞭な意思で告げる。

 

「あと、おはようございます」

「ふきゅ、おひゃようごじゃいまふ」

 

呂律が、回らず知らない人間なら何を言っているか解らない返事が女の口から出る。

一瞬にして瞬間湯沸し器の様な湯気が出そうな顔になり

 

「うぅ、何で何でっ……」

 

と呻く。

流石にやり過ぎたと八幡も感じる。

 

(また、やっちまった)

 

無意識で、始めたとは言え自分に責任があるので泣きそうな綾寧を慰めるため言葉を紡ぐ。

 

「悪い。綾寧さん、可愛かったからつい手が出ちまった

反省してる、本当だ。許してくれ」

「ひくっ、本当ですか?可愛いって言うのは、嘘じゃないですか?反省してるんですね?」

 

(可愛いって言われるのは、嬉しいんだな)

 

何気無い、男の一言に喜び聞き返す

女の素直すぎる所に面映ゆくなる。

 

「本当だ、本当。はちまん、うそつかない」

「じ…じゃあ」

「じゃあ?」

 

男の反省を認めたのか、泣きそうになるのを抑えて“謝罪”を要求する。

上目遣いで、琥珀に似た瞳で八幡の姿を写す。

 

「前、買ってきて貰った大福が欲しいです。駄目ですか?」

 

潤んだ瞳で、見つめる。

無垢で、同じ人間か疑いたくなる様な雰囲気を放つ

男を魅了して已まない姿

 

(無意識で、之をやってんだよな?止めてくれ。まだ、朝だよ)

 

女の意識しない媚態に理性を削られながら八幡は、耐えて言葉を返す。

 

「了解。でも、そんなんでいいのか?

俺に遠慮してるとかなら辞めてくれよ?」

 

綾寧の文句や我儘を殆ど言わない大人しく自己主張の少ない性格を顧みて八幡は、問う

 

(性格以外は、自己主張が激しんだがな)

 

女の姿を改めて、頭の天辺から脚の爪先まで見やり思う。

 

「はい。とても美味しかったので…また、八っちゃんと一緒に食べたいんです。

駄目ですか?えへへっ」

 

男を惑わす事を綾寧が、再び口にする。

 

(これは、何かの拷問か罰遊戯か何か?)

 

目の前に喰えば、確実に美味い餌が鴨が葱を背負った状態で居るのに手を出せない。

そんな状況

 

(耐えろ俺。仕事、休んだら後が面倒だろ……)

 

理性と危機回避能力を総動員し欲望を抑える。

暫し、両者が揉みあい理性が勝利した。

 

「俺を起こしに来たんだろ?朝飯の準備は、終わってんの?」

「はい。大丈夫ですっ。

後、食器を並べて終わりです」

 

 

食事の用意や家事などは、勿論の事

税・法理などの家内の処理を卒なく熟す女に八幡は、改めて内心で感謝している。

 

「……その、ありが…とな?」

「ふふっ、良いんです。私が、やりたくてしてるんですよ?」

 

出会った頃から色褪せずくすみない艶・彩を放つ。

男の言葉足らずの感謝にも花が綻ぶ様に微笑む

感情が知らず知らずに躰に行動を起こさせる。

 

「あんっ、もう。擽ったいですよ~」

 

女の艶やかな髪に触れ頭を労わる様に撫でる。

言葉とは、裏腹に無垢な笑顔を八幡に向けた。

 

(他には何も要らない程、綾寧に惚れているな)

 

逢う以前の事、全てが今の男には‟どうでも”良い事の様になっていた。

 

「あ、あの。そろそろ、お止めになった方がよろしいかと……」

「んっ?」

「出仕のお時間の関係もありますし……」

 

知らぬ間に刻が、過ぎていた様で貌を赤らめた女が名残惜しそうに上目で告げる。

飽く迄、八幡の都合を考えているさまを感じさせた。

 

「……そうだな」

「…はい」

 

言外に感情を滲ませ互いの視線を交わす。

綾寧の見た者を虜にする蠱惑の瞳に吸い寄せらそうになるも感情を振り切る。

 

「先…先に……行っててくれ」

「はい」

 

女に退出するように告げ、寝台から起き上がる。

名残惜しそうに男を一瞥し、静々と先を行く女の手を掴む

その姿に心が呵責の念にも似る感情に突き動かされ綾寧の殆ど重さを感じない躰を掻き抱く。

 

「……っ今日は、直ぐに帰る…だから……」

 

八幡の言葉が、女の白い細指を唇に添えられて止まる。

 

「はい。お帰り、お待ちしてます。

でも、ご無理を…為さらないで……下さいね?」

 

男の言葉に淡く儚い雰囲気で、笑い返事をする。

八幡の手をゆっくりと撫でる様に触れて自身を解させる。

 

女の後ろ姿を茫洋と眺めていた八幡が、少しして言葉を零す。

 

「…弱くなったな。本当に……」

 

独り呟き、朝の支度を始めた。

 

朝食を終え、仕事に向う頃合になった。

緩い部屋着に躰の線を隠せない綾寧が八幡の見送に玄関まで来る。

 

「あっ…あの……」

「何?」

「えっと……、忘れ…物です」

 

扉を開け、外出しようとする八幡に後ろから淋しさを滲ませた綾寧の声が掛かる。

 

(弁当はあるし…書類も特に今日はなかったよな?)

 

自分にも相手も落ち度が無く、不思議に思う八幡

念の為、腰を屈め革包の内側を確認する。

彼が、探し出すと不意に甘い女の香と共にゆっくりと影が落ちた。

 

「何かよ……っふ」

「あ…むっ」

 

影を落とされ手元の暗くなった八幡が、影の主に問おうとするが質は途中で遮られた。

音も無く近くに寄っていた綾寧が、探し物の為に屈み頭の低くなった

男の顔に撫でる様、手を沿えて唇を吸う。

 

「…今日も……その……お仕事、頑張って…下さいね……?」

 

触れた時間は、短くとも深く繋ぐかの如くゆっくりと離し

綾寧は、目を細め心を八幡に伝え

後ろ出に下がった。

 

事に惚けながら八幡も頷き返事をする。

 

「あぁ…、行ってき……ます」

 

恥ずかしそうに頬を掻きながら男は、女の相貌を見やる。

綾寧は、嬉しそうに微笑み告げた。

 

「はい」

 

一日が、始まる。

 

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