「いつもいつもごめんなさい……白崎さん」
「また謝って……別にいいって」
桜の花びらは無くなり、緑の葉が生えてきた頃だった。
「でも白崎さんは他の生徒と顔を合わせたくないんでしょ?」
「だって女子校にこんな若い男が居るって保護者に知られたら何て言われるか分からないだろ?……けれども庭師っていう仕事柄植物の事は詳しいから園芸部には顔を出してたんだ」
「それは園芸部の人に捕まったの?」
「……去年な」
「意外におっちょこちょいですね白崎さん」
あの少女は俺に対して一切暗い表情をせずに接してくれた。
「うるさい、もう車椅子押さねえぞ」
「ああ、それは困ります」
「別にここの生徒なら押してくれる人は居るだろ」
「……はい、ですが押そうとしてくれる方が余りにも多いので……」
「俺は厄介払いか?」
「……」
「っていうかお前の車椅子を押してからやけに相談に来る人が増えたんだがお前のせいか?」
「いえ……ただ私が優しくていい人が生徒相談室にいらっしゃるってファンクラブの方達に言っただけで……」
こんなにも俺に明るい顔をしてくれる人は今までにいただろうか……。
「お前のせいじゃねえか……いつかファンクラブの奴らに殺されそうだな」
「良い方ばかりなのでそれはないと思いますよ」
あの時はいつも彼女と桜並木を堂々と歩いていた。 いつかは思い出せないけどあの時はかなり目立っていたと俺は思う……彼女は明るく優しく何の欠点も無かった……一つだけ足が動かないというのを除けば。
「眠い……」
5月に入った頃、俺はいつもよりも遅く起きていた。 昨日は優雨の前で描いていた絵が大詰めで夜遅くまで描き続けてしまい朝起きるときかなり遅くなってしまった。
ちなみに絵を描き終わった後は絵の具を片付けた後そのまま椅子で寝てしまい体のあちこちが痛い……背骨がギシギシと嫌な音を出す。
「あ、絵を移動しないと……」
ゆっくりと体を持ち上げて絵をイーゼルから床に置く。 床にはびっしりと肖像画がタイルのように規則正しく置いており、自分で言うのも何だがかなりシュールだ……どこかに飾る場所が欲しいが流石に言っても無理だろうしどうしようか……。
「……とりあえず自分のアパートに運ぶか。 流石に多すぎるし」
俺はいつも聖應女学院にいるが、アパートを一つ借りている。 住所的な意味で言って暮らしているのはあっちのアパートだが聖應女学院とはやや距離が開いており、行くのが面倒臭く、宿直室に大体の物は揃っていたので宿直室に居る方が圧倒的に多く。 二週間に一度アパートに掃除に行くぐらいになっていた。 中には何も無かったし絵を置いとくスペースは十分にある。
「……う~ん、じゃあアパートに持って行く絵を決めておくか……」
とりあえず今日は自分の仕事を全くしないで自分の趣味の管理に精を注ぐことにした。
とりあえず絵を運ぶために絵画一つ一つを紙で包んでいたところ。 生徒相談室の扉が慎ましく開いた。 開けたのは片目が髪で覆い被さった少女……優雨ちゃんのようでこっちの様子をジッと見ている。
「……りく、なにしてるの?」
「ん? ああ優雨ちゃん。 こんにちは」
「こんにちは……絵、すてるの?」
「ん? いや、俺の家に運ぼうと思ってな。 流石に自分が頑張って描いた絵を簡単に捨てられないよ」
優雨ちゃんは絵画一つ一つを紙に包む俺を見て「絵画を捨てようとしている」という結論に達したようだ。どうしてそう思ったのか不思議に思うがどうでもいい事なので口に出さない事にした。
「家に?」
「そう……とは言ってもそんなに大きくないアパートだし、いつもは宿直室で寝泊まりしてる身だけどな」
「……?」
優雨ちゃんは俺の説明を聞いてやや不思議そうな表情をしている。
「それって寂しくないの?」
「寂しい?何でだ?」
「……だってこんなに広い校舎の中で一人で寝るって……寂しいと思う」
「広い校舎……?」
彼女の中では俺は広い聖應女学院の端っこで一人寝ているようなイメージのようだ……そう考えるとなんかやだな。
「寂しいとは言われてもこれが日常だし別に何とも思わねーよ」
「……本当?」
優雨ちゃんが何故か心配そうな顔をして俺に話し掛けてくる。 彼女にとっては一人で寝るという事は心配になるような事なのだろうか? やっぱり優雨ちゃんの事がいまいち分からない。
「ああ、本当だ……そういえば何しに来たんだ?」
「……ちょっと、お話がしたくて」
「まあ、いいよ付き合ってやる」
「……ありがとう、りく」
俺は紙で絵画を包む作業を止め、紅茶を用意する為に立ち上がった。しかしお話ね……女子高生と話すような内容、あるかな?