処女はお姉さまに恋してる 陰の庭師   作:雹衣

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7月 ある騒動の始まり

「いや、まさかお前がね~」

「本当ですよね……何で私が」

 

 中庭にあるベンチに俺と少女が座りながら話していた。

 

「いや、お前ならなりそうだとは思っていたけど本当になったのには驚いたよ……」

「もう……陸さんは……」

 

 少女はそう言いながら恥ずかしそうに笑った後に顔を伏せる。

 

「ですが、私程度の人間がエルダーで良いのでしょうか?」

「別に良いんじゃね?」

「え?」

 

 俺が少女の疑問に一言で答えると、少女は目を丸くして驚いていた。

 

「別に良いんじゃん。 お前はエルダー自体は満更でも無いんだろ?」

「え、ええ……まあ」

「じゃあ良いじゃん。 最初から投票率一番多かったし」

「ですが……」

「もう……聖應の生徒達はみんなお前を選んだ。 だから堂々としてろよ、な?」

「……はい!」

 

 その時の少女の顔の笑顔は相変わらず可愛かった。 ……なのに俺は忘れてしまった彼女の名を彼女の顔を。

 

 

 

 

 

 梅雨があけて約3日、聖應女学院ではプールの授業が始まったようだ……とは言っても聖應女学院のプールは室内プールなので誰かに見られる心配をせずに中庭で草刈りをしていた……のだが

 

「……暑い」

 

 誰かに見られる心配は無いのだが流石7月、かなり暑い。 外に居るだけで汗が出てくる。

 

「……やっぱ無理、休憩」

 

 独り言をぼやきながら中庭のベンチに倒れるように座る。 そして用意しておいた水筒を使い、水分補給を行う。 脱水症状で病院に運ばれるとか笑えないしな。

 

「この季節の草はさぼると直ぐ伸びるし……面倒くさいな」

 

 絵を描く時間が削られるな~っと思いつつベンチから腰を上げ草刈りに戻るのであった。

 

 

 

 

 

「……?」

 

 中庭の草刈りを終え、学生寮の近くの草を刈っているとき俺はある物を見つけた。

 

「……石?」

 

学生寮の扉の近くに石……のような物が落ちていたのだ。 綺麗な楕円形で緑色の石だ。 この石は明らかに周りの雰囲気と合っていない。 なんかこの石だけ特別……というか異常な感じが俺にはした。

 

「綺麗だし貰っておくか」

 

 俺はそう呟き、石をズボンのポケットに突っ込んで草刈りを続行していた。

 

 

 

 

 

 4時間目終了のチャイムがそろそろ鳴りそうなので俺は宿直室に戻ることにした。 昼食で生徒が外に出てくる可能性を考え、急いで戻っていたが……

 

「りく?」

「ん?ああ、優雨ちゃんか」

 

 花壇を通る所で下駄箱から出てきた優雨ちゃんに見つかってしまった。 流石に話し掛けられておいて、無視するわけにはいかないので優雨ちゃんの居る方に向かう。 それを見てか優雨ちゃんもトテトテと俺の方へ向かって来た。

 

「何か急いでた?」

「いや、ただ中庭を使う生徒に出会わないように早く戻ろうとしただけさ……優雨ちゃんは?」

「ちょっと、熱っぽくて……」

「早退か?」

「うん……」

 

 そういえば頬が赤いかもしれないな……。

 

「ま、寮まで送ってやるよ」

「いいの?」

「ああ、どうせさっきまで仕事をしていた場所に戻るだけだ。 大して問題ない」

 

 寮は目と鼻の先だし、ここで風邪気味の少女と「はい、さよなら」では罪悪感が湧く。 俺は優雨ちゃんの隣に立ち、一緒に歩くのであった。

 

 

 

 

「ばいばい、りく」

「ああ、さようなら」

 

 大して長くない距離ながらも俺は優雨ちゃんを見送った。 一応お嬢さま学校だし、あいさつとかに疑問を持った方がいいのだろうか?とは思ったが、「ま、優雨ちゃんだしいっか」と頭の中で勝手に解決し、宿直室に戻ろうと歩を進める。 その時4時間目の終わりを知らせるチャイムが聖應女学院に鳴り響いた。

 

「やば!」

 

 優雨ちゃんを送るのに予想以上に時間が掛かっていたのか……等と考えながら急いで宿直室に俺は戻る。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 宿直室に花壇の裏の扉から入り、息を整える。

 

「久々に走った……!」

 

 ハッキリ言って、俺に運動能力は大して無い。 聖應女学院の庭師とは言っても実の所、宿直室で昼寝をしたり生徒相談室で絵を描いていたりもするので、案外力は付かないのである。

 

「ま、今日の仕事は終わりでいっか……さ、絵を描こう!」

 

 俺は息を整え終えるとハサミなどの道具を置き宿直室を出る。 さて、昨日の絵の続きっと……。

 

 

 

 

 

 中途半端な少女の絵の前に俺は座り頭に知らない少女の姿を思い浮かべようとした。 だが……

 

「あれ?」

 

 おかしい、いつもなら浮かび上がっている黒い線が見えなくなっている。

 

「おかしいなぁ……」

 

 俺は下書きを完全に「目」任せていた為にまさか黒い線が出てこなくなるとは思っていなかった。

 

「これは困ったな……」

 

 最初は不気味で早く見えなくなることを祈っていたが、いきなり見えなくなると今は困る。 絵を描くのは今の俺の唯一と言って良い程の趣味なのだ。

 

「どうしてだ?」

 

 俺は独り言を呟きながらもう一度絵の少女の事を意識するが直ぐに集中が出来なくなる。

 

「熱!?」

 

 何故なら俺のポケットの辺りが急に熱が発生したからである。

 

「確かポケットには……」

 

 何か入れてたっけ?っと思いつつポケットに手を突っ込む。 するとそこには白く輝いている楕円形の石があった。

 

「え、何これ!?」

 

 何年もオカルトと付き合ってきた俺だが流石にこんなのは初めてである。 俺は石を投げ捨てようとしたがその前に俺の体は光に包まれ、俺の意識は一瞬で消えた。

 

 

 

 

 

 どれくらい時間がたったのか自然に俺は目を覚ました。

 

「ん……」

 

 どうやら椅子から落ち、生徒相談室の床で倒れていたようだ。

 

「……そうだ!石は!?」

 

 俺は慌てながら周りを見渡して石を探す。 石は俺の倒れていた隣に落ちていて、拾った時と変わらない緑色をしている。 ヘタに触ってまたおかしなことが起こるのを恐れ、石を放置することにした所で、俺は有ることに気づいた。

 

「俺は何故聖應女学院の制服を着てるんだ?」

 

 そう俺はいつのまにか真っ白な聖應女学院の夏服を着ていた。 俺は自分の姿を確認しようと生徒相談室の窓に近づく。 するとそこには

 

「妃宮……千早?」

 

 前年度エルダーシスターが驚いた顔をして立っていた。

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