「一体どう言うことだよ……」
俺はガラスに映った自分の姿にため息をつきつつ状況を整理しようと周りを見渡す。 キャンバスの上には描き掛けの絵。 間違いなく俺がさっき描こうとしていた絵だ。 だから別に「タイムスリップしました」とかは無さそうだっと勝手に結論付ける。 流石にタイムスリップとかしてたら俺の精神が保たないのでそうだと願いたい。 そして壁に掛かっている時計に目を向ける。
「午後1時……」
まだ4時間目が終わった直後、つまりそんなに時間は経っていない……と思う。
「という事は問題はこの姿だけだな……」
俺は目線を下に落とす。 すると真っ白な聖應女学院の夏服で、女性特有の盛り上がりが視認できる。
「……はぁ」
これが一番の問題なんだけどな……。
「とりあえずどうしようか……」
俺は椅子に座り、ため息を一つついた。 ついさっき俺は体が元に戻るかもしれない!と思い石に触れたが何も起こらず、むなしい気持ちになったのだ。
「この体も良いと言えばいいが……」
椅子に座りつつ自分の腰に触れる。 くびれが有り、まさしく女性が憧れる身体って感じだ。 ……ちなみに胸等にも触ろうとしたが俺のプライドのような物が欲望を勝りまだ触っていない。
「やっぱり違和感があるな……というか違和感しかないな」
説明し辛いが何か違うのだ。 他人のハサミを借りて使うような感じかな?そんな違和感があるのだ。 まあわかりやすく言うと何か気持ち悪いから早く元の姿に戻りたい。
「……やっぱこういうことはケイリに聞くか」
とりあえず俺はこういう事に詳しい人物に話を聞くために生徒相談室から出ようとする。
「……そういえば卒業生が制服着てるっておかしいな」
まあ、卒業生が遊びに来たってくらいに思ってくれるだろうと俺は事を甘く見つつ生徒相談室の扉を開けた。
昼休みに生徒達の居る方に行くのは初めての気がする。 いつもは生徒相談室や宿直室に居るか、外に買い物に出ている。 つまり沢山の生徒達の所へ行くのはかなり珍しい。 俺は生徒相談室の前でケイリの居そうな所を考え、どうやったら素早く生徒相談室へ戻れるかを考えていた……が。
「ケイリって普段何してんだ?」
残念ながらケイリが昼休みに居る場所なんて俺は知らない。 こうして考えると俺はケイリの事は何にも知らない。 ……流石に1年ちょっとの付き合いで、ケイリが生徒相談室に遊びに来る程度だしな……と頭の中で言い訳をする。
「じゃあ、とりあえず食堂に行くか」
昼休みだし、昼食を食堂で食べているかも知れないっと俺は思い、とりあえず食堂に向かうことにした。 俺はその後この考えを後悔する事になるとも知らず。
「あ、あのもしかして、千早お姉さまで御座いますか?」
「……え?」
さて、生徒相談室から出発し約2分後、人の居ない廊下をコソコソと進んでいると後ろから少女に話し掛けられてしまった。 俺がそっちを向くと案の定聖應女学院の少女がこっちを目を輝かせながら見ていた。
「いや……別人じゃないか?」
「ないか?」
俺がの何時もの口調で返すと少女が首を傾げていた。 あ、流石にこの姿で「妃宮千早」と別人は無理があるな……と俺は思い、出来るだけお嬢様っぽくしようとする。
「い、いえ! 私が妃宮千早で御座います」
俺は出来る限り女性の様な声にしようとして気がついた。 そういえば声も「妃宮千早」になってるな。 まあそれはそれとして少女は俺の言葉を聞くと目をさらに輝かせて俺に話し掛ける。
「やはり!千早お姉さまですね! 何時こちらに入らしたんですか?」
「え、えぇ……ちょっと暇が出来まして……」
俺は「妃宮千早」の事情は全く知らないので曖昧に答える。 そういえば「妃宮千早」は大学行ったんだっけ? それなら案外適当に理由を作っても何とかなりそうだなっと随分勝手な事を考えつつ少女からどう離れようか考える。
「そうですか、では私はここで……さようなら千早お姉さま」
「えぇ、さようなら」
俺がどうしようか考えていると少女が勝手に去っていった。 人気の無い廊下に居たし、もしかして何か用事が有ったのかな?とは思いつつも心の中で安堵する。
「……何とか大丈夫だったかな?」
最初はかなり危なかったが何とかバレないで済んだな……なんて俺は思っていた。
「正体が俺だとバレて彼女の迷惑にならないようにしないとな」
彼女とは「妃宮千早」の事である。 俺は彼女の事を大して知らないが今は彼女の姿なのだ。 大きな騒動を起こして、彼女の評判を下げないようにしないと……。
「……けど騒動にはなりそうだな」
俺はため息をつきながら食堂に向かうのだった。 まあ、ケイリを探すだけだ。 騒がれたら直ぐに帰れば良いんだ。 この数十分後、俺はこう感じた……生徒相談室でケイリを待っていれば良かったと。