「千早お姉さま? どうして此処に? っというか何故制服を……」
陽向が俺を見てやや呆然とした感じで話しかけて来る。 ……やばいな、今まではエルダーらしい態度でやり過ごしていたが、陽向は寮生で「妃宮千早」と一つ屋根の下で暮らしていた。 ……つまり、俺の「妃宮千早」について知らないことを聞かれるとかなり困る。
「え、ええ……ちょっと暇だったもので」
「へ、へー……ところでお姉さま。 何で制服着てるんですか?」
陽向はいきなり困る質問をしてくる。 まあ、卒業生が制服を着ていれば誰でも疑問に思うだろう……何故か今までは何も言われなかったが。
「え、え~っとですね……。 ちょっと昔の気分を味わおうかな~……なんて」
俺はかなり無理がある言い訳しかできなかった。 そのせいか陽向もどう答えればいいか困っているようだ。
「あ、あははは……そういうときも有りますよね」
「え、ええ」
うっ……陽向の乾いた笑いがかなりキツい! 俺がこの後、どうしようか迷っていると綾と目が合う……そうだ。
「ところで陽向?」
「はい、何ですか? 千早お姉さま」
「その隣の子は誰かしら? 私には見覚えが無いのだけれども」
「え!? 私ですか?」
いきなり話を振られ戸惑う綾。 ……綾には可愛そうだがそのやや人見知りな所を利用させてもらおう。
「あ、千早お姉さま。 この子は桜花 綾って言いましてですね。 今年寮に来たピッカピカの一年生何ですよ!」
「そうなの、宜しくね綾」
「あ、はい! 宜しくお願いします! 千早お姉さま……ですよね?」
綾が俺に話を振られた事で見事にテンパったのを陽向がカバーする。 うん、俺の予想通り話をずらすことが出来た……気がする。
「ええ、今は大学一年の妃宮千早と申します。 去年はあなたと一緒の寮で暮らしていたわ」
「え……ああ、そうなんですか」
綾は「妃宮千早」の事を知らないのか……なら適当に言っとけば何とかなるかな?
「もしかして、優雨お姉さまの言っていた「ちはや」って……お姉さまですか?」
あ、優雨ちゃんから聞いているのか……適当じゃ駄目じゃん。
「え、ああ……優雨ちゃんね……」
「優雨……ちゃん?」
陽向が俺の言葉を聞き首を傾げながら反復する。 ん?何かおかしな事言ったかな?
「千早お姉さま、優雨ちゃんの事「優雨」って呼んでませんでした?」
「え……あ!」
しまった。 優雨ちゃんの呼び方を間違えた。
「え? あ、ああ……優雨、優雨ね」
俺はこのミスに見事動揺し、何も言えなくなる。
「千早お姉さま……ちょっと大丈夫ですか?」
「え、ええ……大丈夫よ、大丈夫」
陽向が本当に心配そうな目を向ける。 どう言い訳をしようか考えていると対策を精一杯考えていると廊下にチャイムが鳴り響く。
「あ、陽向。 もう教室に行かないと行けないんじゃない?」
「え、ああ、では千早お姉さま……ごきげんよう」
陽向が不安そうな目を俺に向けつつ。 綾と2人で教室に戻って行くのを見て俺はため息を着く。
「やっと去っていったか」
陽向がこっちを時々見ながら去っていく。 そんなに心配にされてるのか……。 俺は陽向の様子を見送った後、落ち着きを取り戻しながら宿直室に戻るのであった……。
この後にケイリ聞いた所、教室はかなり大騒ぎだったそうだ。 「千早お姉さまが聖應女学院に来ている」といった感じの内容らしい。 まあ、そんな事は知らず5時間目の間は生徒相談室にずっと居た。
「……暇だ」
だが問題が有った。 俺は生徒相談室に居たらずっと絵を描いているのが基本だ。 なので今さっきも絵を描こうとしたがキャンバスに線が見えるようにはならなかった。
「まだ見えないのか……」
どうやら石が光った時から俺の能力は使えないようだ……俺に取って唯一の趣味が無くなり、呆然としていたら5時間目終了の鐘が鳴ったのであった。
「暇だし、ちょっと外にでも出ようかな……」
6時間目が始まった頃、俺の我慢は限界に達していた。 俺は何もしないで1時間近く椅子に座っていたのだ。 流石に何かしたくなってくる。 それで思いついたのが外に出ること。 ケイリを探すことは出来ないが、見た目は「妃宮千早」だし、元の俺の姿よりも自由に行動出来るだろう。
「別に中庭辺りを散歩するだけだし……別に良いよね」
良し、ちょっと気晴らしにでも中庭に行くか。 思い当たったら即実行。 俺は裏口から外に出るのであった。
花壇には赤や黄色、紫など色とりどりの花が美しく咲いている。 俺は花壇の縁にしゃがみながら観察をする。 その時にスカートの位置を直すのに四苦八苦したが何とかスカートの中身が見えないようにした。 そういやスカートの中身って何だろう……下着?
「ってそんな事はどうでもよくて……」
俺は意識を花壇の方に映す。 確かこの花は牡丹だっけか?なんて思いながら、ほのぼのと花を観察する。 こんなに和やかに花を眺めるのは久々だな……。 しばらく花を鑑賞し癒された後、俺は思った。
「そうだ、石を拾った場所を調べれば何か有るかもしれない」
そう思い寮の方に足を向ける。 頭の中では現実逃避するなと思う自分がずっといるが、少しくらい逃げさせてくれ。 まさか別人の真似をするのがあんなに疲れるとは思って無かったんだ……。
桜並木を1人でゆっくり歩きながら寮を目指す。 桜の木は緑色になり、木陰が出来てて涼しい。
「周りに生徒が居たら「まあ、何て絵になるような光景なんでしょう!」とか言うんだろうな」
俺は頭の中で適当な事を考え、苦笑する。 俺はなんだかんだ言って今楽しんでるな~っと思いながら寮に向かった。
寮の前に着き、寮の扉の所で何かないか探す。 とは言っても何を探すのかすら分からないので直ぐに探すのをやめ、扉の前に座り込む。
「……はぁ」
俺はため息を着きながら空を見る。 梅雨明けした真っ青な空に太陽が輝いている。
「……暇だ」
ホント何もすることが無いなぁなんて思っていると窓から誰か見ているのが見えた。 あ、優雨ちゃんが居た。
「……」
「……」
優雨ちゃんと思いっきり目が合う。 すると優雨ちゃんは窓から見えなくなる。 そしてその後に階段の音が聞こえ始める。 この時俺は思った……一時間位我慢してた方が良かったんだと。