処女はお姉さまに恋してる 陰の庭師   作:雹衣

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7月 エルダー騒動 その5

 さて、そのまま少女と共に歩き俺は食堂に着いた。 プールに行くには食堂の二階にあるテラスを利用しなければならないのでここまでやってきた。

 

「……しかし、1日でここにもう一回来なくちゃいけなくなるなんて」

 

 俺はため息を着きながら独り言を呟く。 食堂には放課後だからか人は居なかったがここに来ると何か落ち着かない。 そんな事を思いながら食堂を歩いていると後ろから少女が話しかけてくる。

 

「ち、千早様」

「ん?」

「千早様はケイリさんに一体何の用なのですか」

「あ、あ~」

 

 どうしよう、ケイリと会う理由か……普通に友人に会うためって事でいいかな。

 

「ケイリにちょっと会いたくて」

「それならわざわざ学院に来なくてもいいのでは」

「うっ……正論」

「千早様……もしかしてそれ以外にも何か理由が?」

「……」

「千早様?」

 

 ヤバいな……やっぱ暇だったからとか言うか。

 

「それは、ちょっと大学で暇が出来て……」

「千早様、今日は大事な講義が有って忙しいと朝仰っていましたよ」

「……」

 

 あれ、この子「妃宮千早」とかなり親しいのか?どうしたもんか……

 

「その話は後でするわ。 それよりも私はケイリに会いたいのあなたも着いてくる?」

「千早様、逃げましたね」

 

 この子はどう扱えばいいんだ……。 っと悩みながら俺はプールへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、千早お姉さま!」

 

 俺は更衣室を通らず、制服のままプールに向かう。 水着は無いのだからしょうがない。 そしてプールに着いたら予想通り水泳部の子達に驚かれた。 俺はもう「千早お姉さま」と言われるのには流石に慣れた……慣れって怖いね。

 

「ねえあんな所に千早お姉さまが」

「え?まあ!本当ですわ!」

 

 「千早お姉さま」って言われるのには慣れたが、やっぱ騒がれるのは苦手だな……にしてもケイリは何処だ? なんて考えていると後ろからカチューシャの少女が小声で喋ってくる。

 

「千早様、私がケイリさんを呼びに行きましょうか」

「あら、いいの?」

「はい、私は千早様の侍女ですから」

 

 何やらカチューシャの少女が目から「キラン」と光が出そうな顔でこう言った。 次女?「妃宮千早」って妹が居たのか、初めて知った。 けど名字が「妃宮」の人ってこの学院に居たっけ?

 

「分かったわあなたを私の妹として頼むわね。 ケイリを探してきて」

「はい、畏まりました」

 

 そう言うと少女は何故か少し嬉しそうに俺から離れていった。 なんだ、あの子は「妃宮千早」の妹だったのか。 だから知らないって言ったときにあんなに驚いた表情をしてたのか。

 

「あの、千早お姉さま。 私の泳ぎを見てもらえませんか?」

「あ!なら私も」

 

 さて、妹が去った後も俺の周りには水着の少女達が沢山居て口々に話しかけてくる。 まあ、ケイリは見つかるだろうし俺はのんびりと少女達と対応してるかな。 ……良く思ったら聖應女学院の人たちのスク水って久々に見るな。 ……久々?いつ見たっけ?

 

「千早お姉さま! これから泳ぐんで見ててください!」

 

 少し昔のことを考えているとスタート台に乗っている少女が俺に話しかけてくる。 俺はその声の方向に笑顔で手を振り返事をする。

 

「ああ、何て美しい」

「綺麗ですわ……」

 

 俺の様子を見て周りの少女達から声が挙がる。 やっぱエルダーって大変だな……っと俺は心の中で苦笑していた。

 

 

 

 

 

 周りにいた少女達に見学したいと言うと。 プールに置いてあるベンチに誘導された。 そういえばケイリは何処に居るんだ?プールに居るのに見つからないのか。 と思いつつ泳いでいる少女を眺める。 ま、ケイリは「妃宮千早」の妹が何とかしてくれるだろう。

 

「千早お姉さま! どうでした?」

 

 俺の近くにさっきまで泳いでいた少女がやってくる。 水で濡れていて見る場所に困る。

 

「ええ、とても良かったですよ」

「本当ですか!」

 

 俺が褒めると顔を赤く染めながら喜ぶ。 自分が「妃宮千早」じゃないことに罪悪感が湧くが、少女が喜んでいるので良しとしよう。

 

「千早お姉さま! 私も見てて下さい!」

「あ、私も~!」

 

 俺が少女を褒めていたのを見ていたのか、他の少女達が口を開きながら、プールに向かう。

 

「そんな急いで泳ごうとすると危ないですよ」

「あ、はい!」

「すみません、千早お姉さま」

 

 スタート台に行く少女達を見て俺は微笑んでいた。 ……あれ、何か「妃宮千早」で有ることに違和感が無くなって来たな。

 

「じゃあ、用意」

 

 そんな事を思っていると、水泳部の顧問らしき人が合図をしようとする。 ……ん、何か俺に一番近い子が緊張してるな。 大丈夫か?

 

「ドン!」

 

 そんな心配をしてるとスタートの合図がされ、一気に少女達がプールに入っていく……のだが。

 

「きゃっ!?」

 

 緊張しまくっていた少女が見事スタートに失敗し周りに遅れて、プールに入る。 そして潜ったはいいが中々上がってこない。 まさか……

 

「……足を吊った!?」

「千早お姉さま!?」

 

 俺はとっさにプールサイドを走った。 少女達が悲しみに暮れるような事は起こらないでくれ。 俺が何時かに思った事が頭をよぎりながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はその後、制服のままプールの中に入った。 聖應女学院の生徒としては思いっきりアウトな行動だが目を瞑ってほしい。 その後、プールの中にいる少女をお姫様抱っこという奴で一気に持ち上げ、プールサイドに居た水泳部の子たちに手伝ってもらいプールサイドに少女を置いた。 俺の予想通り、彼女は右足が吊って身動きが取れなかったようだ。 少女は足以外は大した怪我もせず無事であり今はベンチに俺の隣に座っている。

 

「あの、千早お姉さま。 すみません、わざわざ私の為にこんなしてくださって」

「別にいいわ、私が助けなくてもあなた達の顧問が助けてくれたと思うし」

 

 実際水泳部の顧問も溺れかけているのに気付いて、直ぐプールに入ろうとしていた。 ただ俺の方が距離が近かっただけだ。

 

「ですが! 千早お姉さまの服がこんなに濡れて!」

「いいわよ、服なんて日に当てれば直ぐに乾くわ」

 

 俺は中々ワイルドな事を言っているが、少女にはかなり罪悪感が有るようだ。 ちなみに薄い夏服からピンクのブラやパンティが透けて見えている中々可愛い下着だな。

 

「何にせよ、あなたが無事で良かったわ」

「千早お姉さま……」

 

 俺が少女に微笑みながら言うと、少女は顔を真っ赤にして俺を見つめてくる。

 

「何か良い雰囲気になってるね。 千早」

「……ケイリ!?」

 

 少女と見つめ合っていると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。 振り向いてみるとそこにはブルネットの髪の少女……つまりケイリがスク水で立っていた。

 

「ごめん、千早。 ついさっきまで生徒相談室に人を探しに行っててね。 水泳部には遅れて来る予定だったんだ」

「はあ……」

 

 って事はプールには居なかったのか。 「妃宮千早」の妹には悪い事をしたな。

 

「千早様、ケイリさんも」

 

 妹の事を気にしているといつのまにか妹が隣にやってきていた。

 

「すみません、千早様。 ケイリさんなら部活に行っていると思ったのですが」

「別に気にしなくていいわ。 最終的にはケイリに出会えたのだし」

「そうだ、千早。 シャワーは浴びないの? 風邪を引くよ」

 

 俺はケイリの指摘にシャワーを浴びてなかった事に気がついた。 ……まあ、俺が「妃宮千早」の裸を見たくなくて遠慮したのだが、ケイリが俺を見ながら怪しい笑みをしている。 何か感づいているのか?

 

「じゃあお言葉に甘えましょうか」

「千早様!?」

「史も一緒に来る? 私を探し回って居たらしいね」

「いえ、私は遠慮し……ではなくて千早様、大丈夫ですか?」

 

 

 妹が俺に小声で聞いてくる。 体の事を聞いてるのか?

 

「ええ、大丈夫です。問題ありませんよ」

「じゃあ、行こうか千早」

「ええ」

 

 ケイリに連れられ、俺はシャワー室に向かう。 ……何だろう、ケイリの笑顔がやはり面白い物を見る顔になっている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「災難だったね陸」

「やっぱり気付いていたか」

 

 聖應女学院のシャワー室はシャワーが個別になっている。 俺は適当な個室に入り、シャワーを浴びる。 ちなみに下は極力見ないように上をずっと見ている。 ちなみにケイリは個室の扉の前に居るようだ。

 

「どうして気付いた?」

「生徒相談室に行ったときかな?変な力を持った石があって、陸の姿が見当たらなかったからね。 そして、石の力の痕跡を追ったら陸の元にたどり着いたんだ」

「じゃあ「妃宮千早」じゃないって気付いた証拠は?」

「魂の形が「妃宮千早」とは違っていたからね。 見た目は「妃宮千早」だけど中身はまんま「白崎陸」だったからね」

「……」

 

 ケイリの理由に俺はため息をついた。 何というオカルトパワー、ケイリ恐るべし。

 

「そうだ、陸。 陸が拾った石の力、教えてあげようか?」

「分かるのか?」

 

 ケイリって何でも分かるのか……っと思いつつ知りたいのでケイリに催促する。

 

「じゃあ、教えてくれ」

「単刀直入に言うと「理想の結晶」かな」

「理想の結晶?」

「そう、これはたまりにたまった聖應女学院の生徒達の理想が形になった石だよ」

 

 理想の結晶……

 

「理想って……例えば?」

「聖應女学院で一番理想的な人物と言えば?」

 

 ケイリに質問をしたら質問で返されてしまった。 聖應女学院で理想的と言えば……

 

「……エルダー?」

「そう、この石はお姉さまに対する理想が集まった石。 だから陸は聖應女学院の生徒達の憧れの的、エルダーになることが出来る」

「だから俺は「妃宮千早」になることが出来たと」

「そういう事」

 

 

 納得は出来ないが、なってしまったから信じるしかないな。

 

「そういえば陸、その体はどうなってる?」

「どうなってるって……何が?」

 

 ケイリが確認するような声で俺に聞いてくる。

 

「例えば……その体は女の子かどうかとか」

「へ……この体って女性じゃないのか?」

 

 「妃宮千早」は女子だし、この体の下半身に何かある気配はない。 それにこの胸は明らかに本物だ。 どっからどう見ても女の子だ。

 

「その石の力はやっぱり理想の姿って事だね」

「どういう事だ? ケイリ」

「何でもないよ」

 

 なにやらおもしろそうに話すケイリに俺は疑問に思いつつもシャワーの蛇口を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺とケイリは生徒相談室に移動した。 ちなみに今はケイリからジャージを借りて着ている。 俺は楕円形の石を持ちながらケイリに聞く。

 

「この石が何なのかは分かったが。 俺の姿を元に戻す方法は有るのか?」

「あるよ、その石は聖應女学院の生徒達の理想の姿になるの物だけど、どうやら本来の力は出せてないみたいだしね」

「え、これでか?」

 

 姿や声が変わるくらい変化したのにこれで不完全なのか。

 

「陸にとって理想の人物は見た目と声だけて理想になれるのかな?」

「え、流石にそれだけじゃ……」

「そう、見た目と声だけじゃ理想にはなれない。 その石が本来の力を出せたなら、陸は見た目や声だけじゃ無くて話し方、癖、性格なんかもお姉さまの姿になってたかもしれないんだ」

「……うわあ」

 

 つまり意識しなくてもお嬢様言葉で話せるようになってたかもしれなかったのか。

 

「そして、石が本来の力を出せなかったのは。 陸の目のおかげだよ」

「俺の目?」

「そう、目が無ければ今頃陸は自分が千早だと信じて疑わなかったんじゃないか?」

 

 俺はいつのまにかピンチに陥っていたようだ。 俺はため息をちきながら話を催促する。

 

「俺の目ってそんな凄かったのか?」

「いや、たまたまこの石と相性が良かっただけ。 ……その石は本来の力を出していない。 だから、陸がその石を持ちながら元に戻りたいと強く願えば元に戻れると思うよ」

「何て大雑把な……」

 

 俺はケイリの言葉にため息つきながら石を強く握り、意識を集中する。 すると俺の体は白く輝き始める。しばらくすると輝きは消えた。 そして、鏡を覗くと

 

「元に戻ってる」

「どうやら成功したみたいだね」

 

 目の前には「白崎陸」が立っていた。 俺の足下にはケイリのジャージが落ちていて、手で持ってきた夏服は姿が無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばこの石は何をしたら動くんだ?」

「おそらく、持っている人が何かしらの「憧れ」を抱いたらじゃないかな?」

「じゃあ、何で俺で動いた」

「それは陸が石を持ちながら目の力を使った時に目の力が「理想的な人物」を見せようとしたから……とかかな?」

「……可能性の話か」

 

 生徒相談室でケイリと紅茶を飲みながら、石……理想の結晶について聞く。

 

「これは捨てることが出来ないのか?」

「捨てることは出来るよ。 けどそれを陸以外の誰かが拾ったら本来の自分を無くしてしまうかもね」

「……つまり俺が持ってなくちゃいけないのか」

 

 俺は理想の結晶を握りながらため息をついた。

 

「まあ、その力を使えば色々便利なことが有るんじゃないかな? もしも変身しても元には戻れるんだし」

「そんな簡単に言うなよ……」

 

 ま、しょうがない持っているとするか。 俺は理想の結晶をポケットに入れた。

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