処女はお姉さまに恋してる 陰の庭師   作:雹衣

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3月 優雨との出会い

 3月の終わり、朝の9時。 俺は宿直室で目を覚ました。

 

 俺の主観での基準だがこの学校の宿直室はかなり広い。 元々水道やトイレ、シャワールームが設置されていて宿直する教師に対する配慮がしっかりされている。 その部屋にさらに俺が冷蔵庫、テレビなどの家具を勝手に中に入れた……学校からは苦情は来てないから問題はないのだろう。

 

「さて、今日する事は……」

 

 俺は独り言を呟きながらゆっくりソファから起きる。 宿直室には布団もベットもないのでソファに寝ていた。 最初の頃は体が痛くなったがもう慣れたものだ。 起きて自分の部屋を見渡すとテレビに冷蔵庫、そして部屋の真ん中にテーブルがありその上に携帯電話がポツンと置いてある簡素な部屋だ……せいぜい睡眠くらいしかしないので大して困らないし趣味に関する事は全て生徒相談室に置いてある。 ちなみに生徒相談室を初めて見たケイリの感想は「とても陸らしい部屋だ」っというよくわからない事を言っていた。

 

「とりあえず草刈りは済んでるし教材も全部運び終えたし……書類の整理も終わった……」

 

はっきり言ってもうやる仕事がない……これなら久々に趣味に時間を費やせるかもしれない。

 

「よし!」

 

 趣味に1日時間を使う事が出来るのはなかなか嬉しい外も晴れてるし外でやるのもいいな。 決めたら即実行!俺は準備をする為に宿直室を出て隣の部屋の生徒相談室へ向かった……この判断が俺の一年を大きく変えるとは今の俺は知る由もなかった。

 

 

 

 

 生徒相談室は今じゃ私物の倉庫になっている。 別に盗むような人はいないだろうと鍵は掛けられていないので扉にを横に押すと簡単に開いた。

 生徒相談室の中にはキャンバスが何枚も置いてある。 俺の数少ない趣味が絵を描く事だ。 元々絵を描くことがそこそこ上手かった俺はずっとこれを趣味にしていた。 描いてる絵は大体が肖像画だ。 だが自分が見たことが無い人を描いた絵は肖像画なのだろうか? 少し疑問に思ったが肖像画という表現が一番しっくりきたから肖像画という事にしておこう。

 俺は、生徒相談室から何も描いていないキャンバスや野外用のイーゼル、アクリルガッシュの絵の具とパレット、筆やバケツといった必要な物を一通り準備しておく。 全て自腹購入であり、学校の物は一つも使っていない……使ったら怒られるのは分かっているし。 

 

 全部をいっぺんに運ぶのは無理なので真っ白なキャンバスとイーゼルを先に運ぶ。 ちなみにこの時に外に出るのに使う入り口は宿直室にある。 宿直室には学校の廊下につながっている横にスライドするタイプの扉と外につながっている前後に動くタイプの扉があり、いつもは宿直室から外に出ている。 ちなみに宿直室の扉の外は園芸部の倉庫に隠れていて見事な日陰になっている。

 

 宿直室から出てキャンバスとイーゼルを持ちながら歩いているが……。

 

「……重」

 

 流石にこの二つを一緒に持って行くのはまずかったキャンバスとイーゼル二つともそこそこ大きく、重い……持ちづらくてかなり疲れる。 

 

「やっぱ片方ずつの方がよかったか」

 

 愚痴をこぼしながら歩くこと五分とりあえず中庭に着いた。 いつもなら生徒で賑わっている中庭も今は誰も居ない。 俺は、イーゼルの上にキャンバスを乗せそれ以外の道具を持ってくるためにまた生徒相談室にやや上機嫌で戻るのであった。

 

「……キャンバス?」

 

 このとき俺は周りに誰もいないからといって油断していた……置いておいたキャンバスを誰かに見られるという可能性を……。

 

 

 

 

 ……数分後、俺は残りの荷物を一通りもって中庭に辿り着いた。 中庭は先ほどと変わらず誰もいな……

 

「あれ?」

 

 誰かいた。 俺の真っ白なキャンバスをジッと眺めている少女が一人いた。 身長はやや小さめで髪は結構長めで右目に髪がかかっている……あれじゃあ右目が見えないんじゃないか? 少女はずっとキャンバスを眺めていて俺が近づいても全く気がつかないようだ。

 

「よう、どうした?」

「……あ」

 

 俺はとりあえず少女に話しかける事にした……そうしないと一行に動きそうにないからな。

 

「……」

「……」

 

 目の前にいる少女は俺の方を向いたがその後すぐに目を伏せてしまった……かなり気まずい。

 

「……とりあえずどいてくれるか? ここで絵を描く予定なんだが」

「あ、あなたの?」

 

 少女がキャンバスを指さしながら聞いてきたから大方「このキャンバスはあなたの物ですか?」っていう意味なんだろう。 しかしなんでそんな事を聞くんだ?

 

「まあ、そうだ。 それは俺のだ」

「絵……うまいの?」

「上手かどうかと聞かれたら上手な方かもな中学の時には賞も貰ったことあるし」

「そうなんだ……」

 

 少女は感心したような声を上げているが少女とこれ以上会話を続けていると準備に手が進まないのでとりあえず準備に戻る。

 

「描くの……見てても、いい?」

「まあ、いいが……」

 

 俺は、後ろから少女にじっと見られるのを感じやや気まずくなりながらパレットに絵の具を出し、濡らした筆に絵の具をつけキャンバスに描き始める。

 

「……下書き、描かないの?」

「ん? ああ、描かないよ」

 

 少女が不思議そうに聞いてくる。 俺のキャンバスには下書きが一つも無いから当たり前の質問ではある。

 

「下書きは書かなくても問題無い」

「そうなの?」

「ああ、見えてるから」

「見えてる?」

 

 俺には超能力?のような物がある。 少し意識をすれば頭の中に見たことが無い人が見たことがあるかのように鮮明に浮かび上がるし、それを絵に描こうとすればキャンバスの上には黒い線のような物がうっすらと俺には見える。 俺がそれを下書き代わりにして絵を描けば頭に思い浮かんでいた人の絵が出来上がっている……という絵を描くことにしか使い道のない能力を俺は持っている。 そして今もキャンバスには黒い線がしっかりとキャンバスに描かれている。

 

「まあ、下書きは書かない派なんだ」

「……そうなんだ」

 

 少女は俺の答えに満足したようだがいまいちこの少女の感情が読みにくい。 何を考えているのか俺にはサッパリ分からない……俺の絵を描く姿を見て何になるのだろうか。

 

 

 

 

 昼になっても中々少女は帰らない。 俺はずっと立ちながら描いていたが流石に後ろの少女が心配になってきた。

 

「……ちょっと待ってろ」

「……?」

 

 少女は小首を傾げていたが小さくうなずく。 俺はそれを確認すると小走りで宿直室に戻り折りたたみ式の椅子を持ってくる。 この椅子は座りながら絵を描こうと買ったが結局立った方が描きやすかったので結局使わなくなった椅子だ。 その後もずっと使っていなかったが今が出番だろうと持って中庭に戻る。

 少女は中庭のキャンバスとジッと見て待っていた。 ……あの少女は実は人形か何かなのか? 

 

「ほら、ここに座れ」

「あ……」

 

 俺が少女の前に椅子を用意し座るように促す。 少女は驚いたようでこっち

ジッと見る。

 

「……いいの?」

「ああ、立ちながら見るのは疲れるだろ」

「……じゃあ」

 

 ゆっくりと少女が座る。 こうして座っている姿を見ると中々絵になるな……まあ聖應女学院の生徒なら大体絵になるんだろうけど。

 

 

 

 

 

「そういえば、名前は?」

 

 絵を再び描き始めて日が暮れてきた頃そろそろ片付けようと思ったので少女に話しかける。 

 

「私?……優雨」

「優雨って……学生寮にいる?」「……知ってるの?」

「まあな、一応この学院の職員だし」

 

 庭師だからな。

 

「俺の名前は白崎 陸。 この学院で庭師をしている。 よろしく、優雨ちゃん」

「……よろしく、りく」

 

 少女と自己紹介を済ませ俺は片付けを始める。 優雨は手伝おうとしたが俺は先に寮に帰らせた……今回の春休みは思っている以上に人と関わったな。

 

「まあ、悪い事ではないんだろうな~」

 

 俺はいつもは生徒達とは極力関わらないようにしていたが……。

 

「まあ、そういう年があってもいいか」

 

 ため息を突きつつ苦笑いをし、片付けをする。

 

 この後の未来を知る神様は誰かいるのだろうか。

 

 いるのなら頼ませてくれ。

 

 全てを聞いてくれなくても結構だ。

 

 だから一つだけ頼ませてくれ。

 

 聖應女学院の少女達が悲しみに暮れるような事は起こらないでくれ。

 

 優雨の事を思い出し優雨が歩いていった桜並木を見て俺は願う。

 

 少女達が悲しみに暮れる事が運命ならば俺が代わりに絶望して苦しんで死んででも俺はその運命を回避してやる。

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