「うわ~、これ全部お店ですか……」
「ああ、そうだ」
「まさかデパートに来るまでにこんなに時間が掛かるとは……」
聖應女学院の近くのコンビニから約40分。 駅前にあるデパートにやっと来た。 距離的には大した長さじゃないがことあるごとに綾が感激してしまい中々進めなかったのだ。
「じゃ、さっさと入るぞ」
「はい!」
俺が綾に声を掛けると明るい声が返ってきた。 初めて会ったときに比べると元気に成ったな……聖應に来たおかげかな?
「そういえば槐」
「はい、何ですか?」
「この後、どうするんだ?」
「そうですね……大して買うものは無いんですけど……」
俺の質問に槐が軽く悩んでいる。 本当に何も考えていなかったようだ。
「あ、葉月さんそういえば夏休みに着る水着が欲しいって言ってませんでした?」
「あ!そうだ! それがありました!」
槐が綾の言葉に大きく首を動かし肯定する。
「だが、槐。 水着を買う金は有るのか?」
「はい! 今日は新しい服でも買おうと思いまして幾らか持ってきました」
「服……買うつもりだったんじゃん」
何も買う予定は無いと言いつつ、服は買うつもりだったようだな。 女子ってそんな物なのか?
「いやいや、これは必要最低限の資金ですよ」
「そうなのか?綾」
「……さあ?」
綾が俺の問いかけに首を傾げていた。
駅前のデパートはこのあたりの建物の中では大きい部類に入る。 それにここには大抵の物は揃っている。 まあ俺は食品を買うか、絵画関係の道具を買うくらいしかしないが。
「さて、水着って何階にあるんだ?」
「洋服売場は3階だったから、その近くじゃないですか?」
「じゃ、行くか。 綾は何か買わないのか?」
「あ、私は特に……」
綾が大きく首を振る。 大して欲しいものは無いようだ。 相変わらず引っ込み思案だな。
「さあさあ! 2人とも、早く行きましょう!」
「……一応言っとくが今日は槐の為に来たんじゃないからな」
槐が俺達を急かしながら前に行くのを見て、俺と槐は苦笑しながら彼女について行くのであった。
「予想的中だな」
「はい!」
「……水着が一杯有りますね」
デパートに入って約30分、3人は洋服コーナーの隣にある水着売場に到着した。
「まさか、こんなに時間が掛かるとは……」
「綾がことあるごとに立ち止まりましたからね」
「すみません……」
3階に来るまでに綾が色々な物を見て反応していたので時間がかなり掛かったが流石に慣れた。 例えば1階に有った食品コーナーで切られるたり、焼かれたりする前の野菜を初めて見たらしくテンション高く槐に質問しまくってたり、エレベーターに乗るのに躊躇したりと色々と時間が掛かってしまった。 綾にとってはほとんどの物が初めてだったようだ。
「ま、綾にとっては良い体験だっただろ?」
「はい!初めての事ばかりでした」
「本当に何も知らなかったんだね……私の方も驚いたよ……」
……しかしお屋敷に居た時はどんな生活をしてたんだか。
「!あ!この水着良さそう! どう?綾」
「似合うと思いますよ」
槐は俺が少し考え事をした隙に水着を物色し始めた。 ……本当に綾とは対局的だな。
「ねえ、綾も水着買わないの?」
「い、いえ……水着なら学院のが……」
「え……スク水でプールに行くの?」
「駄目ですか?」
「い、いや……流石にそれは……」
槐が綾の言葉に戸惑っている。……まあ、入るのはスク水でも問題はないが。
「プールに行くなら学校の水着以外のも買った方が良いな」
「そうなんですか?」
「ああ、行くならだけどな」
「そうなんですか……」
綾が納得したような表情をしながら水着を見ている。
「そういえば、綾も金は有るのか?」
「はい、パパからの仕送りを全く使って無かったので幾らか持ってきました」
「綾って本当お金使って無かったよね……」
槐が水色のビキニを持ちながらうんうんと頷いている。 2人ともお金は有るって事か。 流石聖應の生徒。
「葉月さん、これなんてどうですか?」
「う~ん……綾には地味じゃない?」
2人は水着を真剣に眺めている。 俺はそれを後ろで眺めながら待つ。
「……?」
その時、俺は誰かに見られた気がして後ろに振り向いた……。 休日で混んでるし気のせいか。 そう思い俺は2人の方に向き直した。