処女はお姉さまに恋してる 陰の庭師   作:雹衣

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7月 箱入り少女の初めて その3

「陸さん、これなんてどうですか?」

「ん、良いんじゃね」

 

 試着室から槐が出てきてポーズを決めてくる。 槐が着ているのは白いビキニ。 活発な性格のえんじゅとはイメージが合わないが見た目は合っていると思う。

 

「陸さん、何でそんな素っ気ないんですか? やっぱさっきの黄色の方が良いですかね……」

「もう黄色の奴で良いから終わらせてくれ。 もう1時間は経ったぞ」

 

 俺は槐の言葉にため息をつきながら言葉を返す。 俺の右手にある安物の腕時計は3時を指していた。 女子高生の水着が見れるのは悪くはないが、流石に一時間見続けるのは色々とキツい。

 

「……女子は水着を買うのにこんなに時間が掛かるものなのか?」

「掛かりますよ! ねえ?綾」

「え、さ、さあ……」

「綾は分からないってさ」

 

 ちなみに綾はもう買うものを決めたらしく、手にピンクの水着を持っている。

 

「うーん、綾には分からないんですか……まあ、私はこっちの黄色いのを買うとしますか」

「では、葉月さん、一緒に会計しませんか?」

「いいよ~……って綾、まだ買ってなかったの?」

「すみません……1人で並ぶのが怖くて……陸さんは葉月さんと水着を決めてたので誘えなかったんです」

 

 まあやはりというか、当然というか綾は買い物もしたことが無かったようだ。

 

「あ、ああ……そうですね綾、ごめんね」

「い、いえ……1人で会計に行かなかった私が悪いので、葉月さんのせいでは有りません!」

「いやいや、綾が買い物をしたことが無かったのに気付かなかった私が悪いんだよ。 決して綾が悪いわけじゃ……」

「いえ、やはり私が……」

「いやいや、私の方が……」

「お前らさっさと水着を買えよ……」

 

 途中から2人の謝り合戦に成ったところで俺が止める。 こういう風に2人共謝り合うのを見てると2人共仲は良いようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ~」

「お待たせしました陸さん」

「2人共お疲れ」

 

 綾と槐が戻って来た所で、俺達は探索を再開した。

 

「で、これからどこ行く?」

「綾、行きたい所有る?」

「いえ、私は特に……あ」

 

 俺と槐の言葉に綾は返答しようとしたが、壁に貼ってあるポスターをじっと見つめ始めた。

 

「……花の出張販売?」

「綾はこれに行きたいんですか?」

「あ、はい……少し興味が」

 

 ポスターによるとこのデパートの屋上で花が売られているらしい。 販売元の名前はフラワーショップあじさい……俺は知らない店だ。

 

「じゃあ行ってみるか」

「良いんですか?」

「ああ、槐も良いよな」

「ええ、勿論。 私は買いたい物をもう買いましたから」

「お前の為に来たんじゃないけどな」

「分かってますよ」

 

 槐は俺の言葉に口を膨らませつつ文句を言う。 俺はそれを苦笑いしながら槐を眺める。

 

「何ですか?」

「いや、槐はいつも明るくていいなぁ……って思っただけさ。 じゃ屋上に行くか」

「あ、はい」

「……って何か意味深な台詞を言わないで下さいよ~!」

「そんなに叫ぶな。 店の中だぞ」

 

 俺と綾が歩き出した後、遅れて槐が走って来る。 別に槐の素直な印象を言っただけなんだが槐の気に障るような事を言っちゃったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上は軽い遊園地みたいになっていた。 とは言ってもあるのは100円で動くパンダ位で大した物は無い。 その屋上の真ん中あたりに人がまばらにいる。 どうやらあそこで出張販売とやらをしているようだ。

 

「にしても何で花? 園芸部なんだし花を見る機会は幾らでもあるだろ」

「あ、あのですね……。 ちょっと自分の部屋で育ててみようかと思いまして……」

「それも園芸部の花壇から盗ってけば……」

「いやいや陸さん、それ犯罪ですから」

 

 綾も槐も真面目だな。 俺は学院に勝手に住み着いているのに。 やっぱ聖應の生徒は真面目な子ばかりだな。

 そんな事で感心しながら2人で歩いていき、目的の場所に着く。

 

「じゃあ、綾は何を買うんだ?」

「そうですね……取りあえず綺麗な花が……」

「ん?綺麗な花と仰いましたかお嬢さん」

 

 俺がの質問に綾が答えようとした所、俺の後ろから別の人の声が聞こえてくる。 俺がそれに反応し、後ろを振り向く

 

「あ、怪しい者じゃないですよ。 私は大月(おおつき) 京香(きょうか)。 フラワーショップあじさいの店員ですよ」

 

 長袖の緑色のTシャツを着た女性が気さくな表情で後ろに立っていた。  ……何だろう、この人どこかで見たような……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえそこのお方、かの噂の聖應専属の庭師、白崎さんですよね?」

「……まあ、そうだが」

「どうせ、暇でしょ? 私の園芸部を手伝ってくれませんですか?」

「断る」

「そう言わずにさあさあ、行くですよ~!」

「な!?ちょっと!? 引っ張るな!」

「あ、私は3年A組の大月 京香。 園芸部の部長ですよ~。 これからよろしくですよ」

「知らん! どうでもいい!」

 

 ……あれは俺が庭師の仕事になってから3年目の春だったか。 何か訳わかんない理由で俺を園芸部に連れて行った少女。 確か彼女の名前も大月京香だったような……。

 

「あ、この顔はやっぱり陸じゃないですか?」

「……久しぶりだな京香」

 

 ……っというか本人なようだ。

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