処女はお姉さまに恋してる 陰の庭師   作:雹衣

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8月 記憶探し その1

「今年はどうですか?」

「ん?何が?」

 

 蝉がうるさくなった夏。 絵を描いている俺の隣にいる少女が聞いてきた。

 

「夏祭りですよ。 去年は忙しいって言って行きませんでしたよね」

「ああ……」

 

 そう言えば去年は夏祭りに行っていない。 俺は筆の動きを止め、しばらく悩む。

 

「じゃあ、今年もパス」

「えぇ! 何で行かないんですか?」

「人混みが嫌なんだよ」

 

 それは事実だ。 俺は人混みが嫌い。 わざわざ人が雪崩のように居る夏祭りに行く気にはならない。

 

「そんなぁ、陸と行くの楽しみにしてたのに……私が聖應で過ごす最後の夏休みなんですよ」

「……分かったよ。 しょうがない」

 

 彼女にここまで頼まれたらしょうがない。 彼女を1人で行かせる訳にも行かないし行く事にした。

 俺の返答を聞いた時の少女の笑顔。 あれはとても綺麗だった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……朝原美夏」

 

 8月1日聖應女学院は夏休みに突入して約一週間経過した。 空は青く、白い雲はゆっくりと流れていく。 校庭には運動部の少女達の声が響き、校舎の中の沈黙と不思議なハーモニーを奏でている。

 

「どこかで聞いたこと有るんだけどなぁ……」

 

 ソファの上に寝転びながら久々に会った大月京香の言った言葉が耳に再び現れる。

 

『ああ、やっぱり思い出してないんですか』

「……俺が思い出してない事?」

 

 京香の言葉からすると俺は何か思い出してない様だ。 確かに昔の事を思い出そうとすると記憶がかなり曖昧になっている所が有る。 俺の目を手に入れる以前が特に酷い。 まるで強い衝撃を受けたカセットテープの様に所々思い出せなくなっている。

 

「とりあえず朝原美夏で調べてみようかな……」

 

 記憶が無い以上残る手掛かりは京香が言った「朝原美夏」という名前のみ。 別に覚えていない少女の事なんて調べなくても良い気がするが、京香の意味深な発言からもしかしたら俺と「朝原美夏」は仲が良かったのかも知れない。 それに京香が言っていた「車椅子に乗っていた」という言葉を聞いた時に俺は時々見る夢を思い出した。 昔のエルダー選挙や少女の車椅子を押す夢……あれはもしかしたら俺の昔の記憶なのかも知れない。

 

「記憶に穴が有るなんて気持ちが悪いしな」

 

 無い記憶を埋められるならそれに越した事は無い。 そう思い俺は立ち上がる。 「朝原美夏」の手掛かりを探る為に……あ、でも

 

「……どうやって探そう?」

 

 立ち上がった俺はそのままソファに座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みと言えど校舎の中には部活動をしている生徒が居るので堂々と歩く事は出来ないし何か作戦を立ててから行動したいが……。

 

「そもそもどうやって探そう?」

 

 車椅子の少女は聖應女学院の生徒だろうけど一体どうやって調べれば……あ

 

「卒業アルバムが有ったか……」

 

 そういえば俺が6月に卒業アルバムを図書室に運んでいた筈だ。あれを見れば誰車椅子の少女が誰か判るかも知れない。 けど問題は……

 

「どうやって図書室に行くか……だな」

 

 図書室には夏休みとは言え生徒に一定時間開放されており、図書委員がいつも2人居る。 その時間に俺が行くのは俺のメンタル的に嫌だし、生徒を不安にさせる可能性が有る。 けど開放されてない時間に入って生徒に見つかれば不審者扱いされかねない。 生徒の人数が少ないとはいえ春休みと違い部活をしている人も居る。 そこら辺は気を付けないとな……。 

 ソファから立ち上がりどうしようか悩みながら立ち上がる。 その時俺のポケットから緑色の楕円形の物体が転がり落ちた。

 

「……これが有ったか」

 

 俺は床に落ちた「理想の結晶」を拾い、強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「理想の結晶」を握りキャンバスの前に立つ。 キャンバスの前には茶色の髪で大きめの胸、そして垂れ気味の目が特徴の誰でも世話を焼きたくなりそうな雰囲気がする少女の絵が……そういえば

 

「完成したんだったな」

 

 「理想の結晶」を始めて使った時は描き掛けの絵だったけど、完成した絵の前で使うとどうなるのだろうか? いや元が「目」の力だからそこら辺は関係ないのだろうか?でも始めて「理想の結晶」使った時俺が描いてた絵と「妃宮千早」は全く関係なかったし……。

 

「まあいいか」

 

 とりあえず使ってみようと思い、目に力を込める。 すると右手に有った石が熱を持ち始め、俺の視界が真っ白になった。

 

 

 

 

 光が収まり、俺は目を開ける。 目の前には少女の絵がさっきと同じ位置に置いてある。 それを見て少し安心しつつも俺喉に手を当て声を出す。

 

「あー、あー」

 

 声は普段の俺より高くなっていた。 これは「妃宮千早」よりも高くなってるかも知れない。 俺はそれを確認した後今度は生徒相談室の窓に近づき、顔を確認する。 するとそこには垂れ気味の目に茶色の長い髪。 俺が完成させた絵に描かれていた少女にそっくりの姿をしていた。

 

「絵と同じ少女……」

 

 絵と同じ少女で聖應女学院の生徒達の理想の塊である「理想の結晶」の力で変身した。 という事はこの少女は昔のエルダー?

 

「まあ、そう言う事は図書室で調べればいいか」

 

 俺は朝原美夏の事を調べる為に変身したんだから別の事で悩んでいる暇はない。 俺は頭を左右に振り思考を消し飛ばす。 その時に長い茶色の髪が飛び跳ねてしまったので髪を丁寧に直す。 とりあえず「理想の結晶」とか俺が変身した少女の事は後でケイリと話すことにしよう。

 

「良し!」

 

 俺は精神を落ち着かせ、少し気合いを入れるとゆっくり生徒相談室の扉を開けた。

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