処女はお姉さまに恋してる 陰の庭師   作:雹衣

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8月 図書室にて

 少女(俺)の足の動きに釣られ茶色の髪がゆっくり前後に動く。 今俺は生徒相談室から出て、図書室に向かっている。 何故かと言われれば朝原美夏について書かれているかも知れない卒業アルバムを探す為である。

 

「図書室、図書室……は確かこっちだな」

 

 図書室の位置を思い出しながらゆっくりと歩く。 一歩一歩動く度に少女(俺の体)の胸が軽く揺れて少し邪魔だ。 重いし肩が疲れる。

 

「思っていたよりも胸って邪魔なんだな……」

 

 胸の問題も有りそうだが、校舎の中を歩くだけでこんなに疲れるとは……いや胸が予想よりも重いのか? 俺が前変身した「妃宮千早」って凄かったのかな……などと考える。 確かもう1人のエルダーである「七ヶ原薫子」と同じかそれ以上の運動神経だとかケイリから聞いたことがある。 それを聞いた時は右から左へ流していたが相当凄いのでは無いだろうか?

 

「いや、もしかしたらこれ「理想の結晶」の影響か?」

 

 確か「理想の結晶」で変身出来るのは「理想の姿」。 ならこのエルダーの運動神経の悪さもかさ増しされているのかも知れない……ついでに胸の大きさも。 いや、俺の運動能力で本来の力が制限されているのかも知れない……何て事を考えても今の俺の体力が少ないのには変わりがない。 途中で体力に限界が来て立ち止まり思わず廊下に座りたくなる……が何とか立ったまま息を整える。 座っている時にシスターに今の姿で見つかったら怒られて俺の今の姿が聖應女学院の在校生じゃないとバレるかも知れない。

 

「疲れた……」

 

 けれども座りたいという欲求が俺の心に現れる。 いやいやまだ駄目だ。 図書室に行けば座れるし、そこまで我慢だ。

 

「よ、良し!」

 

 俺は息を整えた後、疲れた体に力を入れて図書室に向け歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く歩き約3分後、俺は図書室の前に辿り着いた。 俺は扉の前で立ち止まり、歩き疲れて乱れた呼吸と緊張で速く動いている心臓を整える。 まさか校舎の中を歩くだけでこんなに疲れるとは……にしても

 

「……大丈夫かな?」

 

 顔に疲れとか出てないだろうか。 ザ・平常心で何とか入って特に気にされることなく自然に入り、さっさと調べて帰りたい所だが……。

 

「そういう事を悩んでも仕方がないな」

 

 ここまで立っていたら誰かに話し掛けられるかも知れない。 俺は一度深呼吸した後、図書室のドアノブを掴み扉を引く。 この少女の体だと図書室の扉ですら疲れた体には重く感じるが生徒相談室の扉は開けられたし、開けられ無い事はない。 扉はゆっくりと開いたので俺は中に入って行く。

 図書室には俺の予想通り2人の少女がカウンターで本を読んでいたが俺の姿を見て目を丸くしていた。 夏休みにここへ来るのが相当珍しいようだ。 俺はその2人の表情に少し笑いそうになる。

 

「ごぎげんよう」

「あ、ごぎげんよう!」

「ご、ごぎげんよう」

 

 俺は彼女達に不自然じゃ無いように声を掛ける。 図書委員の少女達は慌てたように立ち上がり挨拶を返してくれる。

 

「夏休みに珍しいですね……えっとお姉さまですよね?」

「うーん、恐らくそうなりますね」

 

 そう聞くという事は彼女達は2、1年生のようだ。

 

「何かお探しですか?」

「ええ、少し調べ物を」

「そ、そうですか。 ではどうぞご自由にお使い下さい。 あっ私共はカウンターの所に居ますので何か用が御座いましたら、私共に申して下さい」

「はい、2人共ありがとう御座います」

 

 図書委員の少女に感謝の気持ちを込めながらお礼を言う。 俺は2人の図書委員の背中を軽く見ながら、卒業アルバムを探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が卒業アルバムを持って来たのはテーブルの上まで……つまり俺は何処にアルバムを置いたのかは知らない。 図書委員の2人に聞けば良いのだろうけれども彼女達と長く接触していれば俺の今の姿が「この学院には居ない女性かも知れない」という疑問を持たせてしまうかも知れないので出来るだけ避けたい。

 

「じゃあ、自力で探さないと……」

 

 そう呟いた後近くの本棚に近づく。 この学院の図書室は結構広いので中々重労働になりそうだ。 卒業アルバムって歴史関係かな? じゃあ、こっちの方に行けば見つかるだろうか? いや、でも学院の歴史はこっちに無かったかな?と図書室を右往左往し10分後。

 

「あ、見つけた!」

 

 俺は卒業アルバムと思わしき物を見つけた。 黒の表紙に金色の文字で「第○○回聖應女学院卒業アルバム」と書かれた本が本棚にズラーッと並んでいた。 俺は一番左に有った一冊を抜き取り表紙を捲る。 そこには少女達の笑顔が有った。銀の髪の少女と黒い長髪の少女の2人……ダブルエルダーが笑顔で笑っている。 これ昨年度の卒業アルバムか。

 

「……まあ、調べる時にしっかり見るか」

 

 俺は卒業アルバムを三冊抱えるとテーブルに何とか移動させる。

 

「……お、重い」

 

 も、持って行く本の数ちょっと減らそうかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がテーブルに何とかして持って来たのはアルバムは全部で10冊。 俺が庭師になってからの十年分を持って来た。 車椅子の少女と俺が知り合いならここら辺に載っているだろう。

 

「お姉さま、何について調べるのですか?」

 

 これから卒業アルバムに目を遠そうとした時図書委員の少女が1人、俺の隣に来ていた。

 

「え、ああ……ちょっとエルダーについて調べてるんです」

「エルダーについてですか?」

「ええ」

 

 変に隠して疑われるよりは堂々としていた方が良いと思い、自分の目的を伝える。 すると少女は何か興味津々な様子で俺を見て来る。

 

「あの、私に何か手伝える事は有りますか?」

「じゃあ、ちょっと手伝って貰えますか? ある女性を探しているのですか……」

 

 少女に違和感を持たれるのは困るが、調べるに時間が掛かるのも困る。 さらにかなり慣れないこの姿で卒業アルバムを運ぶのがかなり大変で相当疲れてしまったので手伝ってくれるのは助かる。 ……人間心変わりするのは早いものである。

 

「分かりました。 では車椅子に座っている女性を探せばよろしいんですね」

「はい、わざわざそんな事をさせて申し訳ないけど。 よろしくお願いします」

 

 俺は素直に少女にお礼を言うと少女は「いえいえ」と笑いながら返答し、卒業アルバムを見始めた。 そういえばもう片方の図書委員はどうしたんだろうと思いカウンターの方を見たら、本で顔を隠しながらこちらをチラチラと見る少女が居た。 どうやら、俺達の事は気になるが図書委員としての義務が有るのでどうしようか困っている……という感じだろう。 俺はその様子に少しおかしさと可愛さを感じ

 

「あなたも手伝ってくれますか?」

 

 と自分が危険になる事を自覚しておきながら言ってしまった。

 迂闊だけどしょうがない、余りにも可愛かったついつい言っただけだ。 それに対して彼女は

 

「は、はい! 畏まりました」

 

 とカチカチに固まった態度で私に返事をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「車椅子……この方じゃないですか?」

 

 俺の調べ物は予想以上に早く見つかった。 3人で別々のアルバムを見ること約5分、図書委員の1人が唐突に声を上げた。

 それを聞いたもう1人の少女がアルバムを覗き込む。

 

「あ、確かに車椅子に乗っていますね」

「ええ、集合写真の時は皆さん椅子に座っていて一瞬見落としました……お姉さま、お姉さまが言っていたお方はこの方ではないでしょうか?」

「あ、ちょっと見せていただいても宜しいですか?」

 

 俺がそう言うと「はい、こちらです」と丁寧な動作で俺の前に出し一枚の写真に指を指す。 そこには沢山の聖應の生徒に囲まれ笑う、夢に出て来た少女の姿が有った。

 

「あの……この方の名前は分かるかしら?」

「あ、ちょっと待って下さい……」

 

 私が図書委員の少女に聞くと彼女はクラスの紹介のページを開き確認を始める。

 

「あ、有りました……「朝原美夏」ですかね? あのお姉さまが探しているのはこの方なのですか?」

「ええ、そうなの。2人共……わざわざありがとね」

 

 俺が夢で見た車椅子の少女は京香が言っていた「朝原美夏」と同じ。 その事が分かれば俺がここへ来た目的は完了したも同然だ。 まあ、夢が事実なのかは流石に調べるのは厳しいだろうからその辺りは後々にしようと心の中に決める。

 

「じゃあ、私には用事が有るの。 わざわざ調べ物を手伝ってもらったのに今は何も持ち合わせが無くて……」

「い、いえ! そんなの気にしてませんから!」

「私も大丈夫ですから! あ、用事が有るなら早く行って下さい! アルバムなら私が片付けますから!」

 

 俺が少し心配そうに演技しながら話すと2人が慌てて俺に話しかけてくる。 ふむ……俺としては少し気が引けるが正直助かるので彼女達に甘える事にする。

 

「そう? じゃあお言葉に甘えましょうかしら。 ではごきげんよう」

「ごきげんよう!」

「ごきげんようお姉さま!」

 

 俺の挨拶に対して明るく返す2人に少し罪悪感を感じながら私は図書室を去るのであった。

 

 

 

 

 

「あら?……この方って」

「まあ、卒業生の方だったんですね」

 

 陸が去った後の図書室で2人の少女がアルバムを捲る。 理由は至って簡単聖應女学院の少女と言えど……いや、聖應の少女だからこそ昔いたお姉さまを気になり2人で眺めているのだ。 その中で1人のお姉さまを見つけた。 長い茶髪に気の弱そうな目……そう、先程陸が変身していたあのお姉さま。

 

「宮小路瑞穂お姉さまですって!」

「まあ、なんて雅なお名前何でしょう!」

 

 2人の少女はつい先程会ったお姉さまに心を馳せながら騒いでいた。 これが後々ちょっとした問題になるとは誰も今は気づかない。

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