処女はお姉さまに恋してる 陰の庭師   作:雹衣

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番外編 銀の姫君の夏祭り その2

「千早お姉さま!花火始まりますよ!」

「ちはや、急いで」

「陽向、そんなに急がなくても花火は逃げませんよ」

「いいえ!良い席が取られてしまいますよ!」

 

僕は前を小走りで進む陽向と優雨に思わず笑みがこぼれる。時間は確かにそろそろ花火が始まる頃だ。

 

「陽向、もうちょっと落ち着きなさい。はしたないですよ」

「うぐっ、す、すみません……」

「ですが、陽向様の言うことも一理有ります」

「史はそう思うの?では少し急ぎましょうか」

「うん、ちはや行こ」

 

こうして4人で笑いながら神社の道を進む。しばらくすると神社の裏手で丁度良い席を陽向が見つけたのでみんなで横になって並ぶ。僕の左側には史が居て、その隣に優雨、僕から一番遠い所には陽向が立っている。

 

「うーん、ここは中々良い場所を見つけましたね……」

「ですが、何故こんなにも人が居ないのでしょうか?」

 

陽向が自分を褒めるかのように胸を張りながら言った言葉に史が首を傾げながら呟く。

ここは神社の裏手な事も有ってか人が少ない……どころか気配すら感じ無い。祭囃子もどこか遠くに聞こえる。けどこんな場所なら花火を見る為に何人か居そうなものだが……。

 

「もしかして、ここで何か問題が……?」

「千早お姉さま!そんな怖いことを言わないで下さい!」

「そ、そうね。ごめんなさい」

 

僕の言葉に陽向が普通に怖がっていたので考えていたことを伝えるのを止める。

けどここは神社だし、幽霊なんかいそうだ……と思ったが千歳さんのことを思い出し、自分が彼女を侮辱しているように感じ考えを止める。

そんな風に僕が考えている間、史と共にケロッとしていた優雨が不意に僕の方を向いた。

 

「……優雨?」

 

僕は彼女に静かな口調で尋ねるが、彼女は返答をせず、じっと僕を見ている。

 

「ちはや、そっちに」

「そっち?」

 

ようやく喋った優雨に尋ねると彼女は首をコクンと縦に振る。

それを聞いた僕は優雨と同じ方向に顔を向ける。そこには

 

「あ、申し訳有りません。お話の最中でしたか?」

車椅子に乗った髪の長い女性が座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、夏祭りの時は何時もここで花火を眺めているんです」

「まあ、では私達は遠慮したほうが……」

「いえ、毎年1人で見ていますから、大勢の方と見る方が楽しいので……寧ろ私が邪魔かしら?」

「いえ!そんなことは……」

 

陽向が髪の長い車椅子に座った女性と話している。女性は恐らく20代中盤だろうか。大人しい色のワンピースを着ていて、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

陽向が騒ぎながらその女性と話しているのを聞いていると、彼女は毎年夏祭りに来ているようだ。

そうやって時間が過ぎていると空に明るい色の火の花が咲いた……どうやら花火始まったみたいだ。

視線が自然に花火の方に向き、各々の会話が途切れる。そんな中、車いすの女性がぽつりと呟いた。

 

「……陸、今年も綺麗だよ」

 

その時の女性の表情はどこか寂しげで、僕は千歳さんを思い出してしまった。

しばらくすると花火は終わり、僕たちは帰る雰囲気になる。

 

「あ、千早お姉さま!ちょっとお花を摘みにいきますね!」

「私も……」

「申し訳ありません千早様。私も……」

「ええ、では私は待ってます。後陽向、そういうこと大声で言わないように」

 

俺が叱ると「あ、ご、ごめんなさい」と慌てながらトイレに向かう陽向とその後ろを着いていく優雨と史。彼女達が去って行くと俺は車いす女性と2人きりになってしまった。

 

「あなたは一緒にお手洗いに行かないのですか?」

「そ、それは……」

 

僕が女性だとは気づいていないようで女性は不思議そうに聞いてくる。……彼女には悪気が無いとは言え、僕の心の中で何かが傷つく音がした。……耐えろ、この程度聖應に居た頃に比べればなんともないはず……。

 

「と、ところで夏祭りはいつも来ているのですか?」

「ええ、10年前から毎年来ているんです」

「その、1人でですか?大変なんじゃ……」

 

僕は彼女の車椅子を見ながら若干不謹慎かな?と思いながら尋ねる。すると彼女は寂しそうに笑いながら言葉を返してきた。

「……そうね。1人では大変です。初めて来た時は殿方と一緒だったんですけど」

「その方が陸さん、ですか?」

「え?」

 

僕の言葉に驚いた表情をする女性。

 

「花火を見ている時に呟いていましたよ」

「あ、そうでしたか……ええ、最初の年は陸が連れ添ってくれました」

「その方は……」

「……」

 

僕が「陸」と呼ばれる人について尋ねると口を閉ざしてしまった。もしかしたら彼女にとっては触れられたくない思い出なのだろうか。

 

「その、陸はですね……」

「お嬢さま!中々来ないから心配しました!」

 

彼女が私に何か言葉を紡ごうとした瞬間、神社の入り口からメイド服を着た若い女性が駆け寄って来る。

どうやら彼女の使用人みたいだ……言葉使いからも感じたがは彼女はかなりの金持ちのようだ。

 

「すみません、時間みたいです」

「いえ、お構いなく」

 

彼女はそう言うと、頭を小さく下げ、メイドの方に車椅子を押され、人混みに入って行く。

 

「あ、あの!」

 

その時、僕は思わず声を掛けた。それに対して女性は顔だけを向けてくれた。

 

「私は妃宮千早と申します!あなたのお名前は?」

 

僕がそう尋ねた時、彼女は小さく微笑み伝えた。

 

「朝原美夏といいます。千早さん、またお会いしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千早様、車椅子に座っていた方は?」

暫くして御手洗いを済ませた3人が戻って来た。そして史が周りを見渡し、朝原さんが居ないことに気づいた。

 

「朝原さんは迎えの方がいらっしゃったのでお帰りになりました。どうやら使用人が下に待機していたみたいね」

「あ、あの人、朝原さんっていうんですか?何というか動きに気品が有りましたね~」

 

僕の言葉に彼女の印象を言う陽向ちゃん。けど僕としては彼女からは気品よりも……何処か悲しさが出ている気がした。そして恐らくそれは「陸」が関係している。

 

「けど陸って誰なんだろ……」

「ちはや、りくがどうかしたの?」

 

僕が思わず発した台詞に優雨が首を傾げて尋ねてくる。優雨のその言葉はまるで「陸」を知っているような……。

 

「ちはや?」

「ううん、何でもないわ。ところで優雨、陸って知っているのかしら?」

「うん、学院で良くお話しするから……」

「え、陸って聖應の方なの?」

「うん、良く草刈りをしてる」

「あ、陸さんのことですか?私も知ってますよ」

 

優と陽向の発言に僕は思わず驚いてしまった。朝原さんが言っていた「陸」が二人と関わりを持っていた。彼女と出会ったのは何かの運命だったんじゃないか?そう思うと同時にもう一つ。

 

「その、陸って殿方よね?何処で知り合ったのかしら?」

「え、ああ、陸さんはですね。聖應の職員みたいですよ唯一の男性みたいです」

「ずっと居るって、りくが言ってた」

 

……聖應に僕以外の男性が普通に居たことに更なる衝撃を受けてしまった。

 

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