処女はお姉さまに恋してる 陰の庭師   作:雹衣

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4月 白崎陸の日常

 桜の花が舞う道をゆっくりと車椅子を押しながら歩く。 押している車椅子には上品そうな少女が座っている。 少女は桜の花を見ながら一言

 

「春だね」

 

 と笑いながら俺に話しかけてきた。 それに対して俺は何て答えただろうか……そもそもいつの記憶だったかもう憶えてない……あの少女は今どうしているのだろうか?

 

 

 

 

 

4月1日 今日は聖應女学院の始業式がある。 新入生は学校の伝統とか何とかで明日入学式があるらしい。 始業式には俺は参加しない。 学院長には出た方が良いと言われていたが生徒には男性をそんなに見たことが無い人もいるだろうからと俺が勝手に辞退して参加していない。

 俺は今、生徒相談室で絵を描いている。 優雨が見ている時に描いていた絵の続きを今描いている。 今日は生徒が登校している為、外で描く事は出来ない。

 

「また聖應の生徒か……」

 

俺は頭の中に浮かんでいる少女の姿を見て呟く。 俺はこの能力を手に入れてからはずっと頭に浮かぶ少女の肖像画を描いてきた。 この能力は生まれつきという訳ではない。 確かこの学院に庭師として仕事に就いてから手に入れた……いつ頃かは思い出せない……漫画や小説にあるような頭に強い衝撃を受けてからかも知れないし急に頭に少女の姿が浮かび上がるようになったのかも覚えていない。

 

 俺の能力の原因はともかく頭の中に浮かび上がる少女にはある共通点がある。みんな聖應女学院の制服を着ているという点だ。 浮かび上がる姿は椅子に座り紅茶を飲んでいる様子だったり和式の部屋に正座をし、こちらに笑顔を浮かべていたり、聖應女学院の桜並木を髪の長い少女とその少女よりも身長の少し低い髪の短めの少女が仲よさげに歩いている姿……本当に色々ある。 この能力にはまだ分からない事が多いのがこの能力で浮かび上がる少女を何となく絵に残したいと思い絵を描き続けているのだがこの能力は絵を描き終えると別の少女が浮かび上がり、また描き終えると別の少女が……こういうのがずっと続き今じゃこの能力は絵を描く為の能力だと俺は解釈している。

 

「そろそろ始業式が始まったかな?」

 

 俺は壁にかかっている時計に目を向け呟くと宿直室へ自分の仕事の道具を取りに行く。

 

 俺の元々の仕事は学院の草木の管理だ学院の木の枝の調整や原っぱの草刈りなどが主な仕事だが意外にもせよ神経がいる。 木によっては外からの覗き見防止になっていたりして短くし過ぎてはならない。 かといって長すぎると隣の木と枝が当たったりしてしまい見映えが悪くなってしまう事がある。 そんな細かい事……と思うかも知れないがこれは少なからずある庭師のプライドなのである。

 

 俺は花の散った桜の木の枝を落とす。 周りには誰もおらず鋏の気持ちいい音が周りに響く。

 

 俺にとってはいつも通りの仕事の様子だ誰もおらず一人で庭の手入れをする。 仕事を初めて10年間いつも理想としていた仕事風景。

 

「ん?理想?」

 

 頭の中で思っていた事に疑問を感じる。 俺はこの仕事の様子を「理想」といった。 この仕事の様子を「理想」と表現するという事は一時期、仕事風景が静かではなかったという事には成らないだろうか? 人は失って初めて物の重要さを知るという。 という事は一時期はこの静かじゃなかったというのか?

 

「けど仕事中はいつもこんな感じだよな?」

 

 何かが頭に引っかかったが別に気にすることも無いだろうと俺は仕事を静かに続けるのであった。

 

 

 

 

「あ、陸くん? ちょっといいかな?」

「……」

 

理想だと思った理由がよくわかった。 学院長代理になってからやけに俺の本来の仕事以外のものを頼まれる事が増えたからだ。 今までは学院長に呼ばれてもせいぜい荷物を運ぶのを手伝う程度であったが学院長代理になってからはそれ以外にも書類仕事が俺の仕事に加わっているのだ。 俺は書類とにらめっこするよりも体を動かしている方が好きだ。

 

「ああ、そんな顔しないで、明日の入学式の準備の手伝いをして欲しいのよ……出来る?」

「拒否権はないんでしょ?」

「別にあなたは拒否権があってもなんだかんだ言って手伝うじゃない」

「……どうだろうな」

 

 学院長代理にいいようにされてるような気がしなくも無いが生徒の為だという事にしておこう。 少女達の笑顔のためなら俺は何でもしよう。

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