とある不幸なソードアートオンライン   作:煽伊依緒

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……第二十九話(第三十話)です。

一つ前の投稿からはや一年以上たってしまいました……
済みません……

と、いいつつ結局これからしばらくの間も何時投稿できるかはよく分かりません。
気長にお待ちいただけると幸いです。


第二十九話《混濁》~派遣~

走れ、走れ、とにかく何が何でも走れ。

あいつを助けるために、陰ながらいつも背中を見ていたあいつを助けるために。

 

「キリトッ!」

 

ボス部屋前の数十メートル程の直線。

完全に開け放たれた扉の中では一人の少年がその丈の二倍以上はあるだろうという獣としのぎを削っていた。青く輝くその剣が獣を切り裂きHPバーを着実に減らしていく。

そして不意にキリトの剣が獣に掴まれた。それでも、それでも獣のHPは全体の四分の一以上も残っている。

 

「キリトオオオオオオオオッッッ‼」

 

加速する。ただ前へ、前へと進んでいく、キリトを助けるために!

まるでただひたすらに直進する弾丸のように、開かれた地獄の壺へと入っていく。

お前は此処で死んでいい様な奴じゃない!

 

「―――ツッ!」

 

キリトにぶつかる寸前上条は左足一本で地面を蹴り飛ばして、高く高く飛び上る。その瞳はただの一点だけを睨み付けて。

拳を叩き落とす。

 

《――――グギュルルルッ⁉》

 

突如として下に向けられた口から今まさに溢れようとしていたブレスがかき消える。薄れていくその色を横目に上条は獣の背後に着地した。

それでもまだ、上条の全力だろうと一撃では終わらない。この獣は終わらせてくれない。

 

「キリトッ! まだ立てるだろ、今すぐ立て!」

「……トウ、マ」

「良いから立て! 次来るぞ!」

 

言葉で発した通り上条には尻尾の横なぎを、キリトへは剣による大降りをお見舞いしてくる。

それらを互いに避けながら、お互いのポジションを確認。呼吸は肺がつぶれそうなほどきつい、それでも息をキリトと合わせなければ勝機はない。

 

「――――行くぞ!」

 

キリトの言葉は地獄の壺にも良く響く。

その言葉を頼りに上条もまた一歩を踏み出す。

その心で絶対に乱れる事はないと確信しながら、踏み外す事もないと信じながら。

 

《グギュルッ⁉》

 

ブレス、刺突、横なぎ、それらをいとも容易く躱していなす上条達に流石の獣も驚愕したのか言葉を漏らしてくる。

また一本、また一線と赤いエフェクトは青い獣を包み込んでいく。

 

《――――》

「終わりだ」

 

最後はキリトのそんな言葉だった。

今度こそもう上条が手を出す必要さえないだろう。

剣を構え、眼前の敵を睨み付ける。今度こそは逃さない。

 

「スターバーストッ! ストリームッッ!」

 

輝く剣筋。それは見る者を震わせ、またその脳裏に光景を焼き付ける。

かくいう上条もまたその一人だった。

振るわれるたびにます光の線。そしてその中央で激しく舞う一人の剣士に、確かに目が奪われたのだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「それで待ち合わせを、ね」

「……なんで機嫌悪くなっているんだ? キリト」

「別に、何でもないぜ」

「もう! 別にキリト君も合わせた三人で会おうっていうだけなのに……」

 

上条は困り顔、キリトは何かムッとしているし、アスナはどこか慌てている。

こんなことが先ほどまでボス戦が繰り広げられていた場所で行われているなんて通常のボス攻略戦では考えられない事だろう。

因みに他のクラインや《アインクラッド解放軍》の人たちには、先に一つ上の階層に上がってもらう事にしたので既にここにはいない。

先程とは打って変わって穏やかな炎の光が辺りを照らす。そんな場所に三人はいたのだ。

 

「それで、用事ってなんだよ」

 

ぶっきらぼうに尋ねるキリト。

と言っても自分も呼び出された理由を知らないので何とも言えなかった。

 

「うーん……でも曲がりなりにも目的達成しちゃったんだよね……」

「? どういうことだアスナ」

「えーっとね……」

 

少し恥ずかしながらだが、アスナはポツリポツリと話し始めてくれた。

ようやくして言えば、単にキリトと上条が最近上手くいっていない様に見えたから、ここいらで再び関係を元に戻しておきたいという事だ。

 

「ほ、ほら……キリト君とトウマさんがしっかりしてくれればボス戦での危険度がぐーーんと下がるでしょ⁉」

「……ま、まあそうだけど」

「……確かに」

 

アスナの真意は別の所にあるのだろうが、そんな事を感じ取れる人間はこんな所にいなかった。

 

「んーと、なら今からどうしようか……」

「今日の予定は開けてきたから夜遅くても平気だぞ?」

 

とは上条。

因みにアスナも同じように首を上下に頷いている。

 

「……よし、なら久々に楽しく迷宮区攻略でも目指してみるか!」

「……はあ~~」

「な、何だよアスナ!」

「なーんでも、ただキリト君のお嫁さんは苦労しそうだな~って思っただけだよーだ」

「はあ? 今そんな事関係ないだろ⁉」

 

トウマからも何か言ってやれとばかりに目で訴えかけるキリト。

だが、そんな二人にトウマは微笑みを返すことしか出来なかった。

 

(……本当、いいコンビだよなこいつ等)

 

きっと上条とは違う、絆が存在するのだろう。

ほほえましく感じてしまう。

自分にも本当はそう言うものが存在することを自覚することなく。

 

「よし、まあとりあえず上の階層で準備して行こう!」

「はあ……そうね」

「トウマもそれでいいか?」

「ん……ああ、それでいいよ」

 

うっかりボーとしていた頭を一瞬で起こし、大きく笑って見せる。

続けて送られてきたパーティ申請に参加のボタンを押して再び笑う。

流石に二人を見てほほえましく思っていたなんて言えるはずもない。

 

《!”##!$##%&&%》

 

だが、突如として上条は気付かされた。

耳に確かに聞こえるノイズ音の存在に。

 

「っ⁉」

「おっしゃ! じゃあ――――ってどうしたトウマ?」

 

キリトとアスナは上条よりも数段レベルが低い、更にレッドプレイヤーと戦うためにわざわざ取得した聞き耳スキル。その二つはキリトとアスナが聞き届けるよりも遥かに先に音を捕らえた。

 

《#”$$”!#”!#”!》

「――ッ!」

 

平穏だったボス部屋に再び吹き荒れる風、それは上条、キリト、アスナの三人をいとも容易く吹き飛ばし壁に激突させた。

 

「ガハッ……!」

「な、にが……」

「っつつ……」

 

横目にキリトとアスナのHPバーを覗く。

大丈夫、まだ半分以上残っている。

 

《#$‼$”#”‼&$#%#‼》

 

次の瞬間、巻き起こされた砂埃が切り裂かれる。

よく見れば、かなりの長さを持つ剣を振り抜いたよう――――驚くところはそれだけじゃなかった。

爆風は砂埃を晴らすだけでなく、矛先にあった壁まで破壊したのだ。

 

「なッ……!」

 

ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく壁に目を奪われながら、煙が晴れた先にいる確かな存在にも神経を向けなければならない。

だが、そこにいたのは上条達の想像していた存在とは違うものだった。

 

「――おん、なのこ……?」

《うぅぅぅうああああああッ!》

「うわっ⁉」

 

狙うのは真っ直ぐに上条ただ一人。

いや、この場合は単に目に入ったのが上条だからと言うだけだろう。

自分の身長の何倍もの剣を手に持った少女は信じられない加速をして上条に迫る。

 

「……くっあああ!」

 

目を見開き、全速力を持って下から切り上げてきた剣を横から叩く。

が、炎をその刃に湛えた剣はただ叩くだけでさえ上条にダメージを与える。

弾いた剣ごと少女は壁に激突し、先程よりも大きな砂煙を巻き起こす。

 

「どうなってんだ……」

「トウマ!」

「キリト! アスナ! 無事だったか」

「ああ、って……いったいどうなってるんだ? 俺には小さな女の子の姿しか見えなかったんだが」

 

先程と同様に、切り裂かれるように砂埃が払われる。

そして、そこにたたずむのはまるで獲物を見つけて狩りを始める直前の狩人。

小さな女の子とは思えないほどの殺気、その少女の目さえ赤く燃えている様に煌々と輝いている。

ふと、気付く。驚くことに少女の持っている刃の炎は上条が叩いた部分しか炎が消えておらず、また上条が消した場所でさえ数刻と立たずに元通りになっている。

 

「なあキリト。あんな子見覚えあるか?」

「いいや、あるわけないだろ……自分の背丈の何倍もある剣を振り回す少女なんて――なッ!」

 

話を打ち切りキリトは前に出て長剣を二つの刃で受け止める。

金属同士が擦れあう甲高い音を響かせ、何度も、何度も受け止める。

 

「重すぎるッ……!」

 

少女の攻撃パターンが変わる。

ただただ上から振り下ろしたり、下から切り上げたりするのを止め、その長い刀身をもってして突くようにし始めた。

 

「クソッ! 二人とも下がれ!」

《!#”$#$#””%%&”!》

 

爆音とともにキリトの頬の真横を通り抜ける長剣。

そして、ほんの少し掠めただけだというのにキリトのHPバーは信じられないほどに減る。

 

「嘘だろ……」

 

掠めた炎剣はキリトのHPを二割も削っていた。

絶望の色は濃く、上条の顔を覆い尽くす。

一瞬、ほんの一瞬気を抜くだけであっという間に死に絶える。

 

「トウマ! アスナ! 逃げるぞ! 今の俺たちで敵うような相手じゃない!」

「……ああ!」

「……でも、キリト君!」

 

アスナが悲痛な声を上げる。

それもそのはずだ。

先程から全員気が付いているだろう。

 

「ああ、分かってる……こんな奴を迷宮区の外に出したらまずい」

 

先程から長剣を振り回す少女の頭にアイコンが見えない。

普通敵なら赤や黄色などの敵を表すアイコンが見えるはず。

そして、それが見えない。

つまりこれは何かのバグである可能性が高い。

であるなら――――。

 

「ウッ!……アスナッ! 迷ってる暇はない!」

 

このバグはボス部屋の外にもきっと出られる。

そして、曲がりなりにも最前線でトッププレイヤーとして戦うキリトがここまで押されている中、他のプレイヤーが太刀打ちできるとはとても思えなかった。

 

「俺が殿を引き受ける! 二人は早く転移結晶の使える所まで逃げろ!」

「待てよキリト!」

「キリト君!」

《‼#”#”‼‼%#””‼》

 

敵は待ってくれない。真っ赤な目を燃やしながら真っ直ぐキリトへ向かってくる。

一回一回の剣の振りは大きく、素人であることがうかがえる。だが、一発でも貰えば即刻死ぬという事に対する恐怖心がきっとキリトに一歩前へ出るという勇気を失くさせている。

いや、後ろに上条達がいるせいでもあるだろう。

キリトが死ねば、ほぼ間違いなくレイピアのアスナでは対抗できない。

かと言って上条の拳も大した効果は得られなかった。

なら、確かに殿を引き受けるのはキリトが妥当だ。妥当だけれど。

 

「アスナ、先に行っててくれ……キリトは俺が連れて帰る」

「――――そ、そんなこと出来るわけないでしょ!」

「大丈夫だ。あいつを死なせるわけない」

 

遠くで切りあっているキリトを見て、ふと笑う。

ああ、死なせるわけにはいかない。

数刻前に同じ場所で思ったその感情を想起させる。

もう一度、あいつを守るために。

 

「キリトはこんな所で死んでいい奴じゃない! だから、アスナ。必ず連れて帰るから、アスナだけでも逃げ――」

「ふざけないで!」

「ッ⁉ アスナ!」

 

上条の言葉を途中で遮って、アスナは飛び出した。

二人のために戦い続けているキリトの元へ。

 

「―――アスナ、キリト」

 

黒の剣士の後姿を追いかける彼女の姿は本当にとても、とても美しかった。

――だからこそ。

 

「死なせて堪るかよッッ!」

 

キリトとアスナが死ぬ。

ふと浮かんだ、そんな、くだらない幻想は俺がこの手で―――

 

「ぶち壊すッ!」

 

上条も走り出す。

三対一。戦闘は更に深く、黒くなっていく。

誰の思惑か、背後に控えている者しか知らない状況で……。

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。

楽しんでいただけたなら幸いです。

前書きにも書いたようにこれからもどのタイミングで投稿できるかは分かりません。
気長に待っていただけると作者としても助かります。

(誤字や脱字、よりよい表現などありましたらコメントまでよろしくお願いします!)
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