今昔夢想   作:薬丸

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選抜十人は孫堅時代から仕えている人と孫策と周瑜が見出した人から選びました。
改稿済み。


28.実技訓練開始

 俺は張昭からの依頼を受けるにあたり、二つの約束事を結んだ。

 俺を役職につけない事、戦場に近付けさせない事。この二つだ。

 今回は戦いについてもガンガン教えようと思っているので、先に予防線を張っておかないと誘いを断る時に面倒だ。

 俺の要求に訝しげなメンバーだったが、それぐらいならと約束を結んでくれた。

 

 

 剣を届けた翌日から訓練をスタートさせる、無駄にする時間は一切ない。

 特訓を行うメンバーは十人、孫策、周瑜、黄蓋、程普、韓当、朱治、祖茂、張紘、魯粛、太史慈だ。

 才能があり、忠義があり、やる気がある主要なメンバーだけを極限まで鍛えあげるよう頼まれたので、この十人になった。

 身体が完全には出来上がっていない娘っこや文官も混じっているが、適宜訓練内容を変えて育成する。

 まだ訓練が何なのかも分かっていない六歳の孫権と二歳の孫尚香は張昭が面倒を見る事になっている。皆が学んでいる横で訓練風景だけ見せ、ときたま俺も混じりつつ対洗脳用の情操教育を施していく予定だ。

 俺は午前中に患者を診み、皆はそれぞれ練兵や政務に励む。昼からはそれぞれの仕事の合間をぬって時間を割り振り、順次訓練を行っていく。そして夜は皆で座学を修める。六日に一度は休ませるが、後はみっちりとルーチンを守らせる。

 計画は練られている。さあ、訓練を始めよう。

 

 

 診察を終えた俺は訓練場へと赴いた。

 柔軟をしつつしばし待っていると黄蓋と程普の二人が走ってやってきた。

 

「すまぬ、抜けてくるのに時間を取られてしもうた」

 

「ごめんなさいね、二人抜けるとなると引き継ぎが難しくて」

 

「ああ、別に構わないよ。仕事の途中で抜けてもらってるわけだし、ここと練兵場は少し離れているしね。

 むしろ思ったよりも早くて吃驚したぐらいだよ」

 

 先生をするにあたって、彼女達とは敬語のやり取りをしないようにした。

 互いに変に気遣って訓練内容に影を差さないためだ。

 

「時間厳守の感覚があるのは張昭のおかげね。あの子が日時計を各場所に置き始めてからなんだかんだと皆時間を守るようになってきたのよ」

 

「教えを忠実に守る自慢の教え子だなぁ、他の皆もそうだったら嬉しいが。

 それじゃあ早速特訓を始めようか、時間が勿体無い」

 

「おうともさ。しかし何をやるんじゃ?学ぶのは気の扱いや医術の実践か?」

 

「とりあえず柔軟をしながら説明しようか。柔軟については張昭から聞いた?医術を学ばせた時に教えたんだけど」

 

「聞いておる、兵も含めて皆やっておるぞ」

 

「そっか、なら練兵の時に一緒にやってるだろうし大丈夫かな。

 それじゃあ今から君達に武術の指導を行う」

 

「先生さんに武術の指導なんて出来るのかしら?」

 

「訝しげな視線も理解できるが、ちゃんと出来るよ。

 今執金吾をやっている丁原や三品位の将軍をやっている皇甫嵩にも手解きをしたんだから」

 

「張昭も言っておったが、眉唾じゃなぁ」

 

「まあ口だけで認められようとは思っていないさ。

 とりあえず最初にやるべきこと、君達の先生をやる上で必要な事を済ませる」

 

「ふむ、それはなんじゃ?」

 

「俺が圧倒的上位者であると身体に刻み込んで、誇りを徹底的に折らせてもらう」

 

「はい?何を言ってるの?」

 

「君達は孫堅様に武勇を認められていたらしいね?」

 

「…ええ、直接お褒めの言葉も頂いたし、自分の腕前についても自負しているわ」

 

「右に同じじゃな」

 

「そう、じゃあその腕前を俺に見せてくれ」

 

「まあ構わないけど…黄蓋と模擬戦でもすればいいの?」

 

「いや、俺を相手に殺す気で来てくれ」

 

「は?いやいや、張昭の先生を怪我させる訳にはいかんし、先生は知の人じゃろ?理論とかに基づいた教授を横からするのではないのか?」

 

「んーなんというか、俺を強いと認識できない時点でお察しなんだよな。言っておくけど、俺は孫堅様よりも圧倒的に強いぞ?」

 

 孫堅よりも強い、それを聞いた彼女達の目が据わる。良い塩梅で挑発が出来たようだ。

 

「……それはふかしでも言って良い言葉ではないぞ?」

 

「愛弟子が言うにな、俺は嘘が苦手なんだそうだ」

 

「そう、なら存分にやっても良いのね?」

 

「どうぞ、得物は好きな物を使っていいぞ」

 

「舐めてるわね」

 

「次来る朱治と祖茂と韓当にはこんな奴に学ぶことなぞないと言って聞かせねばならんのう」

 

 練兵した直後で得物は持ったままだ。彼女達は自身の得意とする得物をそのまま抜き、どちらが先に行くかと視線でやり取りをしている。

 大丈夫、そんなまだるっこしい事をしなくても、

 

「二人で来なよ、それでも届かないんだから」

 

「……ちょっと堪忍袋が切れちゃったわ、黄蓋、私が先に行く」

 

「ふん、手加減するんじゃぞ」

 

「多分無理」

 

 そう言って彼女は得物の蛇矛を構えて地を蹴った。

 が、この時点で駄目過ぎる。その一秒があれば間合いなど一瞬で無くなる。

 俺は彼女が地を蹴った瞬間既に間合いに居た。

 彼女は目を見開いて驚き、自身が遅きに失した事に気付いたが、最早どうする事もできない。

 軽く足を掛けてやるだけで彼女は盛大に転がった。

 隙だらけだが追撃はしない、ここでダメージを与えてしまうと絶望感が薄れてしまう。なので彼女が起き上がるのを話しながらゆっくりと待つ。

 

「構えてから地を蹴る、二つの工程を脳内で決めてかかっていたからこうなる。戦いにおける想定は一工程を連続するように行え、それが臨機応変という物だ」

 

 彼女達は大人なので、言葉としてちゃんと伝える。

 出来上がった価値観を崩すには正論をどんどん押し付けるに限る。

 程普は起き上がり、唇を噛みながら再び構えた。今度は静観の構えのようだ。

 

「その構えには何の意味があるかちゃんと考えてそうしているか?

 構えとは攻めるにあっては選択肢の強要、守るにあっては相手の攻め手を制限する為の物と言える。

 さっきの構え、武器の先端を身体の後ろに隠す形でしかも少し前傾していたね。あれは愚策だ。あれなら上段からの一撃はない、また長物だから切り上げという選択肢もない。ならば斬り払いか突きになる、しかし前傾姿勢で突きは避けられた後の隙が大きいし、当たった所で攻撃力過多で無駄が多い。

 という訳で君が取る行動は切り払いの可能性大で、精々足、胴、首の狙いで選択肢を強要するしかない。だが大まか狙いが分かっているなら簡単に避けられるし、受けられるし、反撃される。

 まああの転びようからすると突進速度には自信があるみたいだったし、いつもは深く考えずとも当ててこれたのかな?」

 

 目つきが段々悪くなっていくね。図星だったんだろう。

 

「それじゃあその構えだけど、蛇矛を前に突き出して構えているね。さっき見せた俺の早さを得物の長さで牽制しようとしてるわけだ。だけど持ち手を少し引いている、これで反撃の意志ありって事がわかる。縦に小さく小手先を狙うか突きを放って一撃を加えようという考えだ。

 ここまで言っても構えを変えないのは、間合いで有利を取っているから安心してる?だけどそれは意味が無いんだよ」

 

 俺はゆっくりと近付いていく。

 

「初撃を交えても実力が分からなかった相手なら反撃の意志は消して見に回るべきだ、中途半端が一番良くない。

 さて、ゆっくりと真正面から近付いていくと予想外の行動を取っている訳だけど、どこで攻撃に切り替える?攻守の切り替えは戦闘ではとても大事な要素になってくる。さあ今で十歩と少し、まだ見に回るかい?それとも決め打ちしているのかな?そっちの可能性の方が高そうだね。じゃああと一歩、君の間合いに入ろう」

 

 彼女は読み通り、突きを放ってきた。腰、腕、肘、手首を連動させた速い突きは他の人間であれば意表をついた事だろう。けど、

 

「決断が遅い、攻撃が遅い。常に思考し、相手が行動したら合わせて最善手を打て。

 動かない選択を取ったとしても見えぬよう僅かにでも変化をつけるんだ。さっきの一撃ももう少し深く構えていたらもっと速度は出ていただろう?相手がゆっくりと近づいてきたなら、気付かれぬよう徐々に引けばまだマシな結果になっていたかも知れない」

 

 俺は突き出された蛇矛を手の甲で逸し、講義の邪魔をされぬよう柄を握って動けなくする。

 

「こんな、う、嘘よ」

 

「俺は嘘が苦手らしいと何度も言っているんだが。さあ、以上の事を踏まえて速度を上げていこう」

 

 蛇矛を放し、俺はまた距離を取る。

 

「ああ黄蓋、隙あらばどんどん矢を放てよ。二人がかりで良いと言ったろう?」

 

 そう言うと、黄蓋は唇を噛んでゆっくりと矢をつがえた。多少なりとも実力を認めてくれたわけだ。

 

「それじゃあどんどんやろう。孫堅様が認めた二人の腕前、存分に教えてくれ」

 

 すると横合いから矢が飛んできた。鏃はないとはいえ、当たれば骨が折れるし、黄蓋が本気で射れば身体を貫くぐらいできるだろう。

 まあ、当たればの話。

 腕を狙うように放たれた矢を見ずに掴む。

 

「腕前は良いが、確実に狙えるならば頭を、次点で動きを制限する下半身を狙え。それが無理なら胴体だ」

 

 掴んだ矢をぽいっと投げ返す。投げ返した黄蓋の居る場所の先に色々な武器が置かれているスペースがあった。

 

「ああそういえば、ここには武器も置いてあるんだったな」

 

 俺は武器が置いてある場所に行き、刃が潰された蛇矛を手に取る。

 

「一手お相手願おうかな」

 

 嫌な奴演出は功を奏しているようで、苦虫を噛み潰したような程普は再び蛇矛を構えた。

 

 それじゃあ今度はこちらから行こう。

 中段の構えのまま一足飛びで間合いに飛び込み、払う。程普は二歩退くが、そこにまた突き。更に退いた所で一歩踏み込み、身体を大きく捻って切り払う。捻った身体を矢がすり抜けていく。少し体勢的に無理をしたから隙を見て反撃してくるかな?と思ったが、切り払いと矢の射線から逃げるために三歩後退しただけで程普は攻めて来なかった。そのまま来たら石突きで鳩尾を狙おうと思ってたんだがな。

 そして続く三度の攻めで程普は壁を背にして詰んでしまった。喉元に蛇矛を突きつければ勝負あり。

 

 何故程普が避けるしかしなかったのか。俺の攻撃速度が早い上に強要する選択肢が常に五手以上あるので、確実に避けるには後ろに退かざるを得なかったからである。

 矢による援護を生かせなかったのは、俺が攻撃行動をやめなかったので当たると勝手に確信し、当たってから行動に移そうとしていたのだろう。

 

 

 とりあえず長物については切る、払う、突く、これら三元素を極め、戦いの流れを握ればこうなるという手本は見せれたと思うので、次は弓である。

 俺は置いてあった弓と矢筒を拾い、再び定位置につく。

 

「それじゃあ今度は弓と体術で戦うからよろしく。黄蓋も狙っていくからちゃんと避けろよ」

 

 そう言って彼女に一射する。

 意を完全に消した早業だったので、彼女が反応する間もなかった。

 彼女の顔スレスレを矢が通過した時、黄蓋は矢が放たれたのだと気付いたようだった。

 

「今度は当てるぞ、気を抜くな」

 

 そう声をかけた横から程普が突進してくる。後手になると敵わないと悟ったのだろう。

 しばらく避けに徹していると黄蓋と程普の息が噛み合ってきた。本来の調子を取り戻してきたようだ。

 ようやくまともに攻めてきたので、選択肢の潰し方を教える。

 タイミングを合わせて半歩踏み出す半歩引く、矢を取り出す動作で誘ってみる、砂煙を使う、体術を使う、矢を一本足元に滑らせる等、手札の切り方次第で事前に攻撃を誘導し潰せるのだと身を持って知ってもらう。

 最後はわざと激しく立ち回り、程普と黄蓋を気付かせぬよう一直線に並べ、矢を放つ。思った通りに程普が避けた所で黄蓋に矢が当たり、悲鳴に気を逸らした程普を転ばせて試合終了。

 

「乱戦になっても自分と敵味方の立ち位置はしっかり把握しよう。最後のあれ、程普なら無理せず受け流せたでしょ?」

 

「…はい」

 

 俺の実力を認めてくれたのか、彼女達は大人しく返事をしてくれた。

 

「それじゃあ交代が来るまで続けるぞ、さっさと立ち上がれー」

 

「……はい!」

 

 自棄っぱちになった二人を走り回らせ、小突き回し、転がせる。

 一時間ほどを追い回すと、二人は疲労困憊満身創痍といった有り様でその場に倒れこんだ。

 時間的には丁度いい。あと三十分程で次の面子との交代なので、それまでは休ませて仕事に戻らせるつもりだ。

 

 さあ気を使って回復させよう!と思ったら、向こうから韓当、祖茂、朱治がやってきた。

 早いなーと思って話を聞くと、今日の部隊は怪我人を集めたリハビリ部隊だったので早めに帰したのだと言う。

 今日の仕事はもうないです、と言って気を利かせてくれた三人に感謝する。そういうことならば方針転換だ。

 俺は満身創痍で倒れ伏す二人の首筋に触れ、わざと気脈に栓をする。

 二人はぐっ、と苦しげな声を上げ、全身から力が抜けるのが見て取れた。

 

「今体内に巡る気を絞らせた。楽になりたいなら無意識で操っていた気を自覚して自力で克服するしか無いぞ」

 

 疲れきった今だからこそ気を使いこなす最適な訓練が出来る。

 健常時に気をカットしても、なんか力が出ないなーという程度の認識ぐらいしか出来ず、実は内臓や不随筋まで気の恩恵を受けているという事が意識しにくい。

 ゆえに内臓まで疲れきった今こそが身体と気の関係性、気の恩恵を理解するのに最高の瞬間なのだ。

 か細い吐息が恨めしげに漏れるが、死なないようちゃんとマージンは取ってるから大丈夫だろう。

 俺は二人を訓練場の片隅に寝そべらせておく。

 それじゃあ訝しげな三人も転がすとしますかね。

 

 

「あの、この惨状は一体……」

 

 一時間半後にやってきた残りの年少組と文官組の五人が、死体のごとく寝そべる武将を見て眉を顰めている。

 

「武官の誇りというものを叩き折っただけです」

 

 孫策がいるので敬語を混ぜる。

 

「そうなのですか?

 あの、謙信殿。私もこれからは謙信殿の子弟となりますので、どうぞ楽に喋って下さい」

 

「あーそれも、そうですね、では訓練の間だけはそうさせて頂きます。

 うん、それじゃあ皆、これからよろしく」

 

「「はい!」」

 

 お、皆元気いいね。先生やる気が出たよ。

 

「皆はまだ身体が出来上がっていないので、まずは体作りから始めようと思う。

 孫策、周瑜、太史慈、魯粛の年少組は身体を健やかに育つ為の訓練を、文官の張紘には疲労が溜まりにくく、健康を維持しやすい体作りを目指して訓練する。

 はい、孫策と太史慈はえーって顔しない。今下手に筋力とかつけると発育が悪くなるぞ。

 今は丹念に下地を作って、三ヶ月後を目処に訓練に耐えうる身体を作り上げる。特訓はそれからだな。

 文官組の張紘と魯粛も無理のない範囲での鍛錬と護身術を学んでもらう。中央では文官の暗殺なんかも横行しているらしいからしっかり備えておこう」

 

 そう言って訓練を開始する。

 柔軟をしっかりとして、身体の動かし方、気の巡らし方などをゆっくりと教えていく。

 それを見ていた先発五人は扱いが違う!不公平だ!と微かな吐息に苦情を乗せて訴えてきた。

 まあ半年後には仲間が三人増えるから許してよ。

 

 

 日が暮れてきた所で一日目の特訓終了。

 先発の五人は気脈の正常化が間に合わなかったので治してあげる。とはいえ塞がれていたものが広がっていく感覚が分かっただろうから、次は時間内に金縛りを解く事も出来るだろう。

 

 そして年少組文官組を除いた五人に試練を与える。

 今から得物を片時も放すべからず。寝る時もトイレの時も作業中もご飯時もずっと武器を手に持って生活をする事を命じた。

 は?という声が漏れる。

 そりゃそんな事をしてれば日常生活に支障をきたす。けれど武器を手足のように扱う為に必要な行為だ。

 

「俺のように武器を扱いたいだろ?」

 

 そうニヤニヤとわざといやらしく笑って言ってみせると、彼女達は反骨心丸出しでやってやる!と気勢を上げた。

 

「最初は鞘や槍衾に入れていいが、慣れたら取るからよろしく。黄蓋は弓だけじゃなく矢を三本持つ事」

 

 と言うと、こいつ正気かよ?という目で見られた。けれどさっきやるって言ったよね?と返せばぐぬぬっとした表情で黙り込んだ。

 

「大丈夫大丈夫、死んでないならどんな大怪我しても俺が跡形もなく治してやるから」

 

 そう言う事じゃないという目で見られたが、すぐに何を言っても仕方ないんだという諦観を宿した伏し目とため息に変わった。

 

 ちゃんと効果を説明すると、物をずっと手にする事で理解できる事は思っている以上に多いのだ。

 重さとリーチという分かり易い物から、自身の健康状態や武器状態が変化すれば手にした際に僅かな違いが出る事、気の通し易さが断然に違う事、鞘を取ったら怪我をしまくるだろうから武器が凶器になる瞬間を身を持って知れる、これはどうしたら凶器として最大限のパフォーマンスが出せるのかを理解させるのに最適だと言い聞かせた。

 納得はしてくれたが、嫌なものは嫌だから嫌な顔をするのは仕方ないと言われた。うん、正論だわ。

 

 孫策と太史慈が面白そうだからやってみたい!と言ったが、十歳前後の年少組は発展途上の骨格に悪影響が出るから絶対にやらせない。骨格が出来上がっている大人は整体を行えば短時間で治せるからやらせるのだ。

 だからやるなら十八歳になってからと厳命した。ちなみにやらせる五人は現在二十歳前後である。

 

 

 反発していた武術指導だが、数回もすれば皆とても素直に従ってくれる。

 矜持を完膚なきまでに折り、今一度自分と自分の武器について見つめ直す機会を与え続け、武器を手足のように感じるよう訓練も鞘や槍衾を取る段階に至ってはや一ヶ月が経っていた。

 

 基礎の本質を理解して根本から再び技術を身に付けさせ、無意識下でも怪我をしない武器の扱いを身につけ始めた昨今、皆が皆目覚ましい進歩を遂げていた。

 半年間の体作りと基礎技術の向上の後、年長組の訓練に混じった年少組が目を剥いた程である。

 孫策が「皆母様のように強くなってる」と素直に放った言葉に、皆確かな達成感と微かな寂寥感を滲ませた。

 彼女達は孫策の言葉を噛み締め、訓練に更なるやる気を漲らせていた。

 

 俺は基礎訓練は各自続けるようにと命じ、ついに応用へと入らせる。

 苦手武器をひたすらぶつけて活路を如何にして見出すか、多人数での立ち回り方、気配を殺して相手の不意を打つ奇襲戦法、逃げながらの戦い方など、様々なシチュエーションを想定した実践訓練を行う。

 

 

 年少組はその実践訓練を見ながらの基礎訓練である。

 当然孫策と太史慈がやりたいやりたいと駄々をこねるので、周瑜も含めて時折交じらせてやる。年長組からしたら新兵をどう扱うかや弱卒を見抜く訓練にもなるしね。

 そして年少組は上手くいくと簡単に鼻を伸ばすので、そうなると俺直々にコテンパンにして鼻を圧し折って差し上げる。

 

 今は自信を折って、実戦で自身の強さがどこまでに至っているのかを理解して欲しい。

 武器と体術の基礎を積み、本物の豪傑達の強さを間近に見て知っている自分達は既にそこらへんの武将よりもよほど強いのだと知り、そしてそれでもまだ上に到れるという事実を真摯に受け止めてくれたら本望だ。

 

 こうして昼の実践訓練は確かな成果を収めたのだった。




戦闘描写はざっくり、説明はそれっぽくです。
次回は座学についてと別れの回です。

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