彼は真剣でと言ったが、春蘭と秋蘭がそれを許すはずもなく、模擬武器での打ち合いとなった。
鍛錬場から兵を追い出し、私と謙信、そして鍛錬場に誰も近づけさせないよう見張りとして春蘭と秋蘭の二人を置いた。数百人が使える程に広い鍛錬場にたった四人だけ、だがそれでも私達には狭い、と何故か考える。
馬鹿なことを、と頭を振り、戦いに集中する。
そして完全に意識を戦いに切り替え、私は鎌を、彼は剣を手に取り、中央で互いに構えるのだった。
空気が途端に重くなる。
肌が粟立つ感覚に笑みが止まらない。
ああ、やはり私の予想は正しかった。彼は絶対なる強者である。
先手は私が取った。
鎌は先端が極端に重くなる特性上どうしても初速に劣る武器であり、後手になると手が回らなくなって負けてしまう。
だから先に動き出し、踊るように回ったり、全身を捻って力を加え、勢いを増し続けなければいけない。
勢いを殺さない程度に左右に身体を揺らして攻撃を交わしたり、足捌きに変則的な動きを取り入れて攻撃の機先をずらしたり、石突きを意識させて動きを牽制し、手足を使って相手の体制を崩したり、飛んで跳ねて撹乱してと曲芸じみた事をしなければ武器の本領は発揮できない。
更には攻撃を受けた瞬間に流れが止まるので、武器のかち合いをしてはいけない等制限も多い。
だが勢いに乗せて振る事さえ出来れば、鎌の刃先による刺突、両刃となっている刃による切断攻撃が同時に襲いかかる。しかも重心が先にあるから重さも十二分と非常に対処が難しい攻撃となる。
初見で受けるのは自殺行為と言える。
私は最大加速で彼の元まで走る、一息の間に間合いを詰め、鎌を薙いだ。
まるで枷が外れたかのように身体が軽く、今までとは一段階違う身体能力が発揮される。
最高の出だし、最高の加速、最高の振りと、生まれて初めてこれ以上はないと思えた攻撃を行えた。
だけれども、
「予想以上の突進速度でしたし、良く練られた攻撃でした。ですが、やはりその武器ですと曲芸の域を出ませんね」
彼は上半身を反らし、最小限の動きで鎌を回避して、剣を私の首元に添える。
私も、春蘭秋蘭も、驚きの表情を隠せなかった。
初見で大鎌最大の弱点、最小限での回避を見事に突かれるとは思いもしなかった。
受けるのは先程も言った通りに難しい。刃先だけ弾いても勢いの乗った柄があるし、柄を狙うなら刃が届く。飛び退るなら更に勢いをまして鎌を振るえる。前に出て来るなら鎌を引けばいい。しゃがむなら石突で脳天をかち割ればいいし、跳ぶなら鎌を投擲して体ごと分断してやろう。
だが体を逸らすような最小限の回避だけはどうとも出来ない。
勿論回避をさせない為の工夫は幾つも打っている。動きの緩急であったり、変則的な動きであったり、振った瞬間に僅かに手を滑らせて間合いを誤魔化したり、その他細かい対策もしている。
踏み込みから武器を振るうまでの一瞬の間に施した虚実は十数個に及ぶというのに、それら全てが意味をなさなかった。
「貴方は、私以外の大鎌使いとでも戦った事があるのかしら?」
「農民が鎌を持って薬を奪いに来た事はありましたが、そこまでの大鎌を振り回す酔狂な人物には出会った事はありませんね」
「まあ、それはそうよね。こんな扱い辛い武器を好き好んで振り回す馬鹿な人間がそうそういる筈ないわよね」
「えっと、あっけらかんとそう言われると対応に困るのですが……では、その武器を選んだ理由をお聞かせ頂けますか?」
「言うなれば象徴とか飾りかしらね。
この鎌は命を刈り取る形をしていて、見ているだけで不気味でしょう?だから民や雑兵には良い脅しになるのよ。
けれどそれなりに経験を積むと逆に侮ってくる、私の身体でこんな扱い難い物を振れる筈がないってね。侮られたらさっさとその隙をついて一瞬で首を刈り取る。そうして倒せば武器の不気味さも際立って周囲の不安を掻き立てる事なんかもできるでしょう?
矢も鎌をくるりと回せばある程度対応可能で、振り方次第で広範囲の敵に有効、刺突斬撃打撃が可能、長物も絡め取れば奪えもするわ。
泣き所は勢いを力ずくで止められる夏侯惇のような豪腕を誇る者と、貴方のように一瞬で鎌の特性を見抜ける者と相対した時には厳しい、という事かしら」
「ほう、合理化を突き詰めた結果、という事なのですね。
では次にお聞きしますが、これは本命でしたか?」
「いいえ、一番自信があるのは剣よ」
私は鎌の特性を理解して攻略しようとする強者に対して用意していた秘策、奥の手を簡単に吐露してしまった。
案の定春蘭秋蘭が慌てている。
「何やら側近の方が慌てていらっしゃいますよ?」
「放っとけば良いわ。ねえ謙信、一つ賭けをしないかしら?」
医者に喧嘩を売る私を面白そうに受け入れた彼なら、多分乗ってくる。
「賭けですか?」
「ええ、相手を下せば勝ちという単純なもの。そして勝った者は負けた者に一つ命令できる、というのはどう?」
賭けの単価としてかなり悪どい要求という自覚はある。
だけどこれを逃したら彼は何処かに行ってしまうかもしれない。
彼が他の誰かのものになるなど、許せるはずがない。
「さっき見せた私の腕前を踏まえて仰られているのですか?」
先ほど彼が見せた動き、無駄を省いた流麗で軽やかだった。
目に見ても分かるし、体の奥から響いてくる声からも、あれが彼の実力の一端でしか無いと訴えている。
だけど、
「そうよ、私は私を追い込みたいの。私はすっごい負けず嫌いでね、今負けて、その上で本命も負けて賭けにも負けるなど、死んでも許せない質なの。だから死に物狂いで勝ちに行くわよ」
これまで私は勝ってきた、だから今回も勝つ、勝って全てを手に入れる。
「憤死などされたら困りますよ?」
「大丈夫よ、負けないから」
傲岸不遜に言ってのける。
あらゆる天賦を持つ自身をこれでもかと磨き続けてきた、だからそれ相応の自信はある。
「……貴方の有様、正しく覇王です。
受けましょう、少し興味が出てきました」
「ふふっ、言ったわね。ならば私が勝ったら貴方の全てをもらうわ」
「では私が勝てば、私と共にして欲しい事があります」
「あら、ここでは言えないの?」
「言えません。ですが貴方しか出来無い事ですし、ただの一度きりで構いません」
ほう、この私に何をさせようと言うのか。
興味は湧くが、何にしろ私が勝つのだ、彼の言う事は残念ながら聞けない。
「貴方と共に、と言うのなら命の危険も無いのでしょう?ならば構わないわ。
ではどうしましょうか、証人はいるけれど私の身内だものね」
「ならば真名に賭けましょう」
「真名を晒して良いのかしら?」
真名を聞き出すのが一つの目的ではあったけど、随分と素直に受けるのね。
「この国ではこれ以上の誓いも無いでしょう。そしてこの戦いは最上級の誓いを行う価値がある」
どうやら彼も私を買ってくれているようだ。
得意の得物ではなかったとはいえ、あの一振りにそれなりのものを見てくれたらしい。
「それもそうね。では私、曹家当主曹孟徳、真名を華琳が誓う。
この戦いを一対一で最後まで戦い抜こう」
「謙信、真名を白が誓う。
この戦いを正々堂々と戦い抜く」
頭痛、ではなく、心の奥がずきりと傷んだ。
「……は、く?謙信、貴方の真名は白と言うの?」
「ええ」
「その名は……その名は確か……この記憶は、この感覚は」
血に濡れた私を抱く彼の姿が脳裏をよぎった。
その瞬間、腹の底で蟠っていたモノが咆哮を上げる。何が起こったのか分からないが、それが歓喜の雄叫びだと言う事だけは分かった。
「私の真名に反応されるという事は、貴方はやはり覇王なのですね。
……曹操様、私は貴方の抱いている感覚に心当たりが御座います」
目の前の彼は嬉しそうにそう言った。
「それは何故、どうして貴方が?」
「それは勝ってからお尋ね下さいませ」
そう悪戯に微笑む彼を見て心が沸き立ち、見たこともないはずの情景が浮かんできた。
『なあ 、私が君にこうも親近感を持っている理由が分かるかい?』
『心当たりはあります』
『そうか、もし私が勝ったのなら、君からそれを聞き出そう』
誰かと誰かが記憶の中でそんな会話をしていたような気がする。
「っ、このやり取りすら何かが頭にちらつく!
ええ、そうするわよ、元より負けられない戦いに、勝つべき理由が増えただけ。
夏侯惇、倚天と青紅を持って来なさい!」
「いえ、模造刀で良いでしょう。これはあくまで試合です、殺し合いではありません。
それにそちらの方が、きっと面白い。冶金技術、鍛冶技術も相当に上がっていますし、ある程度打ち合えはするでしょう」
少し気になる言い回しだが、言わんとしてる事は分かる。ここは将も使う鍛錬場で、置かれている模造品は刃こそ潰されているが品質自体は一級品と遜色ない。
まあ存分には戦えるか。手に馴染む武器で闘えないのは少し残念だが。
「……貴方がそう言うなら良いわよ」
自身が使っている倚天の剣に近い重心の武器を選び出し、数度振るう。
掴んだ、行ける。
私は鍛錬場の中央に再び戻り、剣を構えた。
彼も一本の剣を選び、中央にやってきた。
「始めましょうか」
「ええ、ではいざ、参ります」
そうして戦いの火蓋は切って落とされた。
彼は受ける事を選び、私は攻める事を選んだ。
打ち合ってすぐ彼は私と同種の剣を振るうと理解し、戦慄した。
無駄をそぎ落とし直線で命を狙い続ける、一太刀一太刀に幾つもの布石を込めて常に選択肢を迫る、隙あらば急所を狙って集中力を消費させる、そんな虚飾を取り払った合理の剣。
私はこの剣を完成させてから負けた事がない。
気力の充実と型の完成が同時期に済み、それまで負け続きだった春蘭の力も、秋蘭の手数も追い越した。
二人に泣いて喜ばれたのは記憶に新しい。
そうして苦心の末に得た剣理を、目の前の人物は容易く振るう。
何故だ、とは思わない。合理を突き詰めた剣なのだ、誰かが見つけて身につけていたって不思議ではない。
だが、同程度に使われるとは思わなかった。
つまり目の前にいる存在は、私と同等以上に身体能力、気量、戦術勘がずば抜けており、また厳しい鍛錬を長く行ってきたという事になる。
その事実に嬉しくなる。
勉学を学ぶ名目で中央に赴き、そこで優秀な人間がいるという噂を聞きつけてはその人物の元に走ってその程度を見てきた。
そうして中央にいる人間を上から下まで全て見終わった後、袁紹に近付き縁を得て大陸全土に目と手を伸ばした。
その上で言う。
私と同等という事は、大陸で一二を争う傑物であると。
ああついに私と争える者が出てきたのだ。
……等と余裕ぶっていられたのもほんの一瞬だった。
ぎりりと奥歯を噛み締め、くぐもった呻きが出た。
悔しいことに、彼の方が一枚どころか三枚は上手だった。
彼の一挙手一投足を見ていると、自分の技量が如何に拙いかわかるのだ。
才覚はそう劣るものではないと思う、だが圧倒的なのは経験差だと理解する。
彼の厚すぎる経験がそのまま私にとっての壁となっている。
それでも打ち合っていられるのは彼と私の剣が同種で、何が何処に来るのか感覚的に分かるからに過ぎない。
剣を百合余り交わして、私は大いに成長した。
目の前に最高の教材があるのだ、剣を打ち合わせていれば勝手に技量は上がる。
そして技量が上がったからこそ結論が出た。
このままでは絶対に勝てない。
技量はこの短時間で彼の背が見えるまでに育った。けれど急激な技術の成長に身体が振り回されてしまっている。
更に言うなら体格は向こうが上で、体力と間合いと体重で負けているのも辛い。
このままでは体力切れで負けてしまう、何か手を打たねば!との焦りが私を支配する。
何か打つ手は無いのかと周囲を探る。
多少の不利を背負う事を覚悟して、意識を分割する。
迫る選択肢が少なくなったのを感じた彼が攻勢に出る。そして一気に防戦一方だ。
早くきっかけを掴まなければ押し込まれる。
周囲を懸命に探るが、何もない。
一対一の勝負に何者かを介入させる訳にはいかない。
鍛錬場は綺麗に均され、足元を崩したりも出来ない。
駄目だ、周囲にはきっかけがない。
ならば彼には何か無いか。
楽しげな表情、整った呼吸、綺麗な白衣、足運びに乱れもない。
剣筋は私の理想そのもので、強要する選択肢は私よりも遥かに多い。
ああ、彼自体にはどこも隙がない。
けれど強者そのものの彼を見て、何故か強者へ挑む方法を幻視した。
もはや打つ手はない。分割した思考ではもう凌ぎ切れない。そして戦いの勝敗が別の所に移っていると知る。
今私は彼の掌の上にいる。
ならば幻視した剣を試してみるのに何の躊躇いがあろうか。
私は虚飾を省いた強者の剣を捨て、虚実を混ぜた弱者の剣を振るう決意をした。
剣だけの攻撃手段を捨て、僅かでも隙が出来れば手足を直接振るい、地面に転がる砂礫を使い、虚を織り交ぜて挑みにかかる。
彼の向こう側にある姿を見続け、打てる手は何でも打って形振り構わない攻撃を続ける。
すると形勢が徐々に傾き出し、拮抗した。
彼はそんな私をとても眩しそうに見て、とても穏やかに笑い……動きを早めた。
「貴方、手を抜いていたのね!」
「ええ、ですが、ここからは本気です」
再び押されかけるが、段々と動きが噛みあい、二人の動きは躍るように激しさと速さをましていく。
「ずっと答えを知りたかった。あの時互いに持つ武器が同程度であったなら、結果はどうなっていたのかと」
彼と剣をぶつける度、思い出す。
初めて春蘭秋蘭を下した時の事、初めて剣を手にとった時の事、曹操として生まれた時の事、私が私じゃなかった時の死に際、愛しき人との別れ、覇王と呼ばれ始めた時の事。まるで人が最期に見るという走馬灯のように、私は私の全ての記憶を追体験していく。
そうなのね、全て納得したわ。
今見た光景は、遥か昔に見ていたのね。
先ほどからあった違和感が消えていく心地よさがあり、しかし彼と私の立場が以前と逆なのがとても癪でもあり、とても複雑。
しかしその光景と結末を見た上で言う。
「白、勝つのは私よ」
「いいえ、勝つのは前と同じ、私ですよ」
剣を交わし、言葉を交わす。
ずっと続けば良いと思えた瞬間だったが、終わりは必ずやってくる。
私は掬い上げるような斬撃を行い、彼の剣を少しだけ跳ね上げる事に成功した。
直接的な攻防には関わりのない程度の僅かな隙とはいえ、それを後退の為に使う。剣と体力を消耗する悪手だが、こうする他もう道はない。
後退した勢いを殺し、直ぐ様全力で前進する。
私の体力を全てかけた突進。踏み込む足は硬い床石を陥没させる程の速度と重みがあった。
だが意識を極限まで集中させた結果、まるで水中にいるかのような感覚に陥る。
ゆっくりと彼の姿が近づいてくる。
改めてその姿に惚れ惚れとした。
美しさの極致だった。容姿、純白の衣、振るう剣、武技の冴え、一切崩れない微笑み。
隙など何処にも存在しなかったが、私は剣を振るわざるを得なかった。
完璧な立ち姿の何処かを崩したいと、私は今現状で振るえる最速の剣を彼の首元に放った。
だが彼は何も崩すこと無く、私の剣目掛けて一太刀を放った。
そして当然の帰結がやってきた。
長く続いた剣戟は、ぱきーんと甲高い音が響く事で終わりを告げた。
首を狙った私と剣を狙った彼。圧倒的に彼の方が早く目標を捉え、限界に来ていた剣は完全に分断された。
結局、経験不足、身長による間合い、体力の不利、武器破壊の狙いを覆す事が出来なかった。過去の覇王と彼の間にあった利点をまんまと押し付けられた形だ。
また経験不足を補おうと彼の動きを見て学んでいた事、突破の鍵を探そうと一時防戦に徹した事も取り返しの付かない悪手だった。
私は彼の思惑通り、剣の消耗に遅れて気付く事になってしまった。
攻め方を切り替えてから剣の損耗は出来るだけ抑えたが、それでも大きく引き離された分を取り戻すには至らなかった。
更に言うなら、戦い方を切り替えて剣の損耗は抑えられたが、その分集中力と体力を削る事になってしまい、最後の最後はほとんど感覚頼りで綱渡りのような戦いになってしまう始末。
ちょっと無様な戦い方だったと反省する。
今後の課題は今掴んだ感覚を繰り返す事、そして基礎体力作りね。あと背が伸びる方法を探しましょう。
半ばから折れた剣を鞘に戻し、それを杖のようにして身体を支えながら、私はそんな事を考えていた。
本当は倒れ込みたいが、意地である。
一歩も動けなくなった私の元に、白がゆっくりと近付いて来た。
本気と言っていたのは嘘ではなく、彼も僅かながら息を乱し、汗が浮かんでいた。
まあ、あれだけの激戦を経たのだ、多少でも乱れてくれなければ困るというもの。というか四半刻近く全力で剣を振るって汗を少しかいただけとか、本当に勘弁してもらいたい。
「結果は見ての通りです。同条件でさえあれば、あの場の勝者は貴方でした」
「……けれど、この場は私の負けなのね。勝者そのものは変わらなかったわ」
「思い出されたのですね?」
「ええ、多分だけど全部思い出したわ」
私が覇道を歩みだした理由、自身と同等の英傑を求めていた理由、美しき者を求めていた理由、全てに得心がいった。
私の魂は元より覇王であり、生きる実感をくれた韓信を求め、今は亡き虞をずっと探していたのだ。
「長年の疑問が解消されたわ。けれど今はまだ深く考えるのはやめておきましょう。
賭けの結果が出たのだから、そちらを先に聞く事にする。
貴方が私に求める物は何かしら?」
確か私と共に何かして欲しい、だったわよね。
私と共に天下統一を果たそう! とか言われるのかしら。白とだったら夢ではない、どころかかなり現実味を帯びる提案だわ。
私と一夜を共に、とかも十分ありえるわよね。まあ別にそういうのでも構わないわよね。結果大陸も白も私の物になって万事解決天下泰平だわ。
私の予想がどんどん膨らむ中、彼は少し悩んでいる様子だった。
「一つ伺っても良いですか?」
随分勿体ぶる、けれどまあ必要な事なのだろう。
「求める物を決める質問かしら? だったら何でも聞いて頂戴」
「有難う御座います。天の御遣いという者が最近降臨したと旅の者に聞きました。
その行方はどうなったかご存知でしょうか?」
「一応まだ機密に近い物なのだけど……もうすぐ噂として出回るでしょうから、答えても良いかしら。
袁術麾下、孫家頭領孫策の元に匿われたそうよ」
「……やはり別の所、しかもあの子の所なのか」
彼は重々しい表情をしていたが、意を決したように言い放った。
「曹家当主曹操様にお願い申し上げます、私と共に運命に負けて頂きたく存じます」
「はい?」
なんとも私の予想を大きく裏切る言葉が飛び出してきた!