次回の題名を使っていたので修正。
改稿済み。
着水後の流れは省略しよう。
同じ流れになるように頑張った、とだけ言っておく。
同じでなければ、いけない気がしたのだ。
そして、劉邦さんを見送る段階で俺は彼女に声をかけた。
「私も付いて行って構いませんか?」
目と声に力を込めて頼み込む。
「いやしかしな、足がないだろ?」
「馬は周辺の村へ麦の取れ高の調査に行かせて全て出払っています。そもそも馬があるならば私が劉邦殿に付いて行ってます」
「そういう訳だから」
「後ろに乗せてもらう事は出来ませんか?私はかなり軽いので不可能じゃないと思います。もし乗せてもらえないのでしたら走ってでも付いて行きます」
劉邦さんの言葉を切り、俺はそれでもと強く懇願する。
「おいおい、急にどうしたんだ?」
村の人達に何かの兆候は無かったか?と聞いたが見事な空振りだった。
そうなるとこの村にきっかけがあるとは思えない。
やり直しの発生したあの時、この村が平穏無事だった事からもほぼ確定してもよいだろう。
だったら次の調査対象は劉邦さんだ。
「嫌な予感がするのです。どうしようもなく」
根拠を上手く説明できない自分がもどかしい。
しかしだ、あんな空しさしか得られぬ現象を繰り返してたまるか。かじりついてでも付いて行かせて貰う。
そんな思いを視線に乗せて、俺は懇願する。
「……ふむ、意志は相当固いようだな。分かった、連れて行こう。お嬢ちゃんは軽そうだし、そこまで馬の負担にもならんだろう」
「ありがとうございます。そういう訳で、曹参さん、お婆さん、私は一足先に劉邦さんに付いて行きます。一宿一飯の恩は必ず返しに来ますから」
「あんたが何をそんなに急いてるのかわからんが、必要な事なんだろう?それに恩は返してもらってるから、気にしなさんな」
「いえ、必ず返しますから!」
「そうかい、物好きだねぇ。そんなの気にしなくてもいいから、いつでも帰っておいで」
そう言ってお婆さんは穏やかな笑みを浮かべた。
「それじゃあ白さん、私は麦の収穫高を纏めたらそちらに向かいますから、それまで劉邦殿をお願いします」
「おいおい、ここは私にお嬢ちゃんを頼む場面だろ?」
「……それでは、また沛県で会いましょう」
「なんだよ畜生!それじゃあ行くぞ!白!」
俺は劉邦さんに引っ張られて馬上へ。
劉邦さんの前で抱きしめられるような形で収まる。
劉邦さんは馬の負担を考えてかかなりの軽装である。まあつまり、胸が当たって役得なのである。未だに俺を女と思ってるからの所業なのだろう。男とばれたらやばいね。
て、何を浮ついているのか。俺は調査にですね…。
気もそぞろにしている俺とは裏腹に、劉邦さんは、やぁ!と掛け声一発。馬は滑る様に走りだした。
しかしすごいね、鐙もなく、股の力だけで安定してるよ。
でもこれは疲れそうだから、機会があればさっさと鐙を開発しよう。
「休みを挟みつつ3時間ほど走るが、辛かったらいつでも言って構わないからな。無理をされるのが一番迷惑だと心得てくれ」
「はい、分かりました。ご迷惑をおかけします」
「お嬢ちゃんを連れて行くと決めた段階で迷惑は受け入れてるんだが……何故あそこまで強硬だったのか聞いてもいいか?」
「嫌な予感がする、本当にそれだけなんですよ」
「嫌な予感がするたってなぁ。
今走ってるこの道は、あの村を含めた一帯と沛県を結ぶ為だけの道なんだよ。
交易路から離れたここに盗賊が張るとしたら、税を沛県に納めにくる時機しか旨みがない訳だ。だから麦を収穫したばかりの今だと早すぎるんだよ」
「ならば盗賊じゃないという可能性は?」
「んーー、少ない可能性も無理やり捻り出すとして、処断した悪徳役人連中が恨み辛みで襲ってくるか、仲間が私の地位を欲しがって裏切るか。それぐらいか?」
「処断した役人連中が襲ってくるって、まだ生きてるんですか?」
「まあ汚職に手を染めてたって言っても大小ある訳だ、罪の大小かまわず首切ってると誰も付いてこなくなる。だから罪の小さい人間は力を削いで放逐するに止まる。力の削ぎ方は徹底してたから、徒党を組んで反乱ってのはないと思うがね」
「そうですか……仲間が裏切るという可能性はどれほどですか?」
「あんまり考えたくないが、上に立つとそこらへんも管理しなきゃならんのかねぇ。まあ可能性は薄いと思う。それぞれが望んだ役職につけたし、不満はないはずだ。私の地位を望むたって、そもそも私を県令に担ぎ上げたのは役人共だしなぁ」
「そうですか」
不満を持ってる人間はことごとく力を削いで、身内にはちゃんと褒章をつけてる訳か。
なら恐らく犯人は力を削いだ人間の誰かだよな。
なら手段は?傭兵なり盗賊なりを差し向ける?
しかし財産も没収されているという事だし、差し出せる対価がない。
……
…
まだ情報が足りないな。
分かっている事から何か導き出せないだろうか?
とりあえず仮定として、やり直しが発生したのは劉邦さんに何かあったからとする。
そうすると劉邦さんに何かがあったのは日が赤くなりだした頃となる。
「劉邦様、私がいないとして、沛県までどれぐらいでつきますか?」
「また話が変わったな、必要な事なのか?」
「ええ」
「……まあ暇だしな、付き合うとしますかね。
馬の体力も十分に回復しているし、余裕を持って村を出れたからな。休憩を挟みながらでも、日が暮れる前までに着けるとは思うぞ」
「次の質問です。この道で事故に陥りそうな場所はありますか?」
「ないな。山も谷も川もない、あって丘ぐらいだ。幾つか森を横切る箇所があるから、熊がいたり鹿がいたりするかも知れんが、馬の走る音を聞けば勝手に逃げる」
事故の可能性は低いと。
「この辺りでそれなりの数を捻出できる規模の盗賊、傭兵団があるかどうかを聞かせてください」
「盗賊団が二つあるな。二つとも潰そうとしたが……片方は中々狡猾でな、兵を編成した途端に散ってしまった。結果、一つしか潰す事ができなかった」
狡猾な盗賊団があると。
「次は飛び切り変で不躾な質問をします。劉邦様が大量の賊に一人で囲まれたとしたらどうしますか?」
「どういう意図なのかさっぱりわからんな。あれか?散り際と言うのは人の性格の最もたる所が出ると言うから、そういう事として聞いたのか?」
「そうだと思ってください」
「んー負ける事前提で考えるなら……汚されてまで生きようとも思えないし、潔く死のうとも割り切れないから、多分出来うる限りの抵抗をした後に自害する、かな」
「ふむふむ、ありがとうございます。劉邦様の答えは正しく人、という感じで好きです」
「お、そう言ってくれるか。ふふ、私は軍の中でも強い部類に入る、かなり道連れに出来ると思うぞ!」
おざなりのフォローだったけど、劉邦さんには効果抜群だった様だ。照れ隠しの為か、聞いてもいない事まで得意げに答えてくれた。
さておき、聞いた答えから導くに、劉邦さんが襲われたのは沛県の中ではなく、外でという事になるな。
抵抗した事も考えると、ある程度場所も特定できる。
「それでは、劉邦様の武勇というのは如何程かお聞かせください」
「ん?これでも若い頃は侠客として鳴らした人間だぜ?二十、三十位なら得物を持ってようが一捻りよ」
武力も結構高い、と。
侠客として鳴らしたというぐらいだから、沛県にいた人間ならそれを知っている可能性は高いな。
人を使うなら百人以上になるか。
「最後なんですが、今日ここに来る事をどなたかに話されましたか?」
「曹参の所に行くって言うのは、無理やり仕事を分捕った連絡員以外知らないな。騒がれたくないんでそこそこしっかり変装して出てきたから……。
私の侍従は気付いてるだろう。あと出る時に馬を借りた厩舎役。役所の門番と城壁の門番には身分確認で止められた際に気付かれただろう」
ふむ、色々組み上がってきたな。
後は適当に理由を組み合わせれば……。
「襲われる時間は日暮れ前、場所は沛県に程近い森、主犯は潰し損ねた盗賊団、人数は確実を期す為百人前後、盗賊団を唆したのは武官筋の人間で、門番はその協力者という所ですかね」
盗賊は雇われたのではなく、仲間になった小物の悪人に乗せられたのではないだろうか?という推測だ。
劉邦さんに恨みを抱いていて、盗賊に堕ちる道があるのは、武官筋の悪徳役人だった者だろう。
武官筋の悪党ならば、門番を仲間につけやすい。門番は兵士だ。武官筋の元上司であるなら、弱みを掴まれている可能性がある。そうなれば裏切りは易い。
そして門番が裏切っているのなら、劉邦さんがたまたま出掛けた日に襲撃される理由が説明できる。
城壁担当の者であるなら、人の出入りという重要情報が手に入れやすく、外とのやり取りも容易い。
密かに門の開閉が行え、門をくぐって安心した所を攫ったりも出来る。
「有り得ない話ではないって感じにはなってきたな。まだ可能性としては薄いが」
そう言うだろうな。俺は襲われるのを知った上で仮説と推論を重ねている訳だし、劉邦さんとは前提にある考え方から違う。俺の論は荒唐無稽に聞こえるだろうな。
「それにその推測が当たっていたとして、私達が絶体絶命なのは明らかだよな」
普通ならそうだろう。けど俺にはチートスペックがある。何とかできる可能性が高い。
それに卑怯な考え方だが、俺は死んでもやり直せてしまうのだ。現状での最善は尽くすが、駄目だったら別の手を考えればいい。
ここで本当に重要なのは、劉邦さんがやり直しのキーマンなのかを知る事なんだから。
「大丈夫です、劉邦様は私が守りますから」
「馬鹿、逆だろうが」
そう言って劉邦さんは大きく笑った。
その後は劉邦さんの事、沛県の事、反秦連合の事を聞いた。
特に項羽の事になると劉邦さんは興奮しながら話してくれた。項羽はこの時点で既に英雄の資質を開花させているらしい。
しかし劉邦が項羽を語るを聞くというのは、うん、なんだか胸が熱くなるね。
そうこうしていると、沛県に二番目に近いとされている森に差し掛かった。
さあ、仕掛けるならここだろう。
「ん?何か様子がおかしい?」
そう言って劉邦さんが周囲を見回した瞬間、俺の中の感覚にスイッチが入った。
軽い全能感。森の中全てを掌握したような気分に陥った。
研ぎ澄まされた感覚が、周囲に散らばった人間の気配と、空気を切り裂く何かを感知する。だがその唐突な切り替わりに動揺してしまった俺は反応が遅れてしまった。
感知した何かは馬に命中。途端に馬が暴れだした。
「いきなり何が?!鎮ま?!」
劉邦さんの焦燥の声にはっとする。ここは行動する所だ。
動揺を押し殺した俺は困惑する劉邦さんを後ろ手で抱き、馬の背を蹴った。残念だが馬はもう駄目だ。前足の付け根部分に何かの正体である矢が刺さっていた。
「劉邦様、先ほどの話が本当になったようです」
「なっ?!」
着地した直後、追撃の弓矢が放たれる気配がしたので、二度三度と跳び退って回避する。このまま弓を放たれ続けるのも厄介なので、森に入り、木を盾にする。
未だ困惑の中にいる劉邦さんを降ろし、大木と挟んで立つ。
俺は周囲を見渡しながら気配を探る。さっき咄嗟に感じ取れたんだ、落ち着いた今なら切り替えも意図して出来る。
意識を集中すると、どこに人がいるのかがはっきりと分かった。
ははっ、さすがチートスペック。そうおちゃらけて心に無理やり余裕を持たせる。
敵戦力は人数はおおよそ百二十人程で、囲まれてはいない。だが沛県への進路を塞ぐ様にして展開している。
それなりの武勇を持ってる相手に、囲い込むには微妙な人数で守備を薄くする作戦は取らないよな。足を奪えたんだ、進路を阻んで持久戦に持ち込んだ方が確実だ。
一人の男が道に出てきて、倒れ臥していた劉邦さんの馬に剣を振り下ろした。
「劉邦!俺の声が聞こえるか?!」
その大声にピクリと反応した劉邦さんが小声で話しかけてくる。
「……何から何までお嬢ちゃんの言った通りだな。あれは小狡い手を使って銭を稼いでいた元武官だ。私が直接しめたから覚えてるよ」
「今移動手段も絶ってやったぞ!観念して出て来い!さすればお前も、お前が抱えて助けた女子も命だけは助けてやるぞ!」
ふむ、見ようによっては確かにそう見えなくもないか。
「それともご自慢の腕っ節で、二百人からなる我等全員を叩きのめしますかな!!」
「相当盛ってますね。本当は百二十人程で、構成は歩兵百に弓手十と騎兵十といった具合です。騎兵は森の出口に待機させていますね」
「私はそこまで分かっているお前が怖いよ」
「気配を探ればそれぐらいは分かります」
「普通はわからない……」
「それでは選ぶ時間をやろう!!命乞いをして生き長らえるか!無謀に戦いを挑んで死に行くのか!!」
「くそぅ、調子乗って好き勝手言いやがって!何か出来る事はないのか?!」
「……劉邦様、この状況では逃げる事は叶いません。逃げるにも突破するにも、馬があるので森を抜ければすぐに追いつかれます。馬をどうにかしようにも、しっかり隊列を組んでいるので応戦も奪取も困難でしょう」
「なら森の中で歩兵をどうにかして全滅させ、騎兵共もどうにか森の中に引っ張り込まなきゃならん訳か。のこのこ出て行った所で散々な目にあって死ぬだけだしな」
「……打てる手が一つあります」
「この状況で手があると?!さすがだな!私は森に紛れながら敵を倒していこう、ってぐらいしか思い付かないが」
「逃げながら戦うのは難しいでしょう。地の利は向こうにあるでしょうしね」
「ほう、ならば妙案を聞かせてもらおうか」
「その前にあの一応武官の強さを聞かせてください」
「んー武官だけあってそこそこ強いぞ。私が少し苦戦するレベルだな、十人いて今の私と互角か?」
予想以上に劉邦さんが強いんだが……。
とりあえずそこから敵の戦力を導き出す。
うん、多分、行ける。
「では作戦を言います」
「おうよ」
「まずは探し物をして……劉邦様には演技を……決して…しないでください」
「ふむふむ、分かったが、本当にそれで行けるのか?」
「上手く行かなければ死ぬだけです。さて、相手の準備も完了したようですね」
「相談の時間を上げたが、もう終わりましたかな。それでは答えを聞かせてもらおう!!」
「都合の良い事を大声でまくしたてる。歩兵の半包囲と弓手の配置が完了したのは向こうでしょうに。それでは劉邦殿、強気に応えてあげて下さい」
「だから視界は木で塞がれてるのに、何でそこまで分かるんだよ……はぁ、覚悟を決めた。今はお前を全面的に信じるよ」
「その信頼には必ず報いましょう、では作戦開始です」
一息吸って吐いて、劉邦さんは木から飛び出し、声を上げた。
「この劉邦には志と責任がある!背を向ける恥を晒そうと生きねばならん!!」
そう言って、劉邦さんは俺の手を取って走り出した。
研鑽を積んだら推理パートも書き直そう。
次回、謀略と暴力。