東方忘却録   作:茶ゴス

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第三者視点


忘れぬ存在

 日が差し込む花畑、太陽の畑。そこには人里で恐れられている花妖怪、風見幽香が住んでいた。

 曰く、出会ってしまったら戦おうとも思わずに逃げなければならない。

 曰く、彼女の戦闘の邪魔をしてはいけない。

 

 彼女の力は特別なものではない。ただ、純粋に強く、純粋に研ぎ澄まれた物だった。

 故に対処法などは存在せず、地力からして彼女に渡り合える者でないと彼女を倒すことなどは出来ない。

 

 

 地面の一部が抉れ、彼女は疾走する。目の前の存在の腹部へと渾身の力を込めた一撃、拳打を放つ。妖力が乗った一撃、そこらの妖怪ですら一撃で粉砕しうるそれを、目の前の存在は乾いた音を立てて受け止めた。

 彼女の拳を受け止め、微動だにしない存在というのは、中々いない。それは彼女自身理解しているが、特に焦った様子もなく、くるりと一回転し回し蹴りを放つ。

 目の前の存在は手の甲で払うように彼女の足を逸らす。力を加えてはいるだろうが、流石に彼女の蹴りを払うというのはありえない範疇だ。

 

 しかし、それでも彼女は動じない。まるでそれが当たり前だとにやりと笑みを浮かべ、日傘を叩きつける。

 ひょいと横にずれられ傘は空を切る。地面の一部が陥没し、砂が巻き上がる。その様子に苦笑いを浮かべる存在は、砂埃で視界が保てない中、ピョンっと飛び上がる。

 足のすぐ真下を彼女が振るう傘が通過する。それにより巻き上がった砂は吹き飛ばされた。

 対峙するのは男女。傘を男へと突き出す女はクスリと笑い、男に話しかけた。

 

 

「相も変わらず反則みたいなものよね、貴方って」

 

「そういう君は相変わらず好戦的だね」

 

 

 白い頭を白い指で掻く男は、まるで当たり前だと物語っている目をした女性に苦笑する。

 彼女の方はそんな男を見て、傘を下ろしくるりと踵を返し、歩き出した。

 男はやれやれ、と呟き彼女の後を追うように歩き出した。

 

 

 

 ◇

 

 

「それで、最近の調子はどうなのよ」

 

「変わらないさ。これまでと全く一緒だよ」

 

 

 太陽の畑の一角にある家に、二人はいた。彼女が入れた紅茶を飲みながら二人はまるで長年連れ添った友人のように話を広げる。

 それを人里に住むある人間が見ればおかしいと思うだろう。風見幽香がおかしいとも思うだろうが、それよりもこの男の方がおかしいと。

 

 彼は忘却の存在、忘れ忘れられる存在なのに何故こうも親しい人がいるのか……と。

 

 

「そう、あの人里の転生体が聞いたら怒らないかしら?」

 

「確かに、あれは俺の力に対処できている、でもそれだけなんだよね」

 

「仕方ないわよ。私だって対処だけなのだから」

 

 

 紅茶の入ったカップを傾け、男は笑う。目の前の女性は自分を忘れない希少な存在だ。それを彼女自身が理解している。だからこそ、彼女は甘んじて彼の存在を認めていた。

 強者として、民衆には認められない絶対的な強者を。

 

 

「他に何か無いの?」

 

「あるとすれば、今代の博麗の巫女が中々の力の持ち主ってことかな」

 

 

 男の言葉にニヤリと笑みを浮かべ、両肘を机につき、指を絡めて話に耳を傾ける。

 そんな、待ってましたと言わんばかりな彼女に微笑みながら彼は自分が'感じた'事を話す。

 

 

「あれは強いね。そこらの妖怪じゃまず勝てないさ」

 

「そう、一度やり合ってみようかしら」

 

「やめてあげて。強いと言っても君程じゃないよ。まあ、あの弾幕ごっことか言う奴ならわからないけど」

 

「ああ、あれね」

 

 

 男のカップの紅茶が空になっているのに気付き、彼女は何も聞かずにティーポットに入った紅茶を注いだ。

 

 

「まあ、貴方相手なら弾幕ごっこじゃあまず勝てないでしょうね」

 

「そうだね。もし人や妖怪が俺に傷を付けるっていうのなら、よっぽどの偶然がないといけないよ」

 

「ええ。それで、今度はいつ頃になるかしらね」

 

「うーん、そればっかりはわからないね。紫が気付いたら仕掛けてくるだろうし」

 

「次は私も参加しようかしら」

 

「別にいいよ。僕としてはあるがままに受け止めるし」

 

「貴方側で」

 

「やめてあげて」

 

 

 二人は笑いあい、話を広げる。

 長年の友人……もっと言えば数百年に及ぶ男女の密会。

 

 

「で、実際あれらは貴方を打ち倒せるかしら」

 

「無理だろうね。紫が今の考えのままなら勝ち目はない。よしんば彼女達を味方につけてやっと3割といったとこかな」

 

「そうね。じゃあ更に私が加われば?」

 

「変わらないさ。だけど場合によっては8割くらいで俺は負けるよ」

 

「そう、貴方を負かすのも面白そうね」

 

 

 太陽の畑の代名詞、"向日葵達"はそんな彼らを暖かく見守っていた。

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