もう少しで私達の目的は遂行される。侵入してきた博麗の巫女達も永琳の罠に嵌まり見当違いの方へ進んでいった。私としては少し拍子抜けだけど、仕方ない。月の人間達に侵攻されるくらいならば少しくらいの退屈は我慢できる。
あの巫女達を倒せば夜は明けるはず。そうなればもう月の人間はこちらへこれなくなるだろう。
少し前まで遠くからは永琳へ攻撃しているであろう音が聞こえていたが、今ではその音も聞こえない。大方結界に閉じ込めたのだろう。偽の月が浮かぶ部屋……用意には突破出来ないだろう。
「まあ、これで一安心ね」
「それはどうかな」
突然声をかけられた。心臓が跳ね上がり、声の方へと視線を向ける。
丁度部屋の入口、暗い部屋で白く浮かび上がるその人影、一人の男に言い知れぬ恐怖を感じた。
いったいあれは何なのだろうか。いくつもの男達を見てきたがあのような存在は見たことがない。見た目は人間だが、その雰囲気からしてどう見ても人外にしか見えない。
なるほど、博麗の巫女とは別働隊というわけか。これはしてやられた。
「いきなり女性の部屋に入るなんて、礼儀を知らないのかしら?」
「これは失礼。だけど、少しばかり見逃せない案件だったからね」
見逃せない。妖怪にとって満月というのは大事なものらしい。ならば満月を奪った私達を敵対視してもおかしくはない。
実力は未知数。しかし、私は少し特別な存在、蓬莱人だ。敗北はあり得ない。この事実が私の頭を冷やし、冷静にしてくれる。
「何故、月人がここにいるんだい?」
「……」
月人、月の人間ってことに気付くか。もしかすると月面戦争の生き残りなのかもしれない。少なくとも妖怪は月の人間に甚大な被害を受けたと聞く。なら、月の人間を恨むのも納得できるけど……
私達はあの戦争以前に逃げ出したのだ。謂れのない罪に裁かれる理由などはない。
しかし、それでは目の前の妖怪は納得しないだろう。力で屈服させるしかない。
「答えないか…なら仕方ない」
動く。そう感じ、少し身構えて男の動きを観察する。
「貴方には無理矢理にでも話してもらう」
瞬間、視界が白く包まれた。それと同時に頭に衝撃が走る。
足が浮く、冷や汗が一瞬で出たことを感じた。
後頭部に何かをぶつけられた。恐らく壁に叩きつけられた。
物凄い音が響き、浮遊感が増し、少し肌寒く感じる。
どうにか私の顔を掴んでいる手を離そうと掴むが、離れる気配はない。
でも、少しだけ今の状態が理解できた。さっきの物凄い音、あれは壁が崩れた音。そして今は外に連れだされている。
まずい。万が一にでも永琳が巫女達に負けたとすれば、彼女達を止めるものはいない。屋敷から連れだされるのは非常にまずい。
再度後頭部に衝撃が走った。
どうやら地面に叩きつけられたようだ。そして視界が白から黒に変わった。いきなりの変化に目が慣れていない。夜の竹林はとても暗いものなのね。知らなかったわ。
「堪えてはないみたいだね」
「私、少し特別製なの」
立ち上がり砂埃を払う。目が慣れてきて、月に照らされた相手が見えた。
白い、ただただ白い妖怪。さっき掴まれた感じからして相当な力の持ち主だろう。それも当然ね。確か妖怪というのは長い年月が経てば経つほどその力を増していく。
ならば、月面戦争を生き抜いたほどの妖怪が弱いはずがない。
「なんだ、突然大きな音がしたと思えば」
「うわ、最悪」
背後の竹が揺れ、一人の女が現れる。
藤原妹紅、私と同じ蓬莱人。何でこのタイミングで現れるかしら…これで1対2、まずいわね。
早々に片付けて屋敷に戻らなくちゃいけないのに……
「なんだ輝夜。まるで追い詰められているみたいだな」
「まるでじゃないわよ。あんたまで現れて正に絶体絶命ってところかしら」
「随分と弱気なんだね。らしくないよ」
丁度挟まれるように立っている。
こいつの攻撃はわかりやすい。熱を感じれば攻撃が来るのだから…だけど妖怪の方は見ていないといけない。
いや、見ていてもダメだ。屋敷では油断はあったけれど、全くと言っていいほど見えなかった。本気で身構えていても対処できるかは怪しい。
ならば、攻撃の隙を与えないように戦うのがいいのだけど……この女のせいでそうもいかない。
積みに近い状態。ホント、まずいわね。
「まあ、死なないだろうけど、アンタと決着を付けるのは私だ。仕方ないから手をかしてやるよ」
「は?」
「手を貸すって言ってるんだよ。感謝しろよ?」
耳を疑った。こいつは一体何を言っているのだろうか。私に恨みを持っていた筈だけど……
まあいいわ。今考えていても仕方がない。ここはあの妖怪を倒すのが最優先事項ね。
「私は藤原妹紅、そこのアンタ、名前はなんて言うんだ?」
「無いよ。だからナナシとでも呼んで」
「そう、ナナシ。私は輝夜、蓬来山輝夜」
「名乗りは終わった。後は死合うだけだ。覚悟しな、ナナシ」
「全く、月人と人間のペアが相手なんてね。俺からしたら考えられないね」
確かにそうね。更に言えば今隣に立っているのは因縁の相手。私自身予想だにしなかった事態よ。
まあ、私としては幸運だったから良かったものだけど……
「別に不思議じゃないだろ?共通の敵がいるんだ。あり得ない共闘も起こりうるってものさ」
「まあ、どっちでもいいか。相手になるなら覚悟しなよ?月人、妹紅」
一瞬視界が白くなり、頭に衝撃が走った。また、地面に叩きつけられたようだ。
すぐ開放されたため、咄嗟に距離を取る。隣を見ると、冷や汗を流してナナシを睨む妹紅の姿。こいつも叩きつけられたようね、いい気味。
にしても、本当に対処できない。攻撃の隙を与えてはいけない。
「【神宝】」
「【不死】」
スペルカードに力を込める。
隣の女も同様に手に持つカードを紅く光らせていた。
「【ブリリアントドラゴンバレッタ】!!」
「【火の鳥 -鳳翼天翔-】!!」
彩られた弾幕と、鳥を模した赤色の弾幕が襲い掛かる。
避ける隙間はほぼない。少なくともダメージは与えられるはず!
「……」
しかし、弾幕が襲い掛かる直前、妖怪の前に薄い色の壁が出現し、それにあたった弾幕は音もなく消滅した、
信じられない。あんな容易に止められる代物ではない筈なのに。
いや、余計なことを考えてはいけない。須臾を操り、挙動を見る……
否、変化がない。まさか、操れていない?
永遠へと、相手の意識を誘う……出来ない。
まさか、無効にしている?
あり得ない……
だけど、ここで諦めるわけには……
「【魔砲 マスタースパーク】」
「!?」
轟音が響いた。警戒していてよかった。寸での所で躱すことが出来た。
しかし、隣に立っていたあの女は避けること無く、青色の光線に飲み込まれた。
光線が現れた方向へと視線を向ける。
何故感じなかったのかが分からない程の力を溢れだしている女が傘をこちらへ向けた状態で立っていた。
「助けに来たわよ」
「いや、助けはいらないって君も知っているだろ?それに妹紅は打たれ弱いんだから気をつけてね」
「あの人間にも唾つけてたの?節操ないわよ」
まずい。唯でさえ実力差を感じていたのに、増援が現れた。
あいつが復帰するには少しかかる。全く、本当に使えない……
「まあ、さっきから良く見てたけど、月夜見の力も感じないし、早とちりだったようだ」
「え?」
「じゃあ、俺は帰るよ。月の結界が破られてないのが不思議だったけど、勘違いだったようだ」
一方的にこちらへと告げて妖怪が姿を消した。
「全く、自分勝手ね……興が削がれちゃったわ。私も帰る」
「え?」
女妖怪の方も踵を返すように竹林に消えてった。
「……え?」
残ったのは、再生しようとしているこいつと、唖然としている私だけだった