縁側に座って、昨日思い出したことを考え、思考の海に没頭する。
今日も朝から紫様は幻想郷中を帆走している。あの方が願い続けた者を求めるため。
きっかけは書庫で見つけた紙切れだった。【思い出して】全てがその一言に集約されていたと言っても過言ではない。
過去の紫様が未来へと希望を託して書いた紙。正直見つけられるとは限らないその一手。彼に挑んですぐ見つけても意味が無い。紫様が普段交流を広げてやっと意味の成す手段。
最後に挑んだのは丁度20年前。あの時挑んだ者達は、私と紫様。鬼の伊吹萃香、星熊勇儀の2名。半妖の上白沢慧音。烏天狗の射命丸文を筆頭とした烏天狗20名、そしてその長の天魔様。博麗の巫女だった博麗来夢。少数とはいえ全員が間違いなく実力者だった構成で挑み、為す術もなく敗れた。それ以降たまに私達と会っていたようだが、その記憶も薄い。紅魔異変の際に異変解決に乗り出したのは知っているが、何をどうしたかは覚えていない。何せ大掛かりな記憶の修正を行ったのだ。取りこぼされた記憶は数多く存在する。
それでも彼が行ったことを忘れることもないだろう。博麗大結界が形成されるまで、人知れず幻想郷を外界から隠し続けていた力。月面戦争の際に、一人の妖怪を助けるために乗り込み月の人間たちを撤退まで追い込んだ実力。そして、少しの間ではあったが、八雲家の一員として過ごした事。
思えば私はずっと彼に振り回され続けたというものだ。彼に挑んだ回数は47回。紫様はそれ以上だが、その全てを敗北という結果に終わらされてきた。数で攻めても、実力者を集めても意味が無い。忘れる程度の能力。反則的な能力。彼は彼自身に影響する力を忘れてしまっている。普通ならば忘れるだけで意味もないだろう。だが、彼自身にはそれこそが力となる。忘れた結果を反映させるのだ。だからこそ、実際に彼の身体は害するものを忘れ、受け付けない。スキマを使っても彼には意味が無い。鬼の筋力でも意味が無い。それどころか、彼は力負けすることを忘れてしまっている始末だ。どう足掻いても彼に敗北という二文字を与える方法を思いつくことが出来ない。紫様が今なお実力者を集めているが、正直意味のないことのように思える。だって、私達が敗北した時毎回、彼は紫様を失望したような視線を向けていたのだから……
虚実の境界を紫様が操っても彼自身には意味が無い。それにあまり長い間弄ったままにしておくと、虚と実のバランスが崩壊し、何が起こるかはわからない。もしかすると幻想郷が崩壊してしまうかもしれない。だからこそ、私達には時間は残されていない。
彼は昔、一つだけ勝つ方法を教えてくれたことがある。忘却を超えて初めて勝つ機会を得られると。紫様と考え、見たものを忘れない程度の能力を持った稗田阿七を伴い挑んだが、意味がなかった。
今回も負けて終わってしまうと自分の中で結果が出てしまっている。何を持って彼に勝てばいいのかがわからない。此度の呼びかけに応じた人物は今のところ前回の者達から博麗の巫女と上白沢慧音を除いた者達。博麗霊夢が加わると考えてもまだまだ足りないだろう。逆に応じなかった者は風見幽香。あの妖怪の気質的に挑むとは思うが、何故か毎度断る。他に探そうとしても見つからない者、魂魄妖忌。あの者は確か彼と交流を持っていたから、思い出せば応じてくれるとは思うが……それでも彼には勝てないだろう。
だが、どうしても私達は挑まなければならない。紫様は彼自身に対しての負い目もあるだろう。幻想郷の創造主でありながら、彼一人に守護されてきた事。月面戦争の際には、ついでとはいえその命を助けられたこと。八雲家の一員として忘れてしまっていたこと……
私自身はどうだ?何故彼にここまで執着する?決まっている。彼に謝りたいからだ。忘れてしまってすまないと、一人にしてすまないと。そして、願うならば、彼に能力を無くしてほしい……と。
私の想像ではあるけど、紫様が虚実の境界を虚が強くなるように弄り、彼自身が能力を忘れれば消すことが可能だと思う。確信は持ってないが、それでも賭けるには値する方法だ。だが、彼はそれを、自分に打ち勝たないと認めないと言った。だからこそ、千年近く紫様は彼に挑んでいるのだろう……
「ねえ、藍様。今日も紫様はいらっしゃらないのですか?」
深く思考に耽っていたからだろう。橙が直ぐ側まで来ていることに気付かなかった。
「ああ。今紫様は大事な事をしているんだよ?橙」
「そうなのですか。そう言えば藍様、さっき白い妖怪さんから伝言を頼まれました」
「………話してくれるかい?」
白い妖怪、そして私に伝言というのは間違いなく彼なのだろう。
何を思ってそんな事をしているのかはわからないが、多分彼には今紫様がしていることはお見通しなのだろうな。
なんたって、虚実の境界が変貌しているのだ。忘却の妖怪である彼が気付かないはずもないだろう。
「今のままでは繰り返すだけと言っていました。後、僕は無敵ではないと言っていました」
その言葉に何か違和感を感じながらも言葉を噛みしめる。
一体どうすればいいのかがわからない。
忘却を超えた存在……神でも連れて行けば解決するのか……そうとは思えないな。
「藍様、あの妖怪は何なのですか?」
「彼は、私達の大切な存在だよ」
「そうなんですね!今度あったら一緒に遊ぼうかな…」
「……ああ、遊んで貰いなさい。今度会ったらね」
橙の頭を撫でて心に刻む。
彼の言葉は意味のないものが存在していない。その真意を見つけて初めて彼の隣に立てるのだろう……
今もなお、記憶に浮かぶ彼を思いながら、紫様の帰りを待った。
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其ノ身ハ幻想
唯、映スダケ
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短いですがここまで、着々と主人公像を形成していきますよ