東方忘却録   作:茶ゴス

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萃香視点


第3話「鬼」

 あれは何時の事だったか。幻想郷にやってきて、あいつに会って、戦ったんだ。その時にアイツは言った。

 

「初めて会うね、鬼さん」

 

 見たこともない妖怪。聞いたこともない妖怪。だけど、その力は異常とも言える程だった。

 

 ほんの一季節程度の付き合いだったけど、私はアイツと来る日も来る日も戦った。でも、私が戦えることなんて喧嘩か酒飲みくらいしかなかったけど……

 その間一度も勝てた事は無かった。

 そして、冬に入る直前に、アイツは突然私から消えた。姿も、記憶も……その痕跡も……

 

 それから暫くして再会した。その時のアイツはこう言ったんだ……

 

「初めて会うね、鬼さん」

 

 その言葉に私は酷く胸が痛んだのを覚えている。なぜなら、アイツと再会する度に聞かされてきたからだ…

 この前の宴会の時だってそう。何故か痛む胸を誤魔化すように酒を飲む。どれだけ飲んでも誤魔化せない……だけど、その時確かに私は満たされていたんだ。

 

 だけど、アイツは繰り返す。空虚な日常に私を再び突き落とす。

 全くもって腹が立つ。こんな思いをするくらいなら出会わなければ良かったと思ったこともある……

 

 だけど、直ぐにその考えは霧散する。それよりも、そんな事よりも深く私の中にアイツの存在が入ってくるからだ。

 アイツは私の隣にいてほしい。いや、いなきゃいけない。

 

 鬼ってのは欲張りだからね。隣を歩く勇儀もそうだけど、私も中々に欲深い存在なんだよ。

 

 だからアンタには勝たせてもらう。何が何でもアンタの隣は私のものだ。まあ、勇儀とか霊夢なら別に構わないけれどね。

 だけど、紫はダメだ。紫のやつ、あろうことかアイツと同居してた事があるらしい。許しがたいねぇ。

 同じ理由で九尾もダメだな。他にもアイツは色んな所に手を出しやがっている。そこら辺をほっつき歩きながらアイツの被害者を量産していってる。

 

 あ、また腹立ってきた。取り敢えずあの顔ぶん殴ろう。

 

 普通なら鬼の怪力で殴られたら一溜まりもないだろうけどアイツの場合は関係がない。殴るという事は出来るが、ダメージも与えられないし、吹き飛びもしない。

 

 全くもって規格外。最強の妖怪とまで言われる鬼を簡単にあしらう実力……毎度のことながら燃えてきたよ。

 

 

「いい顔してるねぇ。萃香」

 

「ああ、アイツとヤり合うんだ。滾るに決まっているだろう?なあ勇儀」

 

「確かにそうだねぇ。今度こそ私のこの(あい)を受け取ってもらわないとねぇ」

 

 

 む、わかっているとはいえこうも正面から言われると少しイラつくな。

 だけどまあ、やっぱり頼もしいのは確かだ……

 本来なら一人で挑んで打ち倒したいけれど、正直それじゃあ勝てない。鬼としての挟持には少し目を瞑ろう。挟持よりも大事な事があるから…

 

 

「そこまで思ってるなら身体を重ねるなりして引き止めればいいんじゃないのかい?」

 

「……何言ってるのさ」

 

 

 何か見透かしたようにこちらを見ている勇儀を白い目で見る。

 そんなことするわけがないだろう?アイツがそんな事に興味もないだろうし、そういうことなら勇儀のほうが向いてるだろうに……

 

 

「私はアイツと寝たけどどうにもならなかったしねぇ」

 

「……はぁ!?」

 

「この私が寝床に一緒に入ってやったのにちっとも手を出そうともしない。全く、甲斐性が無いやつに惚れちまうと苦労するねぇ」

 

「ちょっと待って勇儀。そんな事聞いたこともないんだけど!!」

 

「言ってないからねぇ」

 

 

 いや、過ぎたことを何時迄も騒いでても仕方ない。ここは少し冷静になって考えないと。

 

 

「因みにアイツのは中々なものだったぞ」

 

「うぎゃーー!!」

 

 

 思わず殴りかかるが笑いながら躱される。

 こいつ!なんて事言うんだ!!

 

 

「ま、それくらい何でも使ってアイツと向き合わないと私達の物にするってのは難しいってことだ」

 

「"私の"だ!!誰がお前にやるか!!」

 

「おーおー随分とケチ臭いじゃないか」

 

「抜け駆けしてる勇儀が悪い!」

 

「よく言うだろ?早い者勝ちってさ」

 

 

 本当に何を考えているんだ。こいつは。

 たった今から決めた。アイツを私のものにしたらまずこいつをボコる。完膚なきまでに殴ってやる。

 

 

「ま、萃香が襲うってのはあんま考えられないけど精々頑張りな」

 

「頼むから一発殴らせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

「やるじゃないか」

 

「お前もな、勇儀」

 

「悪かったよ、アンタが寝てる横でおっぱじめちゃってさ」

 

「本当に何やってんだ!!」

 

「いや、本当に何やってるの?」

 

 

 お互いに殴りあい、消耗していた所、アイツが呆れたような声をあげてやってきた。

 

 

「今ちょっと立て込んでるから待ってろ!!」

 

「あ、ああ。待ってるよ」

 

「あの時の夜は楽しかったよねぇナナシ!」

 

「え?何の事?」

 

 

 更に困惑の表情浮かべてるぞ。お前忘れられてるんじゃないか?勇儀

 

 

「ははは、良い反応だねぇ。実に私好みだ」

 

「いや、何言ってるんだよ勇儀」

 

「さてと、じゃあ萃香。私と不毛な戦いをする前にとっととアイツを私達のものにしようか」

 

「私のだ。間違えるな」

 

 

 まだ状況がわかっていないアイツへと一足で迫る。不意打ちは好きではないが、今の私は少しばかり普通では無いよ?

 蹴りあげる。しかし効かない。

 飛び上がり踵で叩きつけるように足を振り下ろす。腕で止められる。

 

 鎖を持ってくるりと回転して分銅を叩きつける。効かない、だけど腕に巻きつかせる。

 

 

「行くよ!!」

 

 

 勇儀が大岩をぶん投げる。アイツはちらりと大岩を見るとその場で回転し、蹴り上げるように大岩を砕いた。

 

 

「まだまだぁ!!」

 

 

 接近していた勇儀が割れた岩を飛ばすように殴る。

 いや、あのさ。大半がアンタが殴った瞬間に粉砕されてるんだけど……

 

 っと、勇儀に呆れるのは後でだ。

 もう片方の分銅を操り、今度は足へと……

 

 鎖が足に絡まった。よし、このまま動きを封じてタコ殴りに……鎖を千切りやがった……

 

 

「じゃ、今度は此方の番だね」

 

 

 まずい!腕を交差させてアイツの拳を防がなければ!

 速度が速いわけではない。むしろ速さだけならば鴉天狗の方が速いくらい。だけど、アイツの拳は鬼以上の怪力!

 

 拳が腕に当たり、吹き飛ばされた。

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