魂魄妖忌と天魔の戦いは熾烈を増していた。
魂魄妖忌が刀を振るえば、大気が裂け、景色が歪み、音をかき消す。
天魔が薙刀を振るえば、風が巻き起こり、雲を吹き飛ばし、爆音が響く。
両者は一歩も引かずに対峙する。刀と薙刀で鍔迫り合いになり、衝撃が周囲へと広がる。
まるで災害が起こっているかのような攻防。一歩引き、直ぐ様詰め寄り刀と薙刀をぶつけあう。
妖忌が天魔の脇腹へと刀を振るうが、天魔の薙刀により叩き落とされる。天魔が回し蹴りを妖忌の頭部へ放つが、しゃがむことで躱される。
身体の能力で言えば天魔が圧倒しているだろう……しかし、魂魄妖忌が研磨した剣術はその差を埋める。彼は数百年の間自分の刀を振るい続けていた。故に彼に斬れぬものなどは存在せず、天魔は自身の持つ薙刀が破壊されぬように考慮して戦わなければならなかった。
両者の蹴りがそれぞれの腹部へと当たり、距離が離れた。
天魔は嬉しそうに薙刀を構え、妖忌へと笑いかける。対する妖忌は苦虫を噛み潰したような顔をして口から流れる血を拭いた。
「半人半霊にしては中々にやる」
「天狗の長を相手取るにはちと力不足ではあるがの」
刀を水平に構え、天魔の一挙一動を観察する。この戦い、現状で不利なのは魂魄妖忌だ。剣術で追いついているとはいえ、それでもジリ貧になってしまえば魂魄妖忌は地力の差でやられてしまう。しかしだ、時間がかかればかかるほど今度は天魔が不利になってくる。魂魄妖忌は不可視の風の一撃に対処しか出来ていない状況なのだ。だがどうだ?彼ほどの実力ならば不可視の風に対応するのにそう時間はかからない。そして、彼自身の剣術、時すらも斬る剣は、言わば事象の決定。既に斬られたという結果を残しうるという物で、先程天魔が行った未来からの斬撃というのがこの剣撃にあたる。つまり、長引けば長引くほど、未来からの斬撃が増え、突然現れる斬撃の数に押し切られてしまう。
片や短期決戦。片や長期決戦。両者は己に立たされた場所を正しく理解し、距離を詰める。
風の刃が妖忌に襲いかかる。僅かな音に反応し、身を翻すように躱したまま妖忌は接近する。それに天魔はニヤリと笑い薙刀を振るう。瞬間妖忌の前方に大きな風の塊が現れる。面上に広がる風。全てが鎌鼬と成り妖忌へと襲いかかる中、妖忌はいつ閉まったのかわからないタイミングで納刀しており、風の塊が妖忌へと到達する刹那に刀を抜刀した。
抜刀術は風の壁を容易く切り裂いただけに留まらず天魔へとその凶刃を伸ばす。しかし、天魔は翼で羽ばたき、射線上から離脱した。
「しかしまあ、互いに決定打にかけるな」
「確かにのぅ、だが一つわかっておらぬようだな。儂としては最低でもお主の足止めが出来ればいいのじゃよ」
事実、妖忌の攻撃には積極性が欠けている。天魔へと攻撃する際にも必ず進行方向へは進ませないように陣取り、防御の際も回避はすれど退避はしていない。
「まあ、まだ私の風も掴めてはいないようだ。お前がやられるのも時間の問題だぞ?」
「……その事なんだが、ちと謝りたいことがあってのぅ」
妖忌は何かを感じ取り、笑みを浮かべながら空を見上げる。
先ほどまでの戦いで雲一つ無い筈の空。そこに、何故かは分からないが黒い雲が薄く形成されていく。
「儂は別に一人ではないぞ……」
ポツリと天魔の羽に何かが落ちた。そのまま次々と落ちてくる物が雨だと認識するのに時間がかからず、また、何故雨が発生したかを理解するには時間が足りなかった。
「一体、何をしたんだ?」
「儂は何もしておらんよ、儂自身少しばかり驚いている所じゃ」
雨はやがてその勢いを少しずつ増していく。
「あの店主、予想以上にやりよるわ」
瞬間妖忌の斬撃が雨を切り裂き、天魔へと迫った。
今更何をしたのか、と考え風で迎撃して気付く。雨のせいで機動が丸わかりなのだ。成る程、これで不可視という利点は無くなったというわけだと天魔は理解し、早速自分の手札を一枚捨てる羽目になったことに舌打ちをし、雨雲を風で吹き飛ばす……しかし、消えない。どれだけ膨大な風を当てても雨雲は消えること無く、その場に留まる。
これが普通の雲ではないことに天魔は気付いていたが、よもやこれほどの物とは思っても見なかった。
「さて、仕切りなおしといこうかの」
「ああ、完膚なきまでに叩き潰してあげるよ」
雨に歪む視界の中両者は激突した。
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「幽々子様、突然雨が振ってまいりました!」
「今降られてるからわかるわぁ」
「それに上空で何者かが戦っております!!」
「妖忌と天魔ねぇ」
「なんと!!では私も混ざりに!」
「やめておきなさい。貴方ではあの二人に割り込むのなんて出来ないわ」
「しかし……」
「それよりも、私達の目的はナナシ君なのよ?忘れないでね」
「そうでした!!」