空が青い。所々で歪んで見える。ああ、確か魂魄妖忌っていう人も戦ってるんだっけ…確か天狗を止めると言っていた。その言葉通り、何人かの天狗が落ちてきたのは見えたけど……
そう言えば何故僕は倒れてるのだろうか……一体どうして僕はここで空を見上げているのだろうか……
身体には痛みが走っている。意識ははっきりしているのに体を動かすのがとても億劫だ……
でも、立たなくてはいけない。立って、立ち向かわなければいけない。
地面に手を付き、精一杯の力を振り絞って立ち上がる。土が腕や足にひっついて地味に気持ちが悪い。砂埃を少し吸い込んだせいか喉がカラカラだ。
視線を前に向ける。そこには悲痛そうな顔をしている魔理沙がいる。その後ろには結界に閉じ込められた博麗の巫女を含めた4人。
本当ならこれで魔理沙も閉じ込める予定だったんだけどね。彼女には察知されて避けられてしまった。僕がずっと昔に作った結界の発生装置。動力源はナナシの霊力。効果はナナシの能力を利用した結界の精製。消えるまで八雲紫と言えど脱出できない結界。そんなとんでも無いものだけど、やっぱり上手くいかないものだ。
「なあ香霖。頼むから通してくれ」
「それは……出来ない相談だ…」
地面に落としてしまっている霧雨の剣を拾う。目の前の魔理沙から譲ってもらった見た目は小汚い剣。こんな3種の神器の内の一つである草薙の剣を持ちだしてまで僕は何をしようとしているのだろうか。
足を引きずって魔理沙へと近付く。僕には弾幕を撃つ力や接近戦で戦うような胆力は無い。あるのは、人よりも少し大きい好奇心と、戦闘には役立たない能力だけ……
そんな僕に出来る事なんてあるわけがない。幻想郷でも最強クラスの人達の足止めなんてもっての外だ。
だけど、関係ない。このまま彼女達を前に進めさせると悪い予感がするのだ。頭に響いた悲痛な声は今も鮮明に思い出せる。【彼とあの子を助けて】という言葉。
普通なら幻聴だとかで吐き捨てるような事。だけど、僕は何故かわからないけど、その言葉を忘れることは出来なかった。
彼がナナシだという補償はない。あの子が誰なのかもわからない。ただ、何もわからないのに、僕の身体は、気持ちは、ナナシを助けろと訴えかけてくる。
魔理沙が星の魔力弾を放ってくる。避けないといけない……だけど、避けられない。
腹部に被弾し後方に吹き飛ばされる。
痛い。だけど、まだ止まれない。この行為が彼を助けることに繋がるとは限らない。
全く意味のない事なのかもしれない……
霧雨の剣を地面に刺し、力を入れて身体を持ち上げる。ははは、ここまで頑張るのはいつぶりだろうか。いや初めてかな。こんな痛い思いをしてまで立ち向かうなんて御伽話の英雄譚のような事を実際に僕がやることになるなんて思いもよらなかった。
血の味がする。地面を転がった時に口の中でも切ったのだろう。気持ち悪いな……メガネにもヒビが入ってしまっている。直さないといけないな…
「香霖……」
「まだだよ魔理沙……君達を…通す訳にはいかない」
よろよろと魔理沙に向かって歩く。結界はもう持たないかもしれない。だけど、持っている間は何があっても閉じ込めた者達を外に出さないはずだ……せめて、結界が持っている間くらいは立ち上がらないと……
「なんで、そこまで……」
「……」
なんで、か。魔理沙にはわからないだろうね。あの妖怪か人間かもわからない存在にどうしてそこまで気を使うのかと、どうしてそこまで肩入れするのかと……
思い出すのは幼少期の記憶。半妖と言う事で迫害を受けた僕に道を示してくれた恩人。僕が忘れてしまっても約束を守ってくれた。魔理沙が家出した際にどうすればいいかわからない僕に力を貸してくれた。
つらつらと並べるのは簡単だ。彼の能力に為す術もなく忘れてしまう僕にずっと付き合ってくれた彼にやっと恩返しできる機会が巡ってきたんだ。僕なりだけど、自己満足で終わるかもしれないけど、じっとなんてしていられないよ。
どれだけ感謝しても感謝しきれない。いつも空虚に消えていく彼を僕は助けたいだけなんだ。
「魔理沙!アンタだけでも先に行きなさい!!」
「だけどよ、霊夢」
「させないよ…絶対に行かせない」
「香霖がそうも許してくれないんだ」
頬に着いた砂を落とし、魔理沙に霧雨の剣を向ける。
もう既に限界は近い。だけど、負けられないんだ。
剣を持つ手に力が籠もるのがわかる。身体は悲鳴を上げて今にも崩れ落ちそうだと訴えている。
それがどうした。彼にはこれ以上の痛みを強いてきたのだ。これしきの事で折れていては友人は名乗れない。
「……雨?」
指していた日差しが消え、ぽつりぽつりと雨粒が僕の身体に当たるのがわかる。
もしかしなくとも、霧雨の剣のせいかもしれない。草薙の剣に内包された能力。【天下を取る程度の能力】
雨とは
「香霖、お前何を……」
「何故だろうね魔理沙。今は負ける気はしないよ」
力も何もない半妖の、いや。男としての意地を通させてもらうよ。
次第に雨足は強くなっていた。