東方忘却録   作:茶ゴス

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霖之助視点


第8話「天之叢雲」

 魔理沙の放ってくる弾幕を切り裂く。身体が驚くほどに軽い。先ほどまで感じていた倦怠感は微塵にも感じず、今の自分の力量をはっきりと把握できる。

 姿勢を低くし魔理沙へと接近する。当たり前だが、近付くにつれ、魔理沙の放つ弾幕の密度は増し、僕の身に一斉に襲いかかってくる。右側の弾幕を切り裂くと同時に左側の弾幕を最小限の動きで躱す。

 冷たい雨が降る中、ぬかるみすらも感じずに疾走する。普通なら雨で視界が悪くなるのだろうけど、何故か僕の視界は驚くほど明瞭だ。魔理沙の動きの一つ一つを理解し先読みして弾幕の動きを見極めることが出来る。

 

 3つの弾が横一列に飛んでくる。剣で一閃することで霧散させ更に距離を詰める。

 左右から弾が飛んでくる。しゃがむ。弾が頭の上で衝突したのがわかった。地面を蹴り更に距離を詰める。

 今の僕は間違いなくこれまでの僕よりも強い。偏に霧雨の剣のお陰なのだろうけど、今は縋れるものには何でも縋る。

 

 魔理沙がミニ八卦炉を使用して光線を放ってくる。それを見て僕の身体はゆったりと回転し、光線を横に切り裂いた。

 勝手に身体が動く。だけど、それは間違いなく僕の意思を無視しているわけではない。地中から弾が来る。飛び上がり躱す。

 それを好機と見たのか一斉に弾幕が僕に襲い掛かってくる。地面に剣を刺し、抜けないような力加減で剣を引く。それにより普通に落ちるよりも早く落ちる。弾幕は獲物を失い、互いにぶつかることで消滅する。

 

 地面を蹴り最後の疾走をする。魔理沙は相も変わらず悲痛そうな顔で手に持った箒を振りかぶった。あの箒は確か、僕がミニ八卦炉を渡した時に魔理沙が隣にいたナナシにせがんで貰っていたものだったな……

 集中し、渾身の一刀を魔理沙の箒の柄に浴びせる。

 ガギン!というおおよそ箒の出す音ではない音が響き、舌打ちをして一度距離を取る。あの箒、ただの箒ではないんだな。恐らくはナナシが特別な事を施した箒なのだろう。

 

 剣を構え、息を吐く。服が水を吸って重いはずなのに今はそんな事も感じない。

 これが、霧雨の剣の効果。天下を取る剣は凄まじく、僕を魔理沙と対等に戦えるほどに昇華してくれていた。

 

 

「香霖、お前……」

 

「どうしても、行かせられない」

 

 

 足に力を入れ、魔理沙へと接近する。先と同じ様に箒で迎撃してくる。斬り下ろしは受け流される。そのまま魔理沙が箒の柄で突いてくるが、剣の腹で受け止める。

 一瞬拮抗し、動きが止まったが、力を抜き、身体を前に進ませて剣の柄で魔理沙を突く。躱される。魔理沙が地面を蹴り、頭部へと蹴りを放ってくる。剣を両手から左手に持ち替え、右手で魔理沙の足を防ぐ。服が水を吸って重く感じるはずだろうに魔理沙は凄まじい攻防を繰り広げてくれる。とんでもないと内心で思いつつ、剣を横に薙ぐ。

 

 しゃがまれ躱される。剣をそのまま振り下ろす。途中、箒を上に構えるようにしてきたのが見え、剣を止め、箒を蹴りあげる。

 

 

「しまった!!」

 

 

 箒が魔理沙の手から離れた。直ぐ様剣の腹で殴るように魔理沙へと振るう。

 しかし、ミニ八卦炉で止められる。本当にとんでも無い。ミニ八卦炉が光るのが見え、射線上から退避する。

 すぐ真横を光線が過ぎ去ったのを確認し、僕はもう一度距離を開けて息を吐いた。

 

 

「……」

 

「……なあ、香霖。私はな、お前には友達がいないと思っていた」

 

 

 いきなり何を言い出すのかと思えば中々に酷なことを言う。少し心に突き刺さったが、気にはしない方向で行こう。

 

 

「だけど、実際はいた。お前がここまで身体張れるくらいに仲の良い奴がな。だけど、私にも譲れないものがあるんだぜ。だからお前を倒して私は先に行く」

 

 

 魔理沙の纏う空気が変わった。どうやらここから本気を出すようだ。

 気を引き締め、剣を持つ手に力が入る。

 

 

「……?」

 

 

 ここで身体に違和感を感じた。左手と右足の感覚が薄い。

 先程までに負っていたダメージが今になって効いてきたのか……霧雨の剣と言えど、限界は存在するか……少し雨も弱くなってきた気もする。

 これを魔理沙に言えば恐らくは戦いをやめてくれるだろう。

 このままでは間違いなく僕はズタボロに負けてしまうだろう……

 

 

「私達もそうさせてもらうわ」

 

 

 声が聞こえた。そうか、結界が消えたのか……魔理沙の背後から霊夢、八雲紫とその従者、そして魔法使いが出てきた。

 正しく絶体絶命と言うのだろう。自分では勝てない相手が5人。いずれも既に臨戦態勢を取って僕を見ている。

 右手に力がはいる。雨のせいか剣が滑る……いや、これは僕の汗か。

 

 敗北という2文字が僕の目の前で頓挫している。今から数秒でそれを受け入れなければならないかもしれない。どう足掻いても敵わないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それがどうした。

 一体それがどうしたというんだ。最初から僕が敵わないのはわかっていたんだ。霧雨の剣の力のお陰で少しだけ踏ん張れたけど、普通なら既に立てなくなって彼女達は先に進んでいた筈だった。それを今の間まで食い止めたのだ。自分でも上出来だと思う。よくやったと褒められる事だと思う。

 

 

 

 だけどまだ終わりじゃない。まだ僕は負けていない。目の前に敗北がある?受け入れなければならない?そんな事は関係ない。そんな現実とは目を背けて僕は対峙すると決めたんだ。

 その先に勝利という文字は無くても、僕は戦うと決めたんだ。ぎゅっと手に力を込める。

 

 

「覚悟は出来たかしら?」

 

 

 お祓い棒をこちらへと向けて霊夢が告げた。覚悟が出来てるかだって?

 そんな物は決まっているだろう?

 

 

「最初から出来ているさ」

 

 

 始めよう。やるからには最後まで足掻かせて貰う。

 剣を水平に構えて集中する。

 霧雨の剣は僕を本当の主だと認めたわけではないだろう。ただ気まぐれで僕に力を貸してくれただけだと思う。

 

 

 

——ありがとう。お前のお陰でここまで戦えた。

——ありがとう。僕に足掻く力を与えてくれて。

 

 

 

 最後にあと一撃だけ付き合ってくれ。弱っちい僕が自分の意地を通すための力を貸してくれ。

 

 剣は僕の呼びかけに呼応するように淡く光る。小汚い刀身が嘘のように銀色に塗り替えられ、赤く発光する。

 緋緋色金で出来た刀身。長い年月により失われていたけど、ここまで綺麗だったのか……

 

 弱くなった雨の勢いが増す。先ほどまでとは比べられないほどの土砂降り。

 

 

「恋符」

 

 

 魔理沙の持つミニ八卦炉に光が集る。

 

 

「霊符」

 

 

 霊夢の手に持つ札が光る。

 

 他の3人はそれを静観している。飽くまで手を出す必要はないと言うのか。それも当然だろう。

 精々甘く見ておけ。僕は非力だ。間違いなく君達にとって弱小な存在だと言っても過言ではない。だけど、そんな非力な僕でもここまでの覚悟を持ってこの場に立っているんだって思い知ってくれ。

 

 

「マスタースパーク!!」

「夢想封印!!」

 

 

 巨大な光線が、大量の札が僕へと迫る。とんでも無い圧力を感じる。降っている雨を蹴散らしながら僕を倒すべく迫ってくる。

 不思議と恐怖はない。死なないと知っているからなのかもしれないけど、それとは違う理由なのだろう。

 

 さあ、行こうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天之叢雲」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 青く晴れ渡った空が見える。

 体中に痛みが走り、もう少しも動かせそうにない。

 気分は驚くほどに澄んでいる。

 

 手に持つ霧雨の剣は既に元通り小汚い剣に戻っている。きっとあれは奇跡の一撃だったのだろう。

 

 

 僕の放った一撃はただ、霧雨の剣の斬撃を飛ばすという単純な物だった。

 だけど、それは一瞬魔理沙達のスペルカードと均衡したかと思えば、スペルを破壊した。

 

 同時に斬撃も消えたけど、霊夢達の驚く顔を見ることが出来た。

 

 まあ、そんな攻撃を放った僕は力を使い果たしたって言うのだろう。立ってることも出来ずに地面に倒れた。魔理沙が心配して駆け寄ってきてくれたけど、意識があることに安心したような顔をして先に進んでいった。

 結局僕は彼女達を止めることは出来なかった。神器の力に頼っても敵わなかった。

 

 ああ、悔しいな。自分でも知っていたけど、肝心な時に役に立てないというのは本当にキツイ。

 

 

 次は、勝ちたいよ。

 

 

 

 

 

「こんな所で何をしているんだ?」

 

「……慧音…」

 

「ボロボロじゃないか。直ぐに人里……はまずいから香霖堂に運ぶぞ」

 

「……大丈夫だよ…それよりも…君は行かなくても…いいのかい?」

 

「怪我人が目の前にいるんだ。放っておけるわけがないだろう?」

 

「……君はそういう人だったね…」

 

「…ほら、持ち上げるぞ」

 

「……頼むよ…」

 

 

 

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