東方忘却録   作:茶ゴス

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永琳視点


第9話「絶たれた希望」

 小高い丘、眼前に広がる森の一部、木々が飛ばされているのが見える。薬を飲み、一時的に感覚を強化する。これで、見える。

 

 鬼が戦っている。吸血鬼一行は既に半数が地に伏せている。今戦っているのは門番と吸血鬼姉妹だけか……

 鴉天狗の風により動きが速くなっているが、まるで歯が立っていない。鴉天狗本人も、近中距離で牽制しつつ打撃を放っているが、全くダメージを与えられていない。

 あれが八雲紫が言う程の妖怪か。その言葉に違わずあれの理不尽さは見ていたら解ってくる。

 

 矢を取り出し、タイミングを計る。先ほどまで降っていた雨は既に止んでいる。恐らくは人為的に降っていた雨だが、雨を降らしていた者がやられたのだろう。

 上空で争っている半霊と天狗の衝撃が止むタイミング……尚且つ、あの妖怪が気を抜く瞬間。全てが上手くいかないと意味が無い。

 

 矢を引き、標的を見据える。

 距離は2町5間程……風は天狗の戦いの影響を抜けば……左からややかかってくるか……少し左に修正。

 ギリギリと自身の指に痛みが走る。感覚の強化の欠点だ。視覚聴覚等が全て強化されるが、同時に痛覚なども強化されてしまう。敵が近くにいると使えない薬……

 

 集中……一瞬足りとも気を緩めてはいけない。

 

 鬼が吹き飛ばされたと同時に妹の方の吸血鬼が襲いかかっている。しかし、軽くあしらわれているようにも見える……

 隙は無い。全くと言っていい程見当たらない。いや、ある筈……同調して気を抜いた時に放たないといけない……

 

 

 空中に跳んだ。好機と思ったのだろう、姉の方の吸血鬼がスペルカードで攻撃している。

 だけど、効かない……攻撃など意味が無いように、身体に当たっても霧散している……

 

 一点に集中……ただ、穿つことだけを考える……周囲の音をかき消し、一点を見る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今!!

 

 

 放たれた矢は、空気を切り裂き、突き進む。丁度攻撃を止めた天狗の下を通過した。木々の隙間を縫うように飛来する。

 

 死角からの一撃……鬼のすぐ脇を通り、対象の瞳に迫る。あのタイミングは防御が間に合わない筈!!

 

 

 

 

 

「………化け物ね」

 

 

 

 しかし、防がれた。瞳にすら当たっていない。ただ、矢を掴まれたのだ。なんという反射速度、薬で強化した私の感覚すら超えた速度で止められてしまった。

 あのタイミングの矢を防ぐならここから射っていても当たることなど無いだろう……

 

 もっと近付くしか……

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 肩を何かが貫いた。強化された痛覚のせいで尋常ではない痛みが広がる。

 視線を妖怪に向けると、何かを投げたような体勢で止まっていた。

 

 

「嘘でしょ……」

 

 

 ただ投げただけで、矢を壊さずに弓で射るよりも速い速度で私の肩を正確に射抜いたと言うのか……正しく化け物だ…

 

 本当に勝てるのか?

 弓は暫く引けないか……薬を飲み肉体を活性させて治癒速度を向上させる。

 

 私を貫いた矢は……見えない。どこに行ったのかがわからない……

 

 

 ホント、とんでも無い相手みたいね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 信じられない。まさか、あれだけの人数を瞬時に倒すなんて……今までのは遊んでいたのか……

 八雲紫と博麗の巫女達が到着し、戦闘に入ってものの数十秒で全員がやられた。微かにしか見えなかった。あるものは木に、あるものは地面に叩きつけられ。あるものは腹部への攻撃で蹲り、あるものは霊力の弾幕にやられた。

 

 ありえない。あれほどの実力者達を一方的に、しかも短時間で制するなんて、文字通り格が違う。

 今無事なのはまだ戦いを行っている半霊と天狗、そして治癒が終わった私くらい……

 

 これが月面戦争で引き分けまで持っていった妖怪の実力……

 

 

 勝てる気が全くと言っていい程しない。

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