東方忘却録   作:茶ゴス

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第3者視点


第11話「精霊」

 同時に駈け出し拳をぶつける。鬼に対抗出来る腕力にチルノは敵うはずもない。それでもチルノはぶつける。冷気を纏った一撃は徐々に妖怪の拳を鈍らせダメージを蓄積していく。何度見てもその光景は倒れ伏している者達には信じられない物だった。いかに妖精の中で強いと言っても、この場では弱い部類に入るチルノが今正に自分たちでは手も足も出なかった相手にダメージを与えているのだ。

 

 

「凍符『パーフェクトフリーズ』!!」

 

 

 彩られた弾幕が展開され、彼を包む。それを彼は霊力により作った弾幕で撃ち落としていくが、今度は凍らされた弾幕が時間差で彼へと襲いかかる。

 

 

「霊符『オールレンジ』」

 

 

 初めて妖怪が見せるスペルカード。彼を中心とした空間に大量の弾幕が展開され、時間差による弾幕も撃ち落としていく。それだけではない。チルノの背後や真正面にも弾幕は展開され、一斉に襲いかかる。

 

 

「凍符『マイナスK』!!」

 

 

 更なるスペルカードの発動。チルノの周りに浮かぶ霊力弾を凍りづけにし、更に冷気を纏った弾幕がチルノの周りを取り囲む。

 そのまま駈け出し、チルノは氷の剣を作り手に持つ。

 

 

「はぁぁぁ!!」

 

 

 妖怪は愚直な剣筋をひらりと躱し、チルノの腹部へと膝蹴りを放つ。衝撃がチルノを貫き、少し血を吐き出すも、チルノは彼の膝を冷気で凍らせる。そのまま吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がりチルノは立ち上がって血が混じった唾を地面に吐き出した。

 

 膝に着いた氷を砕き、ゆっくりと歩いてくるチルノを眺め、妖怪は口を開く。

 

 

「随分と頑張るな。天敵であるとは言っても力の差はわかりきってるだろ?」

 

「わかってるさ。でもあたいはあんたに勝つ。どれだけ忘れようともそれだけは覚えておくんだよ」

 

「頭の片隅にでも残しておいておくよ」

 

 

 一息でチルノの眼前まで迫り、鬼を彷彿するかの剣幕と腕力で彼はチルノを殴り飛ばした。

 チルノは抵抗する間もなく、その身を霧散させた。

 

 

 妖精に死はない。あるのは一時の消滅だけ。時間が経てば彼女はひょっこりと復活する。そう、妖精ならば…

 

 

「はっ!!!」

 

 

 チルノは彼の背後に現れ、その細脚で蹴りつける。わかっていたかのように腕で防がれるが、彼の立っている地面が少し凹んだ所を見ると相当な威力を持っていたことがわかった。

 

 

「これが、精霊ってところか」

 

「そうだよ、これがあたいだ!!」

 

 

 ただ闇雲にチルノは腕を振るう。

 それは尽く防がれ、反撃を喰らいチルノは霧散する。

 

 しかし、直ぐ様現れ彼へと襲いかかる。しかし、それすらも彼には通じない。

 

 

 数度目の消滅。チルノは内心で焦っていた。精霊へと至り、大きくなっていた氷の羽と身長は彼女が霧散する度に小さくなっていた。彼女が精霊となったのは自然を取り込み力を得ていたからでありいつか枯渇するのは必然のものだったのだ。故に彼女には後が残されていない。

 

 既に羽は通常よりも少し大きい程度に弱らされた彼女は最後の霧散をした。

 精霊という枠組みから外れ、妖精に戻ってしまった彼女は瞬間的な復活を行うことが出来ない。もう彼に対抗する手段を失ってしまったのだ。

 

 

——……

 

 

 しかし、まだ終わっては居なかった。否、まだチルノには味方がいた。

 既に荒れ果てた地に点々と生える草木が、己の生命力を削り、枯れながらもチルノへと力を送る。何故このような事になっているのかこの地を荒らした忘却の妖怪が許せなかったのかもしれない。或いは愚直なまでに諦めないチルノに自然自体が感化されているのかもしれない。だが、何であろうと結果的にチルノは戦う為の力を取り戻した。

 

 再度の復活。終わったと判断していた妖怪の頭上に現れたチルノは渾身のかかと落としを彼に炸裂させる。

 更に周囲の草木のが枯れ、チルノへと力を送る。諦めるなと告げるようにざわめく森は彼女を再度精霊へと昇華させた。

 

 彼は一撃に怯み、数歩後ずさる。チルノの第二撃が来るのが見え、腕を交差させて防いだ。

 チルノには防がれたことに特に苛立つ様子も見えない。寧ろしてやったりとした顔で冷気を彼の足元へと放った。

 

 そこで彼は気付く。足元に存在する水。森近霖之助が戦った際に発生した雨により出来た水溜りに足を踏み入れていた。冷気は瞬く間に彼の足を固定し動きを抑制する。直ぐ様砕こうと足に力を入れるが中々壊れない。ならば直接砕くのみと、逆足で踏み砕こうと足を振り上げた瞬間、目の前のチルノの傍に緑色の存在が現れた。

 

 

「いけ!!大ちゃん!!」

 

「うん!!!」

 

 

 チルノは大妖精の襟首を掴み投擲する。足元に注意を向けていた彼は一瞬の事で頭が回らなくなり、大妖精の突進を防げずにもろにあたってしまった。

 精霊となるための力を草木から補ったチルノは、大妖精に存在するだけの力を還元させ投げたのだ。

 

 頭へと突進した大妖精はそのまま小さな身体で顔にしがみつき視界を制限させる。少し彼は唖然としたが、即座に大妖精を引き剥がすために手を動かす。

 

 そして、チルノの戦いに感化されたのは、何も自然だけではなかった。

 

 

「やらせないぜ!!」

 

 

 聞こえてきた声に彼は手を止める。丁度自分の真横から聞こえた声の主は魔法使いの霧雨魔理沙。

 敗れた者達は、自分達よりも弱い存在のチルノの奮闘に身体を鞭打つことで参戦した。勝利への糸口は見つかったのだ。数百年前から戦っていた者達にとって、この状況は正しく千載一遇のチャンスだった。

 

 

「恋符【マスタースパーク】!!」

 

 

 発射される虹色の光線。それを音により察知した彼は大妖精へと伸ばしていた手を止め、片手を向けて、霊力の壁を作った。

 彼には意味が無い。だが、彼の顔にしがみついた大妖精には耐えられる攻撃ではないのだ。

 光線は壁にあたり、凄まじい轟音を奏でる。

 

 その隙に逆足で氷を砕いた彼は、次の襲撃者の気配を察知する。前方から現れたのは博麗霊夢、お祓い棒を振りかぶり大妖精ごと叩こうとしているのを感じる。

 空に浮く能力を使用している様子のため、霊力による迎撃は不可能。迎撃をするならば彼自身の身体で防がなければいけない。ならばと足を振り上げ、防ごうとするが、突然その足を捕まれる。

 

 

「絶対に離さないからな!!」

 

 

 既にボロボロの身体となった萃香がしがみつくように彼の足を掴んでいた。

 このままでは大妖精にお祓い棒が当たると感じた彼は、萃香ごと足を振り上げ回転するように霊夢のお祓い棒を萃香がしがみついている足で防いだ。光線を防いでいた結界が壊れる。彼は迫ってくる光線を霊夢の攻撃を防いだ足とは逆の足で消し飛ばした。

 

 

「チャンス!!」

 

 

 空中に投げ出されている状態の彼の背後から勇儀が現れ拳を叩き込む。しかし、右手でパシッと音がなるように止められる。それどころか萃香のしがみついた足を振り下ろして勇儀へと反撃した。

 

 尋常ではない行動力と異常なほどの判断力。それを行う技量に舌打ちをして勇儀は大きく後退することで攻撃を躱す。

 

 それを見て彼は今度こそ大妖精を引き剥がそうとするが、今度は魂魄妖夢が刀を振り下ろしてきた。指で挟むように止め、投げ飛ばす。しかし、いつの間にかアリス・マーガトロイドの人形がそこら中に糸を張り巡らせ、その糸を足場に再度妖夢が攻撃してくる。今度は霊力弾で迎撃するが、妖夢の目の前に現れたスキマに霊力弾は吸い込まれた。

 

 

「わかっているわね?スキマの制御はしっかりするわよ、藍!!」

 

「はい!紫様」

 

 

 スキマ妖怪の八雲紫とその式である八雲藍による霊力弾の無力化。数多く展開させてみるも全てをスキマに吸い込まれ、意味のないものとなる。妖夢の刀を躱し、彼は更に霊力弾を展開する。無力化されても構わないのだ。それで八雲紫を抑えられるのなら問題はない。

 

 霊力弾を展開しつつ、飛びかかってくる霊夢に蹴りを放ち、妖夢へと圧縮した霊力弾を放つ。

 大きく跳躍し、妖夢は射線から外れる。彼は直ぐ様近づき着地際へ攻撃を加えようとするが、一瞬視界の端に現れた光に気付き後ろに倒れこむように身を躱す。寸での所、大妖精のすぐ背後を一本の矢が通過する。遠くの丘から様子を伺っていた永琳からの攻撃。視線を矢の飛んで行く方へ移していく中、スキマが展開された。

 中から現れるのは赤い槍。レミリア・スカーレットのスペルカード、『スピア・ザ・グングニル』がその凶刃を彼へと向けていた。光景が驚くほどゆっくりと流れる。彼は手刀を赤い槍へと振り下ろし、その槍身を砕いた。

 

 

 すぐ近くで今にも消滅させられそうな攻撃が飛び交う音が聞こえ、縦横無尽に動き回る彼に振り回されながらも大妖精と萃香は必死にしがみついていた。

 大妖精は親友であるチルノの為、萃香は自分自身の為、死んでも離すまいと両手で抱え込んでいた。

 

 

 彼はそんな2人に攻撃が当たらないように躱している。それには攻撃している者達全員が気付いており、だからこそ2人の事を気にせずに全力で攻撃を繰り出していた。時折時間が止まる空間で彼は思考する。時間が止まっている間、大妖精と萃香にしがみつかれている為、身体を動かすことは出来ない……

 一体彼女達は何を狙っているのだろうか。この中で自分自身に致命傷を与えられる存在は今もなお涙を流しながら顔にしがみついている大妖精か、先程から攻撃を仕掛けてこないチルノくらいしかない。まさかとは思うがチルノの力を戻すための時間稼ぎか?と考えたがすぐに考えを改める。

 彼女の強化されている力は自然の力。時間をかけて戻るものではなく、もし引き出せるならば直ぐにでもチルノへと集まるものなのだ。故に時間稼ぎは意味が無く、他の人物が彼を足止めする理由が無いのだ。

 

 では何故足止めをするのか…例えばチルノの攻撃を直接当てるための隙を作ろうとしているのか…それもないだろう。

 

 他には…

 

 

 そう思案した時、突然彼にしがみついている2人を除いた全員が大きく後退した気配を感じた。

 一体何事だ?と考える彼は覚えのある攻撃の気配を感じた。

 

 虹色の光線。先程魔理沙が放った光線と同じもの……いや、それ以上の力を秘めた虹色の光線、フラワーマスターの風見幽香の放つマスタースパークを……

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