東方忘却録   作:茶ゴス

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霊夢視点


第13話「崩壊」

 私達が手も足も出なかった相手を氷妖精のチルノが倒した。

 妖精だけがあの妖怪に打倒する唯一の存在だった。恐らく妖精たちはその事を知っていたのだろう。

 

 妖怪に投げ飛ばされた大妖精と萃香は地面に転がって悶えている。

 突然のことで受け身が取れなかったのだろう。

 

 

 砂煙がはれ、妖怪の姿が浮き彫りになる。

 地面に倒れ伏す妖怪。人型ではない。大きな狐と言えばいいだろうか、顔がしわくちゃになって尾が4本生えている狐が倒れていた。

 

 

「これは……」

 

 

 藍がゆっくりと妖怪に近づいてその頬に触れる。

 触れられても全くと言っていい程反応がない。まさかとは思うが、死んでしまったのではないだろうか……もしそうだとしたらチルノには灸を据える必要がある。

 何のために弾幕勝負が設けられたかを理解できないというのであればわからせないといけない。

 

 

「彼…ではない!」

 

「は?」

 

 

 思わず変な声が出た。ちょっと待って、今藍はなんて言った?

 ここまで来ておいて間違いだったってわけ?ちょっと、ふざけるんじゃないわよ……

 

 何のためにここまで頑張ったって思うのよ……

 

 

「藍、だけど、あれは正しく彼の力だったはずよ?」

 

「わかっております。ですが、今ここにいるこの妖怪は忘却の妖怪ではない、天狐です」

 

「……天狐」

 

「その天狐が忘却の能力を持っていて、人間に化けていたんじゃないの?」

 

「いや、天狐っていうのは確かに化けることは出来るだろうが、化けないんだ。私達妖狐と違って天狐は人を化かす真似をすることは出来ない。そういう妖怪なのだ」

 

 

 そう言えば聞いたことがある。妖狐と違って天狐は悪さをすることがないって。

 

 だけど、この天狐だけが特別って事じゃないの?

 

 

「もし、天狐が人を化かしてしまったらその時点で天狐ではなくなってしまう。妖狐等になってしまうよ。空狐ならばそんな事も無いだろうが、こいつは天狐なんだ」

 

 

 つまり、ここに倒れているのはさっきまで私達が相手をしていた奴ではないってこと?

 じゃあ、一体本物は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた」

 

 

 周囲を暗闇が包んだ。自分の手すら見えないほどの暗闇。他の人達の動揺する声だけが聞こえる。

 この感じは記憶にある。紅魔異変の時に戦った妖怪。

 

 闇を操る妖怪、ルーミア

 

 

 だけど、ここまで広範囲へ影響を及ぼす力は持っていなかった筈……

 

 

「あはは、そうか、そうだったんだ」

 

 

 ルーミアの声が響く。笑っているような、悲しんでいるようなそんな声。

 

 

「なに、この記憶、わからない。わからないよ」

 

 

 続けて聞こえてくる。これもルーミアの声。困惑した様子で動いている。このタイミング、恐らくは天狐を狙ってきたのだろうか……でも一体何故?

 

 

「阿里、私、(くう)、短かったけど3人で遊んだ」

 

 

 何かを確認するかのように呟く声に皆も沈黙し、耳を傾ける。

 一体ルーミアは何をしようとしているのか……

 

 

「なんだなんだ、私じゃない、私じゃない。消えて消えて」

 

 

 何かを叩く音が聞こえる。全くと言っていい程状況を理解できない。

 ただ、ルーミアが混乱しているということだけがわかる。

 

 

「随分と待たせたようだ」

 

 

 ゆっくりと暗闇が薄くなっていく。

 ぼんやりとだが天狐の傍らで立つルーミアの姿があった。だけど様子がおかしい。この妖怪はここまで大きかっただろうか、ここまで巨大な妖力を持っていただろうか……

 

 

「いやだ、いやだ。私じゃなくなる、私じゃ…………安心しなさい。何もお前に成り代わるつもりではない……少し借りるだけだ……」

 

 

 頭を抑えて支離滅裂に呟くルーミアは藍の姿が見えないのだろうか、お構いなく天狐を担ぎあげた。

 

 

「待て!そいつをどうするつもりだ!!」

 

「ん?何を言っているのだ九尾、貴殿に問われる筋合いはないのだが……」

 

 

 既にルーミアの顔からは困惑という感情が消え去っている。今あるのは純粋な疑問。ただ投げかけられた問に疑問を持っただけ。

 だけど、その様子はあの時とは打って変わっている。まるで別人にでもなったかのようにも感じる。

 

 

「しかし、まあ別段教えても差支えはないな。これに何をするかだって?そんな物、焼くに決まっているだろう」

 

「ちょっと待って、まだ死んだわけじゃあ」

 

「死んでるよ」

 

 

 ……やっぱりチルノには灸を据えなければ…ってあれ?あいつら何処に行ったのよ。大妖精とチルノ、さっきまでいたのに。まさか逃げたとか?

 

 

「おいおい、勘違いするなよ?貴殿達が殺したわけではない。これは月面戦争の際に死んでいる」

 

「馬鹿を言うな、千年もあれば死体などとうに朽ち果てている」

 

「まあ、それにも理由はある。が、説明しても理解は出来ぬだろう……それに、自分自身の身体だ。何をしても文句を言われる筋合いは無い」

 

 

 ルーミアが踵を返して立ち去ろうとする。一体どういう事なのかを全く理解できない。魔理沙なんか頭を抑えて冷やせを流して……

 

 

「ちょっと魔理沙!大丈夫!!?」

 

「あ、ああ。問題ないぜ。ちょっと頭がふらついただけ…」

 

 

 一体どうしたのよ、いきなりそんな身体が悪くなったみたいに…..

 

 

「時間がない……か」

 

 

 いつの間にかルーミアが魔理沙へと視線を向けて何かを呟いた後、こちらへと身体を向けた。

 

 

「いいか、よく聞けお前達。今から私は空という存在を止めに行く。付いてきたいならついてこい」

 

 

 言いたいことだけ行って飛び去っていった。何よ、空って誰よ、意味がわかんないんだけど……

 

 

「一体何が……」

 

「何を立ち止まっているのです?」

 

 

 ……嫌な声が聞こえた。

 先日異変解決に乗り出した時に散々説教をたらしてきた女。

 

 閻魔大王四季映姫・ヤマザナドゥ

 

 こいつ苦手なのよね……

 

 

「どういうことかしら?」

 

「早く行かなければ幻想郷は崩壊します」

 

 

 

 

 は?

 いきなり何言ってんのよこの閻魔。幻想郷が崩壊って……別に博麗大結界に問題はないけれど……

 

 

「意味がわからないのだけれど」

 

「……貴方達は忘却の妖怪を打ち倒しました」

 

 

 あ、説明してくれるのね。

 それに打ち倒したっていうの改めて実感した。確かに私達はあれを打倒できたみたいね……

 あれ?じゃああの天狐は何?

 

 

「あの忘却の妖怪は本来絶対に倒されぬ存在。それが倒された。唯でさえ虚実の境界が歪んでしまっている現在の幻想郷ではその矛盾を支えきることが出来なかった。そのせいであらゆることが歪んでしまっている。先程の闇妖怪のように忘却の存在に親しい者ほどその影響は大きく、やがて幻想郷の法則が破綻し、崩壊するでしょう」

 

 

 え?ルーミアってその忘却の存在ってやつとそんなに親しかったの?

 全くそんな風には見えなかったけど……

 

 

「あの妖怪は前世の自分を思い出したのです。そして、ある者の言葉の通りに動いています」

 

「ある者の言葉?」

 

「……稗田阿里という者の霊魂の言葉。輪廻に組み込まれた筈の彼女の言葉が何故か幻想郷の複数人に届いてしまった」

 

「つまり……」

 

「……今はあまり長話をしている時間はありません。直ぐ様向かいますよ」

 

 

 

 

 

 ホント、意味がわかんないんだけど……だけどわかることはある。あの閻魔が嘘をつくようなやつではないこと……そして…

 

 

 まだ、この異変は終わっていないこと……ホント面倒くさいわね…

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