人里から程近い森の中、そこに例の妖怪は現れるそうだ。特に被害らしい被害も出ては居ないが、その妖怪を見た里の人間は酷くその妖怪が不気味に見えたようで、わざわざ私の家にまで報告してきた。
寺子屋の授業も終わっていたので、取り敢えず何かの情報を得ることが出来ないかと考え阿求殿の屋敷に足を運んだのだが、彼女からは危険性が無いと言う事くらいしか有用な情報は無かった。
危険性が無いならば放っておいてもいいとは思うが、何故か放っておいてはいけない気がして、自分なりに件の妖怪について調べることにした。
目撃者の情報によれば、背丈は里の男性よりも少しばかり小さい程度、灰色の服を着ているが、本人の髪も肌も真っ白なようだ。人型という事はそれなりに力を持っている可能性が高いと言える。花妖怪は例外とするが、人型の妖怪は特別な技能を持ったものが多い。件の妖怪もまた何かしらの特別な能力を保持している可能性は高いといえるだろう。
取り敢えず歴史書の部分から調べてみる。まあ、情報量は少ないため、特に期待などはしてはいない。1刻程妖怪についての本を調べたがそれらしい物は出てこなかった。やはり、その妖怪が何をする妖怪なのかを知らない限り特定は難しいだろう。
一息をついて、考える。何故私はこの妖怪のことを調べているのだろうか…危険性は無いとは人伝ではあるが分かった。阿求殿の言うことは信頼できるし、彼女が何の根拠も無しに断言することは無いだろう。だが、それでも知りたいと感じた。
里の外へ出る。見回るのは近辺だけ。あまり遠くに行ってはもし里が妖怪に襲われた時に直ぐに駆けつけられないから。
見回る中で見つかるとは到底思っていない。もしこんなに簡単に見つかるのなら既に知っているだろうから…もしかしたら新たに生まれた妖怪かも知れないが、阿求殿が既に知っていたことからそれは無いと思う。
ふと、妖怪の山を見る。しばしばあそこからは烏天狗が飛んでくる。それが里の人間たちにとって一番の妖怪との交流であることは間違いないだろう…妹紅は妖怪ではないし、時々里に入り込む妖精も妖怪とはいえない。私自身半妖ではあるが、それでも純粋な妖怪についてはあまり知らないのだ。
一体妖怪とは何だろうか…その土地に住み着く存在?人間の畏れにより具現化した存在?歴史書を紐解いても答えには至らない。
「妖怪…か。今思えば不思議な存在だよな」
無意識に口にしていた言葉。これこそが例の妖怪を調べている理由の大元なのかも知れない。要は何でも良かったのだ。どんな特徴を持った妖怪でも構わない。自分の知らない妖怪に触れ、妖怪という存在自体を知りたかったという知的好奇心が今日の自分が行動していた理由なのかもしれない…
確証は無いが、恐らくはそうなのだろう。疑問が解けたとは言わないが、それでも前に進んだ事は間違いない。心が少し軽くなった気がする。今日は見回りもこれくらいにして里へ帰ろう。出来れば阿求殿にもう少し話を聞きたいと言ったところかな…
「確かに、妖怪って変なのが多いかもね」
「っ!?」
突然声が聞こえた。少し幼さが残った男性の声。振り返り距離を取る。樹の枝に片足を立てて座っている存在がいた。
全くと言っていいほど気配を感じることは出来なかった。妖力も特に感じられない。一体目の前の存在は何なのだろうか。
目撃者の言っていたように、その肌は異常なほどに白い肌は生気を感じられない。顔は笑っているがその目は灰色がかった虚ろな目をしている…
目の前の存在は何がおかしいのか、私が警戒しているのをケラケラと笑っている。酷く不気味だ。そして、酷く…悲しい。
何故かはわからないが目の前の存在を見ていると胸が締め付けられるように痛む…何故かはわからない。それでも確かに自分は今悲しんでいた。
妖怪は一度こちらへと視線を向けてにこりと笑い、空を見上げた。
「でもね」
視界が霞んでいく。まるで何かを覆うようにあの妖怪が薄れていく。まるでそこには最初から何もなかったかのように…
私は意識を耳に集中させてあの妖怪の言葉を聞く。あれは一体何を話そうとしているのかはわからないが、とても大事な事を告げる気がしてならなかったのだ。
――人間も妖怪とそんなに変わらないんだよ?
風に乗って声が聞こえた…そして、その姿を認識することが出来なくなった…
「………」
里へと向かう。あれが一体何だったのか。あの言葉の意味は一体何だったのか…全ては謎に包まれているが、それでも知ることは出来た。今はまず阿求殿に話を聞くことから始めよう。あれの事を知ると言う事は他にも何か別のものを得ることに繋がると、自分自身感じていた…
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誰ガ為二存在シ、誰ガ為二消エテイクノカ…
白ハ唯、繰リ返スダケ…
ソコ二、何ガアルカヲ知ルノモマタ、白ダケ…
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もう少し他視点を織り交ぜた後、異変編に移ります。