これは弱ったねぇ、まさかここに来て私達を閉じ込める結界を作るとは……
正直私ではこの結界を破壊することはかなわない。この中で破壊できる可能性があるとすればあらゆるものを斬ることの出来る魂魄妖忌か自然の力を味方につけた氷精チルノくらいだが……妖忌の方は私の目配せに申し訳な下げに首を横に振った。そうか、彼では無理か……ならば氷精ならば
「こんな結界!!」
「……」
氷精の氷は結界に当たった。しかし、あたったが結界の強度に押し負けた……
そうか、地味に地面、否、植物と隔離されているのだ。これでは植物を通して風見幽香の妖力を自然の力として取り込むことが出来ない。
「クッ!」
現段階では精霊ではなく妖精の状態であったチルノにこの結界を壊す力はない。もし彼女が精霊となっていようとこの結界の強度を突破できるかは微妙なところだ。
本気でナナシは幻想郷を崩壊させようとしている……いや、それはない。こいつは少なくともそんな事を考えるようなやつではない。恐らくはあの声に従っての行動なのだろう……しかし解せない。確かあの声はこいつとあの子を助けてくれと言っていたはずだ。その言葉からどうしてこのような行動をしているのだ?
謎は深まるばかり……しかし今は考えるよりもこの状況を何とかしなければいけない。幸いにもナナシは自身に結界を張った訳ではない。私達を閉じ込めただけだ。それならば結界外の連中ならばナナシに干渉できる。しかし、忘却を超える存在、妖精でナナシを相手取るには少なくとも氷精チルノ程度の実力は必須だ。私はそんな妖精を知らない。はは、正しく積みって状況かい。これは不味いな。幻想郷が崩壊する云々よりも対処が何も出来ないじゃないか。私達はナナシがすることをただ見ていることしか出来ない……
ん?大きな妖力?一体誰だ?
この感じはさっきまで戦っていた連中の中にはいなかった妖力だが…
空へと視線を向ける。果たしてこの妖力の正体がナナシを打倒しうる存在なのだろうか……
ナナシも視線を空に向け迫ってくる妖怪を眺める。姿は幼い少女、黒い服に身を包んだ少女は何かを決意したかのような瞳でナナシを見つめながら地面に着地した。
確かあれは文の新聞にも書かれていた闇妖怪ルーミアだったか。大層な能力を持っていながら貧弱な妖怪だったと記憶しているが……何故ここにきた?何かを察知してきたのだろうか?
「……久し振りだな、空」
「……ああ、まさかいるとは思わなかったよ」
……どういうことだ?空とはいったい?
いや、それよりもあの闇妖怪の言葉のほうが重大だ。久しぶり?まさか過去に会っていたっていうのか?しかもナナシの口調的に重要な人物ってことなのか?
「私の身体を随分と有効活用してくれたようだな」
「其れについては正直に謝罪しよう。しかし、それによって救われた者も存在するのは理解していよう?」
「……否定はしない。だが。賛同もしないぞ?」
身体……まさかあの天狐か?天狐と闇妖怪、共通点が全くと言っていい程見つからないが……
「ま、其方にとってはいいとは思えぬだろうな。自身の肉体が勝手に動くというのは」
「そうではない。私はお前の生き方に賛同しないのだ」
……偉く威圧感を醸し出しているね。文の新聞で書かれていたような事は信じられない程の覇気だな……
そんじょそこらの妖怪など相手にならない程度の覇気だが……それでもナナシに通用するかどうか…
「いきなり出てきて何自分達の空間を作ってるのよ。名乗りくらいしなさい」
「……それは済まなかった。私は天狐の角楼、否、今は闇妖怪ルーミアと名乗ったほうがいいか……角楼は言わば前世の名だ」
つまりはあの天狐が輪廻転生したのが闇妖怪ルーミアってことかい。だけど前世を思い出すなんて普通のことではないと思うのだが……
「幻想郷に巻き起こった矛盾、絶対に倒されぬはずの忘却の妖怪が打ち倒されて幻想郷が歪んだのは理解していよう?本来ならば思い出さぬはずのことすら思い出してもおかしくはないのだ」
……なるほどね、だけどまだ解せないな。何故ルーミアが前世を思い出した?私達にはそんな兆候はないのに……
「さて、角楼、其方は何を持って此方の前に立つ?」
「……空、お前の呪縛の開放と阿理を自由にするためだ」
「………くはは」
真剣なルーミア、いや角楼を前にナナシは手を顔に当てて笑う。まるで見当外れのことだと言っているかのように振る舞うナナシに角楼は眉間にしわを寄せて不快感を出した。
「いや、それは悪かった。だけど一つ勘違いしているぞ?角楼」
「……勘違い?」
「其方の言葉を正そうとするならば、此方の行為を止める必要など無いのだ。此方は消滅により開放され、此方が消えることによって発生する修正が阿理の束縛を打ち破る。ただそれだけのことよ」
消滅、どうやってするかはわからないが、ナナシは間違いなく自身の消滅を願ったのか……文辺りが聞いたら激怒しそうではあるが、少なくとも肩の荷は降りた。こいつは幻想郷を破壊するつもりなどは無いのだから……しかし
『ふざけるな!』
納得しないものもいる。この結界内で少なくとも4人、いや私以外といったほうがいいか……結界を出る手段すら無いのに各々の力を滾らせている。大妖精だけはどうしようもないようだがそれでも険しい顔でナナシを見つめていた。
「ふざけてなどおらぬ、其方達は何の心配もなく明日を迎えられるのだ。忘却の存在である此方のことは忘れ、此方が存在したであろう事すら消滅し、幻想郷は新たな姿となる。悪くないだろう?」
「あんたがいないじゃないか!あたいは友達が消えるのを黙って要られるほど賢くないぞ!」
「……それでもだ、未だ虚実が傾かぬが、もう少しで虚位に傾く、その状態で此方は自身を消滅させる。此方の記憶、所業、存在までもな」
随分な言い回しだ。つまりナナシが言いたいことってのは、記憶から、存在として消滅することで、ナナシという存在そのものを幻想郷からなくそうとしているってことか……随分と大層なことを宣うねぇ
「あんたはあたいに忘れろっていうのか!」
「然り。元来存在してはいけない者だったのだよ、此方の意思は幻想郷にとっての異物。あるべき姿は存在しない姿というわけだ」
……戻ろうってのか、本来の自身に……それの方が幻想郷としてはありがたいだろうが……納得出来ないものも存在するだろうさ……
なあ、文
「霊夢さん、任せました!」
「わかってるわ!今の状況、太刀打ち出来るのは私しかいないってことを!」
上空より降ってくる博麗霊夢へと視線を向ける。鴉天狗最速の文に送られたのだろう。
浮く程度の能力を保有する博麗霊夢。ナナシと似た能力を持った彼女ならば妥当とはいかないまでも土俵に立つことは可能。
現段階でのナナシを止めるのは彼女だけとなったわけだ……
さてどうなることやら。