東方忘却録   作:茶ゴス

34 / 34
早苗視点




 人里へ布教活動をした帰り、私は一人の少年を見つけた。白髪に痩せこけた身体。傷だらけの少年は気を失って倒れていた。

 近くには木の棒が突き刺さって絶命している妖怪がいたのだけど、この少年が退治したのだろうか。もしそうならばとても凄いことなのだが、どちらにしても少年をこのまま放っておいたら死にかねない。

 人里のほうが医療設備が整っているとは思うけれど、生憎とここからでは時間がかかりすぎてしまう。仕方ないので守矢神社の方まで運んで応急処置をしてから人里に連れて行こうと思う。

 

 少年を背負い山を登っていく。少年は驚くほど軽く、とても冷たかった。息はしているがまるで生気を感じられない。

 このままでは不味いと考え足早に神社へと向かった。

 

 

 神社について、急いで布団を敷いて寝かせてから傷口を拭いて濃い塩水で消毒する。出来れば消毒液や絆創膏があればよかったけど、生憎と今は包帯くらいしかない。

 傷口にそって布を張ってから包帯で固定する。見た感じ、腕の骨も折れていそうなので、添え木をして固定しておく。これは明日にでも永遠亭に連れて行ったほうが良さそうだ。

 

 布団をかけ、規則正しく寝息を立てる少年の頭を撫でた。

 

 

「おや、どうしたんだい?その子は」

 

 

 少年を看病していると、後ろのふすまから諏訪湖様がやってきた。

 諏訪湖様は私の隣に立つと覗きこむように少年の寝顔を見て首を傾げています。

 

 

「諏訪湖様、妖怪の山の麓で怪我をして気絶している所を保護しました」

 

「なるほどねぇ。妖怪にでも襲われたのかな」

 

「近くに妖怪の亡骸もあったことからこの子が相打ちで倒してのだと思います」

 

「それは凄いね」

 

 

 少し驚いたような顔で少年を覗きこむ諏訪湖様はとさりと音を出して畳に座る。

 少年の頭にお絞りを乗せながらじっくりと少年を観察した。

 

 

「ここまで衰弱している人間の子が妖怪を倒せるなんて、あり得るのですか?」

 

「うーん…多分この子は人間じゃないね」

 

 

 え?だけど妖力など全く感じないし、気も人間の物なのだけれど……

 

 

「いや、人間といえば人間だけど、早苗と同じ現人神だね」

 

「本当ですか?」

 

「うん、早苗の場合は能力が神格化して現人神になったけれど、この子の場合は……よくわからないね」

 

 

 これは驚いた。まさか私と同じような子がいるなんて。

 もしかしたらこの子も私と同じように修行中の身なのだろうか。それだったら妖怪を倒しているのは納得できる。だけど、どうしてここまで衰弱しているのだろうか。

 

 

「……取り敢えずは様子を見なくちゃいけないね。どんな神様なのか検討もつかないし、どうしてここまで弱っているのかもわからない。あと、何故信仰を得ていないのに存在できるのかも…ね」

 

 

 え?信仰を得ていない?それはあり得ないのではないだろうか。神というのは信仰を得ることで存在しうる者。妖怪が認識されなくなることで消滅するのと同じように、その信仰がなくなれば存在も消滅してしまうはずなのに……

 

 

「もしかしたら人間の気が濃いから存在できるのかもしれないね」

 

 

 ……取り敢えずは目を覚ますのを待つのが先ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 次の日、少年は眼を覚ました。丁度看病していた最中だったから眼を覚ました少年は私とバッチリ目があって驚いた様子で部屋の隅に逃げた。少し悲しかったが、見知らぬ人に看病されて驚かないわけがないと考え、少年に向き合った。

 瞳は灰色。人間とは思えない姿をしていた少年は怯えた様子で瞳をゆらし私を見ていた。

 

 

「お姉さんはだれ?」

 

「私は東風谷早苗、妖怪の山の麓で倒れていた貴方を保護しました」

 

「保護?妖怪?」

 

「ええ、覚えていませんか?貴方は妖怪と戦って倒れていたのですよ」

 

 

 少年は意味もわからないといいたげに首を傾げていた。どういうことだろうか、もしかしたらあの妖怪を退治したのは少年ではないというのだろうか……だけどこの少年が現人神であることは間違いない。他にも聞くことは沢山あるのだ。

 

 

「貴方の名前は何ですか?」

 

「………?」

 

「貴方は何の神様ですか?」

 

「………?」

 

「貴女は人間ですか?」

 

「………?」

 

 

 ダメだ、何を聞いても答えてくれない。いや、この様子を見るとどうやら本気でわかっていないようだ。一体どういうことだろうか……

 

 

「何か解ることとかありますか?」

 

「………覚えてない。ここ何処?」

 

「ここは守矢神社、覚えていないというのは何も覚えていないのですか?」

 

「………?」

 

 

 混乱して記憶喪失になっているのだろうか。一時的ならいいのだけれど、やっぱり医師に見てもらった方が良さそうだ。

 

 

「………邪魔」

 

 

 色々と考えていた所、少年が突然腕に巻かれた包帯を解いて添え木を捨てた。

 おかしい、確かにあの腕は折れていたはずなのだけれど……何故普通に動かせているのだろうか。

 

 他にも目立った顔の傷なんかも消えている…….これは一体……

 

 

「……」

 

「……はぁ」

 

 

 ため息を吐いてしまう。取り敢えずはこの少年の身元を調べるのと、どんな目的を持っているのかを教えてもらわなくてはいけない。

 今日あたり永遠亭という場所に連れて行くとしよう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。