夢を見た…昔の記憶のようなもの…朧気に、それでいてはっきりと見た夢…
私が家を飛び出したばかりの頃の記憶。子供が独り森の中で生きるなんて難しいのなんてわかりきっていた。それでも私はあんな店を継ぎたくはなくて…魔法使いになりたくて家を飛び出した。
案の定私は死にかけ、食べるものもろくに見つけることが出来ない状態が続いていた。香霖に助けて貰ったこともあるが、それでも私は独りで生きなければならなかった。
生きるための勉強をした。生きるために動物も殺した。
だけど、どうやって学んだかをはっきりとは覚えていない。当時の私は生きるのに必死だったから記憶が曖昧なのかもしれないけれど…本も何もない状態でどうやって私は学んだのだろうか…
夢の私は泣きべそをかきながら何かをしていた…そう、あれは火をつけようとしていたんだ。魔法も使えなかった私は必死に木と木を擦って火をつけようとしていた。でも、中々上手く行かずに手はボロボロになったくらいだった。
だけど…何かが私に教えてくれた。火をおこすなら木と木よりも、木と木の皮の方がいいと…また、細かく千切った皮や落ち葉を近くに置いておくといいとも知った。
その何かがわからない。あれは何だったのだろうか。夢で見た私はその何かを見て安心したように笑っていた。頭を撫でられて恥ずかしがってるような姿も見えた…
だけど、私にはそんな記憶はない。最初から火の起こし方を知っていた気もするし、誰かに撫でられる事もその当時は無かったと思う。今でも無いけれど…
ただの夢だと言い捨てるのは簡単だ。けれどただの夢ではないと思う自分もいる。
頭の中がモヤモヤして、それでいて胸がキュッと締め付けられるような感覚がする。何か大事なことを忘れてしまったような、そんな気がしてならない。
「あぁ!!もう!!」
ベッドから跳び起きて頭を掻く。何でこんな気持ちになるのかはわからない。だけど無性に腹が立つ。どうして私がこんな事で悩まなければいけないのかわからない。
ため息を吐いて、立ち上がり服を着替える。いつもどおりの黒い服に白いエプロン。おまけに帽子を被って壁に立てかけてある箒を手に持つ。
そう言えばこの箒はいつから持ってたっけ?ミニ八卦炉は香霖がくれたものだけど、この箒を手にした記憶が曖昧だ。
いつものように香霖堂から一生借りたものかもしれないけど、違う気がする。誰かから貰った気がするけど……
「やめやめ、こんなに悩むのなんか私のキャラじゃないぜ!」
家を飛び出し箒に跨る。空を飛んでいつもの場所、博麗神社へと向かう。
こういう時は何も考えずに霊夢と弾幕勝負をするのに限る。
箒の速度を早める。景色を後ろに置いていくような程の速度。自分の出来る最高速度…
魔法を使う時はいつもそうだ。何かに縛られることもなく、嫌なことも全て忘れてスッキリとする。
いっぱい練習して覚えた魔法。苦しい思いや怖い思いを何度もしたけど、それでも私は魔法を使えるようになった。
初めて魔法が使えた時は喜んだ。褒めて貰って嬉しかった気がする。だけど、誰に褒めてもらったかを覚えていない。自分自身が褒めたのかもしれない。
初めて魔法で香霖堂の一角を吹き飛ばした時は驚いた。香霖に怒られたことは覚えている。だけど、私はそんなことより悲しかったような気がする。香霖に怒られたのがそんなに悲しかったのかと聞かれれば違うと言える。
じゃあどうして悲しかったのか…わからない。今になって気付く自分の記憶の歪み。一体何が……ってまた悩んでいる。一体今日の私はどうしてしまったんだろうか。
◇
「到着っと」
相変わらず人気のない境内に着地して辺りを見渡す。庭の掃除は終わったみたいで、一箇所に葉が纏められているのがわかる。じゃあ霊夢は中にいるのだろう。
「霊夢ー、来たぞー」
声を上げながら裏に回る。
霊夢には悪いとは思うけど、今日の私のモヤモヤはマックスだから弾幕勝負で大暴れしてしまうかもしれない。
前に一度境内でマスタースパーク放ったらマジギレされた記憶がある。まあ、一発なら誤射だし許してくれるだろ。
今日の私は一味違うぜ。
「んぁ?魔理沙じゃん。やっほー」
「何だ、萃香も来てたのか」
縁側に座る一人の鬼。見た目は少女だけど、ひょうたんに入った酒を飲みながらこちらへと笑みを浮かべている所からこいつも鬼なんだとわかる。
だけど珍しいな。いつもなら隣で霊夢が煎餅食ってると思うけど…
「霊夢はいるか?」
「いないよー。何か妖怪探しに行っちゃった」
「妖怪?そりゃまたどうして」
「何か人里の人間がやってきて頼んできたんだよね。何でも、見たこともない妖怪が人里付近を彷徨いてるらしいよ」
それでも霊夢なら特に動きはしないだろう。あいつは基本的に面倒くさがりで何か本格的にやばいことじゃない限り動こうとしない。紫のやつが依頼という形でなら動くかもしれないけれど、人里の奴らが実害も出ていない状況で頼んでも無視するだろう。
「いやあ、何か凄い頼み込まれてたしね。仕方ないんじゃない?」
私の考えていることを感じ取ったのか萃香は酒を置き、あぐらを掻いて言った。
何故そんなに頼み込んだのかは謎だけど、霊夢は押し切られることもよくあるから仕方ないと言えば仕方ないか。
今頃不機嫌な顔をしているのが目に浮かぶぜ。
「その妖怪ってのはどんな妖怪か知ってるか?」
「さあねえ、強いやつなら戦って見たいけど…あんまいい妖怪とは思えないなぁ」
「そりゃまたどうして?」
「…嘘の嫌いな私が、知らないそいつの事を話すと嘘をついてるようでならないからさ」
「……はぁ?」
「ま、私自身よくわかってないんだけどね。で、魔理沙は今日はどうしたんだ?」
「……霊夢を相手に弾幕勝負しにきたんだよ」
萃香に言われ今日ここにきた理由を思い出し、同時に霊夢が居ないことに落胆して肩を落とす。
アイツが居なきゃこのモヤモヤはどう発散したらいいんだよ…
「そうか。まあ霊夢は居ないし、私が相手してやってもいいけど?」
「げっ!」
「げっ!て何さ、げっ!て」
「いや、だってな…」
こいつと弾幕勝負したら何かしら壊して霊夢の怒りを買う気がしてならない。
だけど、したらしたでモヤモヤは解消されるとは思う。
「なんだよぉ、勝ったら一緒に酒飲んでやるからさぁ」
「……それ、お前が飲みたいだけじゃないのか?」
「……ばれた?」
はぁ、とため息を吐いて萃香の隣に座る。今日は快晴、昼になっても霊夢が帰ってこなかったら、香霖のとこにでも行くか……