やれやれ、幽々子殿にも困ったものだな。何時までたっても春が来ずに白玉楼の方から力が集まっていると感じ、来てみれば、まさか、封印されている者をつきとめるために西行妖を満開にさせようとするとは。しかし、流石に封印は解けんよ。いくら幽々子殿と言えど、自分自身の亡骸を元に封印をしたのだ、そう簡単にはいかん。
西行妖は恐ろしく危険だ。それこそ、八雲紫の力を超えた存在でないとあれは止められん。だからこそ、幽々子殿達が封じていたのだが、このような自体になる前に幽々子殿にはそれとなく話して置いたほうが良かったかもしれんな。
それにしても幽々子殿を打ち倒した巫女、博麗霊夢と言ったか、中々の力量の持ち主だ。それこそ八雲紫にも匹敵するであろう存在か……今はまだ未熟だが、経験を積み成長すればいつか幻想郷で最強と呼ばれる存在となりうるかもしれんな。
「しかし、妖夢にも困ったものだ」
まさか、儂の教えをああも曲解しているとは思わなんだ。確かに儂は剣が全てを教えてくれると言ったが、いきなり斬りかかれとは教えておらんぞ。あれでは辻斬り者ではないか。我が弟子ながら呆れてしまう。あやつに幽々子殿を任したのは間違いだったのだろうか……いや、こんな年老いた爺に比べれば幾分かはましだろうな。
今も、白玉楼の近くの丘に立つ儂の眼下では幽々子殿が楽しそうに笑い、妖夢も同様に笑っておる。
しかし、白玉楼で宴会とは、幽々子殿も八雲紫も変わっておらんな。当時は振り回されて大変だった……
「さて、そろそろ行くとするか」
既に儂はここにはいない存在。故に彼女達の邪魔をするわけにもいかん。次は何処に行こうか、地底の方へ赴いてみるものいいかもしれんな。
西行妖を横目にその場を去ろうとする。しかし、目の前からゆっくりと歩いてきた存在に目を向けて固まってしまった。
白い頭髪、灰の服、白い肌、そして灰の目…見たこともない存在だ。だが、一目見ただけでわかる、只者ではない……
一体白玉楼に何の用なのだろうか、もし幽々子殿を狙ってきたのだとすれば、既に隠居した身ではあるが、通すわけにもいかない。刀の柄に手をかけ、目の前の存在の一挙一動を観察する。
儂の構えに何の反応もせずにそれは近付いてくる。一歩一歩、不気味な笑みを浮かべながら近付いてくる。
「止まれ、そこの男」
あと一歩踏み込めば儂の間合いとなる位置で声をかける。これは警告だ。後一歩踏み込めばお前の首が飛ぶという警告……儂の殺気を感じ取っていないわけでもあるまい。これだけの覇気を纏った存在がそこまで凡百な筈はない…
目の前の男は間合いに入る前にその歩を止めた。そして、どういうつもりか、儂から視線を外し西行妖へと視線を向け、更に口角をあげる。一体何が面白いのだろうか、どちらにせよ目の前の存在は危険だ。
「貴様、一体どういった要件でここに現れた」
ジリジリと足運びで間合いに相手を入れる。それに気付いていても男は動かない。動く必要は無いということか…舐められたものだな。
「いや、あの桜が咲いたんで来ただけだよ…」
「……あれを知っているのか」
何がおかしいのか、目の前の存在は、にこりと笑いもちろんと告げた。
嘘を付いているようには見えん。しかし、儂は目の前の存在を見た記憶などは無い。果たしてこやつの真意はなんだ?
「しかしまあ、あの妖夢ちゃんだっけ?あの辻斬り紛いなことはやめさせたほうがいいんじゃない?」
「……それは儂も思うが…そんな事を言うためにここに現れたわけではあるまい」
「……確かに、しかしもっと下らないことだよ?」
男は懐から何かを取り出そうとする。足に力を入れ、構える。何を取り出す気だ?武器か?
男が取り出したものに月光があたり反射する。やはり刃物!させん!
「な!?」
一息で、光すらも切り裂く一刀を放った。しかし、目の前の存在はそれに歯牙を掛ける様子もなく、ただその刀身を躱した。
直後、ブォンという音が遅れて発生する。やはり、只者ではない!!
「貴様をこれ以上進ませるわけには!」
「まあ待ってよ。これ見てもまだ斬りかかるつもり?」
男はそう言い懐から取り出したそれを見せてくる。どうやって入っていたのかはわからないが、一升瓶に入った酒を男は持っていた。
「は?」
「ね?特に危険物でもないよ」
どうやら月光に反射したのはその瓶だったようで、とんだ勘違いで斬りかかってしまったようだ。
やれやれ、儂も精進が足りんと言うことか…
「ならば、貴様はあの宴会に行くつもりなのか?」
「いいや、こっからあの桜を見ながら飲もうと思ってね」
確かに、この丘は西行妖がよく見える場所ではあるが……ここは妖夢ですら教えてはおらん場所だぞ?それを白玉楼の者でもないこやつが知っているのは些かおかしい気がするが……
「貴様、いや、貴殿は一体何者なのだ?」
「さあね。自分自身あまり理解してはいないよ。ただの酒好きって思ってくれて構わないよ」
どしりと胡座をかくように座る男は、これまたどうやって懐に入っていたかわからない杯を取り出し、酒を注いでいく。
「ほら、君も飲みなよ」
「………」
こやつの真意がわからない。もしや本当に酒を飲みに来ただけなのかもしれん……これだけの力を持ったものが、ただ西行妖に誘われたとは思えんし……
しかし、月と桜を見ながら酒を飲むというのは随分としていなかったことだな。ここは同伴に預かるとしよう。
「にしても、やっぱり満開にはならないねぇ」
「仕方あるまい。あれが満開になるというのは封印が解けたと同義……ありえんよ」
「そりゃあ残念だ。あんなに綺麗だったのに……」
綺麗だった?……
「まさか、西行妖が満開になるのを見たことがあるとでも?」
「千年くらい前だったか…あの時もここからこうして酒を飲んだっけ……」
千年程前となれば、確かにまだ封印はされていないのかもしれんが……目の前の存在はそこまで長命な存在なのか……半霊がついてはいないし、霊魂も見えん。つまりは生きた存在……即ち妖怪か…
しかしこれほどの妖怪、儂が知らぬとは考えにくいが……
「さて、もう時間になるか。いつも酒を飲むには短いのが残念だよ」
「一体何をするつもりだ?」
「なに、いつもの日課だよ。じゃあね妖忌、久しぶりに会えて嬉しかったよ」
なに?久しぶりじゃと?
一体こやつは何を言って……
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ふむ、独り酒というのもいいものだが、あまり長居するわけにもいくまい。早々に立ち去るとするか…しかし、この酒、随分と美味だが、何処で手に入れたのか記憶が曖昧だ……
まあいい、久しぶりに幽々子殿と妖夢の顔を見れたのだ、今日は良しとしよう。
さて、何処へ行こうか……
妖忌爺ちゃんも辻斬り紛いかも……